ナタリー PowerPush - ボカロ小説座談会

ボカロ小説刊行記念インタビュー

初音ミクWikiがこんなに役に立つ日が来るのかと

──表紙の子はボカロではなくてオリジナルキャラですよね?

デP はい。この子はユニちゃんというオリジナルのキャラクターです。アレシスの「Micron」というシンセサイザーを擬人化してもらったものですね。非常にかわいい子になってよかったのではないかと。そもそもこの小説、ボカロと全然関係ないじゃないですか(笑)。「俺のボカロが~」というタイトルが最初に決まったんですが、中身についてはボカロということをあまり意識してなかったんです。

──とは言え、この本に収められた短編小説には特別付録CDに収録された5曲をはじめ、デPさんの楽曲の数々がモチーフとして巧みに盛り込まれていますよね。その構成のうまさに感動したのですが、どのような手順で書いていったんでしょうか?

デP まず最初に10本分のプロットを作りました。ボツになったのも1、2本ありますけどね。それで、これは書けそうかなと思ったものから順番に書いていったという感じですね。なので、大事な話を最後のほうに取っておいたら、編集さんに早くメインのやつ書いてくださいって怒られました。

──ちなみに何が残ったんですか?

デP 「俺の機械人形が妹になりたそうにこちらを見ている」が最後から3番目だったんですよ。2番目が「世界創世記」、最後が「去りし日のメリークリスマス・後」。まあそれは最後に書こうと決めていたんですけどね。

──「マイケル&ポール」のように原曲がはっきりしている作品もありますが、ほとんどは複数の曲の要素が入ってますよね?

デP かなりたくさん入ってますよ。デPの曲を知らないでこの本を「ボカロの本だって?」て買う人もいるわけじゃないですか。そういう方には「あ、こういう曲があるんだ」って思ってほしかったし、一方、デPの50曲以上ある曲の歌詞を全部暗記してるようなファンの方が読むと「こんなにたくさんの曲を絡めててすごい!」って楽しめるようにもしたかったんです。

──ホントにたくさんの曲が散りばめられてますよね。

デP いやもう大変でしたよ。マイナーな曲も含め自分の歌詞を全部見ながら書きました。初音ミクWikiがこんなに役に立つ日が来るのかと思いましたね(笑)。

cosMo@暴走P ああ、便利ですよね。自分の歌詞を調べるときとか(笑)。

ほとんどの小説って読んでて飽きちゃうんです

──お気に入りのエピソードをあえて1つあげるとしたらどれでしょう?

デP 間違いなく「タカナシギュウニュウオイシー!!」ですね。タカナシ牛乳の人に怒られるんじゃないかという。とにかく挿絵がぶっ飛んでますよね。「おっぱい大きくしてください」ってリテイク出しましたもん。

──宣伝コピーに「シリアスで、コミカルで、ちょっとHな、デPワールドをご堪能あれ」とありますが、ちょっとエッチどころじゃないですよね。

デP あれ? ちょっとじゃなかったですか? オレにしてはだいぶ抑えたほうなんですけど。おかしいな。

──シリアスもコミカルもきっちり入ってますし、とにかく振り幅が大きいですよね。

デP 小説を書くことになって、さすがに事前に何冊か読むじゃないですか。でもほとんどの小説って読んでて飽きちゃうんですよね。たぶんオレが文章を読むのがあまり好きじゃないからだと思うんですけど、その感覚をなるべく少なくしたいなあという思いがありまして。あえて振り幅を大きくしたというところもあります。

──書き終わって反省点などはありますか?

デP もっと改行を入れてもいいんだなというのをYMさんのを読んで思いました(笑)。でも、コスモさん(cosMo@暴走P)のを見ると文字数が多くって、なんだこの辞書は……って。

cosMo@暴走PYM あはは(笑)。

デP あ、あとがきはもっとはっちゃけたかったですね。マジメに書きすぎた。

YM マジメじゃないじゃん(笑)。

デP そう? あと4ページくらいあとがき書きたかったね。

YM(わいえむ)

2009年頃から動画サイトにマッシュアップや手描きMADなどを投稿し始め、現在はボカロPとして主にGUMIを使ったオリジナル曲を発表。2010年に公開した楽曲「ハンコウセイメイ」で初めて殿堂入りを果たし、翌年発表した「十面相」が100万再生突破の人気曲となった。2012年にはEXIT TUNESからアルバム「センセーショナル大革命」をリリース。2013年8月には自身の代表曲「十面相」のノベライズに原作者として携わった。

デッドボールP(でっどぼーるぴー)

2007年から動画サイトで自作曲を発表しているボカロP。過激すぎるエロティックな歌詞で知られ、投稿動画に「直球というよりデッドボール」というコメントが書き込まれたことがアーティスト名の由来となっている。2009年にはネットで発表した楽曲を無修正バージョンで収録したアルバム「EXIT TUNES PRESENTS THE VERY BEST OF デッドボールP loves 初音ミク」をリリース。その後もPSPゲーム「初音ミク -Project DIVA-」への楽曲提供や、さまざまな企画アルバムへの参加など精力的に活動を展開。2013年8月には処女作となる小説「俺のボカロが妹になりたそうにこちらを見ている」を刊行した。

cosMo@暴走P(こすもぼうそうぴー)

30曲以上が殿堂入りを果たしている人気ボカロP。まくしたてるように歌うポップソング「初音ミクの暴走」や、まったく息継ぎができないほど歌詞が詰め込まれたボカロならではの曲「初音ミクの消失-DEAD END-」など、テンポが速くて早口な曲が多い。2010年にはベストアルバム「初音ミクの消失」を発表し、大ヒットを記録した。2012年7月には自らが原作を担当した小説「初音ミクの消失 小説版」を刊行。この小説は好評を受けて翌年文庫化された。2012年8月には2ndアルバム「星ノ少女ト幻奏楽土」を発表し、オリコンウイークリーチャート9位を獲得。