アップアップガールズ(2)がT-Palette RecordsとWIZYによるクラウドファンディングプロジェクトを経て、通算10枚目のシングル「強がりライライライ / セメテセメテ / ぱーれぇ~ / ガラスの純情」をリリースした。
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、これまでプロモーションの基盤となっていたライブやリリース記念イベントの開催が困難な中、T-Palette RecordsとWIZYはCDのリリースに伴うクラウドファンディングプロジェクトを企画。アプガ(2)は昨年10月発表の9thシングル「どのみちハッピー! / 雨に唄えば / 愛について考えるよ / エンドロール」に引き続きこのプロジェクトに挑戦し、見事目標金額を集めることに成功した。
シングルにはサクライケンタが手がけたリード曲「強がりライライライ」、ももすももすが提供した「セメテセメテ」、きなみうみ(GOLDTAIL)が制作した「ぱーれぇ~」、児玉雨子が作詞、michitomo(GOLDTAIL)がトラックのプロデュースを担当した「ガラスの純情」の4曲が収録されている。音楽ナタリーではサクライ、michitomo、アプガ(2)の所属事務所・YU-M エンターテインメントの山田昌治社長によるクロストークを実施。シングルの収録曲やグループの目指すところについて語ってもらった。また特集後半にはメンバーによる手書きメッセージも掲載している。
取材・文 / 近藤隼人 撮影 / 高橋佑樹
360°いろんな音楽を歌わせていく
──アップアップガールズ(2)は先輩であるアップアップガールズ(仮)の妹分という見方をされがちですが、楽曲やライブのクオリティをはじめ、かなり前から一人前のグループとしてオリジナルの道を歩んでいる印象があります。皆さんは今の(2)の面白さ、個性はどこにあると考えていますか?
山田昌治 もともと(2)は、(仮)の妹分になるのか、公式ライバルになるのか、4年前にオーディションを始めたときも決まってなくて。結果として妹分として始まったんですが、この間(仮)のメンバーがほとんど入れ替わったことで(2020年12月31日をもってオリジナルメンバーの古川小夏、森咲樹、佐保明梨、新井愛瞳が卒業。現在は関根梓に新メンバー7人を迎えた8人体制で活動中)必ずしもそういう立場ではなくなり、グループとしての個性が変わってくるだろうなと考えていました。(2)は今の8人体制になってもうすぐ2年で、メンバーが固定された感じがある中、年齢や背格好、キャラクターは凸凹で。このバラバラな感じは意識して続けていきたいなと思っています。楽曲も1つの方向に決めず、360°いろんな音楽を歌わせていきたいなと。michitomoさんとは「アイドル界のドン・キホーテになろう」と話してるんですよ。そこに行けばなんでもそろってるみたいな。サクライさんのほうでもデパートをやってますけど(笑)。
サクライケンタ そうですね(笑)。うちの事務所のクマリデパートもその考えに近いところがあるかもしれないです。
山田 ドン・キホーテって安いディスカウント商品もあれば、高級品も置いてあるじゃないですか。年収、年齢関係なく幅広い人たちが来る場所で、(2)もいろんな人たちに気軽に見てもらえるグループにしたいと思っています。なので、今回のシングルも4曲とも全然違う個性の、統一感もない作品になってます。
サクライ 前作くらいからその方向性が出てきましたよね。わざと違うテイストの曲、これまでにない曲をそろえてるなと、僕も外から見ていて感じていました。
michitomo 僕は結成当初からグループの内側の人間として(2)に関わらせていただいていますが、最初は“王道”というキーワードがあったんですよ。楽曲もそういう方向性で作っていて、結果としてですけど、つんく♂さんの4部作(2018~19年に発表されたシングル4作)はある意味その集大成みたいなところがあったと思います。そこから360°に広げていこうということで大森靖子さんやサクライさんに参加してもらって、今回はさらにその範囲を拡大した感じです。180°まで広げていたのを360°にするための第1投というか。
山田 そうですね。
michitomo その中で1つ大事にしたいと思っているのは、アップアップガールズという名前に伴うライブのクオリティの高さをちゃんと印象付けられるようにしなきゃということ。(仮)のいいところはコンセプティブになりすぎていないところで、それは山田さんがもともとハロプロ(ハロー!プロジェクト)の人で、歌とダンスを主軸としたエンタテインメントをやってきた人だからだと思うんです。余計な脚色をしないで、メインのところで勝負してきた。そんな中で(2)も若い層やアイドルが好きじゃない層にも刺さるような楽曲を歌いつつ、ライブパフォーマンスで魅せられるグループを目指しています。曲に惹かれてライブに来てみたら歌とダンスに圧倒されて、もっと掘り下げていくと8人全員の個性が見えてくる。そういう形が理想だなと。
サクライ (2)さんのライブを最初に観たとき、ダンスパフォーマンスのクオリティがほかのライブアイドルと比べて高いという印象を受けたのを覚えています。その後、仕事で関わらせていただく中で、今後どんなふうにもなれる、まだ真っ白なグループであるとも感じて。今回は山田さんの「サクライさんっぽい曲を作ってください」というリクエストでシングルのリード曲「強がりライライライ」を書かせていただきました。以前参加した「世界で一番かわいいアイドル」という曲は大森さんの作詞作曲で、僕はアレンジという立場だったんですけど、今回は作詞作曲含め全部やらせてもらいました。
絶妙なサクライケンタ味のさじ加減
──山田さんがグループのコンセプトをかっちり固めないのには理由があるんですか?
山田 単に自分の性に合わないんだと思います(笑)。アップアップガールズ(プロレス)には「歌って、踊って、闘える」最強のアイドルを目指すというコンセプトがありますけど、それ以外のグループについては決めてないです。なんなんですかね。飽きちゃうのかな。
サクライ 山田さんの曲のオーダーもざっくりした広い説明が多いですよね。アーティストを信頼しているということだと思いますが、今回の「強がりライライライ」のときも「一聴してサクライさんとわかる曲にしてほしい」くらいで。
山田 「『ブクガ(Maison book girl)じゃんこれ!』と言われるような曲にしてください」「サクライケンタが表現する(2)をお願いします」というオーダーに加えて、「(2)には青春というキーワードがあるので、青春感を足してください」とお伝えした感じですかね。
サクライ そういうお話を受けて、10代の女の子が強がっている雰囲気を出しつつ、音も完全にブクガっぽくするというより、(2)に気持ち寄せていきました。ブクガはもう僕のエゴでしかない感じなので(笑)。
michitomo 最初はもっと変拍子を使ったり?
サクライ ですね。あと、クラシックの音ばかりだったところに、シンセの音やダンスミュージックの要素をプラスして仕上げていきました。
michitomo 「強がりライライライ」は歌詞も合わさって哀愁を感じる部分があって、サクライさんのさじ加減が面白いことになってるなと思いました。なんかポップになってるって(笑)。ブクガの音楽には自分のエゴが入ってると言ってたけど、それってあらかじめテーマも決めず、本当に自分のやりたいことをやってるんですか?
サクライ はい。そのときにやりたいことをやってます。普通に作ったらああなっちゃうので、(2)さんとか、ほかのグループの曲を書かせていただくときはそちらの色に寄せようという意識が強まりますね。
michitomo それでもサクライケンタ味が出るのはすごいと思うな。マリンバや、カットしたアコギの音を聴いたらサクライさんのことが思い浮かぶし。あれってすでに組んでいる自分のプリセットがあって、それを使ってるんですか?
サクライ いや、組んでないんですよ。アコギもその都度弾いたやつを録音、編集しています。今回も使うコードを全部書き出して、それを全部録っていきました。
michitomo そうなんだ! サクライさんの作る音源ってトラックが少なくてシンプルだけど、1トラックにめちゃくちゃ時間をかけてるってことですよね。まあ、確かにトラックは少ないほうがいいに決まってるんですよ。僕の中でポップスの頂点はThe Beatlesなんですが、4トラックであれだけいい曲を作っていて、少ないに越したことはないんです。僕はどうしてもいろんな音を入れたがる癖があるけど、サクライさんはシンプルながら自分の味を出せるのがすごいと思います。
サクライ ありがとうございます。「二の足Dancing」とか、michitomoさんが作る(2)の曲ってセリフが多く入るじゃないですか。あれは今回僕も意識して真似てみました。
michitomo セリフパートのいいところって、歌唱力がなくてもメンバーを立たせられることで。(仮)が個を見せるというよりグループとしての塊を見せる感じなのに対し、(2)は歌唱力もダンスも凸凹という始まりがあったので、これまでの曲には意図的にセリフパートを入れてました。
サクライ (2)の楽曲のセリフからサビへ移るタイミングやタイム感がすごく好きなんですよ。セリフが絶妙に“リズム後ろ目”になっていて、前のめりな感じでサビに入るところ。
michitomo 「強がりライライライ」には、ほーちゃん(佐々木ほのか)のセリフが入ってますね。あれは顧客満足度が上がるやつですよ(笑)。
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雨子さんの歌詞は奥行きがすごい