上坂すみれの3枚目となるオリジナルアルバム「ノーフューチャーバカンス」が完成した。2013年4月のアーティストデビュー以来、ディープなカルチャーへの偏愛を落とし込んだ独自の作品を作り続けてきた彼女。今作では掟ポルシェ(ロマンポルシェ。、ド・ロドロシテル)、ザ・プーチンズ(現ザ・ぷー)、松永天馬(アーバンギャルド)ら個性の強い作家陣を迎えながらも、ポップかつキャッチーな楽曲を作り上げている。
上坂の作品において、ジャケット写真などのビジュアルもその個性を担う重要な要素の1つ。彼女の衣装をセレクトするスタイリングは、デビューシングル「七つの海よりキミの海」から最新アルバム「ノーフューチャーバカンス」まで一貫して、スタイリストの佐野夏水が担当している。佐野はライブ衣装から取材時のスタイリングまで広く上坂の仕事をサポートしており、最近はメイキング映像の撮影を務めることも。今回の特集では、誰よりも近くで上坂を見つめ続けてきた佐野との対談形式でインタビューを行った。
取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 塚原孝顕
「生涯上坂すみれ推し。」
──佐野さんはいろんなアーティストとお仕事されていますけど、中でも上坂さんへの寵愛ぶりがすごいなと。佐野さんのTwitterを開くと、2016年のツイート「生涯上坂すみれ推し。」が固定ツイートとして釘で刺されていて……(参照:佐野夏水 (@natsunomizu) | Twitter)。
上坂すみれ 釘で刺されて。
佐野夏水 1回、すみれちゃんにも「あれいいんですか?」って言われたんですよ。
上坂 フリーランスだからいいですけど、もし会社に属していたら問題ですよね。しがらみとか。
佐野 確かに(笑)。でも大切なんです。あの固定ツイート。
──どのタイミングから上坂さんのスタイリングを担当しているんですか?
佐野 デビューシングルの「七つの海よりキミの海」(参照:上坂すみれ「七つの海よりキミの海」インタビュー)からですね。201……3年? 5年前の2月です。そのフィッティングのときが初対面でした。アートディレクターの方に「佐野さんに合いそうな人がいるよ」とお話をいただいたんです。その頃はこんなに深くかかわるようになるとは思っていなくて。ジャケットだけじゃなく、取材やイベントでも一緒にお仕事したり、ライブの衣装を作ったりするようになるなんて想像してなかったですね。ライブ衣装なんて作ったことなかったし。
──一緒に成長していった感覚があるから特別なんでしょうか。
佐野 そうなんです。最初に衣装を作ったのは、品川のステラボールかな。
上坂 ミニ浴衣みたいなやつ?
佐野 そうそう。あれが私にとって本当に初めてのライブ衣装です(2013年8月3日に開催されたイベント「決起集会 vol.5 in 東京 ~悪夢の革ブロ大三角形~」。参照:上坂すみれ、血の海と化したステラボールで東京音頭を踊る)。
飽きずに5年も続いているのがすごい
──お互い初対面のときの印象は覚えていますか?
上坂 私、最初メイクさんだと思ってたんですよ。メイクのことを聞いたら「んー、ちょっとわかんない」みたいなことを言われて「この人なんなんだろう……」って。
佐野 「メイクさんなのに」って(笑)。
上坂 勝手に勘違いしてただけなのに(笑)。声優は基本、衣装は自前なんです。今も作品のイベントに声優として出るときは自前ですし、音楽のお仕事をするまでスタイリストさんがなんなのか、よくわからなかったんです。
佐野 さっきお話したアートディレクターさんから「上坂すみれさんという方です」と聞いて、パソコンを持ってないからケータイで検索して……。
上坂 そうだ、佐野さんパソコン持ってないんですよ。
佐野 ケータイで「上坂すみれ 画像」で検索したら……すごいかわいい子が出てきて。初めての現場では「ロシアのハーフ?」って聞いたのを覚えてます。そしたら「鎌倉と大船のハーフです」って答えが返ってきて「不思議ー」と思いました(笑)。
──その後、打ち解けるタイミングがあったんですか?
上坂 リリースイベントで地方に行くときに、前乗りしてごはんを食べたりしていくうちにだんだん個を知っていく、みたいな。
佐野 最初はそんなにしょっちゅうじゃなかったんですよ。ジャケット撮影とイベント、ライブのときぐらいで。2年ぐらいは探り探りだったんですけど、だんだん一緒にいる時間が長くなって……。
上坂 最近なんか横でめっちゃ写真撮られるようになったなって。佐野さんは1回しか着ない衣装でも手作りしてくれたりして、この人すごい……なんで泣いてるんですか(笑)。
佐野 (涙を拭いながら)この間の歌丸さんから涙腺がおかしくなってるんですよ(笑)。
上坂 大阪に行ったとき、移動中カーナビで「笑点」の歌丸さん追悼特集が流れてたんですよ。円楽さんの締めのひと言で2人で大号泣して(笑)。
佐野 泣きながら神戸に移動したんですよ。あれから涙腺が弱くて。
上坂 そういう、いつまで経っても社会人っぽくない、実家の姉みたいな感覚があって。あまりビジネス感がなくて、予算あんまり出てないだろうなというときでもしっかり作ってくれるし。ライブ衣装でも、3曲しか歌わない場面でめっちゃ派手なドレスを作ってくれたりとか。採算度外視スタイリスト。
佐野 ちょっとティッシュを……。
上坂 嘘でしょ。なんで泣いてるのかわからない(笑)。まだ8分しか経ってないのに。
──上坂さんはそうそう誰彼と心を開くタイプではないですよね。心許せる間柄だからこそ、これだけ長く関係が続いていると思うのですが。
上坂 そうですね。やっぱり仕事でお会いする人はみんな少なからず仕事感があるんですけど、佐野さんは仕事している感じじゃなくて。「すみれちゃーん、こっち向いてー」みたいな感じで、それが飽きずに5年も続いているのがすごい。親戚の子ですらそんなに一緒にいたらちょっと飽きますよね。
──5歳になってもまだ飽きてない。
佐野 一番かわいい時期ですもんね。
上坂 もう飽きる頃だろと思うんですけど、ずっとその状態が続いていて、それがキャラじゃなく素なのがすごいなと思います。
佐野 年々ずっと上昇し続けてる感じですね。
──大変な場面も一緒に乗り越えてきた、という共闘関係で築かれた絆もあったりするのでしょうか。
上坂 確かに。私のマネージャーさんとプロデューサーの須藤(孝太郎)さんと佐野さんは、デビューの頃からずっと変わってないんです。この4人は、それぞれちょっとずつ……ダメな感じがあるので(笑)。マネージャーさんはけっこうちゃんとしてますけど、須藤さんは人間的にダメだし、私はいつも具合が悪いし、佐野さんはいい加減パソコンを買ったほうがいい。でも「じゃんじゃん儲けるでー」みたいな人がいないから、やりやすいんだと思います。「目指せ武道館!」みたいなことを言う人が誰もいない。
佐野 1人ぐらいビジネスっぽい人がいてもいいと思うんですけど、いないですね。
趣味は上坂すみれ
──ちなみに佐野さんは、上坂さんの音楽についてはどう思ってるんですか?
佐野 あー、わからないんですよ。
──わからない(笑)。
上坂 私の顔ファンだから(笑)。
佐野 わかんないと言うか、すみれちゃんから「誰々に作詞を頼んだ」とか「誰々に作曲してもらった」と聞いても、ほとんど知らないんですよ。
──趣味が合うからウマが合う、みたいなところはまったくなく。
佐野 ないですね。むしろ共通の趣味が何もない。
上坂 まったくないけど、1mmも興味がない新日本プロレスを一緒に観に行ってくれたり、順応性は高いんですよ。何もわかんないけどとりあえず「すごーい」と言ってくれる彼女みたいな。
佐野 あはははは(笑)。彼氏の趣味に付き合ってる人。
上坂 サッカーわかんないけど彼氏が観てるから一緒にペイントする、みたいな。Amazonプライムの話を私がしていたら、とりあえず登録はしてくれたみたいだけど、「カンフー・パンダ」しか観てないって(笑)。逆になんで「カンフー・パンダ」を観たんだろう。
佐野 知らないからいいのかもしれないですね。すごさが全然わかんないんですよ。だから新曲ができたら「すごーい! こんな歌も歌えるんだ」とか「今回はこういう曲なんだね、すごいね」って先入観なしで関われるので。
上坂 掟ポルシェさんとか言われても知らないですよね。
佐野 すみれちゃんが「夏の魔物」でトークした人、という認識です(笑)。あと、バイトなんとか列伝(今年1月に刊行された「男の!ヤバすぎバイト列伝」)というすごい本を出して、すみれちゃんが買ってましたね。
上坂 佐野さんの趣味ってなんなんだろう……。
佐野 この間、すみれちゃんの事務所の方とお話していて、「趣味はなんですか?」「好きな男性のタイプは?」とか、たぶん私の人となりを知ろうとしてくれたんだと思うんですけど、私から何も出てこなくて(笑)。趣味……浅野忠信さんがCharaさんと結婚したとき「趣味はCharaです」と言ってたのがすごくわかるんですよ。趣味はすみれちゃんです(笑)。
上坂 無からなんでこんな素敵な衣装が生み出せるのか、わからないんですよね。
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無知が生むクリエイティブ
- 上坂すみれ「ノーフューチャーバカンス」
- 2018年8月1日発売 / KING RECORDS
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初回限定盤A
[CD+Blu-ray]
3888円 / KICS-93726 -
初回限定盤B
[CD+フォトブック]
3888円 / KICS-93727 -
通常盤 [CD]
3240円 / KICS-3726
- CD収録曲
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- 予感03 *Instrumental[作・編曲:R・O・N]
- POP TEAM EPIC[作詞・作曲・編曲:吟(BUSTED ROSE)]
- 恋する図形(cubic futurismo)[作詞・作曲・編曲:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND]
- よっぱらっぴ☆[作詞・作曲・編曲:MUTEKI DEAD SNAKE]
- 地獄でホットケーキ[作詞:桑原永江 / 作・編曲:渡部チェル]
- リバーサイド・ラヴァーズ(奈落の恋)[作詞・作曲・編曲:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND]
- 祈りの星空[作詞・作曲・編曲:AJURIKA]
- 平成生まれ[作詞:松永天馬 / 作・編曲:鎌田瑞輝(SLOTH MUSIC)]
- Hello my kitty[作詞:椎名可憐 / 作・編曲:広川恵一(MONACA)]
- チチキトク スグカエレ[作詞・作曲・編曲:掟ポルシェ]
- ヤバい◯◯[作詞・作曲:街角マチオ、SONE太郎(ザ・プーチンズ)/ 編曲:谷地村啓]
- 文豪でGO![作詞・作曲:街角マチオ(ザ・プーチンズ)/ 編曲:谷地村啓]
- どうして!ルイ先生[作詞・作曲・編曲:MOSAIC.WAV]
- アンチテーゼ・エスケイプ[作詞・作曲:ORESAMA / 編曲:小島英也]
- 踊れ!きゅーきょく哲学[作詞:上坂すみれ、月蝕會議 / 作・編曲:月蝕會議]
- ノーフューチャーバカンス[作詞:上坂すみれ / 作・編曲:東新レゾナント]
- 初回限定盤A Blu-ray収録内容
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MUSIC VIDEO
- 恋する図形(cubic futurismo)
- 踊れ!きゅーきょく哲学
- リバーサイド・ラヴァーズ(奈落の恋)
- POP TEAM EPIC
- ノーフューチャーバカンス
映像特典:ノーフューチャーバカンス MAKING
- 上坂すみれ(ウエサカスミレ)
- ソビエト社会主義共和国連邦が崩壊した1991年生まれの声優、アーティスト。2012年テレビアニメ「パパのいうことを聞きなさい!」の小鳥遊空役で本格的に声優デビューを果たす。以来、注目作に出演する一方でメディアやイベントなどを通じて、無類のロリータファッションマニア、ソ連・ロシアマニア、ミリタリーマニア、音楽マニアであることがファンの知るところに。そして2013年4月、その趣味の世界をダイレクトに反映したシングル「七つの海よりキミの海」でアーティストデビュー。その後も桃井はるこ作詞作曲の「げんし、女子は、たいようだった。」や、大槻ケンヂ作詞、NARASAKI作曲の「パララックス・ビュー」など話題作を立て続けにリリースし、2014年1月には1stアルバム「革命的ブロードウェイ主義者同盟」、2016年1月には2ndアルバム「20世紀の逆襲」を発表した。2016年2月には東京・中野サンプラザホールで初のバンド編成による2DAYSライブ「超中野大陸の逆襲」、12月には初のアリーナ会場となる東京・両国国技館でワンマンライブ「上坂すみれのひとり相撲2016~サイケデリック巡業」を行う。2017年4~6月にはTOKYO MXとBS11で初の冠テレビ番組「上坂すみれのヤバい○○」が放送され、9月には放送された全12話に未公開映像を加えたBlu-rayボックス「上坂すみれのヤバい○○ Blu-rayBOX」が発売された。2018年8月に通算3枚目となるオリジナルアルバム「ノーフューチャーバカンス」をリリース。
- 佐野夏水(サノナツミ)
- スタイリスト。2009年にフリーランスとして独立し、雑誌、ブランド、CDジャケット、ミュージックビデオ、アーティスト衣装などのスタイリング、衣装デザインを手がける。声優・上坂すみれのアーティスト活動におけるスタイリングは2013年4月のデビュー時よりすべて担当。2014年9月から2017年6月にかけて活動した清竜人の“一夫多妻制アイドルユニット”清 竜人25も全活動のスタイリングを担当した。