ナタリー PowerPush - 上間綾乃
新境地を開いた魂のアルバム「ニライカナイ」
沖縄民謡が根岸流ロックに
──本作には沖縄民謡が2曲収録されていますが、どちらもかなり大胆なアレンジが施されていてビックリしました。
はい。私自身、特にビックリしたのは「新川大漁節」ですね。自分の中に、アレンジしたら面白くなりそうだなっていう沖縄民謡が何曲かあったんですけど、そのうちの1曲がコレで。力強い海の男の歌なので、バンドの熱いサウンドで演奏してもらったらすごくカッコよくなるんじゃないかなって。で、それを制作チームに話したら、「じゃあ飛び道具は根岸(孝旨)さんしかいないね」ってプロデューサーに言われて(笑)。
──そう、根岸さんがアレンジャーなんですよね。
根岸さんには、原曲を聴いたときに「どこまでやっちゃっていいんですか?」って聞かれたので、「ガッツリやっちゃってください!」って託しました。そうしたら私の想像をはるかに超えたものが上がってきて。沖縄民謡をアレンジするっていうのはいろんなアーティストの方が今までもやってきたことではあるんですけど、根岸さんという人を通すとこうも生まれ変わるのかと。音の捉え方がとにかく新鮮でしたね。
──サウンドはもろロックですもんね。で、それにあわせて上間さんの歌声もめちゃくちゃロックな表情になっていて。
ほんとにロック。その音を受けて歌い方は自然に変わりました。あんなに唸って歌うことはまずないですからね、面白いなあと思って。今年、フジロックに出させてもらったときにこの曲をやったんですけど、すっごいよかった! なんかもうトランスしちゃって。あんなに飛んで跳ねて歌ったら民謡の先生には怒られると思う(笑)。
──あははは(笑)。もう1曲の民謡「ヒヤミカチ節」もライブ感がガッツリ出た仕上がりですよね。
この曲はライブでは前からやっていて、気に入ってくれてるお客さんも多かったんですよね。「ぜひCDで聴きたいです」っていう声もたくさんいただいていて。でもね、CDではライブでやってるような雰囲気は出せないんじゃないかなってずっと思っていたんです。
──それに今回はトライしてみたと。大成功ですよね。
うん。スタジオでバンドのみんなと一緒に「せーの」で録ったんです。そういう録り方は初めてだったんですけど、すごくノリノリで歌えました。
もっと自分らしい表現を
──その2曲の後にはスカを盛り込んだサウンドが印象的な「やんどー沖縄(うちなー)」というナンバーも収録されていて。いい意味で上間さんのイメージを覆す3曲の流れがすごくよかったんですよ。
私もそこの流れは大好き。「やんどー沖縄(うちなー)」は、ウチナーグチの話し言葉で歌詞を書いて、途中にはセリフも入れたので面白い仕上がりになってると思いますね。
──そんな3曲で勢いのある歌声を聴かせつつ、「ゆらりゆらら」や「明日ハ晴レカナ、曇リカナ」(武満徹のカバー)では一転、柔らかな優しい表情を見せているのもすごく素敵で。1枚のアルバムを通して上間さんの持つさまざまな歌声が堪能できますね。
「Interlude-躍動-」を入れて場面転換をしてみたりとかね。「ゆらりゆらら」は子守唄なんですけど、あそこまで優しい曲を歌うのは初めてでした。以前のライブでウクレレを弾いたときに、その姿を見たプロデューサーは私が子供を抱えてるように見えたらしくて。だから「上間は子守唄もいける!」と思ったんだって(笑)。
──なるほど(笑)。どんな気持ちで子守唄を歌ったんですか?
子を持つとこんな気持ちなんだろうなっていうよりも、自分が小さかったときに父ちゃん母ちゃんにどんなふうに抱っこされてたのかなとか、いっぱい愛情もらってたんだろうなっていうことを思いながら歌いました。人と人との温かさが伝わる曲なので、すごく気に入ってますね。
──「明日ハ晴レカナ、曇リカナ」はウクレレアレンジになっていますが、もしかして?
いや、このウクレレは私が弾いたわけじゃないですよ。難しかったんで(笑)。この曲は前から歌ってみたいなと思っていたんですよね。曲を聴いたときに、小さい頃に歩いていた畑の中の小道とかそういう景色を思い出したので、お散歩してる気持ちで歌いました。間奏では何気なく鼻歌が出ちゃったんですけど、それがそのまま使われてしまったんでビックリしましたね。でも、この人楽しそうだなって自分で聴いても思ったんで、OKにしました(笑)。
──この曲で聴けるリラックスした歌声も、いわゆる民謡的な歌唱法ではないですよね。
うん、全然違いますね。民謡を受け継いでいる唄者という意識はもちろん土台としてあるんですけど、その上で自分らしい表現というものをやってみたい気持ちが高まっているんです。そういう意味では、今回のアルバムを通して自分の歌声に対しての新たな気付きもたくさんありましたね。
収録曲
- Overture-命(いぬち)、生(ん)まりとてぃ-
- ソランジュ
- 里(さとぅ)よ
- ゆらりゆらら
- Interlude-躍動-
- ヒヤミカチ節(民謡)
- 新川(あらかわ)大漁節(民謡)
- やんどー沖縄(うちなー)
- 明日ハ晴レカナ、曇リカナ
- ニライカナイ
- あなたのもとへ
- あいうた
上間綾乃(うえまあやの)
1985年生まれ、沖縄県うるま市出身の女性シンガー。小学校2年生から三線を習い始め、19歳で琉球國民謡協会教師免許に合格する。インディーズでCDを発表し積極的なライブ活動を行う中、2012年5月にアルバム「唄者」で日本コロムビアよりメジャーデビュー。2013年6月には1stシングル「ソランジュ」を発売し、「FUJI ROCK FESTIVAL '13」へ初出演を果たした。同年9月4日、メジャー2作目のフルアルバム「ニライカナイ」をリリース。