音楽ナタリー PowerPush - TWEEDEES
清浦夏実と沖井礼二が生み出したバンドマジック
「このプロジェクトはうまくいかないかもな」と思う瞬間もあった
──植物園で初めて「アノネデモネ」を聴いたとき、沖井さんはボーカリスト清浦夏実の声についてどういう印象を持ったんですか?
沖井 これは自分の手の内を晒すようでちょっとイヤなんだけど……いろんなボーカリストがいる中で、僕はなんだかんだで上品な声が好きなんですね。ただ上品で落ち着いた声ではなく、そこに何がしかの茶目っ気を持っている声が好きだと。Cymbalsの土岐麻子はそういう意味では理想的だったと思うんですけれども、Cymbalsが解散してから10年間、僕はやっぱりそれを探してたと思うんですよね。土岐麻子とはまた違った、理想的な声を。FROGで歌ってくれた青野りえさんの声はとても美しくて、だからこそなんだけどFROGでは彼女の声に合わせて、フュージョンやプログレ寄りの音楽に行きがちで。それは当時僕のやりたいことでもあったし、それまでよりも少し大人向けの音楽をやろうと思っていた僕にはFROGの音楽性と青野さんの声がふさわしかった。でもやっぱり、それだけでは満足できないものがあったんです。
──なるほど。
沖井 やんちゃしたくてその後SCOTT GOES FORなんかも始めましたけど、それもやはり自分のド真ん中ではないなという思いはあって。そうやって悩んでいる時期に植物園を歩いていたら「これこれ、この声ですよ」と。でも調べてみたら若すぎるから、その時点では声をかけるに至らなかった。
──わかります。清浦さんはデビューシングル「風さがし」(2007年10月発売)の時点で不思議と大人びた声の雰囲気があって、かつ同時に子供っぽい質感の声も混じってる感じがするんですよね。計算ではないのかもしれないけど、落ち着きとイノセントの配分を曲によって振り分けているような。
沖井 「十九色」というアルバムはどの曲も素晴らしいと思うんだけれども、ボーカリゼーションという意味では「風さがし」が一番好きなんです。話に聞くとあれが最初に歌った曲なんだよね。きっとよくわかんないまま「お歌を歌ってくださいね」とマイクの前に立たされて、自分なりに初めて歌ったのがあの曲で。そのあと自分は歌手なのだという自覚とともに、いろんなことを試すうちに自分の軸が弱くなってきたんだと思うんですよ。
清浦 うんうん。
沖井 話を2年前に引き戻すと、TWEEDEESの最初の作業は、清浦夏実の軸がどこにあるのかを探す作業だったんですね。たぶん自分なりに研究したり訓練したりしたんだろうけど、それは清浦夏実じゃないなと。いろんなデモを録りながら「これはやめたほうがいい」「その歌い方はやめよう」と取っ払う作業を続けて。最初の1年はけっこう苦しんで、「このプロジェクトはうまくいかないかもな」と思う瞬間もあったんです。それがさっき話した「罠」なんだけれども。清浦夏実という素質を持ったボーカリストを呼んでくればうまくいくというわけではなかった。
TWEEDEESが“バンド”である理由
──単に清浦夏実と沖井礼二をかけあわせただけでは“バンド”にはならなかったと。
沖井 そう。清浦夏実というボーカリストの持ち味をちゃんと見出して……僕は僕でFROGをやっていたようなものをそのまま彼女に歌わせれば大丈夫と思ったら大間違いで、ちゃんと彼女の軸を見出した上で曲作りをしないとこのバンドはバンドとして成立しないなと。そこに気付くまでに1年かかりましたね。
清浦 今回のアルバムには私らしさを閉じ込められたと思うんですけど、その“らしさ”を発見できたときは「これでよかったの?」っていうぐらい拍子抜けしました。ずっとああしようこうしようと頭で考えていたけど、ラクに歌ってみたら「これでいいんだ」って。
沖井 たぶんそれは結果として「風さがし」の自分に戻れたってことだと思うんだよね。「風さがし」のあなたがそのまま成長した姿がこれなんだろうなって。このアルバムの彼女のボーカリゼーションが僕はとても好きで、とうとう僕のやりたかった音楽をちゃんと鳴らすことができたなという実感があるんです。
清浦 最初の頃はそれこそ何度もディスカッションを重ねながら歌を録ってましたけど、今は阿吽の呼吸じゃないですけど、すごく早くて。
沖井 歌録りがラクになったよねえ。今は歌を録っていてOKを出す基準は「清浦夏実らしいかどうか」なんです。最初は曲によってこういう歌い方をしたほうがいいとか、この曲はこうじゃなきゃいけないという設計図があったけど、今はそういうことを言うつもりもないし、言う必要もない。例えちょっとトチってもそこに清浦夏実らしさがあればOKなんですよ。
清浦 そうそう。役作りをしてたのが、役じゃなくなったところはありますね。「TWEEDEESのボーカリストならこう歌うだろう」という役作りをしなくなった。「十九色」のときも同じで「この曲に合ったこういう女の子になろう」と役作りしてたと思うんですけど、今はどちらかというと、ただ私のままで歌っているというか。
沖井 僕がTWEEDEESをユニットではなくバンドだと呼びたいのはそこなんですよ。ユニットというのは、こういうおじさんが作った歌を娘さんに歌わせるもの。でも僕は彼女に影響を受けて曲を作っているんです。彼女はそこに素で立っていて、彼女のために作られた曲を歌う。有機的な融合が生まれているからこそ、これはバンドと呼ぶにふさわしいと思うんです。ちゃんとバンドマジックが起きている。
──でもいわゆるバンド形態、サポートメンバーを必要としないグループにはしなかったんですね。
沖井 いや、同じ感覚を共有したそれ相応のキャラクターを持つプレイヤーがいたら、それは随時募集したいですよ。
清浦 メンバーが増える可能性はゼロとは言えない。
──沖井さんはCymbalsのときも、あのギターポップ全盛の時代にギターのいないバンドとして登場しましたし(笑)、あんなにバンドへの憧憬を強く持った人なのに今回もこういう形なんだなと思ったんですよ。
沖井 ふふふふ(笑)。理想のバンドを作りたいからこそ、中途半端にメンバーが決められないんです。Cymbalsと比較されることは多いですけど、成り立ちとしては真逆で。Cymbalsは先にコンセプトがあって、それを3人で作っていたわけだけど、TWEEDEESは個人のキャラクターが先に立っているところがあるから。
FORTEZZAからTWEEDEESへ
──バンド結成における重要な要素としてもう1つ、バンド名というものがありますが、なぜTWEEDEESにしたんですか?
沖井 実は去年の秋頃に、それまで考えていたバンド名から変更しまして。ずっとFORTEZZA(フォルテッツァ)という名前だったんです。「要塞」という意味のイタリア語で。FORTEZZAとして制作を進めるうちに、だんだん作る曲も変わり、自分たちの気持ちも変わってきて。今思うと、その要塞という名の通り、守りに入っていたと思うんですよ。正しい意味でポジティブじゃなかったんだろうなと。……これはインタビューで言うべきではないのかもしれないけど、2人ともこのバンドに対する意識の中に、過去との決別というものがちょっとあったと思うんですよ。守りたい何かを守るためにこのプロジェクトを始めたのかもしれないけど、だんだんその名前が似合わなくなってきたんですよね。
──2人の意識の変化で設計図通りではなくなったと。
沖井 普通に楽しくなってきちゃったんですよ。「Tweedy」には「肩肘を張らない」という意味合いがあって。「保守的な」というちょっとネガティブな意味もあるんだけど、肩肘張らない感じが今の自分たちに合ってるなと思ったし、だらけてるだけじゃなくて……伝統的なくつろぎ方をしている感じというか(笑)。
──英国紳士的なイメージですよね(笑)。
沖井 そうそう(笑)。ブリテン好きは2人が意気投合した大きな要因ですし。
清浦 FORTEZZAに比べていい具合に軽いですよね。TWEEDEESって。
沖井 本来のスペルなら「TWEEDYS」「TWEEDIES」なんだけど、Eを2つ並べたのはThe Monkeesのマナーを踏襲しました(笑)。あとはGoogle検索でもトップに来るように。
──大事ですよね。エゴサーチに不便な名前でないかどうか。
清浦 「FROGは検索が大変なんだよ」って言ってました(笑)。清浦夏実なんてそうそういない名前だから考えたこともなかったけど、名前って難しい。
沖井 バンド名が変わったときに、このバンドはすでに一度シーズンが変わっているんですよ。これからデビューする新人だけど、ちゃんと準備をしたという安心感がありますね。
次のページ » 突然生まれた「KLING! KLANG!!」
収録曲
- あなたにはがっかり
- Rock'n Roll is DEAD?
- 月の女王と眠たいテーブルクロス
- The Sound Sounds.
- 祝福の鉄橋
- Boop Boop Bee Doop!
- 蝉時雨の止む頃に
- Crosstown Traffic
- ブリキの思い出
- 電離層の彼方へ
- Over The Rainbow
- KLING! KLANG!!(album mix)
TWEEDEES(トゥイーディーズ)
シンガー清浦夏実と作曲家・音楽プロデューサー沖井礼二によるバンド。2015年1月にバンド結成を発表し、同時にオリジナル楽曲「KLING! KLANG!!」を配信限定シングルとしてリリースした。同年2月には東京・Future SEVENにて初ライブ「TWEEDEES Premium Show」を実施。同年3月に1stアルバム「The Sound Sounds.」を発表する。