TWEEDEES|正常進化のためのあくなき戦い

TWEEDEESの3rdアルバム「DELICIOUS.」が10月31日にリリースされた。沖井礼二(B)にとってはCymbals時代、2002年7月に発表したアルバム「Sine」以来、人生2度目のメジャー3rdアルバムとなる。2015年3月のデビューアルバム「The Sound Sounds.」以降、バンドとしての試行錯誤を重ねて完成した本作は、TWEEDEESにとってどんな意味合いを持つ作品となったのか。清浦夏実(Vo)と沖井の2人にじっくりと話を聞いた。

取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 前田立

候補曲は40曲以上

──デビューまでのすべてを込めた1stアルバム、デビュー後の活動を経ての2ndアルバムときて、その次に来る3rdアルバムはある程度熟したアーティストの本質が如実に出るような気がして、僕は3rdアルバムというものが好きなんです。が、沖井さんはCymbalsやFROG、清浦さんはソロ活動と、それぞれ“前世”を持っているので、また違う感覚があるかなと思うんです。

沖井礼二(B) ええ、前世。今回はレコーディングにかなり時間をかけましたが、それは積み上げることに費やしたんじゃなくて、そぎ落とすことに費やす時間が主で、そこが前世で作った3rdアルバムとの違いだと思います(笑)。僕個人の話ですが、今回は1枚のアルバムを作るうえで書いた曲数が一番多かったんです。40曲を超えちゃってて、ハードディスクには仮タイトルのフォルダがたくさんあって。すごくとっ散らかったヤバい状態なんですけど、そのヤバい状態からよく抜け出せたなと思っています。

──最終的に収められている10曲は、見事なまでにバランスがとれた並びになっていると感じました。もしあと1曲2曲増えると、全然違う印象のアルバムになっていたんじゃないかなと。なので最終的にボツになった楽曲はあったのか聞きたかったんですけど、そもそも40曲以上の候補があったんですね。

沖井 ほぼ作り終えてギリギリまで入れるつもりの曲もありました。でも、それを入れると全体像としてノイズになるかなと。レコーディングの最終段階でアルバムの全体像が見えてきたとき、これを入れると夾雑物として全体の丸みが崩れてしまうかな、と思ってやめました。

──アルバム2枚とミニアルバム1枚を経ての3rdアルバムですが、その3作品を経たからこそできたと言える部分はありますか?

沖井 逆にそれだけでできていると言えますね。いきなり作れるレコードではない。

正常進化のために

──先日、アルバム発売前に新曲をお披露目するライブが行われました(参照:TWEEDEES、3度目のプレミアムショウで新作「DELICIOUS.」を産地直送)。二十代のプレイヤーがサポートで参加して、沖井さんが常々言っていた「ポップスは若い人のためのもの」をサウンドでも体現するような試みだと思いましたが、同時に「沖井さんがTWEEDEESを突き詰めると、最終的な理想形は“沖井礼二がいなくなる”なのではないか」とすら感じました。

沖井 ライブを終えたあと、僕もまったく同じ印象を受けました。ポップスは若い人のためのもので、TWEEDEESはこの人(清浦)が歌ってくれていて……最終的にはおじさんが視界から消えたほうがいいんですよ(笑)。それが感じられてよかったなと思うし、そうなってきているのは僕が考えたポップス像に向かってきちんと歩みを進めている証拠だなと思うので、悲しいことではないです。

──バンドとしてのTWEEDEESの変化を、ヤング代表の清浦さんはどう考えているのでしょうか?

清浦夏実(Vo) 井上(薫 / ブルー・ペパーズ)さん、qurosawa(POLLYANNA)さんという、同世代どころか私より歳下の2人が入ってきて、当然ジェネレーションギャップは減りましたが、2人は音楽の解釈力がある人で、私と沖井さんの間にも入ってくれるし、私のことも理解してくれる。単純にやりやすいです、とても。

清浦夏実(Vo)

──清浦さんはソロ時代からずっと、年齢の離れた大人の方々と音楽をやってきましたよね。これはけっこう大きな変化なのかなと。

清浦 もちろん先輩たちの背中を見ることもたくさん勉強になりましたけど、こういう横並びもいいものだなって。

──前の2枚のアルバムでは清浦さんも作曲にトライしていましたが、今作では作詞のみで、作曲はすべて沖井さんですよね。これは沖井さんに委ねていたのか、書いたもののボツにしたのか、どちらなのでしょうか?

沖井 膨大なボツ曲の中にこの人の書いた曲もありますけど、それ以上に僕が書いたボツ曲が山ほどあります。

──ではアルバムに収録された10曲については、どのような基準で採用に至ったのでしょうか?

沖井 アルバムを作るとき、1曲目はこういうふうに始まって、2曲目はこうつながって……と僕はいつも全体像をまず考えるんです。が、一聴していただければおわかりになってもらえるかと思いますが、今回のアルバムは一切てらいがない。てらいがないということは、正面突破で強い曲じゃなきゃいけなくて、それに見合うところまで至った曲は少なかった。

清浦 苦労してましたよね。すごくハードルが高かったんですよ。

沖井 前世の話になりますけど……3rdアルバムの作り方として、そこまでの経験を踏まえてグッと新しい方向に踏み込むというのが1つあって、前世で僕はまさにその方法を取ったんです。

──Cymbalsのメジャー3rdアルバム「Sine」(2002年7月発売)ですね。

沖井 ただ、それをやることは正常進化から逃げることにもなると思うんですね。今回はそれをきちんと受け止めよう、逃げずにやろうと(笑)。そのためには、とにかく曲の芯が強くなきゃいけない。それに尽きるのかなあ。「ポップスは若い人のためのもの」という言い方をしていますけど、僕はSex Pistolsが好きで音楽を始めて、ブラックユーモアや皮肉ったらしいものから大きな影響を受けていて。でも今回は違うところで勝負しなきゃいけないなと。そういうレコードを自分が聴きたかった。なんとしてもそれを自分の手で作りたい。「今、自分が聴きたいものしかこのアルバムには入ってはいけない」というところにこだわったんだろうなあ。

──TWEEDEESの3rdアルバムは、てらいのない作品じゃないといけないと。

沖井 てらい、作為を排除したところで何ができるか、というのが今回の勝負どころだと思っていたので。

清浦 変化球は絶対に違ったんでしょうね。

沖井 うん、直球160kmで全部投げきれるかみたいな。そういう勝負に出たということだと思います。

苦しい戦いを経て

──全曲直球というのは、よく言う「全曲シングルにしてもおかしくない」みたいな言い回しに近いものだと思いますし、実際そういうアルバムになっていると感じますが、構成としてすごく“アルバムっぽい”とも感じました。

沖井 アルバムを作るのだという意識はとても強かったです。前作の「à la mode」(2017年6月発売)はミニアルバムでしたが、これはまさに「全曲シングルでもおかしくないレコードを作ろう」と考えて作ったもので。それを1回やっているから、今回はきちんとしたフルアルバムを聴きたい。僕が。その気持ちが、今回はものすごく強かった。僕はいつもギリギリまで根詰めて作っちゃうタイプですけども、いつも通りに作っているつもりが、この人(清浦)からすると、いつもと違ってこだわり方が異常だったと。

清浦 「こうじゃない、ああじゃない」という曲がどんどん増えてきて、沖井さんが目指しているゴールがわからない時期があって。とても高いハードルがあり、それがとてもとても高いところにあることしかわからない。最後の2カ月で一気に形が見えてきましたけど、1年がかりで作ってきたものが……。

沖井礼二(B)

沖井 次から次へとボツになって(笑)。

清浦 苦しい戦いを経て渾身の1枚になりました(笑)。ひと言で表すとそうなりますけど、1曲目の「DELICIOUS.」ができたときは1つの突破口になったなと思いました。

──1曲目の「DELICIOUS.」はアルバムの表題曲でもありますが、アルバムタイトルは制作の前段階で決定したと先日のライブでおっしゃってましたよね。

沖井 はい。「DELICIOUS.」というアルバムタイトルが決まったのは去年の今頃ですね。

──アルバムタイトルが先にあり、それを背負うにふさわしい曲を練り上げていったと。

沖井 「DELICIOUS.」という仮タイトルの楽曲フォルダがいくつもいくつも僕のMacの中にあるわけですよ(笑)。いろんな「DELICIOUS.」が。プログレみたいなフュージョンみたいなジャズみたいなさまざまな「DELICIOUS.」がある中で、やっと1番バッターが決まりましたというだけの話で。今この人は突破口と言ったけど、僕はこの曲ができたところで何一つ安心できていなかった。