東京スカパラダイスオーケストラ×斎藤宏介(UNISON SQUARE GARDEN)|“補色の交わり”が生み出した鋭利なラテンスカ

オーダーメイドの歌詞

──それを毎回いろんな方と確認できるのもまたコラボレーションのだいご味なのかもしれませんね。谷中さんに伺いますが、この歌詞は沖さんの曲と斎藤さんのボーカルが決まってから書かれたものですか? それとも以前から書かれていた歌詞でしたか?

谷中 前者ですね。すべてを加味したうえで書きました。そのほうが自分は書きやすいですね。

──僕、谷中さんからメールでポエムが送られてくるという話を何人かの知人から聞いたことがあるのですが。

谷中 最近はあまり人に送っていませんね(笑)。メモ書きを1つの詩にして、ときどき人に送ったりしていたんです。最近は普通にメモ書きです。書きかけのメモがいっぱいあって、時間があるときに、書いたときとは別の視点でその詩を読んで、仕上げることもあります。楽しい趣味ですよ(笑)。詩って、1つの完結した箱庭と言うか宇宙みたいだし、すごくコンパクトなエンタテインメントだと思うし、短いポップスだと思います。

──直近のツアーでも歌詞のプリントをお客さん全員に配っていらっしゃいましたね。

谷中 「顕微鏡と望遠鏡」ですね。同じ言葉を共有して持ってもらえたらと思って。一種のお土産ですね。

──今回の歌詞しかり、近年の谷中さんの歌詞は言葉選びがよりシンプルに研ぎ澄まされてきたような印象を受けるのですが。

谷中 確かに世界を広げ過ぎないようには心がけているかもしれない。「初めて聴いてすぐ内容がわかるくらいがいいかな」って。昔「美しく燃える森」を書いたときに、曲名を「美しく燃える森」と言ってくれた人がほとんどいなかったんですよ。「あの『美しい森』、いいねえ」とか「あのナントカの森っていいですね」と真顔で言われたりすると、「小難しいのは書こうと思えば書けるけど、簡単に覚えてもらって深く感じてもらうぐらいが丁度いいんだろうなあ」と思ったんです。順序立てて歌えると言うか、「この次はこうなる」という予想をしながら歌い進めていける作りと言うかね。「道なき道、反骨の。」とか「さよならホテル」もそういう作りですね。

斎藤 谷中さんの歌詞には谷中さんという人間がすごく染み付いていると思います。僕もときどきポエムを送っていただけるリストの中の1人だったんですけど、たまにエスパーみたいなタイミングで「なんで今の僕の気持ちがわかったんだ?」という、グサッと刺さるポエムが届いたりして。2年前、僕らは日本武道館でライブをやったんですが、当時って「シュガーソングとビターステップ」というシングルがバンド史上一番売れて、ちょっと背伸びしてがんばっていた頃だったんです。そういうことをしていると、ふと自分の本来いるべき場所がわからなくわからなっちゃう瞬間があったんですが、すると谷中さんから「ダメだぞ。お前はお前だぞ」みたいなLINEが届いて(笑)。

谷中 (笑)。

斎藤 その人の心情にハッとくるような言葉をたくさんお持ちの作詞家なんだなと思います。普段からいろんなことを経験して、考えて、人生を歩んでいらっしゃるんだろうなあと。

谷中 いやいや。でも「これって俺のことかも?」「私のことかも?」と思ってもらえたら、メッセージとしては成功だと思うんです。かつてジョン・レノンはみんなに「War is over, if you want it.」というハガキを送っていたそうなんだけど、それを受け取った人は「俺が欲すれば戦争は終わるのか」と思うわけじゃないですか。自分の歌詞でも、常に少しでもそういう効果は狙っていきたいし、そこから共有してもらえるもので、心が何かしら変わっていくとか、社会にいい影響を及ぼすとか、文化がもっとよくなるとか、そういう働きかけになるようなことは書いていきたいね。

茂木欣一(東京スカパラダイスオーケストラ / Dr)

茂木 僕が「銀河と迷路」を歌うとき、谷中さんが「この曲は欣ちゃんが歌うためのオーダーメイドだから」って言ってくれたんです。谷中さんはいつもオーダーメイドで歌詞を書いているんですよね。だからその人の声の特性と、そこにふさわしい言葉のマッチングが素晴らしいんだと思う。どんなにいい言葉でも「この声で言われるとちょっとピンと来ないな?」ってこともあるじゃないですか。例えば「白と黒のモントゥーノ」でも、サビの「燃やせ 揺らせ」はやっぱり斎藤くんの声で聴くからよりグッと刺さるわけで。歌う人をその気にさせる度合いを、いつもものすごく考えているなあと思いますね。

谷中 確かに歌い出しの「どうせいつも悩むならば 大切なことで悩んで欲しい」も、斎藤くんの声で聴いたら「よりいいなあ」と思えたね。自分の書いた歌詞が、よりよい形で自分へ戻してもらえたと言うかね。

スケッチは大事だからね

斎藤宏介(UNISON SQUARE GARDEN / Vo, G)

斎藤 リハーサルのとき、僕の隣に座っていた谷中さんがスマホ片手にずっと僕のことを見ているんですよ。たまに動画を撮ったり、何か書き込んでいるのが視界の端に映って。あれはアンテナを張って、僕の歌い方や仕草や表情を見て今回の歌詞に落とし込んでいらっしゃったんですよね?

谷中 スケッチは大事だからね(笑)。

──でもスケッチされている側はかなり緊張しますよね?

斎藤 しますよ!(笑) でも悔しいことに、妙な温かさも感じるんです。圧迫面接的な嫌な感じは皆無で、たまに穏やかな視線でほほえまれたり。

谷中 ほほえむよ、俺(笑)。でも動画のスイッチ入れた瞬間にバレたんだよね。

 谷中くんとは高校からの付き合いですけど、昔から人間観察が好きだよねえ。

谷中 そうかもね。やっぱり人に合う言葉、合わない言葉って本当にあって、それを見分けるためにはスケッチするしかなくて。MONGOL800の(上江洌)清作のときも、最初は小難しい内容を歌ってもらおうかなと思ってたんですけど、いざ書いてみたら似合わないんですよ、清作の声に。「小難しいこと言ってんじゃないよ!」と怒られたぐらいの気持ちでした。それでおおらかな内容にしたらうまくいきました。その歌詞は、清作と一緒に福岡でカラオケに行ったときにできたもので。あいつ普段カラオケなんてほとんど行かないらしいんだけど、斉藤和義くんに誘われて、リリー・フランキーさんもいたからがんばって歌っていてね。それを真横で見ながらスケッチしたのが「流れゆく世界の中で」という曲です。

──なるほど。

谷中 まあ、ある意味とても失礼な行為なんですけどね(笑)。

固定概念をどれだけ壊していけるか

──では最後に、今後のスカパラの活動について抱負があればお聞かせいただけますか?

茂木欣一(東京スカパラダイスオーケストラ / Dr)

茂木 ここ最近のスカパラは“NO BORDER”、つまり垣根を作らないという精神を旗印に活動しているんですが、ツアーではただ音楽だけを演るんじゃなくて、演劇的な要素を盛り込んだり、カテゴライズしようのないステージを目指しています。固定概念をどれだけ壊していけるか、それこそが今のスカパラのテーマだと思います。

谷中 スカパラには偏見やエゴが何もないんです。「誰が誰を嫌い」とかもないし、自分が誰かよりも目立とうというエゴも一切ない。結果的に全員がハッピーならばそれでいい。細美武士くんが参加してくれたとき「スカパラがすごいのは、一緒にやるゲストを惜しみなく前へ前へと押し出そうと道を作って誘ってくれること」と話していたんですけど、みんなが楽しんでくれることが一番いいわけじゃないですか。まあちょっと褒め癖はあるかもしれないけど(笑)、斎藤くんしかり、スカパラと歌う人はみんな褒め殺しにも耐える歌声だから大丈夫でしょう(笑)。

茂木 あとは中南米のツアーで得て来た経験がすごく大きいので、これまでの曲もちょっとアレンジが変わってくるかもしれない。同じ曲でも違う世界が見えそうなものがあるなという気がするので。

 すでにそういう傾向はあるよね。谷中の「Routine Melodies」も2009年の作品だけど、今年のアルバム用にリプライズしてね。そういう新しいトライは今回のシングルのカップリングにも入っていますね。

──アルゼンチンで絶大な人気を誇るスカバンド・Los Auténticos Decadentesをフィーチャーした「WORLD RUDO CONNECTION feat.Los Auténticos Decadentes」と、沖さん作曲のミディアムナンバー「Moon Bow」ですね。

谷中 そうですね。Los Auténticos Decadentesとはブエノスアイレスで素晴らしい共演が実現したので。ここからはラテンの風で洗ったような新曲やライブをお届けすることになるかもしれない。

──では最後に、そんなこれからのスカパラに斎藤さんからひと言。

斎藤 いや、もういつまでも健康でずっと音楽をやられていてください。ずっと続いてくれたらそれだけで幸せ。スカパラとは僕にとってそういう存在ですから。

スカパラ一同 ありがとう!(笑)

左から谷中敦、沖祐市、斎藤宏介、茂木欣一。

ライブ情報

2017 ライブハウスツアー「涙後体前」
  • 2017年11月30日(木)広島県 広島CLUB QUATTRO
  • 2017年12月1日(金)広島県 広島CLUB QUATTRO
  • 2017年12月4日(月)愛知県 DIAMOND HALL
  • 2017年12月5日(火)愛知県 DIAMOND HALL
  • 2017年12月11日(月)大阪府 なんばHatch
  • 2017年12月12日(火)大阪府 なんばHatch
  • 2017年12月16日(土)東京都 豊洲PIT
  • 2017年12月22日(金)福岡県 DRUM LOGOS
仙台カウントダウンライブ 2017-2018 “スカパラ・オールスターズ大感謝祭”
  • 2017年12月31日(日)宮城県 仙台サンプラザホール
    OPEN 21:30 / START 22:30
東京スカパラダイスオーケストラ「白と黒のモントゥーノ feat. 斎藤宏介(UNISON SQUARE GARDEN)」
2017年11月29日発売 / cutting edge
東京スカパラダイスオーケストラ「白と黒のモントゥーノ feat. 斎藤宏介(UNISON SQUARE GARDEN)」通常盤

通常盤 [CD+DVD]
2484円 / CTCR-40390/B

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東京スカパラダイスオーケストラ「白と黒のモントゥーノ feat. 斎藤宏介(UNISON SQUARE GARDEN)」通常盤

通常盤 [CD]
1296円 / CTCR-40391

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CD収録曲
  1. 白と黒のモントゥーノ feat. 斎藤宏介(UNISON SQUARE GARDEN)
  2. WORLD RUDO CONNECTION feat.Los Auténticos Decadentes
  3. Moon Bow
  4. 白と黒のモントゥーノ feat. 斎藤宏介(UNISON SQUARE GARDEN) Instrumental
DVD収録内容
  • 「白と黒のモントゥーノ feat. 斎藤宏介(UNISON SQUARE GARDEN)」MUSIC VIDEO
  • 「Latin America Tour 2017ドキュメンタリー前編」
東京スカパラダイスオーケストラ(トウキョウスカパラダイスオーケストラ)
東京スカパラダイスオーケストラ
NARGO(Tp)、北原雅彦(Tb)、GAMO(Tenor Sax)、谷中敦(Baritone Sax)、沖祐市(Key)、川上つよし(B)、加藤隆志(G)、大森はじめ(Perc)、茂木欣一(Dr)からなる、日本国内のみならず諸外国にて多数の公演も行う、日本が世界に誇るスカバンド。1989年にインディーズデビューし、1990年にシングル「MONSTER ROCK」でメジャーデビューする。2013年12月からはデビュー25周年の一環として亀田誠治をプロデューサーに迎えた「バンドコラボ3部作」を展開し、10-FEET、MONGOL800、ASIAN KUNG-FU GENERATIONとのコラボシングルをリリースした。2015年3月にはベストアルバム「The Last」を発表し、東京・日本武道館公演を実施。7月にクリープハイプの尾崎世界観(Vo, G)との共作シングル「爆音ラヴソング / めくったオレンジ」を、12月に片平里菜とのコラボシングル「嘘をつく唇」を発売する。2016年6月に東京スカパラダイスオーケストラ feat. Ken Yokoyama名義によるシングル「道なき道、反骨の。」、9月には同じくKen Yokoyamaとのタッグによる「さよならホテル」をリリースする。2017年3月には20枚目となるオリジナルアルバム「Paradise Has NO BORDER」を発売。そして11月にUNISON SQUARE GARDENの斎藤宏介をゲストボーカルに迎えたシングル「白と黒のモントゥーノ feat. 斎藤宏介(UNISON SQUARE GARDEN)」を発表。
UNISON SQUARE GARDEN(ユニゾンスクエアガーデン)
UNISON SQUARE GARDEN
斎藤宏介(Vo, G)、田淵智也(B)、鈴木貴雄(Dr)からなる3ピースロックバンド。2004年7月に結成され、都内を中心に活動を開始する。2006年8月に1stミニアルバム「新世界ノート」をリリースし、ライブハウスおよび下北沢ハイラインレコーズのみの販売で1000枚を完売。2007年にはメンバー主催のイベントをスタートさせ、同年12月には初の単独ライブを成功させる。2008年7月にシングル「センチメンタルピリオド」でメジャーデビュー。アニメ「TIGER & BUNNY」のオープニングテーマとして制作した2011年5月リリースのシングル「オリオンをなぞる」で広く注目を集める。全国各地の音楽フェスやライブイベントにも精力的に出演し、NHKホールなど大規模な単独公演にも注力。2015年5月にアニメ「血界戦線」のエンディングテーマ「シュガーソングとビターステップ」をシングルリリースし、同年7月にはバンド結成10周年を記念したアルバム「DUGOUT ACCIDENT」を発表した。2016年1月、バンド史上初の東京・日本武道館でのワンマンライブの模様を収めたライブDVD「UNISON SQUARE GARDEN LIVE SPECIAL "fun time 724" at Nippon Budokan 2015.7.24」をリリース。7月に約2年ぶりとなるフルアルバム「Dr.Izzy」を発表し、本作を携えて40カ所44本というバンド史上最多公演数となる全国ツアーを行う。2017年には11月8日に12thシングル「Invisible Sensation」を、翌週11月15日に13thシングル「fake town baby」をリリースした。