ナタリー PowerPush - 東京スカパラダイスオーケストラ

予定調和一切なし! ニューアルバム「欲望」を徹底解剖

中納良恵(EGO-WRAPPIN')×スカパラメンバー対談

「黄昏を遊ぶ猫」でボーカルを担当した中納良恵(EGO-WRAPPIN')がスカパラメンバーと再会。スカパラからはNARGO(Tp)、GAMO(T.Sax)、谷中敦(B.Sax)、川上つよし(B)の4名が参加し、ともにロンドンレコーディングの思い出を振り返った。

「ロンドン来ない?」「行きたい!」

写真左から川上つよし(B)、NARGO(Tp)、中納良恵、GAMO(T.Sax)、谷中敦(B.Sax)

──まずは今回「黄昏を遊ぶ猫」のゲストボーカルに中納さんを迎えた経緯から聞かせていただけますか?

谷中 「Walkin'」ツアー(2012年4~7月)のときに盛り上がったからじゃない?

──中納さんはゲストとして各地のライブに参加していたんですよね。

NARGO ツアーで、9本のライブによっちゃんがシークレットで出演したんです。

川上 で、TOURも終盤に差し掛かったGAMOさんの故郷でもある北海道の岩見沢公演のときの打ち上げで、これで終わっちゃうのは寂しいなと。で、そのときにロンドンレコーディングの予定が決まってたんで「よっちゃんさ、空いてたらロンドンに来ない?」って(笑)。

中納 うふふ(笑)。

川上 その時点で曲もなんにもないのに。そしたら「行きたい!」って言ってくれて。

──そんな軽いノリで?

川上 「ほんとに来ちゃう!?」みたいな。そういうノリで決まってしまいました。

NARGO 現実的にはスケジュールの問題とかいろいろあると思うんですよ。でもそれをクリアする前に「行くよ!」って言ってくれる心意気がうれしくて。

中納 いえいえ、私が一緒に行きたかったので。「やりたいー!」って。

川上 そこからよっちゃんありきで曲を作りました(笑)。

──でも曲もないのに一緒にやろうっていうのはすごいですね。

一同 あはは(笑)。

川上 確かにむちゃくちゃな話だ(笑)。

中納良恵

中納 でもそういうのもあるんちゃうかって思いましたよ。歌いたいし、なんでもやれるって思って。

──そう思えたのは、前作の「縦書きの雨」や「Walkin'」ツアーで手応えを感じたから?

中納 それもありましたし、一緒にやっててやっぱり楽しいから。

谷中 ツアーのときもステージ上で一緒に遊んでた感じがする。

中納 そうですね。すごく自由にやらせてもらって。

──確かに中納さんはゲストとは思えない自由さで、場の空気を完全に持っていってましたね。

中納 いやいや、スカパラが持っていかせてくれはるんですよ。なんかこう、転がしてくれはるというか。

信頼ありきのレコーディング

──そして実際にロンドンレコーディングが行われたのが今年の8月ですね。

GAMO ロンドンオリンピックのときだったね。

谷中 観光できました?

中納 1日空いてフリーマーケットとか行きました。

──中納さんにオファーしたときにはまだ曲はなかったということですが、バンドが日本を発つ時点では完成していたんでしょうか?

NARGO(Tp)

NARGO 日本発つ時点で……8、9割?

谷中 でも歌詞はほとんどチューリッヒで書いたから。そういう意味では半分くらいしかできてなかった。

NARGO そうですね。北原(雅彦)さんのホーンアレンジも当日までどういう形になるか見えてなかったし。レコーディングの直前まで。

谷中 フレーズが体に入るか入らないかでもう録ってたもんね。

──この曲もレコーディングは一発録りですか?

GAMO はい。「せーの!」で全員一発録音でやりました。良恵ちゃんも一緒に歌ってもらって。

川上 だから実際に歌ってもらって初めて「あ、こうなるんだ」ってわかったというか。

NARGO やっぱり今の時代、だいたいどんな形になるのか見えてからレコーディングに入るっていうのがまあ普通だと思うんですよ。でもあのときはいろんなピースが転がってて、どうなるかわからないままガッて一気に詰め込んで。

──瞬発力の勝負ですね。

川上 僕らがバルセロナとかロンドンでレコーディングしようってことになったきっかけも、その場所にこだわったというよりも、いつもの慣れてる環境じゃないところに突然行って、瞬発力と勢い重視で録ろうってことでしたからね。でもボーカリストでそれができる人って少ないと思うんですよ。よっちゃんだからできたんだと思う。もっと緻密に作っていくタイプの人、何テイクも録ってそれを組み合わせてトラックを作っていくみたいなタイプの人だったら多分絶対無理(笑)。

NARGO 僕らのよっちゃんへの信頼ありきですよね。ツアーに参加してもらって「もうこの人しかいない」「この人なら大丈夫」って思ったから。でも実際やってもらって、あの過酷な状況の中であれだけのものを歌うっていうのはね。本当にすごいなって思いました。

「せーの!」でやると全ての楽器がうねり始める

──普通に考えると、演奏はロンドンで録るとしても、ボーカルはそのトラックを持って帰って日本で歌うというのが合理的だと思うんですけど。

谷中 普通そう考えるかもね(笑)。

一同 あはは(笑)。

──でも今回中納さんにロンドンまで来てもらって一緒にやることにやっぱり意味があったということですよね。

NARGO そうです。全然違うんですよ、やっぱりグルーヴ感がもう。一緒にやることによって、全ての楽器がうねり始めるんですよね。ボーカルに対する密着感というか、ボーカルに対するリズムのうねり方が全然違うと思います。

川上 歌なしで録る場合は、頭で歌を想像しながら演奏することになるんで。やっぱりね、なんだかきちっとしたものになっちゃう。

GAMO(T.Sax)

GAMO ボーカルが一緒だとテンションが違うからね。なおさらロンドンという異国の地ですし。

──歌ってる側も違いを感じます?

中納 うん、全然違いました。やっぱり一緒に「せーの!」でやると勢いが違うし、身体で歌ってるけどどこか心で響かせてるような、なんかそういう感じで。感極まるものがありました。

──中納さんは最初にこの歌を聴いたときの印象は?

中納 いやあ、カッコいいなって。スカパラならではのいかつい感じがあって。「縦書きの雨」がメロウな曲やったんで、それとまた違う方向から攻めてるなって。

GAMO よっちゃんのことはずっと昔からみんな好きだったんです。EGO-WRAPPIN'にもスカパラと同じ匂いを感じてて、いつか一緒にやりたいってずっと思ってたんですけど。それが前回「縦書きの雨」でやっと叶って、何本も一緒にツアーを回れて。今度は激しめの踊れる曲を作れたら、また一緒にツアーやれるな、なんて。

──また一緒にライブをやるための口実みたいな?

GAMO まあ、それもどこかにあったと思います(笑)。

ニューアルバム「欲望」2012年11月14日発売 / cutting edge

CD収録曲
  1. 黄昏を遊ぶ猫
    [作詞:谷中敦 / 作曲:川上つよし / ボーカル:中納良恵]
  2. 非常線突破
    [作曲:NARGO]
  3. Wild Cat
    [作曲:沖祐市]
  4. 大したヤツ
    [作曲:GAMO]
  5. Midnight Buddy
    [作曲:茂木欣一 / アジテーター:デニス・ボヴェル]
  6. Rushin'
    [作曲:川上つよし]
  7. (there's no) King Of The Ants
    [作詞:谷中敦 / 作曲:NARGO / ボーカル:谷中敦、デニス・ボヴェル]
  8. Old Grand Dad
    [作曲:沖祐市]
  9. 修行
    [作曲:谷中敦]
  10. The Other Side Of The Moon
    [作曲:加藤隆志]
  11. さすらいForever
    [作曲:北原雅彦]
  12. SKAN-CAN
    [作曲:ジャック・オッフェンバック]
  13. 太陽と心臓
    [作詞:谷中敦 / 作曲:沖祐市 / ボーカル:ハナレグミ]
東京スカパラダイスオーケストラ
(とうきょうすかぱらだいすおーけすとら)

1980年代後半結成。NARGO(Tp)、北原雅彦(Tb)、GAMO(Tenor sax)、谷中敦(Baritone sax)、沖祐市(Key)、川上つよし(B)、加藤隆志(G)、大森はじめ(Per)、茂木欣一(Dr)からなる9人組バンド。1989年11月にインディーズで黄色いアナログ「TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA」をリリースし、その本格的なサウンドと独自のスタイルが話題を集める。1990年4月にシングル「MONSTER ROCK」、アルバム「スカパラ登場」でメジャーデビュー。以降、オリジナルメンバーの逝去や脱退といった幾多の困難を乗り越え、2008年7月より現在の編成となる。スカをルーツに多彩なジャンルを取り込んだ豊かな音楽性は国内外のオーディエンスから高い評価を獲得。国内はもとより、ヨーロッパを中心に世界各国でライブを行い、日本を代表するライブバンドとしてワールドワイドな活躍を続けている。


2012年11月13日更新