ナタリー PowerPush - 東京スカパラダイスオーケストラ
予定調和一切なし! ニューアルバム「欲望」を徹底解剖
東京スカパラダイスオーケストラインタビュー
特集企画のラストを飾るのは、東京スカパラダイスオーケストラのメンバー9人へのインタビュー。傑作アルバム「欲望」完成に至る道のりと、そこに込められた熱について話を訊いた。
曲はないけど「やるしかねえだろ!」
──ニューアルバム「欲望」が早くも完成しました。前作「Walkin'」が出たのが今年の春ですから、1年に2枚のアルバムをリリースする形になりますね。
谷中敦 「Walkin'」出したのは3月でしたからね。
北原雅彦 そっか、1年経ってないのか。
──そうです(笑)。「Walkin'」のリリースから8カ月しか経ってないですね。
谷中 自分たちがそれに気付いてないっていうのも面白いですよね。僕も言われるまであんまり気にしてなかったけど。
──さらに4~7月には「Walkin'」を携えてのツアーもありました。ツアーを終えてすぐにニューアルバムを作ろうと思ったのはなぜですか?
加藤隆志 うん、なんかこう……「Walkin'」がそれまでの2年間くらいの音源を集めたアルバムで、半ベスト盤っていうんじゃないんですけど新録曲は半分くらいだったんですよね。で、そのあとのツアーがすごく面白くて。
──面白いというのは?
加藤 今までやったことないことにどんどんチャレンジできたツアーだったんで。バンドが勢いよく転がっていってるのをすごく実感できたんです。
茂木欣一 あのとき、ツアーの途中の岩見沢でライブ終わって打ち上げでみんなで食事してて。で、NARGOさんに「俺、多分スカパラ入ってからこのツアーが一番面白い」って言ったら、NARGOさんが「僕もデビューしてから今まででこのツアーが一番面白いんだ」って。
NARGO うん、今回はツアー観に来た古い友達からも「攻めてるね!」って言われたりして、自分でもすごく手応えがあったんだよね。
茂木 やっぱり最初からやってるオリジナルメンバーにそんなこと言われたら、こっちも非常に燃えるっていうか(笑)。それでツアーの後半ぐらいじゃないかな、年内にもう1枚リリースしようっていう話が出てきたのは。確かね、最初はミニアルバムとか言ってたんだよね。
──スケジュールもないですしね。
茂木 それが話の流れでいつのまにか「アルバム作るっしょ!」みたいな感じになって。意気込みは最高なんだけど、曲全然足りないよなっていう(笑)。
加藤 でも今回ツアーやってるうちにエネルギーがみなぎってきて、「やるしかねえだろ!」みたいな感じになったんですよ。
準備期間10日でレコーディング開始
──やっぱり「Walkin'」ツアーをやっていく中で、これまでとは違う手応えがあったということですよね。
茂木 すごいアグレッシブなツアーだったからね。「予定調和じゃなくいつもと違うことをやりたいんだよ!」っていうギラギラした気持ちがみんなの中にすごく湧いてきた。
──その冷静さを失ってる感じは、このアルバムを聴くとよくわかります(笑)。じゃあツアーが終わっても「ちょっと休もうか」という感じではなかった?
大森はじめ あんまり休まないんですよね、僕ら。考えてみたらずっと何かやってる。
加藤 で、そのときもうフェスに呼ばれてヨーロッパに行くというのは決まってて。だったら海外でレコーディングしたらどうだって話が持ち上がってきたんです。それでツアーが終わってすぐ出発。休みは多分……。
北原 2日くらい?
加藤 そうです。2日休んですぐ曲作りに入りました。そこから旅立つまでの10日間、都内のスタジオに毎日通って。すごい集中力でしたよ。まずみんなで曲出しをして、バーッて出てきたものを1回全部みんなで演奏して、そこから選曲して、アレンジして……。歌詞を作ったりする作業もあったし。とにかく毎日リハーサルをして、とりあえず向こうでレコーディングできる状態まで持っていきましたね。
──ちょっと正気の沙汰ではないですね(笑)。
茂木 ただ、振り返ってみて今回ものすごく運がよかったのは本当にいい曲が揃ったっていうことだと思う。なんていうかアクの強い楽曲が揃ったなって。やっぱりみんなツアー中にそれぞれの中で気持ちを高めたりして、それをメロディとかアレンジに変換していく作業だったんですよね。10日しかなかったけど20曲以上出てきて、そこから選曲していったんですけど、集まった曲を聴いてるうちに「これものすごいキテる!」と思った。ヨーロッパ行く前に、まだ1曲も録ってないのにアルバムの曲順を作って「できた!」ってメンバーに見せましたから(笑)。その勢いもすごかったし、なんかバンド全体に独特の空気感がありましたね。
1枚のアルバムでスカパラを提示する
──その結果、今回は非常に勢いのあるアルバムになりました。
茂木 なんかね、「Walkin'」を出したときに「安定感があっていいアルバムですね」みたいなことを言われたりして「いや、そういうことじゃないんだよ!」って思ったの。
──「Walkin'」はバラエティに富んだいい作品だと思いますが、でも今はそういう評価が欲しいわけじゃないということ?
茂木 うん、冷牟田(竜之)さんが抜けて9人体制になってから何枚かアルバムを作ってライブ活動をしてきて。バンドの一体感もあるし。そんな中で「Walkin'」を出して、俺もすごくいいアルバムができた!って思ったし、すごくいい評価はもらったんだけど、なんていうか……もしかするとスカパラってすごい物わかりのいい大人みたいに思われてるような気がしてきて。
──なるほど。完成度が高いとか良質な音楽だって言われたいわけじゃなく。
茂木 そう、そこじゃないんだよね。それよりもっとガツンと一発かましてくれよって、そう言われてるような気がしたの。
加藤 スカパラにはいろんな側面があるんだけど、今は「スカパラって言ったらこれっしょ!」って言えるアルバムを作るべきだなって。「Walkin'」はいいアルバムだけど、もっとツアーのときに感じたムードを切り取りたかったんです。
──「これが今のスカパラだ」ということ?
加藤 「今のスカパラ」っていうか「これがスカパラ」だっていうものにしたかった。東京スカパラダイスオーケストラっていうバンドはこういうバンドなんですよっていうのを1枚のアルバムで提示する必要があるってすごく思ったんです。で、それを作るのに1年かけてる場合じゃない。すぐやろうっていう話になったんですよ。
茂木 熱いうちに出したかったんだよね。「Walkin'」は2年分のいろんな楽曲が混ざってたけど、今回は本当に一時期のサウンドだけを凝縮してるから。対比としては絶対面白いと思うし、サウンドの印象は全然違うと思う。
ニューアルバム「欲望」2012年11月14日発売 / cutting edge
CD収録曲
- 黄昏を遊ぶ猫
[作詞:谷中敦 / 作曲:川上つよし / ボーカル:中納良恵] - 非常線突破
[作曲:NARGO] - Wild Cat
[作曲:沖祐市] - 大したヤツ
[作曲:GAMO] - Midnight Buddy
[作曲:茂木欣一 / アジテーター:デニス・ボヴェル] - Rushin'
[作曲:川上つよし] - (there's no) King Of The Ants
[作詞:谷中敦 / 作曲:NARGO / ボーカル:谷中敦、デニス・ボヴェル] - Old Grand Dad
[作曲:沖祐市] - 修行
[作曲:谷中敦] - The Other Side Of The Moon
[作曲:加藤隆志] - さすらいForever
[作曲:北原雅彦] - SKAN-CAN
[作曲:ジャック・オッフェンバック] - 太陽と心臓
[作詞:谷中敦 / 作曲:沖祐市 / ボーカル:ハナレグミ]
東京スカパラダイスオーケストラ
(とうきょうすかぱらだいすおーけすとら)
1980年代後半結成。NARGO(Tp)、北原雅彦(Tb)、GAMO(Tenor sax)、谷中敦(Baritone sax)、沖祐市(Key)、川上つよし(B)、加藤隆志(G)、大森はじめ(Per)、茂木欣一(Dr)からなる9人組バンド。1989年11月にインディーズで黄色いアナログ「TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA」をリリースし、その本格的なサウンドと独自のスタイルが話題を集める。1990年4月にシングル「MONSTER ROCK」、アルバム「スカパラ登場」でメジャーデビュー。以降、オリジナルメンバーの逝去や脱退といった幾多の困難を乗り越え、2008年7月より現在の編成となる。スカをルーツに多彩なジャンルを取り込んだ豊かな音楽性は国内外のオーディエンスから高い評価を獲得。国内はもとより、ヨーロッパを中心に世界各国でライブを行い、日本を代表するライブバンドとしてワールドワイドな活躍を続けている。
2012年11月13日更新