ナタリー PowerPush - 東京スカパラダイスオーケストラ
予定調和一切なし! ニューアルバム「欲望」を徹底解剖
聞こえるフレーズを弾くしかない
──改めてお話を伺うと、そんな短期間でよく録れたな、と思いますよね。
加藤 北原さんのホーンセクションのアレンジとか、谷中さんの歌詞とか、日本で仕上がらなくて向こうに持ってってやった作業がいくつかあるんですけど、できあがって聴いてみるとそのあたりのテンションが相当高いんですよね。
北原 「もうやんなきゃしょうがねえじゃん!」っていう中でやってますからね。しかも中途半端なものはやりたくないから。
谷中 プレッシャーの中で最高のものを作らなきゃならないしね。
大森 あ、でもやっぱりそういうときだからこそ面白いアイデアとかも出たりして。俺、今回初めて鉄を叩きましたもん。鉄の棒で鉄の机を叩くという。急に入れようかって話になったんですよ。10曲目の「The Other Side Of The Moon」っていう曲で。
谷中 鉄叩いてましたね、あのとき。カンカンカンカン!って(笑)。
大森 さすがだと思ったのは、鉄叩きたいって言ったらスタジオの人がパッて持ってきてくれるんですよ。
谷中 あれすごかったですよね。
大森 すぐにいろんな鉄を持ってきてくれた。「こっちのほうがいいんじゃないか?」って。
──いいスタジオですね(笑)。
沖 あとスペインのスタジオはピアノがひどくて。アップライトピアノのビンテージのやつだったんだけど、ドラムの横でピアノのレコーディングしたのは初めてだったよね。
加藤 だからピアノの音はほとんど聞こえないんだけど、そこで沖さんが高い音のみでできたフレーズを弾いてて。沖さんに「このフレーズカッコいいですね」って言ったら「この音域以外もう聞こえないし、聞こえるフレーズを弾くしかないから」って。
一同 あはは(笑)。
北原 それはキテるなー!
沖 できることをやるしかないから(笑)。
茂木 まあ面白かったですけどね。スペインの録音事情はホントにすさまじかった(笑)。音がかぶりすぎちゃって、しかもモニタヘッドホンの音がまためちゃくちゃで。日本だとそういうときに「この音ちょっとなんとかしてよ」って言っちゃうと思うんだけど、向こうだとどんなに劣悪でも、時間ないしやるっきゃないって感じになる。その感じっていうのがまたね、俺はよかったと思うんだよね。その状況で気持ちをコントロールするのはもう自分しかいないわけだから。
演奏のミスが曲の価値を減らすわけじゃない
──今回は同じ部屋で全員揃って一度に演奏する形のレコーディングだったんですよね。
加藤 しかもスペインのスタジオは狭かったんで。あんなに狭い部屋でみんなぎゅうぎゅうの中でレコーディングするっていうのは、日本ではあんまりない。でもジャマイカの初期のルーツレゲエみたいなのって、多分同じような状況で録ってたんじゃないかっていう話もあって。だから今回自然とそういう感じのサウンドになっていきましたよね。
──基本的な質問ですけど、もし間違っても、あとからそのパートだけ演奏し直すということができないわけですよね?
川上 そうです。だから個人的に「あー、あそこ間違っちゃった」っていう音も、まあアルバムにはいろいろ入ってます。
北原 多々入ってるね!(笑)
NARGO でも全体の空気感も混ざって録ってるわけだからね。全体がよければちょっとくらいのミスは別にいいっていうか。
大森 うん、あんまり気にならないと思いますね。演奏中には「あっ!」って思うんだけど聴いたら全然大丈夫だったりするんで。
北原 そこがいいんだよな。
NARGO そう、それ今回のレコーディングの名フレーズ(笑)。
大森 「ちょっとごめん。そこ間違えちゃったんだけど……」。
北原 「そこがいいんだよ!」って。
一同 あはは(笑)。
NARGO だから「もう1回やらせて」って言えない空気だったよね。ものすごいテンションだったから。
茂木 間違ったからってそれが曲の価値を減らすわけじゃないからね。熱量こそが大事だって思うから。
谷中 失敗しててもカッコよかったらそっちのほうがいいじゃん、ってことですよね。そういう意識をバンド全員が持って、レコーディングも一発で騙しも効かないところでやる、みんながそのギャンブルに賭けるっていう。それがやっぱりワクワクするんですよ。
加藤 今失敗しづらい世の中ですからね。
谷中 うん、だから挑戦もしづらい。単に失敗が少ない人たちだけが上に上がっていけるっていう世の中じゃつまんないからね。
NARGO 確かにそうなんだよね。失敗を恐れると、音がスポイルされてエネルギーが止まるんです。
加藤 (音を)置きにいく感じになるね。
NARGO うんうん。それよりも、こう「ウワーッ!」ってやってると必ずどこかではみ出るところが絶対出てくる。そういうものを作りたいんだよね。
昭和っぽい猥雑なサウンドになった
──メンバーの皆さんにとっても、今回のレコーディングはだいぶ刺激的だったようですね。
GAMO なんだか今回のレコーディングに、スカパラの本質があるっていうのは感じましたね。
──本質っていうのは?
GAMO みんなで一気にスタジオに入って、しかもどうなっちゃうかわかんない状況でこう……力が出るっていう。それこそさっき北原さんが言ってた火事場の馬鹿力じゃないですけど、そういうとき1人ひとりのパワーが集結してる感じがありましたよね。
茂木 自信があったんだよね。絶対このアルバムは今までにないものになる、絶対いけるって思ってたから。だからみんなで「いっせーのせ!」で録音して、みんなで戻って卓の前でプレイバックを聴いて。そういう熱気の中で作ったアルバムだし、その熱気をうまく音に変換することができたなって思うんです。それが何よりもうれしくて。
──このアルバムができたことによって、バンドの歴史を知らない若いファンがスカパラを再発見するような気がするんです。先入観なしで「あ、カッコいいねこのバンド」って思えるようなアルバムなんじゃないかと。
GAMO だとしたらめちゃめちゃうれしいです。
加藤 最近のライブでも、デビュー当時はまだすごい小さかっただろうなとかっていう子たちが来てくれてたりするしね。
NARGO 生まれてなかっただろうっていう人が(笑)。
加藤 そう、そういう子が目の前で大暴れしてたりするのを見るのがすごいうれしいし、僕らもそれに煽られるんです。
NARGO で、今回は海外レコーディングっていうことで、すごい海外っぽいサウンドになるのかなって最初は漠然と思ってたんですけど、それを突き詰めていくほど、どんどん日本を俯瞰したサウンドというか、遠くから日本を見てるようなアルバムになったなって気がしていて。どちらかというと、歌舞伎町とかが似合うような昭和っぽい猥雑なサウンドになっていった。すごくそれが面白いと思うんですよね。
川上 初の海外レコーディングで作ったアルバムで、初めて漢字のタイトルなんだよね。
──ジャケットの「欲望」っていう文字にもその昭和の猥雑さみたいなものが強く表れてますよね。
茂木 字体も大事だね。
加藤 スペインの中華料理屋の感じ?
一同 あはは(笑)。
加藤 日本の昭和のムードとかって、海外から見るとすごくカッコよかったり刺激的だったりするんですよね。このアルバムではそういうムードをうまく切り取ることができたと思います。
ニューアルバム「欲望」2012年11月14日発売 / cutting edge
CD収録曲
- 黄昏を遊ぶ猫
[作詞:谷中敦 / 作曲:川上つよし / ボーカル:中納良恵] - 非常線突破
[作曲:NARGO] - Wild Cat
[作曲:沖祐市] - 大したヤツ
[作曲:GAMO] - Midnight Buddy
[作曲:茂木欣一 / アジテーター:デニス・ボヴェル] - Rushin'
[作曲:川上つよし] - (there's no) King Of The Ants
[作詞:谷中敦 / 作曲:NARGO / ボーカル:谷中敦、デニス・ボヴェル] - Old Grand Dad
[作曲:沖祐市] - 修行
[作曲:谷中敦] - The Other Side Of The Moon
[作曲:加藤隆志] - さすらいForever
[作曲:北原雅彦] - SKAN-CAN
[作曲:ジャック・オッフェンバック] - 太陽と心臓
[作詞:谷中敦 / 作曲:沖祐市 / ボーカル:ハナレグミ]
東京スカパラダイスオーケストラ
(とうきょうすかぱらだいすおーけすとら)
1980年代後半結成。NARGO(Tp)、北原雅彦(Tb)、GAMO(Tenor sax)、谷中敦(Baritone sax)、沖祐市(Key)、川上つよし(B)、加藤隆志(G)、大森はじめ(Per)、茂木欣一(Dr)からなる9人組バンド。1989年11月にインディーズで黄色いアナログ「TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA」をリリースし、その本格的なサウンドと独自のスタイルが話題を集める。1990年4月にシングル「MONSTER ROCK」、アルバム「スカパラ登場」でメジャーデビュー。以降、オリジナルメンバーの逝去や脱退といった幾多の困難を乗り越え、2008年7月より現在の編成となる。スカをルーツに多彩なジャンルを取り込んだ豊かな音楽性は国内外のオーディエンスから高い評価を獲得。国内はもとより、ヨーロッパを中心に世界各国でライブを行い、日本を代表するライブバンドとしてワールドワイドな活躍を続けている。
2012年11月13日更新