TRUSTRICKは運命的なプロジェクトだった

──そしてアルバム本編としては最後の曲になる「snow me」ですが、これはバラードというよりもブルースですよね。あえて抑揚の山場を作らず、淡々と一定の穏やかさを保っているような。

Billy　そうですね、まさに。これも1stのときにはあった曲なんですけど、季節的な理由で見送ろうということになって。この曲はアルバムの中で唯一クリックを使っていないから、僕たちの生々しい部分が一番出ていると思います。歌も演奏も。

神田　みんなで一緒に「せーの」で録ったんです。

Billy　この生々しい部分が出た曲で、せっかくだったら映像も撮りたいなということで、リード曲のほかにこれも撮ることにしました。季節ソングですよね。

神田　季節ソングも性格的にはギリギリアウトなんですよ（笑）、本来は。クリスマスにクリスマスソングを、みたいなのがちょっとしんどいんですよ。だからこそドラマチックな抑揚は入れず、淡々とした曲になったのかなって。激情こそ淡々と歌いたいタイプなので。

──ギリギリアウトだとは思えないぐらい、美しい冬の情景が表現されていると思いますよ。

Billy　女優でもあるから、やっぱり何かに憑依して表現することに長けているんだと思います。アウトでも、というか「だからこそ」なのかもしれない。割り切ってからの振り切り。

神田　言うても雪の女王に関わるお仕事をしてますから（笑）。

──アルバムの流れに「snow me」で静かに幕を下ろしてからの「World's End Curtain Call -theme of DANGANRONPA THE STAGE-（TRUST Mix）」という。騒がしいエンドロールみたいな。

Billy　これ今初めて言うんですけど、この曲のベーシックは僕が10代の頃に書いた曲なんです。THE MAD CAPSULE MARKETSとかDaisy Chainsawに影響を受けて書いた曲で。メロディは新たに書き下ろしたんですけど。

神田　へえー。全然知らなかった。

──ものすごく痛快で、ひたすら気持ちいいですよね。年末のライブではリクエスト含めて2回演奏してましたけど、ライブで聴くのが本当に気持ちよくて。

神田　私も大好きですね。セットリストに入ってるとちょっと心待ちにしてるぐらい（笑）。これはもう、タイアップで作品に寄り添うというよりは、「ダンガンロンパ」が好きすぎて勝手にキャラソン作っちゃったみたいな。

──1stの根底にあったゴシック的な要素も引き継ぎつつ、タイアップの需要にも十二分に応えているこの曲が、実はBillyさんがトラトリ結成のはるか前に作った曲だったという。

Billy　そうそう。やっぱりTRUSTRICKは自分にとって運命的なプロジェクトだったんだなって。

最難関を越えたトラトリのこの先

──こうして無事アルバムが完成し、あとはリスナーの反応が気になるところだと思いますが。

Billy　「Eternity」で「これがトラトリです」という名刺を渡したあと、さらにサウンドの幅を広げたことによって、より僕らがどういう人たちなのかは見えやすくなったかなと思います。でもやっぱり根幹として絶対にあるのは、メロディと歌詞ですね。リスナー心に寄り添っているからこそポップでいられるし、だからこそ軸足を広げていけるんです。ライブでも曲を披露するだけじゃなく、演出でも表現できることはあると思うので、より目で見て楽しめるトラトリを目指していきたいなと。

神田　私はこの「TRUST」を作るまでが、TRUSTRICKにとっての最難関だったと思うんですよ。1枚目は引っかかりもしなかったら意味もないし、とにかくいいものを作りたかった。次の「TRICK」はコンセプトとして見えやすくて、楽曲も「これはトリックで、これはトリックじゃない」という分類がしやすいと思うんです。でも「TRUST」は意味も広いし、このタイトルで1つの作品にまとめ上げることがすごく難しかった。だからここから先は、もう少しラクで自由になるのかなって。びっくり箱のようにあんな曲やこんな曲をやるのがトラトリスタイルでいいんじゃない？って自信も持てたし、そんな私たちにとっての「TRUST」を見つけたというのが大きい収穫で。

──“TRUSTRICKの正解”がなんなのかを、自分たちでも探りつつ見えてきたと。

Billy　そうですね。わずか7カ月でもう1枚作ったところで評価されなかったらどうしようという不安もあったんですけど、タイアップで作品に寄り添う楽しさを覚えてからは気持ちも強くなって。

神田　あんまり放されっぱなしにされると逆につらいってことがわかったよね（笑）。「こういうテーマで」とか「この柵から出ないでください」みたいなある程度の縛りがあったほうが私たちは生き生きできるんだなって。フルアルバム2枚分の楽曲を作って、自分たちの特性に気付いたというか。

──昨年は渋谷CLUB QUATTROでのワンマンライブという目標を達成しましたが、今年はどのような展望を思い描いていますか？

神田　そう、今って私にとってはある意味ゴール後なんですよ（笑）。ゴール後にすぐ次の一歩を進められるのは本当に幸せなことだし、いろんな巡り合わせに感謝せざるを得ないです。だから大きな目標というのはないんですけど……アニソンという布石を置いたので、アニメ系のイベントにはぜひ出てみたいですね。ロックフェスにも出たいし、よりスケールの大きなところに打って出たいという気持ちはあるんだけど、ワンマンに関してはすごく着実さを求めています。飛び級のように大きな会場にはしたくなくて。

──ちなみになんでそれほどまでクアトロにこだわっていたんですか？

神田　観客として何度も足を運んだ場所だったし、私がすごく好きだったバンドのラストライブが行われたのがクアトロだったんですよ。その最終地点を越えていきたいという思いがあって。客席からの景色は何度も観てるからよく知ってるんだけど、ステージからの景色を1年目で観られたのは本当に奇跡的なことで。私にとってはそれもすでに飛び級なんです。

Billy　応援してくれる人のおかげでソールドアウトという状況ができている、というのを大事にしたいんです。堅実にとは言いつつも、次のツアーはまた少し規模も大きくなっていますが。

神田　ソロのときも含めてここまでコンスタントにリリースがあるのも初めてだし、早くもツアーが2巡目というのにもびっくりしていて。ハイペースぶりにちょっと引いてますけど（笑）、引けるほどハイペースに活動できるのは本当にありがたいなって。

Billy　レパートリーが増えた分、自由度も広がるから、演出面での見せ方にもこだわっていきたいなと思ってますね。

神田　「TRUST」を携えてのツアーだけど、私は「Eternity」の重要性を確認できるツアーになると思いますね。「TRUST」を軸にしながらどうしても外せない曲が出てくるだろうし、「Eternity」の中だけでセットリストを組んでいたときは浮きがちだった曲も、また違う見え方でできるようになると思うんですよ。可能性はどんどん広がっていくと思うし、気持ち的にはラクですね。