音楽ナタリー PowerPush - TRUSTRICK

デビュー7カ月で早くも2ndフルアルバム 神田沙也加×Billy、それぞれの変化

“大人トラトリ”と“ジャムに蜂蜜”な新境地

──トラトリの王道、原点とも言えるバラードのあとが、一転して新境地の「MIRRORS」と。ガットギターの音色が出てきたときはちょっと驚きました。ボサノバの流儀を取り入れたAOR的な仕上がりで。

Billy 正直、僕の趣味が一番出ている曲ですね。実は1stの段階ですでにあった曲なんですけど、あの中に入れてしまうと広がりすぎてしまうかなと思って。

神田 これはまさにBillyがさっき言った“大人トラトリ”な曲になったかなと思います。

──ボーカルスタイルもこれまでになかったものですよね。声を張らずに歌う感じで。

神田 今回は全体に言えることですけど、あまりキンキンしない音域を選んでるんです。いい意味で力が抜けた感じ。「MIRRORS」は特に、心地いい音の空間を歌で邪魔したくなかったというのが大きいかな。エンジニアさんもすごくこだわっていて「もっと吐息で、もっと吐息で」って(笑)。神田にセクシー求めるのはちょっと違うだろと思いつつも、サウンドや歌詞のムードに助けられるように。

──その歌詞を書いたのは自分ですよね?

神田 そうなんですよね。音に対するハマりのよさを考えているうちに、だんだんお話が見えてくるんです。ハマりがいいだけではダメだし、音として、言葉として、歌としていいかどうかを段階的に考えるので。「MIRRORS」は精神年齢を高めに設定しないと表現できないから難しいけど、声を張ってないぶん歌いやすいのは歌いやすいですね。

──次の「キャミソール」もまた別方向の新機軸で、ここまでカラッとした曲調もアリなんだなと。

Billy(G)

Billy 僕の中で神田沙也加ってどういう人なんだろうって改めて考えたとき、過去のブログを読んでみたんですよ。その上で、女性が休日に起きてから出かけるまでをイメージして書いてみたんです。お気に入りの服に着替えて行きつけのカフェに行って……みたいな。とにかく甘い曲にしたくて。ジャムに蜂蜜かけるみたいな。

神田 ……。

──今、露骨にイヤそうな目でBillyさんのこと見てましたけど(笑)。

神田 ジャムに蜂蜜ってどういうことかなーと思って(笑)。

Billy とにかく甘くしたかったんです。

──サウンド的には1960年代のポップスだったり、それらに影響を受けた1990年代の“渋谷系”にも通じるようなメジャー7th系のポップスになっていて、それを神田さんが等身大の感覚で歌っているのがすごくいいなと思いました。

Billy まさに60年代のサウンドは意識してますね。メロトロンを使ってみたり。

神田 あとこの曲、超短いよね。

Billy それも60年代ポップスのイメージで、できれば3分以内に収めたかったんですけど、ちょっとはみ出しちゃいました(笑)。

神田 今までなら曲が甘かったら歌詞にちょっとスパイスを入れてバランスを取ってたんだけど、この曲は砂糖しかプラスしてないですね。すごく振り切ってるし、「MIRRORS」からの流れとしても気に入ってます。

──この2曲はファンの反応も気になりますね。ライブハウスで見ていると、神田さんを憧れの目で見ている若い女の子がたくさんいますけど、そういう子たちにグッと刺さる曲なんじゃないかなと。

神田 気になりますねー。それにこのアルバムでゆっくりしてられるのはここまでなので(笑)。ここから先はかなり攻めてるから。

ソロでもバンドでもない、ユニットだからこその自由度

──確かにここから場面は急展開します。7曲目の「Kaleidoscope」を聴いて思ったのは、トラトリがもし2人組のユニットではなくバンド形態を選んでいたら、ここまで自由度の高いアレンジにはなってなかったんじゃないかなっていう。

神田 いや、ホントそうですね。

──ライブで先にやっているのを聴いたときはもっと四つ打ちロック的な印象だったんですけど、レコーディングされたものはEDM的な要素もあって、ボーカルの処理もかなり大胆で。

Billy まさにその通りで、この曲はEDM独特のサビで同じメロディを繰り返す感じをやってみたいというのがもともとの発想なんです。アイデアが出て大枠ができるまではすごく早かったです。2時間ぐらいでできたんじゃないかな。そこに「Kaleidoscope」というタイトルと歌詞が乗ったので、アレンジも万華鏡のように広がるイメージにして。

神田 これと「Escape」が早い段階で形になって、何となく次のミニアルバムの方向が見えたかな……と思っていたあのときの僕らは青かった(笑)。

Billy あはははは(笑)。

神田 でも2曲はトラトリの楽曲として自信を持って世に出せるものができたなと思ったので、なるべく早くお届けしたくて先にライブで歌わせてもらいました。

──前作はリスナーの顔が見えない状態でできた作品でしたけど、今作ではライブでの体験が制作に影響を与えた部分はありますか?

Billy レコーディングが終わっても、作品として完成した感じがしないんですよね。ライブで演奏して初めて完成形が見えるというか、お客さんに育ててもらってる感じはありますね。今回のレコーディングはライブの情景をイメージして作っているところもあるので、やっぱり影響はあると思います。

神田沙也加(Vo)

神田 年末のライブでリクエスト募集したときに「Kaleidoscope」を挙げてくれた方がいたんですよ。まだ1回しか歌ってないのに、このタイトルを繰り返すサビのメロディがちゃんと頭に残ってたんだなあってうれしくなりましたね。また新しいライブの定番曲が1つできたなと思います。

──そして8曲目が「Ray of Light」。

Billy 実はこの曲がさっきお話した、アニソンとして僕が書いた候補曲なんですよ。その段階ではもっとストリングスを入れたりしてポップな感じだったんですけど、「FLYING FAFNIR」に決まったことによって「じゃあこっちはもうちょっと違う、ロックなアプローチにシフトしてみよう」ということで。アルバムの中では少し重い、ヘビーボトムなサウンドにしました。

──畳みかけるような重いロックサウンドの中に、どこか1980年代後半の邦楽ロック的な匂いを感じるんですけど。

神田 そうそうそうそう!

Billy それは僕がその辺の影響を受けているからですね。

──TRUSTRICKでロックを歌うことについて、神田さんはどう考えていますか?

神田 ソロじゃないからこそ果敢に取り組めるというのはありますね。ソロだと勇気がいるし、私とロックが結びつかない人は多いと思うので。

Billy ポップユニットと銘打っておいてここまでロックな曲ができるのは、詞の力も大きいんですよね。主張がロックではないんです。自分の考えを押し付けるんじゃなく、あくまでリスナーに寄り添った目線だから自由度が広い。

神田 しかもリスナーのウイークポイントに寄り添いたいんですよね。

Billy だからサウンドとしてのロックではあっても、主張としてのロックではない。あくまでポップの一環と捉えています。

──9曲目の「永遠」もダンスミュージックにギターロックの様式を取り入れたような楽曲で。

Billy この曲は「World's End Curtain Call -theme of DANGANRONPA THE STAGE-」と一緒に、舞台「ダンガンロンパ THE STAGE ~希望の学園と絶望の高校生~」の候補曲として作った曲なんですよ。だから歌詞も少し「ダンガンロンパ」とリンクしているんです。もともとはもっとゴチャゴチャしたアレンジだったんですけど、シンプルに四つ打ちとギターで押し切るような感じのほうがいいかなって。

神田 「Escape」と「Kaleidoscope」とこの「永遠」がアルバムの柱になっている感じはしますね。この曲はなぜか音楽ライターさんで好きだと言ってくれる方が多くて。

──確かにこれはシンプルな言葉で伝える技術を感じる歌詞ですね。

神田 絶望的危機、みたいな世界観が表したくて書いたんです。絶望は「ダンガンロンパ」の大事な要素なので。ある意味最も言葉に意味を持たせていない歌詞ですね。語感重視で書いているから。

──作詞の感覚ってどうやって養ってきたんですか?

神田 それが……わかんないんですよね。よくも悪くも自分の主張というものが私にはないので、言葉としての完成度により重きを置くタイプなんです。

「よくも悪くも主張がない」トラトリの原動力

──畳みかけるような3曲のあとで、また大きく雰囲気の違う「Sunny Day」と。1stからの流れで考えると、いろいろと意外な一面が出ている曲なんじゃないでしょうか。

Billy TRUSTRICKで初のシャッフルビートですね。僕らってあんまり「晴れ」とか「夏」とかが合うイメージではないかもしれないですけど、TRUSTRICKの振り幅として、こっちに足を突っ込んでみたらどうなるかなと。

神田 底抜けに明るいのが苦手なんだよね(笑)。

──明るくてさわやかなのが違和感があるってちょっと悲しいですけどね。

神田 自分に無理がある感じ(笑)。実は一番暗い歌詞かもしれない。そうやってどうしてもバランスが取りたくなるっていう。夏のイタい部分を請け負った感じかな。私は走り出すこともできないし、両手を広げることもできないし、青空も見上げられないし(笑)。

──難儀な人生を送っていますね(笑)。

Billy サウンド的に明るいのは好きなんですけど。サウンドと歌詞のコントラストが一番明確に出ていて、結果一番切ない内容になっていますね。

──「On your marks!」は昨年11月の「福岡マラソン2014」のテーマソングとして制作された楽曲ですが、これも100点のタイアップソングですよね。サウンドが完全に走っている。

神田 ありがとうございます。トラトリのキャッチコピーは「100点のタイアップ」にしよう(笑)。歌詞的には何もない状態で作っているのであれば、私たちの性格的にはギリギリアウトなんですよ(笑)。でもランナーのことを応援する曲だから自信を持ってほしいし、誰かを応援する気持ちや新生活を迎えるときの感情とか、誰もが感じる思いを幅広く……あえて「幅広く」を狙って書いた曲ですね。

Billy(G)

Billy 走る人って、みんないろんな思いを背負ってるんですよ。そういう人の背中を押す曲になるようにって。

神田 歌詞を書く前に出場者の参加理由を読んだんですよ。「走り切ったらプロポーズしたい」とか「おじいちゃんが入院してるから願かけで走りたい」とか「娘にいいところを見せたい」とか。

──ファンであったり、タイアップの場合は作品や企業であったり、「誰かのニーズに応える」ということについてお2人はどう考えていますか?

Billy さっき彼女が「よくも悪くも主張がない」って言いましたけど、きっとニーズに応えることこそが僕らのやりたいことなんです。俯瞰で見て、自分たちの役割、できることはなんだろうと考えて、それができればOKなんです。何かに寄り添うことは挑戦でもあるので、楽しんでやれるんですよね。

神田 うんうん、そうだね。今回は曲作りの原動力として、タイアップに助けられたかもしれない。

──前向きで明るい物語を書いて歌うことで、お2人の性分に変化が出てくることはないんですかね。

神田 つらいけど……ないでしょうね。でもつらい! すごく(笑)。つらいけど、それを無理矢理覆すことがしんどいし。ライブとかでどんなにお客さんを煽ってみても、それに応えるのが嫌な人もいると思うんです。強要はしたくないんですよ。「ハイ元気だせ!」って。

Billy 「そうも言ってらんないんだって」って人の気持ちがよくわかるから(笑)。

2ndアルバム「TRUST」2015年1月28日発売 / 日本コロムビア
Type-A [CD+DVD] 3564円 / COZP-1001~2 / Amazon.co.jp
Type-B [CD] 3024円 / COCP-38938 / Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. TRUST
  2. Escape
  3. FLYING FAFNIR
  4. いつかの果て
  5. MIRRORS
  6. キャミソール
  7. Kaleidoscope
  8. Ray of Light
  9. 永遠
  10. Sunny Day
  11. On your marks!
  12. snow me

[Bonus Track]

  1. World's End Curtain Call -theme of DANGANRONPA THE STAGE-(TRUST Mix)
Type-A DVD収録内容
  1. いつかの果て(Music Video)
  2. snow me(Music Video)
  3. いつかの果て(Making Clip)

[TRUSTRICK Eternity Tour 2014 @SHIBUYA duo MUSIC EXCHANGE 2014.9.15]

  1. kissing
  2. If -君が行くセカイ-
  3. Jealousy Jelly
2ndシングル「FLYING FAFNIR」2015年1月14日発売 / 日本コロムビア
Type-A [CD+DVD] 1728円 / COZA-997~8 / Amazon.co.jp
Type-B [CD] 1404円 / COCA-16961 / Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. FLYING FAFNIR
  2. ATLAS(English Version)
  3. FLYING FAFNIR(Instrumental)
  4. ATLAS(Instrumental)
  5. FLYING FAFNIR(Anime OP Version)
Type-A DVD収録内容
  • FLYING FAFNIR(Music Video)
  • FLYING FAFNIR(Making Clip)
TRUSTRICK(トラストリック)

TRUSTRICK

舞台女優としての活動を中心に、声優、モデルなど幅広く活躍する神田沙也加(Vo)と、2006~13年に上杉昇(ex.WANDS、al.ni.co)率いるバンド・猫騙のメンバーとして活動していたBilly(G)からなるユニット。2014年4月にユニット結成を発表し、6月発売の1stアルバム「Eternity」で日本コロムビアよりメジャーデビューを果たした。ユニット名は「TRUST=信頼、信用」「TRICK=いたずら、策略」の2語を合わせた造語で、少しの毒とファンタジーが共存する独自の世界を構築している。2015年1月にはテレビアニメ「銃皇無尽のファフニール」のオープニングテーマとなるシングル「FLYING FAFNIR」、2ndフルアルバム「TRUST」を続けてリリース。3月には5都市を回るライブツアー「TRUSTRICK TRUST TOUR 2015」を行う。

TRUSTRICK TRUST TOUR 2015
  • 2015年3月14日(土)宮城県 HooK SENDAI
    OPEN 17:30 / START 18:00
  • 2015年3月16日(月)愛知県 Electric Lady Land
    OPEN 18:30 / START 19:00
  • 2015年3月17日(火)大阪府 Music Club JANUS
    OPEN 18:30 / START 19:00
  • 2015年3月19日(木)福岡県 DRUM Be-1
    OPEN 19:00 / START 19:30
  • 2015年3月27日(金)東京都 LIQUIDROOM
    OPEN 18:30 / START 19:30

料金:前売 3500円(全公演共通・ドリンク代別)
一般発売:2015年2月14日(土)10:00

TRUSTRICK Premium Showcase II【ver. TRUST】
  • 2015年1月28日(水)東京都 下北沢GARDEN

<内容>
【第1部】TRUSTRICK(神田沙也加+Billy)、北平誠治(映像監督 / COLOURFIELD Inc.)、松田剛(アートディレクター / quia)によるトークショー
【第2部】TRUSTRICK LIVE

料金:2500円(ドリンク代別)
一般発売:2015年1月10日(土)10:00~