TRUE|正しさも、ちぐはぐさもすべて“私” 自分をさらけ出した4thアルバム「コトバアソビ」

TRUEが8月25日に4thアルバム「コトバアソビ」をリリースした。

約3年ぶりのアルバムにはリードトラック「MUSIC」のほか、テレビアニメ「転生したらスライムだった件」エンディング主題歌「Another colony」、劇場版アニメ「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」主題歌「WILL」、テレビアニメ「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」オープニング主題歌「Sincerely」の英語バージョンなど全13曲を収録。「コトバアソビ」というタイトルの通り、唐沢美帆名義で作詞家としても活躍する彼女の言葉の巧みさや遊び心をふんだんに感じ取れるアルバムだ。

音楽ナタリーではTRUEにインタビューを行い、アルバムに注ぎ込んだ思いについて話を聞いた。

取材・文 / 須藤輝撮影 / 竹中圭樹(ARTIST PHOTO STUDIO)

ひた隠しにしてきた部分も、すべてさらけ出したかった

──TRUEさんは「Storyteller」(2021年1月発売の16thシングル)リリース時のインタビューで、2020年は立ち止まらざるを得ない状況に陥ってしまったけれども、その時間を楽曲制作に充て、2021年はそこで蓄えたものを吐き出す年にしたいとおっしゃっていました。その“吐き出し”がこのアルバムになるわけですね。

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そうですね。いい感情も悪い感情も、正しいこともそうじゃないことも全部吐き出して、そのうえで見える景色はどういうものだろうというコンセプトで作ったアルバムなので、まさに“吐き出し”かもしれないです。

──「コトバアソビ」というアルバムタイトルにも、“唐沢美帆”名義で作詞家としても活動しているTRUEさんの言葉に対する矜持みたいなものが感じられます。

私の楽曲には「言葉」というワードがすごく多く使われているんですけど、制作チームの誰が言い出したわけでもなく、今回のアルバムは“言葉”をタイトルに掲げようというのが共通認識としてあって。前作の「Lonely Queen's Liberation Party」(2018年4月発売の3rdアルバム)は“解放”をテーマにさまざまな作家さんとご一緒したのですが、今回もまた作家さんとの出会いによって、みんなに見てもらいたい私のポジティブな一面だけじゃなくて、本当は見せたくない、ひた隠しにしてきた私のドロドロしたエグみみたいなものもすべてさらけ出したかったんです。そうやっていい面も悪い面も肯定しながら、遊びながら楽曲を作っていくというスタンスにふさわしいのが「コトバアソビ」じゃないかなと、スタッフみんなで付けたタイトルです。

──TRUEさんは言葉の脆弱さや無力さにも自覚的ですが、それはリードトラック「MUSIC」の歌詞にも表れていますね。特に「言葉を愛して 誰より言葉を憎んで」という一節が象徴的で。

ミュージックビデオを公開したとき、ファンの皆さんもそのフレーズに反応してくださって、「TRUEさんそのまんまだと思いました」といった感想をたくさんいただいたんです。私を応援してくださっている方々は、私が思っている以上に、私のパーソナルな部分も受け取ってくださっているというのをこの曲を通して感じることができたのが1つの収穫というか、大きな気付きでしたね。

──それにしても「MUSIC」とは、めちゃくちゃ大きな曲名ですね。

潔いですよね(笑)。今回は3年ぶりのアルバムで、この3年間で皆さんと言葉や音楽を通してたくさん共鳴できたという実感があるので、それを楽曲に落とし込みたいというのをお伝えしてコンペをしました。この曲を提供してくださったトミタカズキ(SUPA LOVE)さんが最初から、デモの時点で「MUSIC」というタイトルを付けられていたんです。

──へええ。

それで「『MUSIC』って、いったいどんな曲なんだろう?」と思って聴いた瞬間に「ああ、まさに『MUSIC』だ!」と思ったんです。なので、もはやこの曲のタイトルは「MUSIC」以外考えられなくなってしまったんです。でも、私が今ぶつけたい思いを乗せるための曲という意味でもこのタイトルになるのは自然な流れだと感じましたし、私の音楽に対する向き合い方も、この楽曲で表現できたんじゃないかと思っています。

録りながらゾクゾクしていました

──「MUSIC」は4分ちょっとの曲で、必ずしも大作というわけではありませんが、フルサイズ感があるというか聴き終えたときの満足感がすごいです。

ありがとうございます。私自身も改めて声が楽器になるということ、そして言葉が共鳴して、それが音楽に変わっていくというのを楽曲を通して体感させてもらいました。トミタさんとは今回初めてご一緒したんですけど、これからもお互いに影響を与え合っていけるような、いい関係を築けるんじゃないかと思っています。

──ちなみに、コンペでトミタさんの曲を選んだ決め手は?

今回のコンペにご協力いただいた作家さん方の楽曲はどれも素晴らしくて、全曲採用したいくらいだったんですよ。ただ、楽曲の良し悪しとは別のところで、トミタさんの曲は私の思いをそのままメロディにしてくださっていたというか、ほかの曲とは心のフィット感が違ったんですよね。

──「声が楽器になる」とおっしゃいましたが、特に落ちサビのあたりなどは聴いていてゾクゾクしました。

私も録りながらゾクゾクしていました(笑)。これだけ厚みのあるコーラスを作っていったのは初めて……ではないかもしれないけれど、声を楽器として鳴らすという体験は自分にとってすごく大きかったし、ボーカルの可能性というのも改めて感じました。私は基本的に1曲のレコーディングは1日で終えるんですけど、「MUSIC」に関してはコーラス用にもう1日設けて、2日間かけて録ったんです。だから普段よりレコーディングに時間はかかっているんですけど、その時間もただただ楽しかったですね。

──1曲通して歌ったときのカロリー消費も半端なさそうというか、アルバムの1曲目からクライマックスを迎えている感もあります。

私だけじゃなくて、特にピアノの岸田勇気さんとベースの二家本亮介さんのカロリー消費もすごいというか、お二人とも感情豊かに、ご自身が持てるものすべてをまさに“音楽”にぶつけてくださって。もちろん、お二人だけでなく関わってくださったミュージシャン全員がそれぞれの信念をこの曲でぶつけ合っているんだけれども、それが自然と「MUSIC」という形にまとまっていくような感覚があったんですよ。なので、ミュージシャンの皆さんには本当に感謝しています。

──そんな「MUSIC」から、2曲目の「Blast!」(2019年4月発売の14thシングル表題曲 / 映画「劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~」主題歌)で「音楽は鳴り止まない」と歌っているのも最高ですね。

そうなんです。アルバムの曲順にはかなりこだわっていて、担当ディレクターと毎晩話しながら何度も何度も違う並べ方で通して聴いてみた結果、一番心の流れが途切れない形にできたんじゃないかなと。その曲順が決まって完成したアルバムを、今作も含めて4枚アルバムを作ってきた中で一番聴き込んでいるというか、こんなにも自分自身でリピートしているのは初めてで。そのぐらい今の私にも必要な1枚だったんだなと感じています。

今作るべきバラードが2曲できた

──曲順に沿うと次の新録曲は4曲目の「空に読む物語」ですが、この「空に読む物語」と5曲目の「inorganic」は対になっていますよね?

そうですね、はい。

──いずれも別れた人を思うバラードですが、「空に読む物語」が文字通り“空”というものすごく大きなものをモチーフにしているのに対し、「inorganic」はドライフラワーという小さくて脆いものをモチーフにしていて。まずその対比が美しいなと。

うれしいです。「空に読む物語」は「MUSIC」と同じくトミタさんの作曲・編曲なんですけど、デモを初めて聴いたときにサビ頭の「空を読む 君を待つ 星が流れる」「名残るように時が 綴られていく」という2行の歌詞が浮かんだというか、景色が見えたんですよ。なので迷いなく言葉を綴ることができたし、「inorganic」はJazzin'parkの久保田真悟さんと栗原暁さんに作っていただいたんですけど、サビ終わりの「誰を憎めばいい」と「誰を許せばいい」というフレーズが出てきたときに「あ、完成したな」と。私が今作るべきバラードが2曲できたという手応えを感じています。

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──「空に読む物語」は別れをきれいな思い出として消化しようとしているところがあると思うのですが、「inorganic」はだいぶ引きずっているというか……。

そうですね。私の中では、「inorganic」は自分をドライフラワーに見立てて、見た目は美しいまま枯れているみたいなイメージで。歌にしても、自分で自分の花びらを粉々に砕いてしまうくらいエモーショナルに歌い上げました。「inorganic」は音作りもこだわっていて、ボーカルのミックスにしても特にAメロ、Bメロはあえてリバーブをかけずにソリッドに、乾いた感じを演出しつつ、サビではある種ヒステリックに聞こえるようにしていて。冒頭でお話ししたみたいに、正しくて美しい感情と、醜くてドロドロした感情を、この2曲でぶつけることができたと思っています。

──今「エモーショナル」とおっしゃいましたが、アルバムを通して改めてTRUEさんのボーカルの多彩さを感じることができます。

ありがとうございます。特に「空に読む物語」は通常のキーよりも2つぐらい下げていて、結果的により体温を感じるというか、人が生きている温度感みたいなものを歌に乗せることができたと思っていて。逆に「inorganic」はもう死んでしまっているような、無機質でドライな感じ。そんな対照的なボーカルを、同じバラードというフォーマットで表現できたというのも大きな収穫でした。