トリプルファイヤー×吉田豪|2017年注目のダメ人間、吉田靖直の素顔に迫る

もっと孤高なキャラクターでいきたかった

──こうやって新しいアルバムを出すと宣伝活動もしないといけないわけじゃないですか。フロントマンとしてインタビューを受けること自体はお好きなんですか?

うーん……あんまり好きじゃないですね。別に嫌いってことでもないんですけど。昔は「これを言いたい」みたいなことがけっこうあったけど、もうあんまりないです……。

──世間に訴えたいことがもうない!

そうですね、ないです……まあ、あるんですけど……。

──この機会だから聞きますよ。

いや、歌詞ではあるんですけど……。

──ああ、取材とかで言うことはあまりない。

そんなに面白いエピソードもないですからね。ない、ないです……。

──歌詞について聞かれたりしたら答えられるぐらいで。

でもたまに聞かれるんですけど、あんまりうまく言えたことがない気がします。「違うんだけどな」って思いつつしゃべってる感じ。書いて説明だったらできるかもしれないですけど、話しながらだとなかなかうまく表現できないです……。

──いくらでも付き合いますよ。自分の歌詞、ポジティブだと思います? ネガティブだと思います?

ああー、全体的にはポジティブなんじゃないですかね。例えばダメ人間っぽい歌詞でも、そこまで落ち込んでないって言うか。なんとなく「そのうちうまく進むんじゃないか」っていうのが根本にあります……。

──ダメ人間の開き直り感がすごいですよね。

そうですね(笑)。たぶん根がポジティブなんだと思います。死にたいとかそういうのは全然ないです……。

──現状30年生きてきて、自分の人生設計はうまくいってる感じなんですか?

まあ当初のイメージとは違いますけどね。バンドはもっと孤高なキャラクターでいきたかった(笑)。

吉田靖直(Vo)

──もっとロックスター然とした(笑)。

ロックスター然とした、カッコいい感じでいきたかったですね。それが今は……いや、別にこれでいいと思ってるんですけど……。

──どこで予定が狂ったんですか?

高校の頃、バンドで文化祭に出たかったんだけど、毎年オーディションに落ちて1回も出れなかったんです。で、文化祭とは別にやってた部活動歌合戦みたいのに出たら、全然カッコいいって感じにならなくて、「あ、自分が思ってる像と人から見えてる像って差があるな」っていうのに気付いて。まだそのあともカッコいい感じに固執してはいたんですけど、結局、僕のそういうのは別に誰も聴きたくないんだなっていうのがわかったので……。

──方向性を変えたら求められる実感が得られた?

求めてくれる人は以前よりは増えたと思います。人から見て収まりがいい感じ。見た目と中身が一緒だから安心するみたいな感じですね……。

牛丼のことを考えると怒りが湧きます

──吉田さんには、適度なポジティブさと適度な性格の悪さがあると思っていて。

はは(笑)。まあ、悪いっちゃ悪いんですけど……性格悪いってなんですかね……?

──そもそも(笑)。

悪口を言うことはけっこうあります。的を射てるなと自分で思ったらうれしい。でもネットニュースのコメント欄とかで、かわいい人、例えば広瀬すずとかのことを「かわいくない」って書き込む人がいるじゃないですか。ああいうの見るとムカつくんですよ。そういう性格の悪さはないです……。

──とんちんかんな悪口が腹立つんじゃないですか?

そうですね。要点を突いた悪口じゃないと気持ちよくない……。

──それは昔やることなくて1日中、2ちゃんねるを見てたみたいなものがベースにあるんですか?

左から吉田靖直(Vo)、吉田豪。

ああー、2ちゃんの影響だったら嫌ですね(笑)。高校のときに人の悪口をまったく言わないようにしてたら友達がいっぱいできたんです。でも大学で、「この人すごい面白いな」って思う先輩がいて、その人が「悪口って最高だよな」みたいなこと言ってて(笑)。そのときに「今まで言わないようにしてたけど、確かに悪口を言うほうが自然なんじゃないか」って思って。悪口を言っていこうって思ったんですよね……。

──その結果、友達は?

少しずつ距離を置かれました……。

──ダハハハハ!(笑) でも、そうなっていったからこその、この歌詞ですもんね。今悪口を言いたい対象とかあります?

なんかちまちましたところしか言えないんですけど……「牛丼って、甘すぎないかな」って……。

──味付けが(笑)。

はい。みんな当たり前のように、「貧乏な人の外食と言えば牛丼」みたいに言ってますけど。牛丼自体がそんなに真ん中にいるのがおかしいと思うんですよね。真ん中にいるにしては甘すぎるだろう、って。そういうことは最近思います。

──死ぬほどどうでもいいです!

2ちゃんとかで「牛丼チェーン最高のとこ決めようぜ」みたいなのを見ると、なんか怒りが……もっと前提から問い正したいっていう気持ちになります。まあ、2ちゃんに書き込んだことはないんですけど……。

人前に立てる状態にしないと失礼だから酒を飲む

──仕事の幅は増えてきてるわけじゃないですか。おとといフライデーへの楽曲提供とか、あれは素晴らしい仕事だったと思います。

ありがとうございます。うん、あれはよかったですね。

──将来的にどうなっていくのがベストなんですかね?

うーん。あんまり人生設計してないんですけど、すでにあんまり予想してないほうに来てるんで。まあ今後キャリアを積み重ねるのはもうバンドしかないですね……。

──「とりあえずバイト辞めたい」とかはないんですか?

いや、全然働きたくないですけどね。止むを得ずバイトしてる感じです……。

──普通に考えてハマりそうな仕事は作家かなって気がしますけどね。

ああ。作家いいですよね……作家って構成作家とかそういうやつですか?

──もっと文学方面のです。

ああ、小説とか。それもなんとなく思ったことはあるんですけど、そこまで文章が得意じゃないし、長いのは書けないので。まあ一生に1個くらいは何か書きたいくらいの感じはあります。たぶんやらないんでしょうけど……。

──歌詞で発散できちゃうんですかね。

それはありますね、たぶん……。

──ポストパンクな曲にあの歌詞っていうのは、今までにない足し算だった気がするんですよ。

僕も今の4人になったときに、この足し算をする人はほかにいないだろうって思いました。今はもう、流れのままやってるだけって感じですけど……。

──「高田馬場のJoy Division」って、Joy Divisionを引き合いに出すには歌詞が違いすぎるだろうっていう。

そうですね。実際、別に誰も言ってないですしね(笑)。最初はそういうポストパンクやニューウェイブ的な曲が多かったですけど、最近はギターの鳥居(真道)くんのもともと好きなブラックミュージック系を反映しようとしてる感じです……。

──そういう変化って、吉田さん的にはどうなんですか?

「ウォー」って感じの気持ちがあんまりなくなって、曲のテンションも激しくなくなってきてるので、確かにそっちのほうが年齢に合ってるかなって感じはする……。

──そもそも、吉田さんのこのテンションだとライブをやるのも大変だと思うんですよね。

いやー、そうですね。だから出る前にお酒を飲むっていう。人前に立てる状態にしないと失礼だし(笑)。

──やっぱりお酒は必須なんですかね。コミュニケーションに。

そうですね……。

──それは飲み屋で働くのも向いてるだろうし。

うーん、それはそれで向いてないんですよ。できれば接客のときも飲みたいですね……。

──今も飲んだほうがやりやすいくらいですか?

そうかもしれないです……飲んだほうがいいですかね?

──飲むなら付き合いますよ。

ああそうですか。じゃあ飲もっかな。何飲みます?

──なんでも、合わせます。

(水割りを2杯持ってきて)どっちかがめっちゃ濃いんですけど、ちょっと飲んでみてください。

吉田靖直(Vo)
トリプルファイヤー「FIRE」
2017年11月2日発売 / アクティブの会
トリプルファイヤー「FIRE」

[CD]
2160円/ WAVE-04

Amazon.co.jp

収録曲
  1. 中一からやり直したい
  2. 人生を変える言葉
  3. はずれのヘルス嬢
  4. 野球選手になるために
  5. 有名な病気
  6. 漁師の手
  7. コインとキノコ
  8. 銀行に行った日
  9. じじいの同窓会
  10. 人生を変えた言葉
  11. 普通は走り出す
Mac DeMarco Japan Tour 2018

2018年1月22日(月)東京都 LIQUIDROOM
2018年1月23日(火)大阪府 梅田CLUB QUATTRO

<出演者>
マック・デマルコ / トリプルファイヤー(サポートアクト)

「CAMPFIRE vol.1」

2018年2月9日(金)東京都 TSUTAYA O-nest

<出演者>
トリプルファイヤー / 柴田聡子inFIRE

トリプルファイヤー
トリプルファイヤー
吉田靖直(Vo)、鳥居真道(G)、山本慶幸(B)、大垣翔(Dr)からなるロックバンド。2006年に早稲田大学の音楽サークルで結成され、2010年に鳥居が加入して現在の編成になる。2012年5月初のアルバム「エキサイティングフラッシュ」をリリース。ソリッドな演奏とシュールな歌詞を組み合わせた今までにない作風で注目を集め、2014年2月発売の「スキルアップ」、2015年9月発売の「エピタフ」が話題作となる。2014年公開の今泉力哉監督映画「サッドティー」では劇伴を担当し、2016年には紗倉まな&小島みなみによるユニット・おとといフライデーにシングル表題曲「私ほとんどスカイフィッシュ」を提供。2017年7月には「FUJI ROCK FESTIVAL 2017」への出演を果たした。吉田はテレビ番組へもたびたび出演しており、2017年10月にはテレビ朝日系「タモリ倶楽部」にて全編にわたって吉田を特集。2018年1月より日本テレビでスタートするジャニーズWESTの藤井流星&濱田崇裕主演ドラマ「卒業バカメンタリー」へのレギュラー出演も決定している。最新作は2017年11月発売のアルバム「FIRE」。