豊崎愛生|半世紀前にタイムスリップ!“時代”を伝えるカバーアルバム

豊崎愛生が初のカバーアルバム「AT living」を10月24日にリリースした。今作でカバーされたのは、はっぴいえんど「風をあつめて」、RCサクセション「雨あがりの夜空に」といった彼女が敬愛してやまないアーティストの楽曲たち。音楽ナタリーでは選曲の意図や制作過程、11月に千葉・舞浜アンフィシアターで開催されるコンサート「LAWSON presents 豊崎愛生 コンサート2018『AT living』」の意気込みについて、じっくりと語ってもらった。

取材 / 臼杵成晃 文 / 中川麻梨花

スフィアを客観的に見つめた期間

──カバーアルバムの話に入る前に、まず来年2月に活動再開するスフィアについて聞かせてください。結成10周年イヤーに向けた約1年間の“充電期間”、いかがでしたか?(参照:スフィアが2019年まで音楽活動休止、充電期間へ

実際のところ、全然止まっていなかったです(笑)。充電期間中もメンバー、スタッフさんと集まって、今後のスフィアをどうしていくかとか、曲についても話し合っていたので。

──では、メンバーの皆さんとはけっこうな頻度で会われていたんですね。

豊崎愛生

そうですね。ただ、個人的にはこの半年くらいずっとスフィアの4人を客観的に見ているつもりです。今までスフィアはありがたいことにかなりハイペースで活動させていただき、10年間ダッシュしてきたという感覚があって。その分、曲の音作りやライブに関しても、急いで決めることが多かったんですよね。結果それがダメだったということではないんですけど、この先の10年を長く見据えたときに、もう少し4人で決めることを増やしていこうという気持ちが出てきたんです。自分たちが大人になっていく中で、何をお客さんに表現したいのか、どういう形でそれぞれが曲作りやレコーディングに関わっていくのか……。

──「4人を客観的に見る」というのは、具体的には?

メンバーのソロに関してはもともとお客さんの立場で見ていたので、「こういう歌も似合いそうだよね」「次はこういうの歌ってほしいな」って3人によく言っていたんです。でもスフィアは自分も曲の制作過程、ライブの構築から携わっている分、どうしても客観的に見れないんですよ。もちろんお客さんの反応を一番大事にしてきたつもりではあるんですけど、もはや何がよくて何が悪いのかというジャッジが自分の中でわからなくなっていて。世間におけるスフィアの見られ方や知名度、スフィアをまったく知らないお客さんが最初にライブを観たときにどういう感想を持つんだろうということを考えながら、一旦自分を遠いところに置いて、改めてスフィアのデビューからこれまでを見返しているような期間でした。

こんなにすごいことが約半世紀前に起こっていた

──これまでにもカバー作品を出したいという気持ちはあったんですか?

はい。実はカバーを出すきっかけになったのは、去年ベストアルバムをリリースしたときにナタリーさんで好きなレコードについて取材していただいたことなんです(参照:豊崎愛生「love your Best」インタビュー|初ベストに込めた趣味とこだわり / 念願のアナログ制作現場へ)。このインタビューが縁で細野晴臣さんのラジオに出させていただいて(参照:豊崎愛生、憧れの細野晴臣とラジオでトーク「夢のようで……」)……私にとって細野晴臣さんは神様みたいな存在で、実際に会えるなんて想像したことがなかったんです。でも、歌うことを続けているとどこかで誰かが見てくれていて、そういう奇跡みたいなことが起こり得るんだなって。すごくうれしくて、そしたらまたちょっと欲が出てきて、どこかでまた細野さんの音楽に触れる機会を今後のソロアーティスト活動の中で作りたいという夢ができたんです。なので「何をカバーしたい?」って聞かれたときに、まず最初に「細野さん!」と(笑)。恐れ多いですが、やっぱり私のルーツや好きな曲、アーティストさんのお話になると、まず挙げさせていただいているお名前なので。

──数ある細野さんの楽曲から、はっぴいえんどの「風をあつめて」をセレクトしたのはなぜですか?

昔から取材をしてくださっている方には「もっとコアな選曲になると思ってました」と言われることもあるんですけど、今回のアルバムのコンセプトは“超絶ど真ん中”なんです。初めてのカバーアルバムは、よりたくさんの人が知っていて口ずさめる曲を集めたくて。それでまず、はっぴいえんどの「風をあつめて」をカバーさせていただこうという話になり、そこに年代を合わせて“70年代昭和”という軸が決まりました。1970年代は日本の音楽の革命期で、今の時代につながっていく基盤を作ってくださったアーティストさんがたくさん生まれた時期だと私は捉えています。今この時代に改めて70年代の楽曲を歌うことで、当時を生きていない私みたいな子たちに「こんなにすごいことが約半世紀前に起こっていたんだよ」という事実をちゃんとメッセージとして伝えて、橋渡しにできたらいいなと思ったんです。もちろん「この曲はこの作品にしか入ってないけど、私は一番好き」みたいな曲は掘り返すといっぱいあるんですよ。はっぴいえんどだったら「暗闇坂むささび変化」とか。でも、今回はできるだけたくさんの人に一緒に歌っていただけるような作品にしようと思って、こういった選曲になりました。