豊崎愛生|半世紀前にタイムスリップ!“時代”を伝えるカバーアルバム

私が私として歌えるような気がした

──7曲目、吉田拓郎さんの「流星」は意外な選曲でした。

これはプロデューサーさんのこだわりで、アルバムを作る前から「どうしても『流星』を歌ってほしい」と言われていたんです。「じゃあいつかやりましょう」と言っていたんですけど、実は私そんなにちゃんと「流星」を聴いたことがなくて。ど真ん中というコンセプトに沿って選ぶなら「結婚しようよ」かなと思ったんですが、プロデューサーさんは「いや、『流星』がいい!」と(笑)。それで改めて聴いてみたら、本当に素敵な楽曲で。当時のいろんな映像を観て、やってみようと思いました。男性が歌われるフォークソングは、好きなんですけど自分が歌うことをあまり意識したことがなくて。すごく楽しくて勉強になりました。

──8曲目の「言葉にできない」も選曲としては意外でした。オフコースも“ど真ん中”基準で複数候補曲が挙がるグループなので。

豊崎愛生

私の世代的には小田和正さんと言えばソロのイメージなので「小田和正さんの曲だったら……」と考えていると、スタッフさんに「いや、違うよ。この時代はオフコースなんだ!」と言われて、「確かに!」と。「言葉にできない」は改めて歌うとなると、すごく難しかったです。

──オフコースの中でもなかなか難しい曲を選びましたね。

そうですね。でも「あなたに会えて ほんとうによかった 嬉しくて 嬉しくて 言葉にできない」というフレーズは、なんの嘘もつかずに私が私として歌えるような気がしたんです。いっぱい原曲を聴いて、ディレクターさんと話しながらポイントを押さえてリスペクトを表現していったんですけど、オフコースに関しては聴けば聴くほどいい意味でへこみました。オフコースの曲も小田さんのこの声があってこその説得力があるから、自分なりに説得力を出すには、せめて自分の気持ちを素直に重ねられる曲をチョイスしないと、アルバムとして成り立たなくなってしまうと言うか。

──豊崎さんが自分の言葉として受け止めやすい楽曲だったと。

はい。原曲に近付けつつもオリジナル性を出していく中で、自分の言葉で歌うというのは、一番単純な方法だったのかもしれないです。

入っていてほしかった人

──9曲目、チューリップ「サボテンの花」は1990年代にドラマ主題歌としてヒットしたこともあり、広い世代に伝わる選曲としてはど真ん中なセレクトですね。

「サボテンの花」は年代によって歌い方が違っていらっしゃったので、発見の連続で面白かったです。頭のアルペジオを聴いたら温かいイメージがあるのに、歌詞は別れの歌で。なんで財津和夫さんはこんな悲しい歌をハッピーな音に乗せたんだろう、なんで「真冬の空の下」と言っているこの曲を、春のようなテンションの歌で表現しているんだろうと、自分の中で1個ずつ解明していきました。この曲もよく口ずさんでいた曲だったので、声自体はナチュラルにスッと出て気持ちよかったです。

──10曲目のRCサクセション「雨あがりの夜空に」こそ忌野清志郎さんの“節”で成立しているようなメロディなので、相当難解だったのでは?

めっちゃ大変でしたけど、楽しかったです(笑)。

──シャウトがかわいらしいですね。

スタッフさんに「マイケル・ジャクソンじゃん」って言われて、「そうじゃないんだ!」と思いながら、精一杯(笑)。カッコよくしようと思ってやればやるほど、子供が歌ってるみたいだと自分でも思って。この声なので仕方ない……というと開き直りなんですけど、それを言ったら全人類が清志郎さんのようには歌えないから。清志郎さんがどれだけ毎回ライブで違うように歌っていても、暴れていても、清志郎さんが歌ったその声が正解であって。そんな音楽力、人間のパワーを改めて感じて、単純にそんな曲を私が歌わせてもらえることが楽しかったです。

──ともかく楽しんでいる感じが伝わってきます。

清志郎さんにはなれないし、目指しても1000%無理だけど、でも「私の好きな曲たちを集めました!」って自信を持って作品を出すときに、清志郎さんは入っていてほしかったんです。豊崎愛生のオリジナル曲だったら、この歌詞は出てこないですし。そういう曲を歌えるのもカバーの面白さだし、リスナーさんが私の声では絶対想像できないものを1曲混ぜたかったんです。

──ラストナンバーは高田渡さんの「珈琲不演唱」です。原曲に引けを取らないぐらい、猛烈にイノダコーヒーに行きたくなる感じが出ていると思います。

私、イノダコーヒーが大好きなんです! 京都に行ったときは必ず行きますね。特にパフェがちょっと甘酸っぱい独特な味がして、大好きです。正直このアルバムに高田渡さんの曲を入れさせていただくのは、私の趣味に寄りすぎた感じになっちゃうかなとも思ったんですけど、「私が一番ナチュラルにリビングで鼻歌をしているのは、この曲と細野さんの曲だと思う」という話をして入れてもらいました。ギターのアルペジオとボーカルのみのアレンジで、それこそ渡さんがライブで弾き語っているような感じの優しさ、ナチュラルさをイメージして歌いましたね。実はレコーディングの順番としては「珈琲不演唱」を最初に録ったんですよ。この曲が最後に入っているのも、自分に戻ってくるような曲だから。

ライブでタイムスリップ

──11月24、25日にはソロコンサート「LAWSON presents 豊崎愛生 コンサート2018『AT living』」を控えています。

2月以来、ひさしぶりのソロコンサートですね。これから内容を詰めていくんですけど、オリジナル曲も歌いながら、2日間の中身を変えたいなと思っています。やっぱり私は70年代に生きていたかったと思うことがいっぱいあって……その時代に行きたいんです。ライブで。だから、タイムスリップしてみたいなと思っています(笑)。

──ははは(笑)。

キッチンで料理を作って、召し上がれというコンセプトのアルバムなので、もちろんお客さんをおもてなししたいんですけど、なんだかんだライブをやったら一番楽しいのは私自身なんじゃないかな(笑)。自分の楽曲のように名曲たちを歌えるって、そんなに気持ちいいことはなかなかないので、思いっきり楽しみたいと思っています!

LAWSON presents 豊崎愛生 コンサート2018「AT living」
  • 2018年11月24日(土) 千葉県 舞浜アンフィシアター
  • 2018年11月25日(日) 千葉県 舞浜アンフィシアター
豊崎愛生
豊崎愛生(トヨサキアキ)
1986年10月28日、徳島県生まれの声優 / アーティスト。2009年放送のテレビアニメ「けいおん!」で主要キャラクターの1人、平沢唯を演じて注目を集めた。同年2月には同じミュージックレインに所属する寿美菜子、高垣彩陽、戸松遥と共にユニット・スフィアの活動を始め、10月にシングル「love your life」でソロデビュー。以降は、ソロ、スフィア、さらには数々のアニメのキャラクターソングなど幅広く音楽活動を行っている。2017年にはベストアルバム「love your Best」をリリース。今年の10月に初のカバーミニアルバム「AT living」を発売し、11月に千葉・舞浜アンフィシアターでコンサート「LAWSON presents 豊崎愛生 コンサート2018『AT living』」を2DAYS開催する。