音楽ナタリー Power Push - 戸渡陽太

スカパラ茂木欣一がインタビュー初挑戦!“若きギター侍”の素顔に迫る

ドロップアウトした人たちのほうが美しい瞬間をたくさん見ている

──俺、「I wanna be 戸渡陽太」っていうアルバムタイトルがすごい好きなんですよ。

戸渡 やっぱり1枚目だから自分の名前を背負いたかったっていうのもあって。「I wanna be 戸渡陽太」って、要は「理想の自分は戸渡陽太」ってことじゃないですか。そんな「理想の自分になりたい」というか。あともう1つ、僕にとって作曲って「自分が知らない自分を見つける過程」なんですよ。音楽というレンズを通して、自分の内側をどんどん探っていく作業が作曲。だから、自分でも知らなかった本当の戸渡陽太をどんどん見つけていく、その過程でできた曲が入ってるから「I wanna be 戸渡陽太」にしたという。このアルバムには自分のきれいで美しいところも、汚い部分やニヒルな部分も入ってると思う。それを全部含めて戸渡陽太だし、そういうアルバムになってると思います。

──リスナーが「I wanna be 戸渡陽太」って言ってる感じもするよね。「こんなふうにまっすぐ自分をさらけ出す陽太くんみたいに俺もなりたい」って。1曲目(「Beautiful Day」)の歌詞とかすごいリアリティあるし、これを聴いた人からそう思われることもあると思う。

戸渡 自分の周りには社会から脱落した、いわゆるドロップアウト系の人が多いんですけど、そういう人たちのほうが美しい瞬間をめっちゃたくさん見てる気がするんです。きれいなものは世の中にあふれてるけど、美しいものはどんどん減ってると思ってて。みんな美しいものを追いすぎるがゆえに、折り合いが付けられなくてドロップアウトしてるんじゃないかって。「Beautiful Day」はそういう人たちの目に映る美しい瞬間を詰め込んだ曲にしたかったんです。

──なるほど。でも、そこに足を踏み入れていくのは勇気がいるよね。今の時代はみんな「右へならえ」で、あんまりはみ出したことを言う人はすぐに潰されちゃうから。

戸渡 僕、「道なき道、反骨の。」(東京スカパラダイスオーケストラ feat. Ken Yokoyamaのシングル)を聴いたときに、「Beautiful Day」に近い感覚をめっちゃ感じたんですよ。反骨心というか。僕はそういうのをずっと持ち続けていたいって思ってるんです。

──そうだね。僕は「自分ら世代が反骨してないと、若い子たちは全然反骨しなくなっちゃうじゃん」ってすごく思ってるの。お行儀のいい音楽しかない世の中になっちゃったら、そういう音楽って心に残るのかなって気もするし。そこで「こんなことも言っていいじゃないか」って声を上げて、自分の信じるものに突き進むのを忘れちゃいけないなって。「道なき道、反骨の。」はそんな曲だと思ってるんだけど、戸渡くんの「Beautiful Day」もホントにさらけ出してるんだよね。僕はもう40代後半だけど、20代前半の戸渡くんの言葉を聞いてすごくうれしくなった。

戸渡 そう言っていただけると僕もうれしいです。

武道館でライブできるくらいになれれば、音楽を作ってきた意味があったと思える

──そんな戸渡くんが僕らのJUSTA RECORDからリリースしてくれるということで。

戸渡 リハーサルスタジオでスカパラの皆さんにあいさつしたとき、めっちゃ緊張して手が震えましたよ(笑)。

──あのときすごかったねえ。あいさつ代わりに2曲歌ってくれたけど、すごいやりにくかったと思うよ。だって、けっこうな年齢の人たちが9人でどーんっといたわけだし(笑)。オーディション受けてるみたいな感覚だったんじゃない?

戸渡 そうですね。帰ったあとの解放感が気持ちよかったです(笑)。

茂木欣一

──でも、みんな感動して「カッコいいね!」「骨あるね!」みたいなことを熱く語り合ってたよ。スカパラもそういうところがあるんだけど、どうやったら爪痕を残せるかなっていう、ほかの人とは違うサムシングを戸渡くんが探し求めてるように感じたんだよね。今回メジャーデビューして、これからどうなっていきたいっていうイメージはある?

戸渡 リスナーをずっと飽きさせず、ワクワクさせ続けていたいです。歌声って不思議なもので、その人の人生がすごく出ると思うんですよ。だから日々いろいろなものを吸収しつつ、ダメな自分も受け入れながらアーティストとして大きくなっていきたいなと。

──いいなー。発言すべてがキラキラしてる(笑)。目標とかは何かある?

戸渡 武道館でライブをやりたいです。絶対気持ちいいだろうと思って。

──おお! 僕も武道館でやったことあるんだけど、あのステージってさ、なんか予定通りにいかないっていうか(笑)。

戸渡 誰かから聞いた話なんですけど、あるバンドのギタリストの方が、緊張しすぎて1曲目でずっと2曲目のフレーズを弾いてたらしいです(笑)。

──それはものすごい緊張の仕方だね(笑)。でもわかるな。武道館ならそれもありえる。スカパラも去年、25周年の締めくくりのライブを武道館でやったとき、最後に退場するときに流れてた音楽がフッと止まるアクシデントがあって。

戸渡 へえー!

──後日その映像を観たら、メンバー全員がそれぞれ「俺は今、25年分の経験値を問われてるな……」って顔をしてるの(笑)。「こんな小さなことよりも、今までスカパラにはでっかい壁がいろいろありましたよね?」って言ってるような顔しててさ。で、また音楽が鳴り始めたときに「俺たちは25年間がんばってきたけど、この先もさらに歩いていくんだな」っていう気持ちにさせられたんだよ。あとになって「僕らにそれを気付かせるために武道館が演出をしてくれたのかな?」みたいに思えて、今では一瞬音が止まったことに感謝してるというか(笑)。戸渡くんもぜひ武道館ワンマンやってください。

戸渡陽太

戸渡 やりたいっす。武道館でやれるっていうことは、自分の音楽がいろんな人にとっての拠り所になってるっていうことだと思うんで。そうなったらホントに今まで音楽を作ってきた意味があったなって思えるだろうし。

──そうだよね。

戸渡 「救われた側」って言い方をするとよくある話ですけど、ホントに僕は音楽があったおかげでアホな学校の引力に引き込まれないで済んだんです。だから今度は、自分の音楽が誰かにとってそう思えるものになってほしいなって思う。

──僕もホントにそう思う。音楽に出会えてなかったら全然人生違うもん。ラジオから流れてきた音楽を聴いて、世の中にはこんな素敵な曲があるのかって驚いて、その日から毎日がキラキラ輝き出したので、本当に音楽に感謝してる。僕も戸渡くんと同じで、フィッシュマンズでデビューするときに「ああ、これからは自分が届ける側だ」って思ったんだ。自分の音楽で誰かが夢を見てくれたら最高だよね。

戸渡 そうですよね。

──今回「Sydney」を演奏させてもらったときに、武道館みたいな大きいところで1万人があのサビを歌ってる景色が見えたんだ。そういうスケール感のある人だなと思ってレコーディングしたのをすごい覚えてる。戸渡くんはこのままいくと、まったくカテゴライズできない“戸渡陽太”っていうジャンルになるだろうと思ってるんで、僕はそこに期待してます。

戸渡 ありがとうございます。そうなれるようにがんばります。

左から戸渡陽太、茂木欣一。

ニューアルバム「I wanna be 戸渡陽太」2016年6月15日発売 / cutting edge / JUSTA RECORD
CD+DVD / 3564円 / CTCR-14911
CD / 3024円 / CTCR-14910
CD収録曲
  1. Beautiful Day
  2. Sydney
  3. SOS
  4. Nobody Cares
  5. ギシンアンキ
  6. Nora
  7. さよならサッドネス
  8. 青い人達
  9. 木と森
  10. すべては風の中に
  11. 世界は時々美しい
  12. グッデイ
DVD収録内容
  • Beautiful Day
  • Sydney
  • すべては風の中に

ほか全5曲のミュージックビデオ収録予定

戸渡陽太(トワタリヨウタ)
戸渡陽太

福岡出身のシンガーソングライター。2014年にロッキング・オン主催のコンテスト「RO69JACK」で入賞し、同年11月に初の全国流通盤となるミニアルバム「プリズムの起点」をリリースする。2015年にはiTunesが注目すべきアーティストを紹介する企画「NEW ARTIST スポットライト」に選出され、全国各地の大型イベントに次々に出演。“若きギター侍”と呼ばれ、凛とした佇まいとシンプルな楽器編成ながら躍動感のあるパフォーマンスで注目を集める。6月に初のフルアルバム「I wanna be 戸渡陽太」をリリースし、2016年に東京スカパラダイスオーケストラ主宰のエイベックス内レーベル・JUSTA RECORDからメジャーデビューを果たした。

茂木欣一(モテギキンイチ)

1967年生まれのドラマー。明治学院大学在学中の1987年にフィッシュマンズを結成し、同バンドで1991年にメジャーデビューする。1999年にボーカルの佐藤伸治が逝去したためフィッシュマンズは活動を休止。2001年に東京スカパラダイスオーケストラに加入し、ドラムのみならず「銀河と迷路」「世界地図」などの曲でメインボーカルも務めている。2010年からは加藤隆志(東京スカパラダイスオーケストラ、LOSALIOS)、柏原譲(フィッシュマンズ、Polaris、OTOUTA)とともにSo many tearsとしても活動している。