音楽ナタリー Power Push - 戸渡陽太
スカパラ茂木欣一がインタビュー初挑戦!“若きギター侍”の素顔に迫る
フィッシュマンズの昔の話を聞いて驚いた
──そうやって福岡と東京を往復してるうちに、だんだんCDデビューの話が具体的になっていったわけだね。
戸渡 そうですね。あ、でも一番のきっかけは4年前に山本玲彦さんと出会ったことです。
──おお! 山本くんって僕のすっごい古い友達だよ。フィッシュマンズがメジャーデビューするときに、最終的に山本くんの誘いに乗ったっていう。
戸渡 実はその話も山本さんから聞いてました(笑)。
──山本くんが「うちと契約すると海外レコーディングができます」って言うからさ(笑)。彼はちゃんとわかってるっていうか、いい音楽に対する嗅覚をしっかり持ってる人だよね。
戸渡 山本さんは当時、東京から福岡に来てエイベックスの新人開発みたいな仕事をしていたんですけど、最初のうちはすることが特になかったみたいで。福岡で活動してるバンドやアイドルの動画をアップしてる人のYouTubeアカウントを、とりあえずひたすらずーっと観てたそうなんですよ。その中に僕が映ってる動画があって、面白いと思っていただいたらしく。実はその頃すでにいろんな会社からお声がけいただいてたんですけど、山本さんに会って直感で「この人となら面白いことができるかも」って思ったんです。
──なるほどね。でも、そこから4年間ってけっこう長いなー。ずっと曲作りをしてたの?
戸渡 あとはライブのやり方を試行錯誤したりしてました。僕はそれまでずっと1人でやってたから、人と合わせたことがなかったんですよ。だから乗り方がわからなくて。それでチリヌルヲワカの阿部耕作さんとイワイエイキチさんをサポートに迎えてスリーピースでやらせてもらうようになったんです。でもお二人が熟練だからなんとかバンドとして形になってるけど、自分はもう背中を押してもらってるだけに見えて、悔しい時期がずっと続いてて。そのときに、フィッシュマンズの昔の話を聞いたんですよ。
──山本くんから?
戸渡 はい。ドラムに対してベースが「1mmだけ後ろにズレて」ってお願いしてたとか。そんなミリ単位のポジションについてまでメンバー同士で話し合うんだって聞いて、やっぱフィッシュマンズはすごいんだなと。
──ははは(笑)。でもさ、そういうのはちょっとしたことの積み重ねで、だんだんできるようになるものだと思うよ。戸渡くんがサッカーやってたときもそれと似たような話はあったんじゃない?
戸渡 ああ、そっか。確かに言われてみるとそうかもしれませんね(笑)。
茂木さんのドラムをきっかけに重力のバランスが変わった
──今はドラムとの2人編成でライブをやってるんだよね。
戸渡 ドラムと2人でやってくきっかけになったのは、「プリズムの起点」(2014年発売の1stミニアルバム)に収録されてる「マネキン」のMVをドラムとギターだけで撮ったことで。この編成は面白いかもって話になって、実際にライブでやってみることにしたんです。そしたら、ぶっつけ本番でやったのに形になって。僕の中で「演奏相手が1人だけ」っていうのがすごくわかりやすかったんですよ。音が2つしかないから失敗は目立つけど、でもサシなので駆け引きがわかりやすいと。ドラムとの2人編成に慣れると、そこからトリオ編成とか人数が増えてもやり方がわかるようになってきたんです。
──それがわかると、曲作りも変わるよね。
戸渡 変わりました。だからバンドを意識して作る曲とかも増えたし。1人でやってると見えなかったものが、人とやることによって見えてきた。
──曲を作って自己完結するだけじゃなくて、お客さんの前でメンバーと一緒にやったときに予期せぬことが起きて、それが見たことないところに連れてってくれることもあるもんね。僕なんか今でも「次のライブでもっととんでもないことが起きるかもしれない」ってことばっかり考えてる(笑)。
戸渡 今、いろんな方とセッションをする「戸渡陽太10番勝負」っていうイベントをやってるんですけど、「同じ楽曲でもドラマーが違うとこんなに色が変わるんだ」っていうのがめっちゃ面白くて。いずれ茂木さんにも出演をお願いできないかなと……。
──ぜひ! 僕は10番目で(笑)。
戸渡 本当に10番目にお願いしたいと思ってました(笑)。今回のアルバムのレコーディングで茂木さんに「Sydney」を叩いていただいたとき、恥ずかしくてその場では言えなかったんですけど、ホントにめっちゃ泣きそうになって(笑)。
──うれしい(笑)。レコーディングの翌日に「実はレコーディング中に泣きそうになってました。曲を動かしてくれたことに本当に感謝してます」っていうメールをくれたよね。
戸渡 茂木さんのドラムをきっかけに、重力のバランスみたいなものがいろいろ変わっちゃったんです。だから僕もあのドラムを聴いて歌とギターを録り直したんですよ。茂木さんが歌詞の世界観にすごく寄り添っていただいたのを感じました。
──ホントうれしいよ。あの曲はこれから先に大事な1曲になるだろうなって予感がすごくしたから、レコーディングのときは夢中で叩いた。
戸渡 2テイク目でバシッと決まりましたよね。
──そうだね。曲自体にすごくパワーがあるから、譜面とか全然見てなかったもんな。全部体に入れないとダメなタイプなんで、譜面を見るとダメなんですよ(笑)。
戸渡 不思議ですよね。僕も歌詞カード見ながら歌うのと見ずに歌うのとでは、違う気がする。あらかじめ考えてた歌詞だけで完結させるんじゃなくて、自分の中にあるその瞬間の心情をリンクさせながら歌うから、そうなるのかなと。
──僕も、活字の歌詞だけじゃなくて言葉にならない気持ちをどれだけプラスできるかっていうのが大事だと思ってる。戸渡くんは歌もそうだけど、ギターのストロークも1つひとつ言葉みたいだなって感じるし、そこをすごく大切にしてるんだろうなって思ってた。
戸渡 自分がどんなことを思ってるかって、実際は歌にするより会話したほうが伝わりやすいと思うんですよ。でもそれだと99%しか伝わってないと思ってて。残りの1%は音に乗せることでやっと伝わるんじゃないかと。僕は歌で100%伝えることを目指してるんです。
──ちなみに曲はすぐにできるほう? それともじっくり時間かけて作るほう?
戸渡 いろんなパターンがあります。なんとなく土台を作って1週間くらい寝かせたほうがいい曲と、「あ、これ一瞬で詞を書き上げないとダメなやつだ」みたいな曲と。「勢いで書かなきゃダメ」って思った曲が書き上がらないとショックですね(笑)。
──やっぱそれの繰り返しだよね(笑)。ずっと寝かしてた曲がポーンと降りてきたときの喜びも大きいよなあ。
戸渡 「すべては風の中に」っていう曲は作るのに5年くらいかかってるんです。
──5年かー。
戸渡 AメロとBメロだけ先にできてて、サビができないままになってたんです。この歌詞は10代の頃にしか書けなかった言葉だと思うんですけど、その当時は締めくくる言葉にまだ出会えなかった。でも半年前にある出来事があって、納得できる言葉が自分の中に見つかって、それと同時にメロディも降ってきて。寝かせに寝かせまくったから、腐ってなくてよかったです(笑)。
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- ニューアルバム「I wanna be 戸渡陽太」2016年6月15日発売 / cutting edge / JUSTA RECORD
- CD+DVD / 3564円 / CTCR-14911
- CD / 3024円 / CTCR-14910
CD収録曲
- Beautiful Day
- Sydney
- SOS
- Nobody Cares
- ギシンアンキ
- Nora
- さよならサッドネス
- 青い人達
- 木と森
- すべては風の中に
- 世界は時々美しい
- グッデイ
DVD収録内容
- Beautiful Day
- Sydney
- すべては風の中に
ほか全5曲のミュージックビデオ収録予定
戸渡陽太(トワタリヨウタ)
福岡出身のシンガーソングライター。2014年にロッキング・オン主催のコンテスト「RO69JACK」で入賞し、同年11月に初の全国流通盤となるミニアルバム「プリズムの起点」をリリースする。2015年にはiTunesが注目すべきアーティストを紹介する企画「NEW ARTIST スポットライト」に選出され、全国各地の大型イベントに次々に出演。“若きギター侍”と呼ばれ、凛とした佇まいとシンプルな楽器編成ながら躍動感のあるパフォーマンスで注目を集める。6月に初のフルアルバム「I wanna be 戸渡陽太」をリリースし、2016年に東京スカパラダイスオーケストラ主宰のエイベックス内レーベル・JUSTA RECORDからメジャーデビューを果たした。
茂木欣一(モテギキンイチ)
1967年生まれのドラマー。明治学院大学在学中の1987年にフィッシュマンズを結成し、同バンドで1991年にメジャーデビューする。1999年にボーカルの佐藤伸治が逝去したためフィッシュマンズは活動を休止。2001年に東京スカパラダイスオーケストラに加入し、ドラムのみならず「銀河と迷路」「世界地図」などの曲でメインボーカルも務めている。2010年からは加藤隆志(東京スカパラダイスオーケストラ、LOSALIOS)、柏原譲(フィッシュマンズ、Polaris、OTOUTA)とともにSo many tearsとしても活動している。