「脊椎盤」と「脊髄盤」の違いは
──今回の「Sebone」の「脊椎盤」と「脊髄盤」にはどのような違いがあるんでしょうか?
「脊椎盤」は、私が徐々に自分のことを曲に書けるようになっていく変化や、「自分の言葉を自分のこととして受け取られることが怖くなくなってきた」という変化、そのグラデーションが見えてくるアルバムだと思っていて。一方で「脊髄盤」は、今の私の姿勢がそのまま出ている曲たちが集まっています。曲の作り方も違いますね。「脊椎盤」は時間をかけて書いた曲が多いけど、「脊髄盤」はあえて瞬発力で書いた曲も多くて、「私のまんま」みたいな(笑)。そっちのほうが、人となりが出るじゃないですか。
──反射で曲を作るときって、どんな感じなんですか?
「自分らしいものってなんだろう?」と考えても、最初はどうすればいいかわからなかったから、まずは「日記をつけるように曲を書いてみよう」と考えたんです。どうせ自分のことも忘れちゃうから、忘れないように残す、という意味も含めて「1日2時間以内で曲を作る」というのをやってみようと。例えば皮膚科に行った待ち時間で曲を書いたり、友達と遊んでいるときに友達がトイレに行っている間に曲を作ったり(笑)。今思ったことをギュン!って感じで(笑)、曲にしていくという。
──歌詞とメロディは一緒に出てくるものなんですか?
前までは詞とメロディが全部一緒に出てきたんですけど、最近変わってきていて。今得意なのは、まずは詞を書いて、言葉の上がり下がりに合わせて音を出していくやり方ですね。でも、何も考えずに出す音だから、「これじゃつまらないな」ってときもあるじゃないですか。そういうときは、ドラムだけのビートを流してみたりして、リズムを決めたあとでメロディを当て直したりもします。なので、最近は詞とメロディが分かれていますね。
──さっき「日記をつけるように」と言っていましたけど、「脊髄盤」の楽曲たちを日記として考えてみたら、人には見せることができない日記の内容のようなことがたくさん歌われていますよね(笑)。
そうですね(笑)。でも、「見せられないな。でも、確かに思ったな」ということのほうが人間っぽいですよね。
──そうですね。
最近の私のテーマは「人間っぽい」なんです(笑)。「これ言っちゃダメなことだけど、確かに思っているな」という気持ちが自分の中で芽生えると、「私、人間だ」と思えてうれしくなる。実際に書いている日記も、人に言えないようなことばかり書いているし(笑)。
自分の気持ちをもっと人に言えるようになりたい
──「脊髄盤」の2曲目の「滅亡」なんて、タイトルからして激しいですよね(笑)。歌われている感情も、とてもエゴイスティックですし。
パソコンに向かって、シンセでかわいい音があったので弾いてみたんです。その音が、なんとなく「コロコロトゲトゲしてるな」と思って。で、「コロコロトゲトゲしているものってなんだろう?」と思ったら、「金平糖だ」って(笑)。「じゃあ、自分の中にある金平糖ってなんだろう?」と思ったら、ガリッとした、小っちゃい爆弾のようなものが浮かんだんです。人には言えないけど、普段からずっと奥歯に潜ませていて、「いつか噛んで爆発しても知らないぞ!」と思っている野望みたいなもの。そんなイメージが、最初に弾いたシンセの音から湧いてきて。それでAメロの歌詞が出てきました。あと、この曲を作っていた頃、「地球が滅亡する」みたいな噂が流れていたんですよ。
──ありましたね。
「なんだそれ?」と思いつつ(笑)、「今もし地球が滅亡するとしたら、今すぐ走って好きな人に会いに行きたいし、というかむしろ、一番幸せなときに地球が滅亡するって最高じゃない?」って。じゃあ、一番好きな人と一緒にいるときに、自分の力で地球を滅亡させることができたらいいのに……って妄想ですけど(笑)。もし今地球が滅亡するとしたら、やりたいことを全部やりたいし、言いたいことも全部言いたい。世間体なんて気にしていられない。でも、普段心のどこかで「ずっと生きてられる」と錯覚しながら行動してない?って考えると、自分に対しても「もったいないな」と思う。地球滅亡の噂が流れたとき、それを信じて「好きなことをやろう!」って生活していた人たちもいて。その姿を見て「なんかいいな」と感じたんです。「そんなバカな」と思いながら過ごしているけど、本当に地球が滅亡したら、何もしなかった私のほうがバカじゃんって。
──本当に、極端なくらい衝動や欲望が出ている曲ですよね。
私は人のことをなんでも許せてしまうところがあって。キリスト教にも「罪びとを赦しなさい」という教えがあるんです。ざっくり説明すると、人間は過ちを犯すものだから、裁き続けるのではなく、受け入れることで、自分も負の感情から解放されて楽になれる。正しくないことを無理に我慢する必要はないけど、憎しみに囚われないでいようという考え方なんです。大人になった今はまた違う考え方をできるようになりましたが、子供の頃は「赦すこと」ばかりに気を取られて、それが体に染み付いちゃっているというか。嫌なことを言われたときに、「なにくそ!」と言い返したいのに、それができない。友達が嫌なことを言われたら「私がカチコミに行くよ!」と言えるのに、自分に対してはそうなれない。そんな自分がすごく嫌だったし、いつも家に帰ってから1人で落ち込むのもすごく嫌で。嫌なことをされたら許したくないし、自分の気持ちをもっと人に言えるようになりたい。そういう気持ちが、この「脊髄盤」の曲たちにつながっていったんだと思います。
久米雄介と二人三脚で作った「脊髄盤」
──「脊椎盤」の楽曲では曲ごとにさまざまなアレンジャーやリミキサーの方々とコラボレーションされてますが、「脊髄盤」に関しては全曲、Special Favorite Musicの久米雄介(Vo, G)さんとの共同アレンジになっていますよね。「脊髄盤」を作るに当たり、久米さんとはどのようなやりとりをされましたか?
久米さんと初めて一緒に作ったのが「ブルーハワイ」(2022年8月リリースの配信シングル)という曲なんですけど、それからバンドセットでのライブではいつも一緒に演奏させてもらっていて。自分が感覚的なイメージを話したときに、それを一番うまくキャッチしてくれるのが久米さんなんです。今回もデモを久米さんに聴いてもらって、「ここはもっと柔らかい」「ここはもっと固い」「ここはもっとザラザラしている」とか、そういう感覚で久米さんには話すことができる。制作もデータを渡すだけではなく、実際に久米さんのスタジオにお邪魔して、隣で一緒にアレンジさせてもらうんです。なので、その場の勢いや瞬発力を大事にしながらアレンジをすることができて。
──久米さんは、いいセッションができる相手なんですね。
そうなんです。アレンジ作業に入る前に、一緒に絵を描いたこともありました。久米さんのスタジオにいっぱい画材があったから、「描きたーい」って言って、2人で絵を描いてから曲のアレンジをしたり。感覚で会話ができるし、助かりまくっています。
──とたさん、絵を描かれるんですね。
普段から絵を描くのが好きで、毎年、その月のカレンダーを自分で描いて1枚ずつ貼っているんです。絵って、描いているときは何も考えていないけど、完成した絵を見たら「こういうことなんだな」って、なんとなくわかるときがあって。考えずに出てきたものの理由を探す時間が楽しいんです。久米さんと絵を描いたときは、あえて筆を洗わずに色を順番に足しながら描いたんです。普通だったら筆を洗わないと色が混ざっちゃうけど、前の色が筆に残った状態で新しい色を重ねて、その筆で紙に点描みたいに描いていって。できた絵を見たら、ギュッと目をつぶったときに見える景色みたいでした。本当に頭を空っぽにできた感覚があったし、筆を洗わずに色を重ねるって、自分がたどってきたものを見るような感覚になるんだなと思いました。久米さんは最近アンビエントアルバムを作っていて、自分でイラストも描いていると言っていましたね。
──とたさんの音楽も、歌がありビートがある音楽ですけど、どこかでアンビエント音楽のような質感がありますよね。特にこうしてアルバムとしてまとまると、それを如実に感じます。
ああ、そう言っていただけるのはうれしいです。
ようやく「背骨」を手に入れることができる
──改めて、「脊髄盤」の最後を飾る楽曲「螺旋」がどのように生まれたのか、教えていただけますか?
このアルバムを作る過程で「背骨」という言葉にたどり着いたとき、それを象徴する曲を作りたいと思って「螺旋」ができたんです。「今の自分の姿勢をどう見てもらいたいか」「自分は今どうありたいか」……そういうことを夜中に泣きながらノートに書き殴って、それをまとめたのがこの曲で。人は、経験や環境から何かを選択していくし、選び取るものって、ずっと螺旋状に存在していると思うんです。でも私は、その螺旋の中心になるべきものがまだ不確かで。私は、柱のない螺旋のようなもの。でも、それは裏を返せば、私は歌いながら「これを柱としたい」というものを選び取れるということなんですよね。それをとたとして歌うことで、私はようやく「背骨」を手に入れることができるんだと思う。自分で自分のことを信じられないと、自分が信じたいものにも自信を持てないような気がするんです。だから、自分を信じるところから始めたい。その思いを「螺旋」に込めました。
──この曲をライブで演奏したらどんな気持ちになるんでしょうね。
どうなんだろう……。まだわからないです。でもミックスも終えたこの曲をスタジオで聴いたとき、完成した自分の曲を聴いて初めて泣きました。「螺旋」は、ずっと言いたかったけど言えなくてお腹に溜まっていたものが、ようやく吐き出された……そんな曲なんです。この曲を作っていた期間は短いけど、私はずっとこいつと一緒に人生を歩いていた気がする。「短かったのに、長かったなあ」という気持ちになりました。
2026年のとたは「人間になりたい」
──この「Sebone -脊椎盤-」「Sebone -脊髄盤-」の2作を発表してからの2026年を、とたさんはどんなふうに活動していきたいと思っていますか?
自分を人として見てもらえることを、もっとやっていけたらなと思います。最近、YouTubeでゲーム配信をしながら、その日あったことを話したり、「クソが」って言ってみたりしているんですけど(笑)。
──(笑)。
そういうことができるようになってきたのが、今はうれしくて。「自分はひとりの人間である」ということを、もっと濃くしていきたいです。SNSに投稿する文章も、前までは何かを包み隠しているような文章だったけど、なんの気ない独り言みたいなことも、もっと言っちゃっていいなと思うし。そうすることで、音がするような文章、私の声が聞こえるような文章になっていくんだろうなと思うので。今年は、人間になりたいです(笑)。
プロフィール
とた
“名前が付く前の感情”を歌にするアーティスト。幼少期からクラシックやポップスなど、幅広いジャンルの音楽に親しんで育つ。2021年、自作曲やカバー曲をネットに投稿したことをきっかけに音楽活動を開始。2023年2月にリリースした「紡ぐ」は、ストリーミングおよび動画共有サイトで累計20億回再生を突破している。約3年ぶりのニューアルバム「Sebone」の“脊椎盤”を2026年2月に、“脊髄盤”を3月に配信リリースした。




