とた「Sebone」インタビュー|3年の変化を経てたどり着いた“今”

シンガーソングライター・とたが、2枚で1つのニューアルバム「Sebone」をリリースした。

「Sebone」は、2023年2月発売の「oidaki」以来約3年ぶりのフルアルバム。同年9月リリースの「カメラロール」以降のシングルや未発表曲を収録した「脊椎盤」と全曲新録の「脊髄盤」の2枚、合計23曲にこの3年間の歩みが凝縮されている。

アルバムのリリースに合わせ、音楽ナタリーではとた本人にインタビュー。自身のことを少しずつ歌えるようになったという心境の変化、そして収録曲に込めた思いについて話を聞いた。

取材・文 / 天野史彬撮影 / 堅田ひとみ

3年間の変化をグラデーションで伝えるアルバム

──とたさんは、この3年間で発表してきたシングル曲を中心にまとめた15曲入りの「Sebone -脊椎盤-」と、新録曲8曲を収録した「Sebone -脊髄盤-」という2枚のアルバムを2カ月連続でリリースされました。「脊髄盤」の最後に収録された「螺旋」を聴き終えたとき、とても感動しました。

ありがとうございます。

とた

──前作「oidaki」(2023年リリースの1stフルアルバム)を聴いたときにも感じたことですが、とたさんにとって「フルアルバムを作る」という行為は、単純に曲を並べるだけの作業ではないと思うんです。そのときどきのとたさんが感じている温度、感触、色彩……そういったものを、アルバムを作ることで捉えようとしている感じがします。ご自身としては、「oidaki」と今作「Sebone」の間にはどのような変化が生まれたと感じていますか?

「oidaki」には一応コンセプトがあったんです。「自分の幼さを思い出しながら、それすらも抱き締める」という。なので、過去を振り返りながら自分にものを言っているようなところがあって。対して、「Sebone」はコンセプトありきでまとめたものではなく、この3年間で私がどう変化してきたのかが、グラデーションで伝わったらいいなと思いながら作りました。前作を出したあとからひとり暮らしをするようになって、曲作りの仕方や環境が変わったのもあって。

──ひとり暮らしを始められたことは、とたさんにとって大きなことでしたか?

めちゃくちゃデカかったです。それまでは実家だったんですけど、東京に来たこともなかったし、実家では当たり前だったことが、外に出たらそうじゃないということにも直面して。それに気付けたことは、上京してひとり暮らしを始めてよかったと思うことの1つですね。

──ひとり暮らしを始めてよかったと思うことのほうが多いですか?

そうですね。自分がどういう環境で生きてきたのかって、別の場所に行ってみないと気付けないじゃないですか。私は、実家にいた頃は親が過保護気味だったんです。それに、自分で自分の選択をしているという感覚があまり持てなくて。私の親はクリスチャンで、私も生まれた頃からずっと「同じように神様を信じてね」と教えられてきたんです。最初から与えられてきたから、信じるものを自分で選び取るという感覚がなかった。何かがうまくできても、「神様に感謝してね」と言われるから、それが自分の力によるものだとは思えなかったし、ずっと自信がなかったんです。「oidaki」は過去を思い出す時間がたくさんあったから作ることができたアルバムだけど、「今の自分のことを、自分の言葉で話したい」と思っているのに、それを誰かに聞かれるのが怖いと感じている節もあった。でも、過去を歌った曲だったら、何を言われたとしても「過去のことだしな」と言える。「oidaki」の頃は顔出しもしていなかったし、そういう逃げ道を作りながらやってたと思うんです。

──はい。

でも、顔出しをしたり、ライブをするようになったり、という変化の中で「自分を自分として見てもらいたい」「自分で自分のことをもっと信じられるようになっていきたい」という気持ちが出てきた。私は素直なタイプなので、環境をひとつずつ変えていけば、自分自身も少しずつ変わっていけると信じていて。ちょっとずつ今の自分のことを歌えるようになっている理由は、やっぱりひとり暮らしを始めたからだと思うんですよね。変化できる環境に身を置かなければ、自分で「嫌だな」と思っていることを「変えたい」とすら考えなかったかもしれないです。

とた

わかられることは、怖いことじゃない

──今の自分のことを歌えるようになったという変化は、この3年間の中でどのように生まれていったんですか?

特に「脊椎盤」の曲を振り返ると思うけど、ハッキリとこの瞬間に変わったという感じではなく、徐々にグラデーションのように、自分のことを書けるようになっていったんです。ただ、ひとつはっきりと覚えているのは、「催眠術」(2025年11月リリースの配信シングル)を制作していたときに、プロデューサーの川谷絵音(indigo la End、ゲスの極み乙女、ジェニーハイ、ichikoro、礼賛)さんにいろいろと話を聞いてもらって「わかられることは、怖いことじゃないんだ」とすごく感じたことですね。

──川谷さんとの制作は大きな出来事でしたか?

そうですね。いくつか候補がある中から「催眠術」を選んでもらって一緒に制作することになったけど、ほかの曲についても「こういう曲になっていきそう」って、曲のたどり着く先を見据えた話を川谷さんはしてくださって。こんなに小さい種なのに、そこからどんな花が咲くかが見えているのがすごいなと思いました。

──上京して、ひとり暮らしを始めて、例えば「どんな場所で作るのか」とか、「どんなタイミングで作るのか」とか、そういった部分で曲作りに変化はありましたか?

私は散歩が好きなんですけど、散歩をしながら曲を書くようになりましたね。「あるく」は外を歩きながら作ったんです。実家にいるときは、曲を作るならクローゼットの中かベッドの中という感じだったけど、上京してからは、ギターを担ぎながら散歩をして、行った先でギターをぽろぽろ弾きながら曲を作っていて。「絶対ここじゃなきゃ作れない」というわけではなく、むしろ曲作りができる場所の選択肢が増えた気がしますね。

──とたさんにとって散歩中はどんな時間ですか?

「何かをキャッチしよう」という気持ちが、ふわっと、ずっとあるんですよね。何かとの出会いを求めながら歩いている感じはします。頭の中にずっと独り言があって、その独り言が、散歩をすることでほかの何かと接触点を持つことを期待しているというか。独り言と“何か”が散歩中に「はじめまして」の出会いをして、そこで新しいものが生まれたらいいのになって、そんな気持ちを抱えながらずっと歩いています。

「とた」は場所

──ご自身で歌詞を書き、それを歌うという行為については、今どんな思いがありますか?

この3年で特に感じたのは、自分が「とた」という場所で歌うことで、絶対に面と向かって言えない、でも心の奥で「知ってほしい」と思っていることを伝えられるんじゃないか、ということ。「螺旋」という曲もそうなんですよね。親が信じているものを、自分も当たり前のように信じる必要はないと私は感じている。でも、親はきっとそうではなくて、私が親と同じものを信じることで幸せになれると優しさで考えてくれている。そんな中で、「私は同じものを信じません。私は私を信じるところから始めます」って親に直接伝えるのはすごく難しいことなんです。でも、そういううまく言えないことも、歌だったら伝えられるかもしれないし、私がどこかにいなくなったとしても、いつか届くんじゃないかって。「Sebone」を作る中で、「とた」という場所で歌えることは幸せだなと改めて感じましたね。「ここがあってよかったな」と思います。

──「とた」という、ご自身のことを「場所」とおっしゃるんですね。

確かにそうですね。ナチュラルに「場所」だと思ってました(笑)。

──僕は「螺旋」を聴いたときに、この曲はとたさんのパーソナルな部分から生まれた曲なのだろうなと感じつつ、「この曲の中には自分もいる」と感じたんです。なので、とたさんがご自身のことを「場所」と言うのは、すごくしっくりきます。

うれしいです。

とた

変化してきた「薔薇の花」のあり方

──「脊髄盤」には「薔薇の花_Sebone」という曲が収録されていますが、そもそも「薔薇の花」というタイトルの曲は「oidaki」にも2バージョン収録されていましたよね。

「薔薇の花」は、自分の中で何かが更新されるたびに、その更新されたことを書ける唯一の場所として置いている曲なんです。今はほかの曲でも自分のことをたくさん書けるようになったから、今回の「薔薇の花」ではアルバムを作っているときの生活を残しておこうと思って。

──「薔薇の花_Sebone」には「空っぽを埋める空みたいに 意味になるまで歌うよ」という歌詞があります。とたさんにとって、「意味になるまで歌う」というのはどういうことなんですか?

曲の最初のほうで「ビルの隙間 吹いた寂しさ 穴があるから鳴る音があった」と書きましたが、街を歩いていたときにビル風がシューッと吹いて、音が鳴った瞬間があったんです。そのとき「ビルの隙間の空っぽには、空が埋まっているんだ」と思ったし、「自分も、穴があるから歌えることがあるんだ」と感じて。「空っぽ」だと思ってた場所に「空がある」と思えたら、そこに意味が生まれる……私の書いた歌がふとした瞬間に立体的になって、聴いている人の意味になっていたらいいなと思います。自分の曲を、自分であとから聴いても「この歌詞、今のほうがしっくりくるな」と感じることがあるんですよ。言葉って、時間を経ることで意味が育つものだなと思います。

──なるほど。

「薔薇の花_Sebone」を作ったときに思い出したのが、「紡ぐ」(2023年2月リリースの配信シングル)を書いたときのことで。空ってずっとそこにあるものだけど、何気なくふと見上げたときに、「これは自分のためにあるんじゃないか」と思えるような瞬間があって。そんな場所で私も歌っていられたらいいなと、「紡ぐ」を書いたときに思ったんです。例えばファンの方でも普通に生活をしていたら、私の音楽を聴かない時間のほうが多いのが当たり前じゃないですか。でも、ふと聴いたときに「あ、これは私のためのものかも」と思ってもらえる歌を歌いたいなと。「紡ぐ」を書いたとき、空みたいな存在になりたいと願ったし、「薔薇の花_Sebone」を作ったときに改めてそうなれるように歌っていきたいと思いましたね。