ナタリー PowerPush - Toshl
洗脳のサブテキスト
「DAHLIA」レコーディングの苦悩
──そういった素晴らしい出会いが描かれる一方で、本にはToshlさんと守谷香元夫人の馴れ初めについても書かれています。
はい。心が病んでいるときや不安なときや傷ついているときって、自分の弱さもあるんですが、やっぱり何もかも信じられないって気持ちになる。そんなときに、彼女はこれまでの人とは違う優しげなアプローチで現れたんですね。それで心の拠り所になってしまったんです。
──その結果、Toshlさんは元夫人に導かれるようにMASAYAさんと出会い、搾取の日々が始まっていくわけですね。そもそも元夫人と出会う以前、Toshlさんを心から愛してくれる相手だったり、逆にToshlさんが心の拠り所にできる人はいなかったのですか?
まあ男性も女性もそうなんですけど、僕自身が人と真摯に向き合ってお付き合いすることがなかったような……。自分がそういう薄っぺらい人間だったということですね。スターダムにワーッとのし上がってしまったので、浮ついていたり、調子に乗っていたり、軽薄だった部分があったと思います。そんなふうに自分自身がちゃんとしていないのに、ちゃんとしたお付き合いとか、ちゃんとした相手を求められないですよね。
──そしてToshlさんがMASAYAさんに傾倒していくきっかけの1つとして、X JAPANが1996年に発表したアルバム「DAHLIA」のレコーディングが壮絶であったことが書かれています。「DAHLIA」の制作はそれほど大変だったのですか?
まずは「DAHLIA」のレコーディングが壮絶というよりも、家族が起こしたトラブルが大変だったんですね。本にも書きましたが、素行の悪さが目立った長兄に事務所の社長を辞めてもらったり、母親がお金を取ってファンを実家に入れていたり。そういったことでX JAPANのほかのメンバーに迷惑をかけてしまって、僕のほうにクレームも何度も入るようになっていったんです。そしてそれに対する家族の対応も非常にまずいものがありまして。
──家族のことでバンドに迷惑をかけてしまったという負い目が生まれたんですね。
そうですね。さらに次に個人事務所の社長を任せた人物も金銭トラブルを起こしてしまった。彼はデビュー前からの友人なんですけど、X JAPANの事務所の社長にまでなったのにバンドに甚大な迷惑をかけてしまって。それが尾を引いていろいろなトラブルが続き、X JAPANの活動が非常に危うくなっていって……。
──金銭トラブルを起こしたというのは、本の中では“竹田氏”という仮名で登場する人物。
ええ。そういうことがバンバンバンバンと続いたものですから、もう僕はメンバーに顔向けできなくなってしまったんです。さらに、そんなふうに自分が信頼していた家族や友人がお金や利権などで豹変していくのを見て、「自分がそうさせてしまったんじゃないか」っていう自己嫌悪も生まれてきて。自分はよかれと思ってやっていたことのために、すべてが崩壊していく感じ……さらにそれでX JAPANに迷惑をかけてしまっている。それが心の大きな溝になっていったんです。
──それが「DAHLIA」のレコーディングの時期と重なってしまっているんですね。
はい。そしてその頃YOSHIKIは、Xの方向性をすでに世界に向けていたんです。でも僕としては、自分のボーカルの技術や世界進出への思いが足りていないこともあり、自信がなかった。そういうことが重なってしまって、「どうしたらいいんだ」みたいな状況に陥ってしまったんです。
自分のボーカルで世界に挑戦するのは無理
──バンドに迷惑かけているという負い目と、技術や思いが追いつかないという負い目が重なってしまった。
そうですね。YOSHIKIはやっぱりいろいろ勉強するし、何でもがんばります。でも僕は世界進出に対する意欲というか……自分のボーカルで世界に挑戦していくっていうのは無理じゃないかなって思って。
──なぜそう思ったのですか?
ちょうどXが世界に舵を切り始めた頃って、Nirvanaがいたりして、グランジが全盛で。ほかにもAerosmithやU2もいたし……僕はそういったエンタテインメントの最前線であるロサンゼルスに住んでいましたから、リアルにそういう人たちのすごさを感じていたんです。ショービジネスの本場であるアメリカで本気でやっていくってことが……僕の場合、当時はちょっと日本から出て、試しでやってみようって安易な気持ちで入ってましたから、バンドに迷惑をかけてしまうかもしれないというか。「家族のトラブルでも迷惑をかけているのに、さらに自分の気持ちやテクニックの部分で迷惑をかけてしまったら」っていう不甲斐なさにさいなまれて。
──Toshlさんから見てもNirvanaやU2、すごかったですか?
やっぱりもう、圧倒的なボーカルの存在感というかね。うまいとか下手とかじゃなくて、“心の叫び”みたいなパワーがあって。ものすごいムーブメントで、熱かったですよ。それをロサンゼルスでモロに感じていましたので、「あんなパワフルな人たちの中で、まともに英語の発音もできないのに」って、そんな気持ちがありました。ネガティブだったんですね。
──今の日本のアーティストの躍進を見ていると、当時のX JAPANも世界で一目置かれるような存在になった可能性は十分にあったと思いますが。
いやいやそんなことはないです、当時の僕のボーカルでは無理ですけど。でもあれから20年くらい経って、今はいろいろ状況が変わってきたんでしょうね。海外の人たちが日本のカルチャーに興味を持ってくれている。当時はヨーロッパやアメリカが絶対でしたから。日本人の英語のアクセントとかも「まあそれも日本人の味なんじゃない」とか、肯定的に見てくれる。そういうふうに時代が変わってきているんだと思います。もちろん本気でワールドワイドな活動に挑戦するというのはとんでもなく大変だと思いますけど。
──ともあれToshlさんは、フロントマンとして相当な重圧を抱えていたんですね。
ええ。やっぱり言葉の壁。当時YOSHIKIは発音に対してもシビアで、「負けないぞ」っていう気持ちが強かったんで。でもネイティブな発音にこだわるとなっても、その前段階のレコーディング時の要求……例えばピッチやリズムに対する要求にも自分としてはなかなか応えられていなくて。レコーディング自体も深く追求していくような作業で、まさにアートを作っていくような感じだったから、1曲歌うのに何カ月もかかっていて。そこにさらに発音の要求まで加わってしまったから「とてもじゃないけど無理だよ……」って感じになっていたんですね。
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内容
- 父のこと
- X JAPAN脱退と解散
- HIDEの死
- ホームオブハートとの出会い
- 巧妙な勧誘
- 執拗な暴力と罵倒による洗脳
- 「洗脳騒動」
- 呪縛と搾取
- YOSHIKIとの10年ぶりの出会い
- X JAPANの再結成
- 自己破産、衝撃の真実
- 脱会の決意と戦いの日々
- 奇跡の出会い
- そして、今……
- 配信シングル「未来をEYEしてる」 / 2014年6月18日発売
- 「未来をEYEしてる」
- 下記サイトにて配信中!
- レコチョク
- iTunes Store
- TSUTAYA DISCAS
- OTOTOY
- Amazon.co.jp
- mora
- KKBOX
Toshl SUMMER LIVE「ロート製薬PRESENTS Vロート50th ANNIVERSARY CRYSTAL ROCK NIGHT SUMMER LIVE IN DAIBA 未来をEYEしてるゼ」
2014年8月25日(月)
東京都 Zepp DiverCity TOKYO
<CRYSTAL ROCK KNIGHTS>
Toshl(Vo) / Shinya(Dr / DIR EN GREY) / 圭(G / バロック) / 結生(G / MERRY) / 明徳(B / lynch.) / Kate(Cho / My Fairytale)/ 小瀧俊治(Piano)
「洗脳~地獄の12年からの生還~」刊行記念
Toshlサイン本お渡し&握手会
2014年8月10日(日)
大阪府 紀伊國屋書店 グランフロント大阪店 店内特設会場
START 14:30
Toshl(トシ)
1989年にX JAPAN(当時はX名義)のボーカリストとしてメジャーデビュー。1992年にシングル「made in HEAVEN」と同名のアルバムをリリースし、ソロでの活動もスタートさせる。1997年にX JAPANを脱退し、ソロアーティストとしての活動を本格化させることを表明した。2007年にX JAPANが再結成を発表すると、2008年には東京ドームで3日間にわたる再結成ライブ「攻撃再開 2008 I.V.~破滅に向かって~」を成功させた。翌年には体調不良から一時活動を休止するも、2010年に名前をToshlと改め本格的に活動を再開。以降、X JAPANの活動とソロワークを並行して行っている。2014年6月にはソロシングル「未来をEYEしてる」を配信リリース。7月には、MASAYAが主宰するホームオブハートからマインドコントロールを受けていたという12年間の日々をつづった著書「洗脳~地獄の12年からの生還~」を上梓した。