ナタリー PowerPush - Toshl
洗脳のサブテキスト
Toshlの著書「洗脳~地獄の12年からの生還~」が発売された。
この本は1990年代後半に世間を賑わせたToshlとホームオブハートを巡る「洗脳騒動」についてToshl自身がつづったもの。Toshlはホームオブハート主宰のMASAYAとの出会いや家族との争い、元妻の裏切り、暴力と搾取の日々など、自身がマインドコントロールされていたという12年間の日々を明かしている。
Toshlはなぜ、今この本を出版したのか。今回ナタリーは本人に話を聞く機会を得た。
取材・文 / 加藤一陽 撮影 / 小原啓樹
うわ、いまだにこんなことやってんのか!
──Toshlさんの洗脳騒動が世間を賑わせたのが1998年で、ToshlさんがMASAYAさんとの決別を伝える記者会見を開いたのが2010年でした。それから4年が経っていますが、この本を書こうと思ったのはいつ頃だったんですか?
執筆を始めたのは2013年の1、2月あたりですから、1年半くらい前ですね。一連の騒動についてまとめようとはずいぶん前から考えていたんです。2010年の記者会見のときにも「いつか洗脳騒動についてまとめたい」ということは伝えていて。
──それくらい前から考えていたものを、ようやく本として形にしたということですね。このタイミングでの出版になったのは?
あるとき、オーガニックショップに無農薬のリンゴを買いに行ったんです。そういう食生活をしているものですから。そのお店でMASAYA……今はMARTHっていう名義で活動しているんですが、そのMARTHのCDがかかっていたんです。そしてそのお店にはMARTHの本とCDも売っていて。それを見たのが本を書こうと思った直接のきっかけになりました。僕もMASAYAのCDを聴いて「洗脳」の世界に入ってしまった。CDが勧誘の入り口というか、洗脳の入り口になってしまったわけですから。
──お店でMARTHさんの音楽が流れていることに気付いたとき、Toshlさんはどういう気持ちでしたか?
「うわ、いまだにこんなことやってんのか!」って。そして次にそのオーガニックショップに行ったときには本が1冊売れていたんです。で、「……これはまずい」と。その本を買って付いているハガキを送ってしまうと、向こうから電話がきて……っていうのが、僕が逆の立場で実際にやっていた手口なので。それでまた新たな洗脳の被害者が出たらまずいなって思いましたね。だから本を書こうって。自分の責任として、経験を何かにまとめなければならないんじゃないかって。
被害金額は10億円
──今回の本には、Toshlさんがマインドコントロールされていたという12年間を軸にしつつ、個人事務所を立ち上げた1993年あたりから2010年頃までのことがつづられています。読んでいてまず驚かされたのが、1つひとつの描写がとても詳細だったことでした。よくこんなに細かく覚えているなと。
本を書く前段階で僕は破産申し立てをしていたので、裁判のために陳述書を書かなければならなくて。破産管財人に細かい部分を伝えるために、いろいろ思い出さなければならなかったんです。その思い出す作業が膨大で、ものすごく時間がかかりました。しかもフラッシュバックや過食に悩まされたり、部屋の中で暴れ回って資料を壁に投げつけたりして。本当に身を削る思いというか……まあ自業自得なんで仕方がないんですけど。
──洗脳の日々を思い出すことは、それほどつらいことだったんですね。
忠実に振り返らないとこの問題はしっかり提起できないと思っていましたので、詳細に至るまでけっこう深く入り込んでいきましたね。あとはMASAYAの被害者の方や、MASAYAの被害者を守る活動をしている紀藤(正樹)弁護士のような、洗脳されていたときの僕の敵だった方々。彼らが、僕が事件の細部を思い出せるように促してくださったり、献身的に資料を整理してくださって。
──騒動の経緯やマインドコントロールの手口はもちろんですが、ToshlさんとMASAYAさんが初めて出会ったときのMASAYAさんの服装や挙動までもが細かく描写されていて。
そうですね。思い出すんです、映像のようにといいますか。逆に言えば情景とか会話とかがはっきりと思い出せるくらい印象的なことが多かったんですね。だから本にはそういう部分もなるべくしたためるようにして。読んでいる方にリアルに伝わるようにということを念頭に置いて執筆していきました。
──ロックスターとしてトップまで上り詰めたToshlさんの話ということもあり、ノンフィクションとはいえ小説みたいでした。
僕は芸能人なので、被害金額も10億円……本当はもっとありますけど、それくらい大きかったんです。でも僕の裏にもたくさんの被害者がいて、その中には一般の主婦の方もたくさんいます。その方たちからすれば数百万や数千万も本当のかけがえのない一生懸命働いたお金。金額の大小はあるにせよ、それを超えた大きな被害……本当に悲惨な被害なんですね。
──なるほど。
お金もそうだし、そこに人生を費やしてしまうっていう時間のロスは本当に取り返せないんです。僕の場合も洗脳に費やした期間が長すぎた。人生の中でも一番よいときを使ってしまったんですね。後悔したくない話なんですけど、それはもう二度と戻らない一番エネルギッシュな時代でした。だから二度とそういう詐欺集団というか、洗脳集団に引っかかる人が出ないようにしなければなりません。
──そういう思いを込めて書かれた本。タイトルがまずセンセーショナルというか、ナタリーでニュース(参照:Toshl「洗脳~地獄の12年からの生還~」刊行)を出したときも、驚きの声がたくさん上がっていました。Toshlさんは、もうマインドコントロールから完全に抜けたということですよね?
ええ、この本で書かれているような洗脳という鎖からは逃れましたが、そのときに受けた思いと傷は簡単には消えません。今後もそれと戦う日々になると思います。あと、人って世の中のあらゆるものに影響を受けると思うんです。
──はい。
だから、どこまでを“洗脳”というのか。人って親であったり、人物だったり、国からも影響を受けるかもしれません。本の「奇跡の出会い」という項で本当に素晴らしい出会いがあったことを書いていますけど、そういうふうに自分にいい影響を与える出会いもあります。しかし逆にそれが偽りであって、いい人だと思っていた人に裏があったりすることもある。……まあ人生って難しいです。だから自分の弱さとか危うさとかがあるときにこそ脇を締める。世の中には優しい話だったり、楽できる話とかがあると思うんです。でもそういう話が出てきたときこそ、そこに落とし穴があったりします。だから人をちゃんと見たり、自分自身をちゃんと見つめたりすることが大事なんですよね。
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内容
- 父のこと
- X JAPAN脱退と解散
- HIDEの死
- ホームオブハートとの出会い
- 巧妙な勧誘
- 執拗な暴力と罵倒による洗脳
- 「洗脳騒動」
- 呪縛と搾取
- YOSHIKIとの10年ぶりの出会い
- X JAPANの再結成
- 自己破産、衝撃の真実
- 脱会の決意と戦いの日々
- 奇跡の出会い
- そして、今……
- 配信シングル「未来をEYEしてる」 / 2014年6月18日発売
- 「未来をEYEしてる」
- 下記サイトにて配信中!
- レコチョク
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- TSUTAYA DISCAS
- OTOTOY
- Amazon.co.jp
- mora
- KKBOX
Toshl SUMMER LIVE「ロート製薬PRESENTS Vロート50th ANNIVERSARY CRYSTAL ROCK NIGHT SUMMER LIVE IN DAIBA 未来をEYEしてるゼ」
2014年8月25日(月)
東京都 Zepp DiverCity TOKYO
<CRYSTAL ROCK KNIGHTS>
Toshl(Vo) / Shinya(Dr / DIR EN GREY) / 圭(G / バロック) / 結生(G / MERRY) / 明徳(B / lynch.) / Kate(Cho / My Fairytale)/ 小瀧俊治(Piano)
「洗脳~地獄の12年からの生還~」刊行記念
Toshlサイン本お渡し&握手会
2014年8月10日(日)
大阪府 紀伊國屋書店 グランフロント大阪店 店内特設会場
START 14:30
Toshl(トシ)
1989年にX JAPAN(当時はX名義)のボーカリストとしてメジャーデビュー。1992年にシングル「made in HEAVEN」と同名のアルバムをリリースし、ソロでの活動もスタートさせる。1997年にX JAPANを脱退し、ソロアーティストとしての活動を本格化させることを表明した。2007年にX JAPANが再結成を発表すると、2008年には東京ドームで3日間にわたる再結成ライブ「攻撃再開 2008 I.V.~破滅に向かって~」を成功させた。翌年には体調不良から一時活動を休止するも、2010年に名前をToshlと改め本格的に活動を再開。以降、X JAPANの活動とソロワークを並行して行っている。2014年6月にはソロシングル「未来をEYEしてる」を配信リリース。7月には、MASAYAが主宰するホームオブハートからマインドコントロールを受けていたという12年間の日々をつづった著書「洗脳~地獄の12年からの生還~」を上梓した。