TOMOO「Cinderella」インタビュー|異なる価値観に揺さぶられる感情、ソウルフルなラブバラードで描きたかったもの

TOMOOが1月13日に配信シングル「Cinderella」をリリースした。

2022年8月にポニーキャニオン内のレーベル・IRORI Recordsから配信シングル「オセロ」をリリースし、メジャーデビューを果たしたTOMOO。サウンドプロデュースにBREIMENの高木祥太を迎えたメジャー3作目の楽曲「Cinderella」は、ブラックミュージックの雰囲気をまとったソウルフルなラブバラードに仕上がっている。

音楽ナタリーでは、現在全国ツアー「TOMOO 1st LIVE TOUR 2022-2023 "BEAT"」を開催中のTOMOOにインタビュー。「Cinderella」の制作秘話はもちろん、メジャーデビュー以降の活動やライブに対する思いについて話を聞いた。

取材・文 / もりひでゆき撮影 / 草野庸子

メジャーデビューした実感はまだ半分くらい

──メジャーデビューから約5カ月が経ちましたがいかがですか?(取材は2022年12月中旬に実施)

あっという間で、怒涛の日々でした。曲作りに関して言うと、今まで知り合えなかった人との出会いもありつつ、これまでの延長線上にいるイメージで進んでこられたと思います。いろんな場所で自分の曲を耳にしてもらえる機会がシンプルに増えたので、長らくファンでいてくれる人だけでなく、今まで私のことを知らなかった人からのリアクションがたくさん耳に届くようになったこともうれしいことでした。ただ、メジャーデビューした実感はまだ半分くらいかもしれない(笑)。いまだに「本当なのかな⁉」と思う瞬間もあるので。

──前回のインタビューでは、街中でご自身の曲が流れているところに遭遇したことがないとおっしゃっていましたよね(参照:TOMOO「オセロ」インタビュー)。

結局、「オセロ」は1回も聴けませんでした。でも、次に出した「17」は一度だけ薬局で聴くことができたんです。お会計してるときに流れてきて、「いやーこの曲、私が歌ってるんですけどね!」と口に出さず、心の中で思っていました(笑)。そういう経験がもっと増えたら、メジャーデビューしたと実感できるのかも。

TOMOO

──メジャーデビュー以降はイベントにも多数出演されていますよね。

そうですね。サーキット系のイベントにもたくさん出演しました。しばらくそういったイベントには出ていなかったので、「ひさしぶりだなあ」と思いながら楽しんでステージに立っていました。「TOMOOとはどんなもんなのかな?」みたいな感じで観てくださる新しいお客さんも多かったと思います。メジャーデビューを経て、私のことを知っている方がジワジワと増えているのかもと思いましたね。あと9月に大阪でスリーマンライブがあったんですけど。

──Music Club JANUSで開催された「GLICO LIVE "NEXT"」ですよね。Cody・Lee(李)、ステレオガールと共演しました。

その日の出演者はみんな同世代で、私が10代の頃からイベントなどで縁のあった方々だったんですよ。それぞれががんばって、大きくなったタイミングでお会いできたので少し感慨深くなりました。

ここ数年で一番楽しかった渋公ワンマン

──8月にはTOMOOさんにとって自身最大キャパとなる東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)でのワンマンライブ「TOMOO one-man live "Estuary"」もありました。

あの日はここ数年で一番楽しかったんですよ。私はわりとごちゃごちゃ難しく考えがちな性格なので、ライブが終わるとすぐに「あそこがダメだったな」「もっとこうしたらよかったな」と反省してしまうんです。でも、あの日はライブを終えたとき、シンプルに「楽しかった」「幸せだった」「熱かった」と思えた。その理由はたぶん、昔と比べて気持ちがお客さんに対して向かっていたからだと思う。コロナ禍を経たことも影響しているかもしれないけど、活動を続けてきた中で心がだんだんオープンになってきて。自分1人でがんばるのではなく、お客さんからエネルギーをもらいながらライブをすることができた。そういう感覚はライブにおいて自分が目指してきたものでもあって。だから怖い気持ちもほとんどなかったし、会場を狭く感じたワンマンになったんだと思います。

──ハンドマイクを使って、ステージを動きながら歌うシーンも多かったですよね。

そうですね。ライブでハンドマイクを使うようになったのは最近なんですけど、それによってお客さんとの距離が近くなった感覚があります。渋公でのワンマンをしっかり楽しめたのもそれが1つの理由だったと思う。ピアノの前に座った弾き語りのスタイルだと、見せるという部分ではやっぱり限界がありますからね。

──弾き語りとハンドマイクという2つのスタイルがあることでライブの構成に広がりは生まれますよね。

はい。だからどっちも広げていきたい気持ちは強いです。ハンドマイクが多かった渋公を経たことで、改めてピアノをガッツリ弾きたくなったりもしてるんですよ。演奏にアドリブを盛り込んだりすることに苦手意識があるから今まではあまりやってこなかったんですけど、今後はそういうこともどんどんやってきたいです。ハンドマイクでお客さんとしっかりコミュニケーションをとる一方で、弾き語りではもっとピアノと一心同体になれたらなって。

TOMOO
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ハンドマイクで歌うとお芝居をしている感覚になる

──活動を続ける中でバンドスタイルでのライブも多くなってきましたよね。そこに関してはどんな思いがありますか?

増えてきたとはいえ、バンド編成のワンマンライブは数えるほどしかやっていないので、そこにどう向き合うべきなのかはまだ探り中というのが正直なところです。ただ、後ろにバンドの方々がいてくれることが自分にとってのエネチャージにはなっていて。昔はバンドの音がわしゃーっと入ってくることへの戸惑いがあったりしたけど、今は逆にバンドがいてくれる頼もしさを感じてます。さらに言うと、バンド編成の中でハンドマイクを使って歌っていると、演劇というほどではないけど、ちょっとお芝居をしているみたいな気持ちになるんです。

──へえ。それは面白い感覚ですね。

単純に両手が自由になるからという理由もあるとは思うんですけど、より視覚的な部分に意識のベクトルが向くんですよね。見られているという感覚がより強くなるというか。なおかつバンドのサウンドに引っ張られて、自分の動きもちょっとアグレッシブになるところもある。恥ずかしげがなくなるというか、より吹っ切れる感覚なのかも(笑)。私は中学・高校時代に演劇部だったので、そこで体に染み付いたものが無意識に引っ張り出されているんでしょうね。

──MCについては何か感じていることはありますか? TOMOOさんの素が見えるという意味で、ファンにとっては大きな楽しみだと思うのですが。

MCは半ばあきらめてます(笑)。数年前は完成された完璧なMCができるようになりたいと思っていたんですけど、今はそれも少し違う気がしていて。歌と演奏は思い切りがんばるから、MCでギャップが見えても許してねっていう(笑)。私の場合、けっこう緊張感のある歌も多いので、MCのときはお互いにリラックスすればいいんじゃないかなと思っています。とは言え、もう少し盛り上げるべきところはMCでも盛り上げられるようにはなりたい(笑)。そこが今後の課題です。

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──年をまたいで開催される「TOMOO 1st LIVE TOUR 2022-2023 "BEAT"」はどんなツアーになりそうですか?

渋公でファンの皆さんと共有できた心のあったかい部分を起点として、また1歩前へ進んだライブにできたらいいなと思っています。今回のツアーはギター、ベース、ドラムに私のピアノを加えた4人編成なんですけど、バンドとしてちょっとがんばりたい気持ちが強いんですよね。

──サポートバンドというよりは、TOMOOさんも含めた1つのバンドという意識で臨むということですか?

そうそう。バンドの方々の演奏に乗っかるだけでやっていくのはどうなんだろう?という気持ちがあって。なので今回はバンドの皆さんとしっかりコミュニケーションを取りながら、ライブならではのアレンジや細かいアプローチについてしっかり準備しています。自分としても改めてピアノという楽器と向き合っていくつもりです。4人組のバンドとしてのギュッとした感じを大事にしながらツアーを回っていこうと思っています!

──バンド名を決めるとより一体感、連帯感が生まれるかもしれないですよね。

あー、確かにそうですね! ちょっと参考にさせていただきます(笑)。

「Cinderella」で描いたもの

──では新曲「Cinderella」のお話を伺いましょう。これはいつ頃、どんなきっかけで生まれた曲なんですか?

曲の大本は5年ぐらい前にできていました。その頃は年齢的にも環境的にもいろんな変化があった時期だったんです。バンド編成でのライブを始めたり、いろんな方々と関わって楽曲をリリースをしたりしていて。自分とは違う環境、文化の人と出会うことがすごく多かった。その中で自分の中のいろいろなものがグラグラ揺さぶられたことをきっかけに作った曲でした。

──そういった経験がラブソングとして形にされているわけですね。歌詞は生きてきた環境や価値観の違う相手と接する中、自分のルールやプライドを変えられなかったことで関係がダメになってしまったというストーリーです。

この主人公は相手からの「こっちの世界へおいでよ」という誘いを拒み、結局逃げてしまった。同時に、すごく自由で新しい世界へ進んでいく相手のことを見送っている感じもあって。

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──主人公には自分自身を変えられなかったことへの後悔も多少にじんでいるように感じます。

そうですね。やっぱり相手のほうへ行きたかった気持ちもある。ただ完全に後悔とも言い切れなくて。その選択が本当にダメだったのかは、その先を生きていかないとわからないことでもあるので。

──なるほど。自分のルールを守ったことがよかったのかもしれないと。

そうそう。この曲は恋愛の形で書いてはいますけど、こういうことって誰にでも当てはまることがあると思うんですよ。物事というのは結局、人と人との関係で進んでいくものだから、そこに相手の考え方やルールが芋づるのようにひっついてくるのは当然ですから。そういった場面でどういう判断を下すのかというのは、本当にその人次第なんだろうなと思います。