東京女子流がおよそ7年ぶり、通算6枚目となるオリジナルアルバム「ノクターナル」をリリースした。
2010年のデビューから早12年。当時まだ小中学生だった山邊未夢、新井ひとみ、中江友梨、庄司芽生の4人は現在20代半ば。12年のキャリアを持ちながら、20代の女性としてフレッシュな輝きを見せているのが新作「ノクターナル」だ。初期からの持ち味であるソウルやファンクを下敷きにしたグルーヴィなダンスミュージックを主体にしつつも、東京女子流の新たな魅力が至るところに感じられる本作。初期の作品と通底する部分はあるのだが、そこには「大人びた楽曲を歌う少女たち」から「大人になった4人が等身大の楽曲を歌う」という7年分の変化がある。そしてこのアルバムでクリエイティブディレクターを務めているのは、メンバーと同世代であるエイベックスの後藤かなえ氏。今回のインタビューには、「ノクターナル」に感じられる東京女子流の変化を探るうえでのキーマンだと思われる後藤氏にも同席してもらい、2022年の東京女子流のリアルに迫った。
取材・文・撮影 / 臼杵成晃
人生半分女子流
──今作は実に7年ぶりのアルバムとなりますけど……7年ってなかなかの時間ですよね。この7年の間には、女子流がともに切磋琢磨してきたアイドルグループの多くが活動を終えています。一方で皆さんは今年活動12周年を迎えて、もはやアイドルシーンではベテランと呼べる領域ですよね。そういう自覚は皆さんにもありますか?
山邊未夢 「TIF」(日本最大級のアイドルイベント「TOKYO IDOL FESTIVAL」)とかに出ると感じますね(笑)。ちょうど今、人生の半分を東京女子流として過ごしているんですよ。そう考えると、本当に長く続けてきたんだなあって。同じ世代のアイドルには同級生みたいな気持ちがあるんですけど、この7年の間にアイドルをやめて女優さんやモデルになったり……今もアイドルとして精力的に活動しているのは、同い年だとあーりん(ももいろクローバーZの佐々木彩夏)くらいしかいなくて。ちょうどこの間「TIF」で会ったときにそんな話をしました。改めて時の流れを感じますね。
新井ひとみ 私たちはずっと「女子流ちゃ~ん」って感じでかわいがってもらってきたので、ベテランになったなんて意識は全然なかったですけど、今「TIF」とかに出ると年下のグループがいっぱいで。
──今や「女子流姉さん」と呼ばれてもおかしくないポジションですよ。
中江友梨 「女子流ちゃん」じゃなく「女子流さん」と呼ばれるとくすぐったいですね(笑)。「TIF」は私たち最初から出演させていただいていて(参照:総勢40組以上!品川を熱く盛り上げたアイドルフェス大成功)。12年経った今も、同じ「TIF」のステージで「おんなじキモチ」を歌い続けていることに、今年出演したときに改めてびっくりしました。「あ、そっか! これ12年前から歌ってるんだ!」って。観てくださっている方の中には当然、当時を知らない方もいっぱいいるはずで。でも「この曲知ってる!」と集まってくださったり、自然と踊り出してくれたり、それってありがたいことだなと思います。
──もはや貫禄すら感じさせる……と言いたいところですけど、そうでもないのが女子流のいいところでもあって(笑)。
庄司芽生 (笑)。いつも新鮮な気持ちでいるというか、何度も出演している「TIF」でも「はじめましての方やひさしぶりに観にきた人たちに、どうやったら興味を持ってもらえるだろう?」というのは常に考えるんです。そういえばこの間、あるイベントに出たときに、昔よく一緒になっていたグループのスタッフさんにひさしぶりにお会いしたんですよ。そのとき「女子流さんにはあのグループの分までがんばってほしい」という言葉をいただいて、より身が引き締まったというか。ともに時代を走り抜けてきた方々がどんどんそれぞれの道を歩んでいる現状が、すごくさびしいという気持ちは正直あって。「毎年この時期になるとみんなで集まって一緒にライブしてたよね」と気持ちを分かち合える人たちが、今年の「TIF」ではほとんどいなくなっていて……でもそんな中で、12年前からの変化とか、グループとしての歴史を伝えていけることはすごく貴重なことだと思うんです。進化を止めずに進んでいきたいなという気持ちは、最近さらに強くなってきました。
──それは生き延びてきたからこそ言える重い言葉ですよね。女子流だって決して順風満帆でここまで来たわけではないでしょうし、それこそ同世代のグループと同じように別の道を考えるタイミングや、心がくじける瞬間もあったんじゃないかと思うんですよ。それでも続けてこられた理由はなんだと思いますか?
中江 もちろんくじける瞬間は何度もありましたけど、本気でやめたいと思ったことはまだ一度もなくて。「まだ」というとなんか含みがありますね(笑)。言葉が軽く聞こえちゃったらあれですけど……不完全燃焼というか、自分の中でまだ燃え尽きてない、やり切れていないという気持ちがある中で「くじけちゃったほうが楽かも」とはなれなくて。まだまだやりたいことが自分の中にあるんだろうなと思いますし、東京女子流という居場所をいただけている今、燃え尽きるまでは続けたいという思いが芯の部分にあるんだなと思います。未夢が言ったように、人生半分女子流って本当にすごいことで。そんなに長く続けていることはほかにはないし、女子流が私たちの人生そのものになっているんだなって。逆に女子流なしの生活が考えられないんですよ。もう上半身全部女子流みたいな。
庄司 上半身なんだ(笑)。
中江 右半分とかにすればよかったかな(笑)。
東京女子流を続けていくためには
──中江さんが言った「まだ燃え尽きてない、やり切れていない」という気持ちは4人共通のものですか?
庄司 めっちゃわかります。
山邊 私は中野サンプラザの10周年ライブ(参照:東京女子流これまでの集大成見せた中野サンプラザ公演、10年目の好スタート切る)のとき、やっぱり10周年なので1つの大きな区切りになるなと思っていて、「これが満員にならなかったらやめよう」と考えていたんです。動員にめっちゃ力を入れてがんばって……結果は満員にできなかったんですけど、改めて考えたときに「まだ女子流でいたい」という気持ちが勝って。ここでやめたら後悔するなと思ったし、自分たちよりもキラキラしている人たちを見ると「私もこうなりたい」と思っちゃう。東京女子流として、みんなであのキラキラした場所に行きたい!って気持ちが中野サンプラザを終えてもまだあったから、続ける決心をしました。今思えば、あのときやめなくてホントによかったなって。
──東京女子流は12年続けてまだ20代半ばというのもアドバンテージですよね。20代でアイドルを始める人だって少なくない中で、すでに12年の経験を積んでいながら、これからさらに大人になっていく変化を見せられるという。なんなら4人がまだ小中学生の頃から歌っていた大人びた楽曲のムードが、ようやく身の丈に追いついたとも言えるわけで。
庄司 それはよく言われます。
──新作「ノクターナル」は、これまで東京女子流が作り上げてきた楽曲の世界観にメンバーの年齢が追いついた、その第一歩のアルバムという印象を受けました。これから新しい何かが始まるというか、「まだ始まってすらいなかったんだ!」みたいなワクワク感があって。明らかによい変化を感じます。
庄司 ありがとうございます。私たちも活動を重ねていく中で「変わらなくちゃ」「進化しなくちゃ」と思って、4人で何回も何回も話し合ったんですけど、なかなかこれという答えが見つからなくて。活動初期の頃は私たち本当に幼くて、何も知らない子たちが難しい大人っぽい曲を歌うギャップ、みたいなところが1つの魅力ではあったと思うんです。でも年齢を重ねるうちに、そのギャップも縮まってくるわけで。そうなったときに、どこを女子流の強みとして見せていけばいいのか、それは私たちにとって悩みどころだったんです。東京女子流というグループを続けていくためには、私たちも成長して変わっていかなくちゃいけない。7年前にはメンバーが5人から4人になるという変化があって(参照:東京女子流から小西彩乃が卒業)。女子流が持っている大人な世界観を表現するうえで(小西)彩乃は5人の中でも軸を担っていたので、その彩乃がいなくなるとなったら、私たちはずっとこの曲調で行くべきなのか、それも1つの大きな壁だったんです。そこからいろんなジャンルに挑戦してみたけど、やっぱりファンの皆さんには初期のイメージが強いから、びっくりされてしまう。いろんな挑戦をしたことは結果的によかったなと思っていますけど。
──この7年は、東京女子流にとってまさに試行錯誤の7年間でしたよね。
庄司 本当にそう思います。ようやくこの4人での東京女子流として、それぞれの個性を生かしながら形にできたのが、この「ノクターナル」なのかなって。
メンバーと同年代のクリエイティブディレクターがもたらした変化
──先ほど「何も知らない子たちが難しい大人っぽい曲を歌うギャップ」という庄司さんの発言がありましたけど、東京女子流はやはり初期の印象で「大人たちに囲まれている」というイメージがあったんですよね。「ノクターナル」にもMUROさんはじめベテランアーティストの参加はありますが、あまり大人に囲まれている印象がないというか。それはメンバーと同世代である後藤さんが制作チームに加わったことが大きいのかも?と思い、今回はインタビューに同席してもらいました。後藤さんはどのタイミングから女子流に関わるようになったんですか?
後藤かなえ 2020年からですね。楽曲制作で言うと、自分が最初に担当したのは「Hello, Goodbye」です(参照:東京女子流、10周年を締めくくるニューシングル「Hello, Goodbye」2月発売)。
──その時点での東京女子流についてどういうイメージを持っていて、どういうふうに進化させていきたいと考えましたか?
後藤 アイドルにはいくつか必要な要素があると思っていて。そのうちの1つは“Wanna be”ですね。私が同年代として女子流を見たときにそのワナビーの部分はまだまだ伸ばせるなと思って、そこから楽曲やビジュアルを考えていきました。東京女子流の曲は「年上の人に恋をする」というのが構造として大きかったと思うんですけど、そのままでいるのではなくて、20代になった“今”をあえて表現したほうが、メンバーの“成長”を楽しめるし、そのリアルさに距離の近さを感じるかもしれないし、また彼女たちも等身大の思いで歌えるのではないかと考えて、「ガールズトーク」や「フライデーナイト」などを作りました。年下の男の子に恋をしたり、思いを寄せられたり、時には女子会で愚痴ったり。そうして少女だった彼女たちが大人の女性になったことを曲でも証明したかった。そういう部分で考えると「Dear mama」は私の中ですごく大きいです。
──アルバムに先行して配信された、メンバーが母親への感謝をつづった手紙をもとにして書いたという楽曲ですね(参照:東京女子流、母親への感謝の思い込めた新曲「Dear mama」配信)。
後藤 子供が大人になるっていろんな要素があると思うんですね。それは身体的な成長だったり、経済的な充実だったり。親に感謝する気持ちの芽生えというのも1つの大人になった証拠だと思っていて。ノクターナルのサブテーマは「少女が大人になる」だったのですが、まさに「Dear mama」はそれを体現する1曲だと考えています。そしてビジュアルも、まずは女性がワクワクするような、「これかわいいよね」と思ってもらえるような要素を取り入れています。
庄司 メンバーがワクワクするものと、後藤さんが提示してくれるアイデアがけっこう合致していて。私たち自身も今まで以上にワクワクしながら挑めているのは大きいですね。歌詞も曲調も含めて「こういうのが好き」という意思疎通がすごくうまくいっていると思います。
山邊 これまでは当然年上の方と仕事をすることが多かったし、大人びた曲の世界観も「どういう意味だ?」と理解するまでにすごく時間がかかっていたんです。後藤さんと一緒になってからは、自分の体にパッと染み込んでくるような感じがあります。ワクワクしながら作ったものを自信たっぷりにお届けできることが、すごくうれしくて。そういう気持ちはすごく大事だし、ファンの方にも伝わると思うんです。後藤さんが来てくれて本当によかった。
後藤 あははは(笑)、ありがとう。
新井 私たちを気持ちの面でブラッシュアップしてくれたというか、新しい気持ちを芽生えさせてくれる存在ですね。あともう1つ、何か言おうと思ったんだけど……忘れちゃった(笑)。
山邊 こういうことよくあるんですよ(笑)。
中江 時間が経ったら思い出すパターンもあるからね(笑)。私が話している間に思い出して。さっき貫禄という話がありましたけど、私たちはもともと歌やダンスをやっていたスーパー軍団ではなくて。そんな私たちが、背伸びした曲を一生懸命歌って踊るのが女子流の個性になっていたと思うんです。でも、後藤さんが来てからは自分の中にリアリティが出てきたというか……人間味が増した、っていうんですかね。24歳から26歳という私たちの年齢は、どんな人にとってもいろんな感情が目まぐるしく生まれてくる時期だと思うんです。「ノクターナル」に入っている楽曲は……12年もかかるのは遅いかもしれないけど、やっと自分の感情が吹き込まれたような実感があって。私たちには東京女子流としての歴史があるけど、それとは別の普通の20代としてのリアルが自然と入れ込まれている。それによって、これまでの作品も伏線を回収するかのようにスッと1つの流れとして理解できたような気がします。
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「TIF」でのパフォーマンスで「手応えあり!」