音楽ナタリー Power Push - 特撮

結成15周年記念作「ウインカー」が示すバンドの行き先

いろんなことができるロックバンド、それが特撮

──リードトラックの「7人の妖」も素晴らしいですね。現代的なヘヴィロックを軸にしつつ、怪しさとポップさがちゃんと反映されていて。

NARASAKI これは最後に作った曲ですね。

大槻 そう、ナッキーが突然作ってきて。

NARASAKI 特撮っぽい曲を作ろうと思ったんですよ。特撮で一番よく使ってるギターを弾いて、自分が得意なテンポ感のものを。

──“特撮っぽさ”って人によってかなり違いそうですよね。

大槻 そうですよね。僕は「ハザード」が一番特撮っぽいと思ってるんだけど。

NARASAKI ホントに?

大槻 このバンドのヘンなところが凝縮されているというか。

ARIMATSU(Dr)

ARIMATSU 確かに特撮以外では聴けない曲だよね。歌詞の世界観を含めて、普通の曲は1つもないと思うけど。

大槻 「アリス」みたいにリフが延々続く曲があったりね。Led Zeppelin的なリフではなくて、「ミニマルミュージックかな?」みたいなリフなんだよね。

三柴 それは「マリリン・マラソン」(2000年リリースの1stアルバム「爆誕」収録曲)の頃からあったよね。実験的なところもあるし、でも、マニアックではないっていう。

ARIMATSU うん。ロックバンドという立ち位置でやってますけど、その中でいろんなことができるんですよね。それはアルバムを作るたびに毎回感じるし、今回のアルバムも曲を順に聴いたら「いろんなことをやってるな」って改めて思いました。オールドスクール的なことを特撮らしく昇華している感じとか。

──オールドスクールというと?

ARIMATSU 例えば「人間蒸発」はMotorheadの影響が出てると思うんですよね。そこまで影響受けているメンバーはいないんだけど(笑)。

大槻 マニアの方には申し訳ないけど、Motorheadってどれを聴いても同じように聴こえるよなあ。そこがいいって面もあるんだろうね。

ARIMATSU 曲を作ってるときは「Motorheadみたいで面白い!」っていうキッズ的感覚で構築してたんですよ。

──三柴さんは特撮らしさについて、どんなふうに捉えてますか?

三柴 “この4人が集まれば、こういう音ができる”というのはありますけど、そこまで「特撮とはこうあるべき」って意識してやってるわけではないかな。あ、でも、「7人の妖」では僕がメインで弾いてるシンセの音が使われてるんで、うれしかったです(笑)。

大槻 そういえば「富津へ」のハーモニカはオフコースの方がやってくれてるんですよ。

NARASAKI 松尾一彦さんですね。この曲にオフコースみたいなハーモニカが入ってたら素敵だなって思って、お願いしたらOKしていただいて。

大槻 すごいよね。オフコースの方が特撮の楽曲に参加してくれるなんて。自分が中学生だった頃、「さよなら」が大ヒットしてたんですよ。僕はずっとラジオを聴いてたんだけど、1日に12回くらいかかってたんだよね(笑)。「眠れぬ夜」もいい曲だし。そういえばさ、「YES-YES-YES」は展開がプログレみたいだから(プログレバンドの)Yesをタイトルに持ってきたんじゃないかと思うんだよね。

NARASAKI それはわからないです(笑)。

大槻ケンヂお気に入りのジャケット

──アルバムのジャケットが車をモチーフにしたアートワークになっています。これは大槻さんのアイデアですか?

「ウインカー」初回限定盤ジャケット「ウインカー」通常盤ジャケット

大槻 はい。このアルバムジャケット、非常に気に入ってるんですけど、実はほかの案もあったんです。「ハザード」で人々が「ウワーッ」って叫んでますけど、あれは歓喜の声なんですね。悲鳴じゃなくて、地獄から亡者が天国に上がっていくようなイメージ。それにうってつけの絵を描いたマンガ家さんの作品を知っていて、その絵を使用したないなと。でも結局なくなりまして、「じゃあ、車のジャケットにしよう」と。この車、シトロエンみたいじゃないですか。シトロエンって日本では変わり者というか趣味人が乗る車っていうイメージもあるし、それがこのアルバムに合うかなと。

──このジャケットにも地獄から亡者が天国に上っていくというイメージも残ってますよね。「中古車ディーラー」は死体を運ぶっていう歌だし、全編を通して死の匂いが漂ってるというか。

大槻 そうですね。さっき話したドライブの話とつながるんだけど、富津ってウチの兄貴が死んだ海なんですよ。あとこれは個人的なことなんだけど、この前ちょっとウチの親父が倒れて、お見舞いに行ったら、人の生死を取り扱う病院の様子が興味深かった。いや、面白いって言ったら怒られるかな……まあ肉親だからいいか。

NARASAKI どうだろう。

大槻 僕は歌詞を書く人間だから、死というものがモチーフになると思ったんですよ。で、親父もついにポックリ逝くのかなと思ったら、死にゃあしない。……ここ、笑っていいところですからね。

ニューアルバム「ウインカー」/ 2016年2月3日発売 / EVIL LINE RECORDS
初回限定盤 [CD+DVD] / 3500円 / KICS-93352
通常盤 [CD] / 3000円 / KICS-3352
CD収録曲
  1. 荒井田メルの上昇
  2. 音の中へ
  3. 愛のプリズン(特撮ver.)
  4. アリス
  5. シネマタイズ(映画化)
  6. 富津へ
  7. 中古車ディーラー
  8. ハンマーはトントン
  9. 人間蒸発
  10. 7人の妖
  11. 旅の理由
  12. ハザード
初回限定盤DVD収録内容
2015年特撮LIVEダイジェストドキュメント映像
  • 2015/3/21 @新宿ReNY
  • 2015/3/25 @umeda AKASO
  • 2015/8/1 @SHIBUYA CLUB QUATTRO
大槻ケンヂ 50th生誕祭!特撮
2016年2月7日(日)東京都 赤坂BLITZ
<出演者>
特撮 / 筋肉少女帯(ゲスト)
特撮「ウインカー」発売記念ツアー
2016年2月20日(土)東京都 WWW
2016年2月27日(土)大阪府 umeda AKASO
2016年2月28日(日)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
特撮「ウインカーツアー 対バン編!」
2016年3月11日(金)東京都 LIQUIDROOM
<出演者>
特撮 / NoGoD / 打首獄門同好会
特撮(トクサツ)

特撮

2000年に結成されたロックバンド。大槻ケンヂ(Vo / 筋肉少女帯)、NARASAKI(G / COALTAR OF THE DEEPERS)、三柴理(Piano, Key)、ARIMATSU(Dr)の4人で活動している。2000年2月にリリースした1stアルバム「爆誕」のレコ発ツアー終了後、初期メンバーの内田雄一郎(B / 筋肉少女帯)が脱退。2006年には大槻の筋肉少女帯への再加入を機に活動を休止する。その後2011年4月にライブツアー開催を突然発表し、同年6月にはアルバム「5年後の世界」を、2012年12月に7年ぶりのフルアルバム「パナギアの恩恵」をリリースした。2014年1月に大槻の小説「縫製人間ヌイグルマー」を原作とした映画「ヌイグルマーZ」が公開され、同作のオープニングテーマ、エンディングテーマ、劇中歌を担当。2016年2月にバンド結成15周年を記念したアルバム「ウインカー」をリリースした。2月7日には東京・赤坂BLITZで大槻の生誕50周年を祝した筋肉少女帯とのツーマンライブ「大槻ケンヂ 50th生誕祭!特撮」を実施。その後「ウインカー」を携えた東名阪ツアーや対バンライブの開催を控えている。