ナタリー PowerPush - トーマ

いつか自分が納得できる日まで 表現活動の旅は終わらない

ジャズもディスコもちゃんと聴いたことなんてない

──曲のデザインを決めて、まずそれに似合うビートを探すところから作曲を始める感じはやっぱりヒップホップっぽい。

ただヒップホップの人みたいにたくさん音楽を聴いたり、レコードを集めたりすることはなく……。さっきも言ったとおり、なんとなく気になって記憶していた曲のイメージを頭の片隅から引っ張り出してきている感じですね。だってジャズも昔のディスコもちゃんと聴いたことなんてないですもん(笑)。というか、今やっているような歌モノのバンドサウンドをちゃんと聴きだしたのって、ホントこの1年くらいなんですよ。

──今回のアルバム収録曲13曲のうち8曲がバンドアレンジになっているのも、その最近聴いている音楽の影響だったりしますか?

いや、さっき言ったとおり、やっぱり聴く曲と自分が作る曲はちょっと違うから。そういう意識はあんまりなかったですね。せっかくメジャーでCDを出せるんならニコ動や同人ではできないことをやったほうが僕自身面白いし、聴いてくれる人も楽しいかなって思っただけです。

──オケを打ち込みにするのか、生バンドにするのか、その選択の基準は?

アレンジしているときには正直何も考えてないですね。ひとまずDTMで打ち込んでみてから、その曲はバンドでやったほうが映えるのか、打ち込みのほうが映えるのか判断しました。で、今回楽器で参加してくれた人たちや、プロのエンジニアの人たちのおかげで、いい意味で予想通りというか、その「バンドのほうが映えるかな」っていうイメージ通りになってくれたのはうれしかったですね。それこそ自分が飽きないようにメチャクチャ展開しまくるアレンジにしてみたのに(笑)。

「カッコいい曲ができました」と言えるように

──最初に触れたとおり「アザレアの心臓」が「すごく面白い」アルバムに仕上がっている。となるとトーマさんは今後さらに注目を集めることになるだろうし、さらなる活動を求められるようにもなると思うんですよ。

そうなのかなあ……。ただ今回のアルバムを作ったことで自分の中のハードルが上がりに上がっちゃった感じがあって。今はそのクソ高いハードルに向かっていく気力がないんですよねえ。またいずれ表現欲求の器があふれることになって、またやらなきゃいけなくなるとは思うんですけど、それまではちょっと音楽から離れたい(笑)。

──ということは、ちょっとお休みしたくなるくらい、今回のアルバム制作には全力を傾けたし、ハードルが上がりきるくらいのクオリティのものができた自信はある?

例によって「カッコいい曲を作ったので聴いてください」って言い切れない部分は多々あるんですけど(笑)、1枚通してちゃんと楽しめるアルバムに仕上がった自信はありますね。

──確かに。「バラエティに富んでる」なんてもんじゃない。それこそ1曲の中ですらジャンルが変わってしまうくらい、いろんな曲が入っているんだけど、とっ散らかってはいない。きちんと「トーマさんのアルバム」として一本筋が通ってるんですよ。

どんだけ違うジャンルのフレーズを引用したとしても、どんだけ違うテイストの曲を書いたとしても、全部自分というフィルターを通して出てきたものだからどうしようもなく自分のものになっちゃっただけなのかもしれないけど、ちゃんと架空の街「アザレアの心臓」を形づくる13曲ができあがったことはよかったな、と思ってます。……というか、ホントにすみません。

──へっ、何がですか?

いや、なんか締まりのないインタビューになっちゃって……。なんでほかのアーティストさんってちゃんと「カッコいい曲を作ったので聴いてください」って言えるんですかねえ。しかもみんな本当にカッコいい曲を作るじゃないですか。ホントうらやましいんですよ、そういうアーティストさん。

──トーマさんの人生最大の目標である「自分を納得させる作品づくり」に成功した人たちですからね(笑)。

そうなんですよねえ。僕も一応、今回のアルバムでハードルが上がりに上がった。そのくらいがんばったんですけど、いまだに「カッコいい曲とは言えねえなあ」ってなっちゃうんですよ。

──難儀な性格ですねえ(笑)。逆にカッコいい曲を書いてるのに世間に認められない状態、要は過小評価されているんなら「なんでわからねえんだよ!」ってキレちゃえばいいんだけど、トーマさんの場合、人気が集まるほど「みんなはなんでホメてくれるんだろう?オレはオレを許せないのに」ってなっちゃう。

だからキレるわけにもいかない(笑)。ただ、納得できてないからこそまだまだ表現活動を続けようとは思ってます。

ニューアルバム「アザレアの心臓」 / 2013年4月3日発売 / dmARTS
「アザレアの心臓」初回限定盤
初回限定盤 [CD+DVD+ブックレット] / 2800円 / DGSA-10057B
通常盤 [CD] / 2000円 / DGSA-10058
収録曲
  1. 潜水艦トロイメライ
  2. リベラバビロン
  3. サンセットバスストップ
  4. 魔法少女幸福論
  5. envycat blackout
  6. 九龍イドラ
  7. 廃景に鉄塔、「千鶴」は田園にて待つ。
  8. オレンジ
  9. 未来少年大戦争
  10. ヤンキーボーイ・ヤンキーガール
  11. クジラ病棟の或る前夜
  12. アザレアの亡霊
  13. 心臓
初回限定盤DVD収録内容
  1. メイキング映像
トーマ

ボーカロイドを使用したオリジナル曲を動画サイトで発表するボカロPで、2010年5月にニコニコ動画に投稿した「零に還る世界」が処女作。ヘヴィメタルやジャズ、エレクトロニカなどさまざまなジャンルを1曲の中に詰め込む独特な音楽性と、ストーリーを感じさせる幻想的な歌詞で動画サイトなどで人気を集める。また不思議な世界観を持った歌詞やイラストにも定評がある。2013年4月には初の流通盤となるアルバム「アザレアの心臓」をリリースした。