toconoma特集|4年ぶりアルバムで表現した“日本の情緒”、“週末バンド”が目指す次なる夢は?

国内外で活動するインストゥルメンタルバンド・toconomaが、11月6日に通算5枚目となるオリジナルアルバム「ISLAND」をリリースした。

“島国=日本”を意味するタイトルを冠した本作は、彼らが以前から内包していた「日本的な情緒」をさらに推し進め、そこに卓越した演奏力に裏打ちされた「人力ダンスビート」を融合した1枚。ライブで盛り上がること必至の高速ファンクチューン「SignaL」や、日常から音楽を通して世界へとつながる高揚感をサウンドに込めた「Open World」など、toconomaならではのオリジナリティにあふれた計9曲が並んでいる。

メンバー全員がフルタイムで働く“週末バンド”を標榜するtoconoma。2020年発表の前作「VISTA」からの期間はコロナ禍の4年間と重なるが、バンド結成15周年も含むこの時期を彼らはどのように過ごしていたのか──。石橋光太郎(G)、清水郁哉(Dr)、西川隆太郎(Key)、矢向怜(B)の4人にじっくりと話を聞いた。

取材・文 / 黒田隆憲撮影 / kokoro

この4年間で一番成長したのは

──「ISLAND」は、コロナ禍の真っ只中の2020年7月にリリースされた前作「VISTA」からおよそ4年ぶりのアルバムです。この4年間はコロナ禍と重なる期間が長いですが、バンドとしてどのような活動をしていたのでしょうか?

石橋光太郎(G) 「VISTA」リリース後、しばらくはそれを携えてのツアーを回っていました。ツアーが終わって少し経った頃から音楽フェスやイベントが少しずつ元の形に戻り始めてきたし、2022年にはフジロック(「FUJI ROCK FESTIVAL」)にも出演しています。そのあたりから今作に収録されている新曲も少しずつできてきて、翌年のバンド結成15周年に向けての準備を進めていたという感じです。

──なるほど。

石橋 15周年のワンマンツアー「TOCONOVA」を第1弾と第2弾に分けて行って、その間に夢だった日比谷野音ワンマン「YAON-NOMA」が実現したんですよ。会場を利用するための抽選に当たって急遽開催が決まったのですが、この4年間で一番印象的な出来事でしたね。コロナ禍に関して言うと、僕らは“週末バンド”を掲げて普段は別の仕事をしているので、音楽活動がストップしても生活がガタガタになるわけではないけど、コロナ禍がライブや曲作りに大きな影響を与えたのは確かです。それで曲作りが始まったのが、ちょうど緊急事態宣言が発令された頃。ステイホームで家にこもらざるを得なかった反動もあったかもしれないですね。「外向きの楽曲を作りたい」という欲求が出てきたのもコロナ禍が与えた影響と言えますし。

toconoma

toconoma

──2022年には初のBillboard Liveツアー「toconoma PRESENTS "TOCORICH"」もありましたよね。ライブハウスとは雰囲気の異なる会場でパフォーマンスをするうえで、何か新しい試みや工夫はしましたか?

石橋 僕らはサウンド面において「クラブミュージックを人力でやる」というコンセプトを掲げているのですが、ビルボードライブは着席スタイルの会場なので「お客さんにどう曲を聴かせたらいいのか?」と試行錯誤を重ねる中で、自分たちの楽曲を再解釈しました。コロナ禍でお客さんが声を出せない分、視覚的にも魅せることが求められるようになったし、勢いで誤魔化せないから演奏そのものへの向き合い方もより丁寧になったと思います。結果的に、バンドとしてのスキルアップにもつながりました。

西川隆太郎(Key) 普段とは出音も違いますし、グランドピアノを使ったのでアンサンブルも当然変わります。繊細さを求められながら、自分たちのよさをどう生かすかを考えるいい機会でしたね。

清水郁哉(Dr) あと、コロナ禍でライブ中のMCがめちゃくちゃ長くなったよね?(笑)

石橋 そうそう。間が持たないから自分たちで盛り上げるしかなくて。

西川 ビルボードライブも「トークショーかよ」ってくらい話してた(笑)。

矢向怜(B) お客さんも、それを楽しんでくれるようになってきたんですよ(笑)。ラジオ感覚というか、ビルボードライブは食事もできたし。そういうライブの進行が、自分たちでもうまくなったんじゃないかと思います。

石橋 うん。ライブの“場づくり”が、この4年間で一番成長した部分かもしれない。

左から矢向怜(B)、石橋光太郎(G)。

左から矢向怜(B)、石橋光太郎(G)。

夢のステージに立って

──昨年8月の日比谷野音ワンマン「YAON-NOMA」は、単独公演としてはこれまでで一番大きなステージでした。先ほど清水さんが「夢だった」とおっしゃいましたが、実際にステージに立ってみてどのような手応えを感じましたか?

石橋 僕らはtoconoma結成当初から「いつか野音でやりたい」と半分冗談で話していて、それが叶ったことはバンドにとって確実に1つのターニングポイントとなりました。野音は15周年ツアーの一環だったのですが、過去の曲だけでなく、「ISLAND」の収録曲も演奏したんですよ。それはバンドの集大成という側面だけでなく、未来への展望もちゃんとお客さんに見せたかったからで。それで「Open World」という曲を、ほぼ1カ月で仕上げました。僕らの代表曲である「relive」と「vermelho do sol」のBPMに合わせて、DJ的につなげていく感じ……ある種のカタルシスやストーリーを意識して。個人的には子供が生まれたタイミングでもあったから、そのエモさもスパイスとして加わっていますね。

西川 さっき石橋が言っていたように、僕ら普段は月曜から金曜まで働いて、土日にお客さんと一緒に音楽を楽しむというスタンスなんです。それを「YAON-NOMA」でもわかりやすい形で表現できたのが一番よかったかなと。野音があったからこそ、週末に音楽を楽しむ僕らのスタイルを「こういうのいいよね」ってお客さんに感じてもらえたと思いますし、それをもっと多くの人に知ってもらうきっかけにもなりました。

左から清水郁哉(Dr)、西川隆太郎(Key)。

左から清水郁哉(Dr)、西川隆太郎(Key)。

矢向 野音は夕方の明るいうちにライブが始まったので、お客さんの顔がよく見えたんですよ。それもすごくうれしくて。「みんないい顔してるなあ」って考えながらベースを弾いていました。本当に僕ら、お客さんに恵まれているなと思います。優しい人が多いし、音楽を心から楽しんでくれる人がたくさんいる。それをステージ上で感じると、こちらも楽しくて感謝の気持ちでいっぱいになるんですよね。今後もっともっと、そういう人たちが増えてくれるといいな。

清水 「もう1回やりたいな」って思っちゃいますね。次の機会があれば、さらにいいものを見せられるんじゃないかなと。

toconomaの生活を切り取った「Open World」MV

──「Open World」のミュージックビデオは「家庭があって、仕事があって、そこに音楽もある」という、toconomaのライフスタイルがそのまま詰まっていますし、野音に向かって進んでいく様子がビビッドに伝わってきました。

石橋 そうですね。共感性の高い映像になっているんじゃないかなと思います。

矢向 実際、MVを観た人から「ほっこりした」と言われることが多いですね。あの映像に嘘偽りはないんですよ。メンバーそれぞれの家庭で実際に撮影してますから。

石橋 まあ、撮影にあたってちょっと部屋の掃除はしましたけどね(笑)。

清水 俺はめちゃくちゃ掃除したよ(笑)。

西川 そういう意味では半分くらい盛ってるんじゃない?(笑)

石橋 ほかのメンバーの生活を見るのは初めてだから、どこまで本当なのかわからないんですよ。MVを観ながら「本当に毎日筋トレしてるのかよ?」みたいに画面に向かってツッコミ入れてた(笑)。

矢向 確かに。「庭掃除とか本当にやってるのかな?」とかね。実はフィクションだったりして(笑)。

自分たちの中に“日本的情緒”が根付いていた

──アルバム「ISLAND」のタイトルに込められた意味についても聞かせてもらえますか?

石橋 先ほども話しましたが、コロナ禍を経て自然と前向きな曲が集まってきたんです。そもそも「作りたい」「出したい」という気持ちが今まで以上に強かったし、それに伴って曲調もポップになっていったというか。僕らは普段、洋楽ばかり聴いているのですが、できあがってきた曲はこれまで以上にJ-POP的だったんですよね。日本の情緒=エモさにめちゃくちゃ影響を受けていると改めて気付かされました。子供の頃に聴いていたCHAGE and ASKAやミスチル(Mr.Children)、サザン(サザンオールスターズ)、小室ファミリーのポップセンスが、自分たちの中にしっかり残っていて、それが自然に出てきたというか。

清水 エンジニアさんからはB'zからの影響も指摘されたよね。

石橋 そうそう。普段は洋楽に慣れ親しんでいるので、邦楽と洋楽のアプローチの違いに対して今まで以上に自覚的になりました。僕らはよくも悪くも“島国”である日本で生まれたバンドなんだと感じて、そこから「日本から世界に向けて何を提案していくか?」という意味での「ISLAND」というタイトルに決まっていったんです。もう1つ、“アイランド”という言葉には楽園的なイメージもあるじゃないですか。タイトルには、我々の音楽がリスナーにとって楽園のような心地よい場所になったらいいなという気持ちも込めています。

toconoma

toconoma

──普段は洋楽を聴いている皆さんの中から、J-POP的な要素が自然と出てきたことに戸惑いはありませんでしたか?

石橋 どうだろう。逆に日本ならではのガラパゴス的なエモさや情緒を1周回って「面白い!」と思えるようになったかもしれない。例えば平面的かつ音数の多いところは浮世絵の作風にも通じますし、となるとミックスやマスタリングのアプローチが洋楽のそれとは全然違ってくるのも興味深くて。僕らの中には“日本的情緒”がしっかり根付いていて、それをどう表現したらいいのか考えるのは面白い挑戦になるなと感じていました。ちなみにアルバムのタイトルの着想元に関してもう1つ言うと、実は僕らが若い頃に流行っていた「魔法のiらんど」というインターネットサービスをふと思い出したのも「ISLAND」というタイトルになった理由の1つです(笑)。