4日間でアルバム全曲をレコーディング
──ここからは通作9枚目のニューアルバム「Sustainable Banquet」について、じっくりお話を伺えればと思います。前作をリリースしてからの5年の間で、バンドにもいくつか変化があって。吾妻さんは勤め人としての定年を迎えて、専業ミュージシャンとして“プロ入り”宣言されました。
無職になった、とも言いますけどね(笑)。
──今作「Sustainable Banquet」は、にぎやかにオープニングを飾る「打ち上げで待ってるぜ」や、SNSの広告に出てきそうな怪しい投資話や年金問題など金をテーマに世相を風刺する「俺のカネどこ行った?」といったテンションの高いナンバーから、EGO-WRAPPIN'やLeyonaといったゲストを迎えた曲まで、もう「お見事です!」とただただ頭を垂れたくなる濃密な内容でした。
それはそれは、ありがとうございます。
──レコーディングはどのくらいの期間で行ったんですか?
定年を迎えた人もいるけど、平日は仕事をしているメンバーもいますから。今回は土日に各2回ですね。
──のべ4日間! 大所帯バンドのアルバムなのに、これほど短期間で制作されているとは。
ルイ・ジョーダンはその昔、1日に8曲録音したっていいますからね。4日もやれば32曲録れちゃう(笑)。それに比べたら我々なんて、ひよっこみたいなもんですよ。以前よりもスムーズに作業が進行するようになった理由の1つは、昔より判断が早くなったってこともあるかな。僕らは曲を1回録るたびに、「はい間違えた人!」って手を挙げる自己申告制なんです。それでいざ直そうと思って聴き直すと、どこを間違えてるのかわからない。「だったら直さなくていいんじゃないか?」となる。この一連の判断が早くなりましたね。言い換えれば理想が低くなった(笑)。
──ははは。ゲストを迎えた楽曲も、その短期間の内でレコーディングされてるんですよね。例えば、EGO-WRAPPIN’が2人そろって参加した「Boogie-Oogie」はどのような形で進められたんですか?
よっちゃんは前作にもゲストボーカルとして参加してくれたけど、彼女とのレコーディングはいつも毎回1回しか録らないんです。昔のバンドみたいに基本的に1回でドーンって録っておしまい。今回は、森(雅樹)くんも参加してくれたから、そのあとすぐギター弾いて「はい、終わり!」って感じで、ほぼ一発録り。令和の時代では珍しいスタイルでレコーディングできたのかな。人の目を見て演奏したり、ライブでやってるように録れるっていうのはありがたいですね。
──この曲は吾妻さんの選曲ですか?
そうです。ラリー・ダーネルというニューオーリンズのシンガーが歌った曲です。この人がバラードを歌うと女性がパンツを投げてきたって有名な話がありますが、すごく音域の広い歌手で、この曲もどんどん転調していく難しいもので。それを軽々と歌いこなすよっちゃんがすごかったですね。そういえば我々のレコーディングでは、ドンカマ(メトロノーム)を使わないんだけど、5年半前の録音のときにはスタジオの人が驚いてましたね。「このスタジオで働いて何年になるけど、ドンカマ使わない人たちは初めてです」って。ドンカマを使うのって、あくまであとから修正することを前提としているわけだけど、ライブで演奏するときには別にドンカマ聴きながらやるわけじゃないしね。それをよっちゃんも森くんも、抵抗なく受け入れてくれた。レコーディングが終わってすぐ、みんなで飲み屋に行きました。楽しかったですね。
60歳を超えてジジイのなり方に加速度がついてきた
──ナット・キング・コールの曲として有名な「L-O-V-E」には、バッパーズとの共演も多いLeyonaさんがフィーチャーされています。
Leyonaは今までレコーディングやライブに何度も参加してくれていて、この曲も楽勝の一発OKでした。Leyonaのボーカルは清らかだしかわいいし、よっちゃんとはまた違う魅力があって素晴らしい。やっぱりゲストシンガーがいるほうがいいんだよな。俺だけで歌ってたら、アルバムとしては体裁が取れない。だから毎回、ゲストに女性歌手を入れるんです。
──ゲストミュージシャンの参加などトピックがある一方で、今回のアルバムを聴いて強く印象に残ったのは、これまでのバッパーズの作品と枯れ方の質が違うぞ!ということ。僕が初めてバッパーズの音楽に触れたとき、メンバーの皆さんはまだ30代だったと思いますが、当時からおやじの悲哀を歌っていて、すでに枯れた魅力を漂わせていた。それは前作までにも感じられたエッセンスではあったんですが、このアルバムはまた違った聴き応えがあって。失礼な言い方になるかもしれないけれど、バッパーズの皆さんもいよいよ老境に差しかかってきたと言いますか。
まあ、60歳を超えると加速度がつくんじゃないかな。ジジイのなり方に(笑)。メンバーの平均年齢も67.2歳ですから。先日、ついに古希を迎えたメンバーも出て、この記事が載る頃には2名になってるかな?
──例えば、2曲目の「Jeepers Creepers」では、「顔なじみのおばあちゃん まだまだ綺麗さ / イエー 恋に落ちそうさ」と、老いらくの恋を匂わせる描写も最後に出てきます。吾妻さんが、こういう歌詞に書くに至った境地がすごく気になったんです。
いやいや。これは、主人公が爺ちゃんで、ラブソングだったらこういう落としどころかな?ぐらいの感じですよ。「実話ですか?」とか変なこと聞かないでくださいよ(笑)。この曲はルイ・アームストロングのカバーなんだけど、昔からいつかカバーしたいなと思ってて、歌詞も完全に空耳アワーですから。元の歌詞も「ジーザス・クライスト」を「ジーパーズ・クリーパーズ」と言い換えてるだけで、実は大した意味はない(笑)。でもね、「席なんか譲るなよ / イエー 見た目より若いぜ」っていうところは実体験で。10年くらい前にベースの牧(裕)と香港に遊びに行ったとき、地下鉄に乗ったら現地の女子中学生に席を譲られたことがあって。「俺たちはそんな歳じゃない!」って憤慨したんですよ。当時まだ50代だったのに(笑)。その衝撃がまだ鮮明に残ってて、今回の歌詞になったというのはあります。
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退職すると昼飯を食べたあと本当に眠い(笑)