吾妻光良 & The Swinging Boppers新作発売記念企画「教えて!吾妻さん」|5人のアーティストが質問&相談 (2/4)

──続きまして、3人目の質問者は、ご自身もミュージシャンとして活動する「孤独のグルメ」原作者、久住昌之さんからの質問です。

久住昌之(「孤独のグルメ」原作者)

久住昌之(「孤独のグルメ」原作者)

バッパーズ新作の感想

いやー、いつもながらゴキゲンです。何しろブラスセクションの音が気持ちいい。昔っぽいサウンドなのに、分離がいいしカタマリの音も気持ちいい。こういうの、ミキシングの時にエンジニアの人に言って実現するの、すごく難しいんですよね。

あとは歌詞ももちろん全部最高。キヨシロー亡き後、日本のミュージシャンで一番好きな作詞家かもしれません。「誰もいないのか」は、まさに「やられた」という感じで笑った。SNSでボヤくよりかっこよくて笑える音楽に昇華するのがクールです。「昔から虫が苦手だ~」というオチも秀逸すぎます。

吾妻さんへの質問・相談

吾妻さんの毎度かっこいい指引きのギタープレイですが、若い頃はアルバート・コリンズを真似したと読みましたが、今や全然違って世界唯一無二の音色とプレイだと思います。吾妻さんにとってのギターアイドルは、今誰かいますか?


今はテディ・バン(1920年代~50年代に活躍したジャイブギターの名手)、ビル・ジェニングス(ルイ・ジョーダンをはじめ、ジャズ~R&Bの数多くのセッションで活躍)が好きですね。あとエディ・ラング(1920年代から活躍した、ジャズギターの父と呼ばれるイタリア系アメリカ人ギタリスト)もいいね……って、全部昔のギタリストだけど(笑)。

そういえば以前、元TOMATOSの松竹谷清と飲んだときにエルモア・ジェイムスの話になって、「最近、エルモア・ジェイムスとか弾いてないだろ?」って彼に言ったら、「バカ野郎、俺にとってエルモアはお父さんなんだよ!」って言われて(笑)。なるほど、そういうことかと思った。そうすると俺にとっては、クラレンス・“ゲイトマウス”・ブラウンがお父さんで、アルバート・コリンズは叔父さんかな、と。ほかのギタリストも好きだけど、ギターアイドルというと最終的にはその2人になりますかね。

──いずれもテキサスブルースの名手ですね。僕は吾妻さんの著書「ブルース飲むバカ歌うバカ」からゲイトマウス・ブラウンやアルバート・コリンズを知ったクチなんですけど、改めて2人のプレイの魅力を挙げるとしたら、どういうところになりますか?

テキサスブルースのギターソロというのは非常に直情的なんですね。B.B.キングに代表されるようなブルースのギタリストは、きちんとストーリーを組み立ててソロを弾くんだけど、テキサスのギタリストっていきなりドーン!ってピークに持っていくんです。かと思えば、突然止まったり。アルバート・コリンズのギターを最初に聴いたとき、「空気投げみたいだ!」って衝撃を受けたんですよ。

吾妻光良

──空気投げ、ですか?

音が鳴っていないところがすごい。「グギャーギエロッ!」って音のあとに空白が続いて、放り投げられたような感覚を覚えたというか。それってロックの人たちがコピーしてるような、正統的なブルースには出てこない文法なんです。「起・承・転・結」じゃなくて「起・結」みたいな。「起」と「結」の間に空白がある感じ……こんなマニアックな話してて大丈夫ですかね?(笑)

──大丈夫です! もしかしたら、この記事きっかけでテキサスブルースを聴き始める人がいるかもしれませんし(笑)。

──続いては「キングオブコント」の常連でもあるお笑いコンビ、ニッポンの社長の辻皓平さんです。辻さんは普段ロックンロールやブルースなどルーツミュージックを愛聴されているそうで、ギターのセッションを取り入れたネタも披露しています。

ほう、そうなんですか。気になるね。

辻皓平(ニッポンの社長)

辻皓平(ニッポンの社長)

バッパーズ新作の感想

ルーツミュージックを大切にしながら、日本語の響きも大切にしてはるバンドなんやなと感じました。
そしてそれが凄く自然に融合してて、例えば僕がもしシカゴのBARで飲んでてこのアルバムが流れててもしばらく日本語だと気付かないかもしれないです。
ただ、そこに気付くと歌詞がユーモアに飛んでてやたらと面白いし、そして等身大。こんなに格好良い音楽をやっているのに全然格好付けてないというか、凄く「おじさんの等身大」の姿。そこが抜群に格好良いなと思いました。
シカゴのBARでふふふと笑いながら聴いている自分が浮かびました。
※シカゴのBARには行った事はありません。

吾妻さんへの質問・相談

ほかのミュージシャンがしていて、これは自分はやりたくないなと思うことはありますか?


やりたくないことかあ。パッと思いつくのは“身代わり”ですね。

──身代わりって、どういうことですか?

昔、ギター・スリムがツアーに行くはずだったけど、直前に怪我をしてツアーに行けなくなっちゃったことがあって。その代わりとして、アール・キングがギター・スリムになりすましてツアーをやったという逸話があるんですよ。マネージャーに「お前、ギター・スリムになれ!」って言われて、彼は思わず「はい!」って答えちゃったみたいで、ギター・スリムを名乗って各地で演奏をする羽目になった。これはキツいよ(笑)。当時はネットがないのはもちろん、テレビも普及していない時代ですからね。ギター・スリムの顔もさほど認知されていなかった。だからライブを観に来た客も、うっすら疑問は持ちつつも「こいつがギター・スリムかあ」って聴いてたんだろうね。それで、なんとかツアーをやり終えて、ほうほうのていで地元に帰ってきたら、松葉杖をついたギター・スリムに「お前、俺の名前でツアーに入ってたらしいな!」って追いかけられたという(笑)。いやー、偽物にはなりたくないですね!

吾妻光良

──日本でもその昔、ヴィレッジ・シンガーズのメンバーを名乗ってカラオケ大会の審査員をして、ステージで歌まで披露した偽物がいましたけれども(笑)。

いたいた(笑)。実は今年の年始に似たようなことがあって。俳優の六角精児さんが新宿red clothでライブに出演する予定だったんだけど、コロナに罹って急遽出られなくなっちゃったんですよ。それで知り合いのハッチハッチェルから「六角さんの代わりに出てください!」って連絡があって。「まさか、俺が六角精児として出演するんじゃないよね?」って、そこは確認しましたね。

──さすがに、その身代わりはバレるでしょ(笑)。

あと、やりたくないことでいえば、ほかのバンドメンバーと自分で極端に差を付けたりするようなこともやりたくないね。キャブ・キャロウェイは、ツアーに出るとき列車の客車を1両貸し切って、ホテル代わりにして1人で優雅に移動してたらしくて。ほかのメンバーは全員バス移動。そういうのはよくないですね。さすがにメンバーから恨まれたらしいけど。そこへいくと、アルバート・キングは親分肌。ツアーに出るとき、自分でバスの運転までしてたみたいです。「さあ、みんな行くぞ!」って。まあ、そこまでする必要はないんだけど(笑)。

──全員平等ということが、バンドが長く続く秘訣ですか?

かもしれないですね。新幹線移動でも1人だけグリーン車とかはよくない。バンドは、あくまで平等に楽しくというのがいいですよ。お笑いのコンビも、そうかもしれないですね。

──最後は、ハロー!プロジェクトのアイドルグループ・つばきファクトリーの元メンバーで、最近ブルースにハマっているという岸本ゆめのさんからの質問です。

岸本ゆめの(ex.つばきファクトリー)

岸本ゆめの(ex.つばきファクトリー)

バッパーズ新作の感想

理論というより内的な意味でのブルースに魅了され憧れる日々です。間違っているかもしれないけど、自分は“ギャップ”にブルースを感じます。
煌びやかで遠い存在のようで、親しみやすさのあるサウンド。嬉しくないことも、嬉しいようになって。自分を変えられなくても、世界を変える勢いで叫ぶ…一生を終えるまで、こんな音楽に化かされ続けたいと思いました。
初デートでバッパーズのライブに連れてってくれるような人がいたら…痺れちゃいますね。

吾妻さんへの質問・相談

20代は良いよなぁとたくさんの先輩に言われますが、真っ只中の自分には理解し難いのです。吾妻さんはご自身の20代を恋しく思うことはありますか? 今すべきことがあれば、教えていただきたいです。


20代で今すべきこと……うーん、なんですかね? ちなみに岸本さんは今、おいくつですか?

──24歳だそうです。

自分の過去に当てはめると、徐々に仕事を覚え始めた時期ですね。で、20代後半になると天狗になって後輩相手にいばったりしてました(笑)。今思えばめちゃくちゃ恥ずかしいね。後輩はかわいがってあげたほうがいいです(笑)。20代にすべきことか……意外に難しい質問だな。今にして思えば、若いうちにもっといろんな世界に触れたほうがよかったなとは思いますね。俺は、とにかく偏屈だったんで。まあ音楽活動を続けていくとしたら、ある程度の頑固さは必要だと思いますけど。あとは若いうちから、ちゃんと健康診断に行くことも大事! 何をやろうとも健康は大事ですからね。

吾妻光良

──吾妻さんは会社員としてもバリバリに仕事をされていたわけじゃないですか。その当時はバンド活動に割ける時間が限られていたんじゃないですか?

ライブをやるために親戚をたくさん殺しました(笑)。「すいません、法事が入ってしまいました!」って。かなりギリギリで活動してましたね。

──例えば、吾妻さんは20代の頃に戻りたいと思いますか?

あまり戻りたいとは思わないですね。戻りたいってことは、やり直したいことがあるってことでしょ? それでいうと、やり直したいことは別にないからな。恋愛の1つや2つうまくいくんだったら……みたいな気持ちがないわけではないけど(笑)。どうせまたダメになるだろうな、みたいな気持ちもあるし。

──なるほど(笑)。ちなみに岸本さんは最近ブルースギターを弾き始めたそうで、課題曲の1つとしてロバート・ジョンソンの「Sweet Home Chicago」を練習しているそうです。

へえ! お若いのにまた渋いね。

──ブルースギターを上達するために、吾妻さんから何かアドバイスはありますか?

ある程度上達したら誰かとセッションしてみるといいですよ。1人で黙々と演奏するよりも誰かと一緒に演奏するほうが楽しいし。あと有名な方だから難しいかもしれないですけど、飛び入り自由のセッションをやってるライブバーなんかにお忍びで行って参加してみるのもいいと思いますね。そうだなあ、いろんなお店があるけど、中野のブライトブラウンなんかはオススメです(笑)。

──岸本さんが勇気を出してライブバーに入ったら、吾妻さんとばったり居合わせたりして。

そのときは一緒にセッションしましょう。