the pillows|覚悟を決めた山中さわお 再放送のない未来へ向かう

the pillowsが、結成30周年のアニバーサリーイヤープロジェクト「Thank you, my highlight!」の第1弾としてニューアルバム「REBROADCAST」を9月19日にリリースした。

音楽ナタリーでは、18年ぶりに復活したアニメ「フリクリ」の劇場版主題歌や「フリクリ」関連楽曲を収めた9月5日リリースのアルバム「FooL on CooL generation」、7月に行ったアメリカツアーの話題に触れつつ、今のモードを詰め込んだアルバム「REBROADCAST」について山中さわお(Vo, G)にたっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 田山雄士 撮影 / 佐藤早苗(ライトサム)

the pillowsと「フリクリ」の関係

──結成30周年のアニバーサリーに向けて、いろいろにぎやかになってますね。

正直、まだそんなに実感はないかな。「フリクリ」の復活が盛り上がってることはもちろん把握済みだけど、ピロウズは今28歳(取材時は2018年9月上旬)なのに、30歳って言われてるような状況だしね(笑)。

──ピロウズと「フリクリ」の関係については、改めてどんなことを感じますか?

主題歌だけではなく、劇中歌もほぼピロウズが使われるという。そんな経験ってあとにも先にも「フリクリ」でしかないので、OVAシリーズは制作に関わったわけではないんだけど、自分の作品のような思い入れがあるね。ただ、18年前のアニメでは既発曲を使っていただいたのに対して、今回の劇場版「フリクリ オルタナ」「フリクリ プログレ」では新曲「Star overhead」「Spiky Seeds」をちゃんと書き下ろせたから、また違う愛着がある感じかな。例えるなら、NirvanaとPavementの中間くらいに位置するピロウズのオルタナティブロックの真骨頂を主題歌で表現できたと思う。

──不思議な間柄ですよね、コラボともタイアップとも違うような。

山中さわお(Vo, G)

今回の2曲にしたって続編を観てない状態で、もともとの「フリクリ」だけを手がかりに書いたからさ。「Star overhead」では大人になったナンダバ・ナオ太が少年時代のクレイジーな日々を回想する感じのストーリーで、「Spiky Seeds」ではハルハラ・ハル子の人間ではない存在をイメージして。それでも、前回のやはり書き下ろしではない主題歌「Ride on shooting star」と同じく、曲は続編にフィットしてるもんね。OVAシリーズの監督を務めた鶴巻(和哉)さんがピロウズを好きなことからすべては始まって、全編にわたって曲が流れるあの独特な使われ方でしょ? 突き抜けてると言うか、クレイジーな爆発力があった。しかも、海外でも人気が出て、僕の想像を遥かに超えた新たな出会いが待ってた。「フリクリ」でピロウズを知って、10年以上経っても好きだって人が今も膨大にいるなんて、さすがに考えもしなかったもん。特に海外での評価が上がったのは「フリクリ」が99%の入口だろうし、感謝しかないよね。

──アメリカツアー(今年7月にボストンやロサンゼルスなど7会場で実施した「ADULT SWIM PRESENTS "MONO ME YOU SUN TOUR"」)も大盛況だったみたいで(参照:the pillowsアメリカツアーで現地ファン熱狂、11月から国内27公演のツアーへ / the pillows、サンディエゴのコミコンでフリクリナンバー熱唱)。

「ADULT SWIM PRESENTS "MONO ME YOU SUN TOUR"」ニューヨーク公演の様子。(写真提供:バッド・ミュージック)

すごかったよ! でも、「フリクリ」感ばかりでもなかったかもね。会場に来てくれたファンにインタビューした映像が「REBROADCAST」の初回限定盤のDVDに入っててさ、「彼女は今日、」「Bran-new lovesong」とか、「フリクリ」と関係ない曲が聴きたいって人もたくさんいたから。

──ソングコレクションアルバム「FooL on CooL generation」のセルフカバーも個人的にはうれしかったです。「白い夏と緑の自転車 赤い髪と黒いギター」「Thank you, my twilight」あたりは特に。

当時は予算が少なくてスケジュールも詰まってたし、自分たちが未熟なのもあったからね。2曲とも「Thank you, my twilight」(2002年10月リリースのアルバム)に収録されてるんだけど、あのアルバムが実はそういう点で一番苦しかったんだよ。もちろん、曲は気に入ってる。オーディオ的なことだけがダメだったので、ちゃんとレンジが広い音で録り直せて本当にうれしかったな。

ロックンロールだのオルタナティブロックだのにこだわってない

──ここからは22枚目のオリジナルアルバム「REBROADCAST」について聞かせてください。ピロウズ第4期が始まった2013年頃のロックンロールともまた異なる重厚感があって、第4期の傑作と呼びたくなるようなアルバムだと思いました。

第4期の幕開けで「ロックンロールをやる」と言ったのは忘れることにしたんだ(笑)。2013年の活動再開後ってバンドっぽさを意識的に試してみたんだけれど、ロックンロール寄りにしたところで長年培ったメンバーの関係性が激変するわけでもなくて、プロセスへの固執なんて必要ないんだなとわかったんだよね。山中さわおが作詞、作曲をして思い描いた世界を、真鍋(吉明)くん(G)と(佐藤)シンイチロウくん(Dr)が具現化するのがピロウズなんだってのを、僕も受け入れた感じ。逆に言えば、2人はとっくに受け入れてくれてたんだと思う。そこからはロックンロールだのオルタナティブロックだのもうこだわってない。「最近の俺たちは、なんでもやりたいことをやって楽しめるね」という状態なんだよ。

山中さわお(Vo, G)

──表題曲「Rebroadcast」が1曲目ってことは、アルバムのビジョンみたいなものが早い段階でハッキリしてたんですか?

わりと無作為に作ってる段階の何曲目かで「Rebroadcast」ができて、歌詞も乗ったときに気付いたんだよね。「アルバムタイトルを“再放送”にして、それをキーワードに考えたらいろいろ遊べるなあ」って。アニバーサリーは過去を振り返る機会なわけだからさ。で、「BOON BOON ROCK」で「ローファイボーイ、ファイターガール」(2004年11月リリースのアルバム「GOOD DREAMS」収録曲)というワードを使ったり、「Bye Bye Me」でも「Rebroadcasting」ってもう1回歌ったり、「Starry fandango」も「Thank you, my twilight」みたいなサウンドのテンションで始めたり、アイデアが広がった感じかな。

──ずっと聴いてる人なら「Starry fandango」のイントロで絶対に「Thank you, my twilight」を思い出しますよね。

うん。電子音にバンドサウンドがインして背景が変わるトリックをまた試してみて。Dinosaur Jr.の「I'm Insane」みたいなノリで、電子音のところをトランペットの音にしようともしたんだけど、「Starry fandango」のキーに対するこのメロディが実物のトランペットでは出せない音階でね。出すためには1オクターブ下げなけゃいけなくて、渋い音になっちゃうんだよ(笑)。「再放送なんだから『Thank you, my twilight』のあのテンションをもう1回使おうぜ」と考え直したら、すごくしっくりきたっていう。

──ちなみに、ジャケットに描かれているのは「Rebroadcast」の歌詞に出てくる「雷雨の中で見た花火」ですか?

そう。これね、実際にこういう景色を見たんだよ! 去年かな? 車で移動中にさ。たぶん、花火大会の途中だったんだろうなあ。どしゃ降りの雨で雷がズドーンって鳴ってる中で花火が何発かバーンと上がってて。見たことがないような、本当にこの世の終わりみたいだったんだ。美しいっちゃ美しい景色なの。でも、恐ろしい。僕は常に同時進行でいろんなことを考えてて、歌詞を書くときもそうなんだけど、その出来事がしっくりくるワードとしてハマった感じで。最初はジャケのデザインはもっとベタな再放送っぽいデザインを考えてたんだよ。例えば、子供が再放送のテレビ番組を観てるとか。それがもうね、説明的すぎてクソつまんなくて(笑)。「ダメだダメだ、こんなの好きじゃない!」と思って、再放送については一旦忘れて歌詞を見直したら、その光景が感覚的でいい気がしてね。最終回的な光景でもあるし。