ナタリー PowerPush - the pillows
22年目も戦闘的に突き進め! 最新アルバム「HORN AGAIN」
今年で結成22年目に突入したthe pillowsが、通算17枚目となるオリジナルアルバム「HORN AGAIN」を完成させた。
ベテランバンドと呼べるほどのキャリアを持ちながらも、軽やかで痛快なロックンロールを届けてくれる彼ら。インタビューでは新作レコーディングにまつわる話題を中心に、22年目を迎えたバンドの現在についてじっくりと話を訊いた。
取材・文/臼杵成晃 インタビュー撮影/中西求
ロックンロールと名曲熱唱はピロウズで
──2010年はアルバム「OOPARTS」(2009年10月発売)のリリースツアーから始まって、夏フェスとか同世代対バンツアーなどもありながら、山中さんはソロアルバムやTHE PREDATORSの新作リリース、さらにはプロデュース業などかなり多忙でしたよね。だからthe pillowsのアルバムはもっと先だと思っていたのですが、結果的に前作から約1年3カ月という。
山中さわお(Vo, G) 変な話、スピードを競うならもっと早く出せたよ(笑)。9月にもう完成してたから。発売日はレコード会社が決めるので「なんならもっと早く出せたんだぞ」と。
真鍋吉明(G) 自慢?
山中 そう、自慢(笑)。とにかく僕は曲が揃えばもういつでもいいよっていう感じだから。ないときは、知らん。
──では、今は煮詰まることなく曲がどんどん作れている?
山中 そもそも僕は異常なぐらい曲を書くので、むしろ今はちょっと減ったぐらいなんです。前は他の人の10倍だったのが、今は8倍ぐらいしか書いてないかな(笑)。
──実際、アルバムを聴くと煮詰まり感がまったくない、突き抜けたムードを感じます。“Horn”(=角)だからというわけではないけど、ものすごい突進感というか。22年目のバンドって相当なベテランだと思うんですけど、そのベテランバンドがこんなに勢いのあるアルバムを作るって、なんかものすごいことだなあ、というのがまず最初の印象です。曲をたくさん作る中で「こういうアルバムにしたい」というのは事前に決めているんですか?
山中 いや、作詞作曲に関してはとにかく無計画なんですよ。とにかく作ってって、気に入ったら出したいなっていう感じで。サウンド的なマイブームっていうのは多少ありますよ。「こういう音で録りたいな」とか。最近なら「ギターバンド的なハイファイサウンド」ですね。まぁ、そんなキーワードをひとつ決めて楽しみながらやるっていうぐらいで、全体的なテーマを話し合ったりはしないです。
──3人の中でじっくり方向性を話し合うことも特になく?
山中 ないですね。だいたい「こうしたいんだけどどうかな」「ああ、わかったわかった」みたいな。
真鍋 目的はね、とにかくいいアルバムを作る、1曲ずつ良いかたちにすることだから。作曲者である彼(山中)が見てる着地点を確認してから、そこに一緒に向かう感じ。ま、スムーズなもんです。
──ソロアルバム制作との違いは?
山中 ソロはライブでやることを考えずに作ったんですよ。あえてボーカルのキーを低くしたり。こういうのはレコーディングしたものを聴く分には好きだけど、ライブではモニターしづらいし、テンションが上がっても落ち着いてないとピッチが合わないし。そういう、ピロウズでやらないことをやりたかったのと……あとはあっこちゃん(チャットモンチー福岡晃子)やキューちゃん(The Birthdayクハラカズユキ)、高橋くん(Scars Borough / ELLEGARDEN / THE PREDATORS高橋宏貴)と終わったら呑みに行けるっていうね。終わって呑みに行くことなんて絶対ないからね、ピロウズは。録り始めから呑んでるし(笑)。
佐藤シンイチロウ(Dr) レコーディング終わる頃にはグデングデンだから(笑)。キューは呑んでないの?
山中 呑んでねえよ! 一応俺、先輩だからさ。
佐藤 なるほど。気ィ遣ってんだ。
山中 ピロウズの場合は必ずツアーがセットなので、自分の中での分類がきちんとあった。オルタナ寄りのものはソロで消化して、グランジ的なものはTHE PREDATORSで消化して、ロックンロールと名曲熱唱みたいなのはピロウズでやるのが一番いいかなと。
そのへんのおじさんではありません
──今作は「まさにピロウズのアルバム!」という感じがするんですよ。全10曲の中に独特の流れがあって、クライマックスの「Brilliant Crown」のあと最後に「Doggie Howl」でスカッと締めるという。「the pillowsはこういうバンドだ」というのがよくわかる、ピロウズを初めて聴く人にも差し出しやすいアルバムだと思います。
山中 いや、そこはベスト盤でいいじゃないか。
一同 あははははは。
佐藤 でも言ってることはわかります。確かに俺ららしいアルバムだと思う。
──すごく“ピロウズ感のあるアルバム”というか。このアルバムから、今後のライブの核になるような曲が結構出てくるんじゃないかなと思うんですよ。ライブで盛り上がるところが想像できる曲が多いですよね。
山中 僕ら40代のバンドですけど、そこで大人っぽくなってたり「渋いね」って言われたらもう最悪だなっていうのがあるんですよ。長く続いたバンドはRAMONES化してくのが一番良いと思ってて。極端な話。……渋いおっさんのライブなんか行きたくないでしょ?
佐藤 座って観られるような音楽ならそれでもいいんじゃない? ウイスキーはオンザロックで(笑)。
山中 僕らね、ひさびさに3人でラジオのレギュラー始めたんですよ。そのタイトルが「そのへんのおじさんではありません」(笑)。それはなぜかというと、TOKYO FMの入り口で止められたから(笑)。
真鍋 「ちょっとお客さん!」って。
佐藤 たぶんそのへんのおじさんだと思われたんでしょ。
──ピロウズの場合は、サウンドもそうですけど、山中さんの書く歌詞の世界観にもいわゆる“渋いおっさん”にはならない、ひねくれた部分がありますよね。長年のファンだけじゃなく、若いロックファンも信用して付いていける部分って、そういうところだと思うんですよ。
山中 年齢じゃないっていうことだよね。肉体的には……。
佐藤 そのへんのおじさんですよ(笑)。あはははは!
山中 僕、若手の音楽が好きなんですよ。ライブハウスに行くと若いバンドがよくCDをくれるんです。もちろんダメなものもあるけど、たまに「オオッ!」というものがあると「今度一緒にやろうよ」とか、呑み行ったりもするし。そういう出会いに興味があるんだけど、そういうことをする人が少ない気がするな、40代は。音楽そのものに先輩も後輩もないというか、僕らより上でもなんの興味もわかないくだらない音楽っていっぱいあるし、尊敬もしてないし。20代のバンドでも「これは敵わないかもしれないな」みたいなのが出てくるわけですよ。普通にファンとして聴けるし、影響も受ける。「これいいな」って思ったらこのバンドみたいな曲書きたいなと思うし。後輩を否定するようになったら危険ですよね、ちょっと。
CD収録曲
- Limp tomorrow
- Give me up!
- Movement
- Lily, my sun
- Biography
- Sad Fad Love
- Nobody knows what blooms
- EMERALD CITY
- Brilliant Crown
- Doggie Howl
the pillows(ぴろうず)
山中さわお(Vo,G)、真鍋吉明(G)、佐藤シンイチロウ(Dr)の3人からなるロックバンド。1989年に結成され、当初は上田ケンジ(B)を含む4人編成で活動していた。1991年にシングル「雨にうたえば」でメジャーデビュー。初期はポップでソウルフルなサウンドで好評を博すが、上田脱退後の1994年以降は徐々にオルタナ色を取り入れたサウンドへと変化していく。一時は低迷するが、精力的なライブ活動を続ける中で固定ファンを獲得。2005年には結成15周年を記念して、ELLEGARDEN、BUMP OF CHICKEN、ストレイテナー、Mr.Childrenなどが参加したトリビュート盤を制作。the pillowsの存在を知らなかった若年層にもアピールすることに成功する。また、2005年にはアメリカ、2006年にはアメリカ/メキシコでツアーを敢行。海外での人気と知名度も獲得する。結成20周年を迎えた2009年9月には初の日本武道館公演を行い、大成功を収めた。キャリアを重ねるごとに勢いと力強さを増し、今や日本のロックシーンには欠かせないバンドとしてリスペクトされている。2011年1月26日に通算17枚目のオリジナルアルバム「HORN AGAIN」をリリース。