the paddles「結婚とかできないなら」インタビュー|バンド1本で突き進む3人のリアル (3/3)

27歳になった今しか書けないテーマ「結婚」

──今作「結婚とかできないなら」は、結婚というものをリアルに感じ始める年代のそれぞれのラブストーリーが体感できる、言わばコンセプチュアルな作品ですし、全体を通して1つの作品として聴いてほしいですよね。

柄須賀 ホンマにそう思います。最近、友達が結婚しまくっているんですよ。最初は「結婚」というワードは入れていなかったんですけど、27歳になった今しか書けないテーマはなんなのか考えたときに「みんな、結婚の話ばっかりしているな」と思って。友達と飲んでいてもその話題が多いし。「『ゼクシィ』が売れ続ける理由ってなんやろう」ってマジで考えたりもして。で、6曲書き終わってから、今だからこそ打ち出せるワードとして「結婚」をタイトルに入れることにしたんです。そういう意味でも、自分の日常がものすごく反映されている。僕は宇多田ヒカルさんが言っていた「1%の事実を強調するためなら、99%はフィクションでいい」という言葉が大好きで、ずっとそうやって歌詞を書いていたんですけど、今回はどちらかと言うと事実のパーセンテージが大きめで、脚色の部分はかなり少ない。なので、生感が強いんですよね。それも今回のEPの特色だと思います。

──それもあってか、ちゃんと人生のサウンドトラック的な性質も持ったEPになっていると思いますし、このまま短編集の映画にもできそうな作品ですよね。

柄須賀 確かに群像劇の感じがありますよね。

──あと、90年代、00年代の音楽を浴びてきたこともあって、あの時代のワード感にあふれているのも逆に新鮮でした。

柄須賀 今回「~いいですか」とか「~のなら」みたいなタイトルの曲が多いんですけど、あの時代もそうだったじゃないですか。今はどちらかと言うと、カッコいいワンワードでピシッと決めるタイトルが多いと思うんですけど。

──本作は、そもそも英語のタイトルが1つもない。

柄須賀 確かに! 英語のタイトルとか……俺、今、パッと浮かんだの、Every Little Thingの「fragile」ですもん。

──四半世紀前の曲ですよ(笑)。

柄須賀 それぐらい英語のタイトルが浮かんでこないんですよ(笑)。でも、僕の中では、90年代の日本語の曲名に惹かれるというか、インパクトが強かったんですよね。パッと見ただけで忘れないし、そのタイトルがサビの歌詞でちゃんと出てくる。あの感じがいつまでも好きなんですよ。それともつながる話だと思うんですけど、僕はカラオケで歌いたくなる曲を作りたいんです。

the paddles

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──「カラオケで歌いたくなる曲を作りたい」という言葉、ひさしぶりに聞いたかもしれません。確かに90年代のヒット曲はどれもそこを目がけて作られていましたもんね。クラブとかディスコ帰りの若者がカラオケ行ったときに歌える曲を作ろうとしたのが、当時の小室哲哉だったりしましたし。

柄須賀 自分はいまだにというか、今こそそう思っているんです。the paddlesの曲たちは、歌われるためにある音楽だと思っているので。Mrs. GREEN APPLEとか、ヒゲダン(Official髭男dism)とかも超大好きでめちゃくちゃ聴くんですけど、歌うとめちゃくちゃ難しい(笑)!

──「最近の若い連中の曲はキーが高くて難しい!」って中年のおじさんのセリフですよ、それ(笑)。

柄須賀 中年のおじさんと同じ気持ちです(笑)。とても最高な音楽なんですけどね。ボカロ文化の台頭があって、音程バーが視覚的に浮かぶようなメロディを生身の人体でどう歌うか。そういう流れがあって流行っているところもありますし、それがまたカラオケ文化と密接に結び付いて「千鳥の鬼レンチャン」みたいなテレビ番組も人気があるわけじゃないですか。難しいメロディを歌い上げるカッコよさがあって「お前、これ歌えるの?」ってカラオケで言われるみたいな。僕もそれを意識してメロディを作っていた時期があったんですけど、そういう曲を歌い続けていると、さすがに疲れる(笑)。ただ、それをやってみたからこそ、自分の一番得意なキーで歌を歌い上げることの美しさをとても意識するようになったんです。だから、あえてあんまり高くしない。出てきても、hiA(高音のラ)。WANDSの「世界が終るまでは…」が歌える人やったら全員歌えるぐらいの歌メロにするようになりました。だから、今回のEPの曲たちもみんなに歌ってほしいですね。

the paddlesの目標は?

──そんなさまざまな思いが込められたEP「結婚とかできないなら」。どんなふうに世に届いてほしいと思いますか?

柄須賀 今、みんなが打ち込んでいること。それが恋愛なら恋愛でいいし、仕事なら仕事でいいし、学業なら学業でいいし、育児なら育児でいいと思うんですけど、the paddlesは「飾らず歌を作る」というところに徹することをずっと意識しているし、とにかく今しか歌えない歌を直向きに歌い続けるので、みんなも直向きに生きていたら、必ず響く言葉やメロディがここにあると思うんですよね。なので、みんなの生活のファッションになるというより、いつか「私、この曲を聴くと、あのときのことを思い出すわ」と思ってもらえるぐらい生活の中に飛び込んでいける作品になってほしいです。

──歌ってほしい。思い出とともに寄り添える存在になりたい。ここまでの話を聞いて思いましたけど、the paddlesはポップスが本来持っていた役割を担いたいバンドなんですね。そこが軸にある。

柄須賀 そう言ってもらえるのは、めっちゃうれしいです。自分も話していて「そうなんや」と思いました(笑)。

──では、最後に、the paddlesの今後の目標や夢がありましたら聞かせてください。

松嶋 the paddlesは、大阪や東京ではすでにワンマンライブをしているんですけど、今初めてのワンマンツアー中でそれ以外の場所でもワンマンライブができているので、この先もっともっといろんな場所でワンマンができるようになりたいですね。その場所でしか味わえない空気があると思うし、そこに集まっているのはすべてthe paddlesを観に来た人たち、という空間をどんどん生んでいきたいです。

渡邊 自分は地元が千葉の蘇我で、家のベランダまで「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」や「JAPAN JAM」といった大きいフェスの音が聴こえてくるところに住んでいたんです。友達とかに「ロッキン出たら観に行くわ」と言ってもらっていたので、そういう人たち全員に「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」や「JAPAN JAM」でthe paddlesのライブを観てもらえるようになりたい。それはずっと目標にしています。

柄須賀 かつて「服部緑地で野外ライブがやりたい」と言っていたんですけど、今はグレードアップして「大阪野音でライブがやりたい」に変わりました。あそこでthe paddles主催のフェスがやりたい。というか「絶対にやる」と決めています! あと「紅白歌合戦」に出たいですね! そして、教科書に載るような曲を作りたいです! そういうでっかい夢をどんどん口にして叶えていけるバンドでありたいですね。あと、イントロ当てクイズが得意だから「ドレミファドン!」みたいな番組にも出たいです(笑)。

the paddles

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公演情報

the paddles「いつか君と別れてしまうならツアー」

ゲストバンドあり

  • 2026年1月31日(土)兵庫県 MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎
  • 2026年2月1日(日)香川県 DIME
  • 2026年2月8日(日)広島県 ALMIGHTY
  • 2026年2月11日(水・祝)福岡県 LIVE HOUSE CB
  • 2026年2月15日(日)岡山県 CRAZYMAMA 2nd Room
  • 2026年2月18日(水)神奈川県 F.A.D YOKOHAMA
  • 2026年2月21日(土)宮城県 enn 2nd
  • 2026年2月23日(月・祝)栃木県 宇都宮HELLO DOLLY
  • 2026年3月1日(日)石川県 vanvanV4

ワンマン

  • 2026年3月6日(金)愛知県 RAD HALL
  • 2026年3月8日(日)大阪府 Music Club JANUS
  • 2026年3月15日(日)東京都 WWW X

プロフィール

the paddles(パドルズ)

大阪府寝屋川発のスリーピースロックバンド。2014年に高校の同級生で前身バンドを結成し、2017年よりthe paddles名義で活動している。2019年10月に初の全国流通盤となる1stミニアルバム「EVERGREEN」を発表。2024年12月にリリースした「オールタイムラブユー E.P.」はタワレコメンや各種プレイリスト、ラジオのパワープレイなどに選出された。同月にオリジナルメンバーの加賀屋航平(Dr)が脱退するも、サポートを迎えた編成で「FM802 RADIO CRAZY 2024」などに出演。2025年2月にスタジオミュージシャンだった渡邊剣人(Dr)が正式加入し、現体制になる。同年に大阪・梅田CLUB QUATTRO、東京・渋谷CLUB QUATTROでthe paddles史上最大キャパでの自主企画「余白を埋める -CLUB QUATTRO 編 -」を開催し、チケットを完売させた。その後も初のワンマンツアーを行うなど、精力的な活動を続ける中、12月に新作EP「結婚とかできないなら」をリリース。2026年1月末より全国ツアー「いつか君と別れてしまうならツアー」を開催する。