the paddles「結婚とかできないなら」インタビュー|バンド1本で突き進む3人のリアル (2/3)

始まりはお兄ちゃんのお下がりウォークマン

──渡邊さんのルーツは?

渡邊 自分の家族は、お兄ちゃんが唯一音楽を聴く人だったから、お兄ちゃんのお下がりのウォークマンを中学生ぐらいのときにもらって、そこに入っていたマンウィズ(MAN WITH A MISSION)、UVERworld、GReeeeNとかをずっと聴いていました。その後iPod touchをまたお下がりでもらうことになるんですけど、そこにはワンオク(ONE OK ROCK)とか[Alexandros]が入っていて、そんな感じでちょっとずつ聴く音楽が増えていきました。で、中3で初めてバンドを組んで、[Alexandros]みたいな音楽をやっていたんですけど、YouTubeでライブ映像を観るのにハマっていたときにKOTORIに出会ったんです。2019年の「フジロック」のROOKIE A GO-GOステージのライブ映像を観たら衝撃が走って。「僕はこういうバンドをやろう。こういうドラマーになろう」と思ってすごくがんばったんですけど、全然うまくいきませんでした。だから「一旦1人でやろう」と思って、スタジオミュージシャンになったんです。

──ということは、その時点でドラムに自信はあったんですね。

渡邊 ちょっと自信はあったんです。そしたらお金をもらいながら音楽ができるようになって。そこまではリアルタイムで追っていたバンドしか聴いていなかったんですけど、皇司くんと出会ってからはイエモンとかミスチルとかスピッツも聴くようになりました。「ドラムがこういう感じで」って教えてもらいながら。

柄須賀 歌のためのドラムを叩いている人たちね。

渡邊 僕の時代はテクいバンドが流行っていたので、逆に“歌のためのドラム”が新鮮でした。

渡邊剣人(Dr)

渡邊剣人(Dr)

──柄須賀さんは、the paddlesに加入する前の渡邊さんのことをドラマーとしてどう見ていたんですか?

柄須賀 ちょうど新しいドラマーを探しているタイミングで、心斎橋のLIVEHOUSE BRONZEというライブハウスで初めて知り合ったんですけど、そこで「すごいドラムうまいな!」と思いました。あと、その前に「めっちゃ“パドルズ顔”やな」と(笑)。

──顔で選んだんですか(笑)。

柄須賀 で、ついでにドラムもうまい(笑)。バンドに入ってもらうということは、生活に密着して活動することになるじゃないですか。だから、一緒におってオモロいやつのほうが絶対にいいなと思っていたんですけど、パッと見で「めっちゃいい子」と感じたんですよね。その日はちょっとだけしゃべって終わったんですけど、その帰りの車の中で航大と「あの子、めっちゃドラムよかったよな」みたいな話をずっとしていたんです。ちなみに、前のドラマーが“いなたいドラム”の頂点みたいなやつやったんですよ。ミスチルの桜井和寿さんが歌うためのドラムを完璧に叩く鈴木英哉さんみたいな。ただ、そいつが辞めることになって、同じようなドラマーを探してもよかったんですけど、テクいというか、打点がはっきりしている、わりとなんでもできる現代っぽいドラマーのほうがいいなと思って、剣人にお願いすることにしました。

──実際、渡邊さんがドラマーになっていかがでした?

柄須賀 曲が変わりました。けど、the paddlesが重んじている和声の部分とかが消えずに、むしろ力強く強調された感じがします。なので、とてもいいです。

the paddlesの自伝のようなアンセム「25歳」

──渡邊さんが加入して新体制になったタイミングで、先ほども触れさせてもらった「25歳」という新曲を発表しました。どんな思いで制作されたんでしょう?

柄須賀 とにかく剣人の加入と同時に曲を出そうと決めていたんですよ。今年2月25日の新代田FEVERでの新体制初披露ライブに合わせて何か出そうと。今回のEPに収録されている「夏の幻」をすでに書いていて、それでもいいかなと思っていたんですけど、剣人はバラードドラマーというよりはエネルギッシュで前にガツガツいけるドラムのイメージだったので、速い曲にしようと考えて「25歳」を書きました。で、書いている間に歌詞の方向も決まって。この3人というか、the paddlesがこれまで歩んできた足跡をここで一旦明確に残そうと思いました。だから「絶対に今しか書かれへんやろ」という曲。それを書けるかどうかが、俺にとって勝負だったんです。俺が銀行を辞めたのが25歳で、剣人がサポートで入った当時の平均年齢が25歳だったから「25歳」というタイトルにして、「銀行を辞めて……」という日記みたいな内容の歌詞を初めて書きました。このバンドの自伝ですよね。「the paddlesのアンセムソングは?」と問われたら、「25歳」と即答できるような曲にしようと。

渡邊 その当時、僕らはしょっちゅう遊んでいたんですよね。

柄須賀 よう一緒に遊んでいたよな。

渡邊 東京に来るたびに誘ってくれて、飲んで遊んでいろいろしゃべったんですけど、この曲の歌詞に「意味が無いことで喧嘩しよう 意味が無いことで笑い合おう 意味が無いことも全部巻き込んでいこう 意味があることは秘密にしよう」というフレーズがあって、本当にそういう時間を一緒に過ごしたんです。ツアーを回って一緒に旅をして、小さい車でいろんなところへ行って、そこでともに過ごした時間も全部詰まっている。だから「25歳」が完成して聴いたときは、本当にうれしかったです。

松嶋 聴く側からしても「新しいthe paddlesが始まる」と強く感じられる曲になっただろうし。

柄須賀 この曲からまた新しく始まっていく感じね。

the paddles

the paddles

インタビュー中に発見されたEP収録曲の“ある共通点”

──その「25歳」のミュージックビデオにメンバー同士で酒を飲んでる姿が収められていて、青春感があふれていてグッと来たんですけど、新体制初のEP「結婚とかできないなら」を聴いたら、6曲中4曲に酒を飲んでる描写があって(笑)。

柄須賀 そんなに飲んでました?(笑) 気付かなかった!

──1曲目「ちぎれるほど愛していいですか」で「しょっちゅう飲みにも行くし」。2曲目「赤いアネモネ」で「あいつ誘っていつもの居酒屋で泣く」。3曲目「恋愛ヒステリック構文」で「私より大事なお仕事飲み会 お疲れ様です」。6曲目「結婚とかできないなら」で「お酒飲んだしさ 都合いいけどさ 何回目の喧嘩ですか」。どれだけ酒好きバンドなんだと(笑)。そこは本質じゃないとわかっているんですけど、とても印象的でした。

柄須賀 いや、でも裏テーマかもしれない。僕は1人じゃ飲まないけど、人とおるときはほぼ絶対飲みに行くんですよ。だから、それが歌詞にも反映されていると思うんですけど、ここまで多いとは思わなかったです(笑)。全然気付いてなかった!

松嶋 僕らの中では、日常すぎて(笑)。

配信全盛の現代でCDを大切にする理由

──でも、それぐらい日常や人の営みが反映された作品になっているわけですよね。自分たちとしては、EP「結婚とかできないなら」の仕上がりにどんな印象や感想を持たれていますか?

柄須賀 収録曲は6者6様、全部違う曲になったなって。これは書き分けたというよりは、さっきから言っている「今、書かないとアカンもの、今しか書けへんもの」を書いているうちにバラバラの曲ができていったんですよ。それをギュッとまとめてみたら、the paddlesの名詞代わりと言える1枚が完成しました。今のthe paddlesっぽいものを言葉としても、サウンドとしても、歌としても詰め込もうと思ったらこうなっていたんですよね。いいよね。

松嶋 いいね。

渡邊 全部オススメ。どれを聴いてもらっても、自信を持って「いいでしょ?」と言える6曲になったと思います。聴いていて、きっと飽きないと思います。

the paddles「結婚とかできないなら」ジャケット

the paddles「結婚とかできないなら」ジャケット

──サブスク全盛の時代にCDでリリースしようと思った理由があったら聞かせてください。

柄須賀 CDって確かになくてもいいというか、海外のアーティストの方たちはシングルを配信で打ちまくったあとに、どえらい曲数のアルバムを出したりするじゃないですか。僕、あれが苦手で。自分はサブスクでもCDの曲順通り聴いているんですよ。今でも「プレイリストってなんやろう?」と思っているタイプの人間で。やっぱりアルバムで聴きたい。あと、今改めてCDを買うという行為、これを部屋に置くという行為、アートワークを眺める行為、歌詞カードを見るという行為に価値が出てきている感じがしていて。僕らが生まれた当時、あるいはその前ってそもそもフィジカルがあるのが当たり前で、それをみんなで貸し借りするのも、クレジットを見て例えば「この人が書いてるんや。あ、全部織田哲郎やん」と気付くことも含めて楽しんでいたと思うんですけど、今の時代の子たちもそれを喜ぶ流れが来ている気がするんですよね。であれば、the paddlesのCDをインテリアとしてでもいいから部屋に置いてほしいし、そういう思いでこのEPをCDとしてリリースすることにしました。

松嶋 僕もアルバムやEPは曲順通り聴きたい派で、「結婚とかできないなら」はそうやって聴いたときにスッと入ってくるんですよね。この感じを今、the paddlesを聴いてくれる人にも味わってほしいなと思います。今の時代、社会人になると移動のときぐらいしか音楽を集中して聴ける時間がないと思うんですけど、本作は6曲入りで、20分そこらで聴けるEPだから時代にも合っているし、最初から最後まで通して聴いてもらいやすい。僕たちが理想としている“作品単位で聴く”という楽しみ方が自然とできる1枚になっていると思います。