ぼくらがぼくらであるために The Novembersが見つめ直した「このバンドであること」「ロックであること」

2020年前半、新型コロナウイルスが猛威を振るい始める中でアルバム「At The Beginning」をリリースしたThe Novembers。同年は有観客でのライブが行えない状況に陥ったものの、2021年からはUSEN STUDIO COASTやZepp Haneda(TOKYO)でのワンマンライブ開催、大型フェス「FUJI ROCK FESTIVAL」への出演、さらには各メンバーのソロ活動を活発化させるなど、幅広く動き続けてきた。そして前作から約3年半、彼らは9枚目となるフルアルバム「The Novembers」を完成させた。

作品タイトルにバンド名が冠されるのは、2007年発表のデビュー作「THE NOVEMBERS」以来およそ16年ぶり。その理由についてメンバーは「今のThe Novembersというバンドそのものを感じてほしかった」と説明し、「今の僕たちが凝縮されたロックアルバム」となることを明かしていた。音楽ナタリーでは本作の発売を記念し、小林祐介(Vo, G)にインタビュー。「At The Beginning」発表後を振り返りつつ、このタイミングで「The Novembers」という“ロックアルバム”を作り上げた背景を語ってもらった。

取材・文 / 高橋拓也撮影 / 山崎玲士

僕たちが今できることって、なんだろう

──前作「At The Beginning」の制作時はちょうど新型コロナウイルスが流行し始めた時期で、当時小林さんは世間の様子が変わっていくにつれ、アルバムの構成も変わっていったとお話しされていました。

あの頃は国内だけでなくアジアツアーも予定されていたんですが、「At The Beginning」にまつわるいろんな活動がきちんと果たされないまま終わってしまったんです。いろいろと未練が残る作品になった……というのは正直ありますね。さまざまな活動が途絶えたことで「僕たちが今できることはなんだろう」と内省的になっていました。

──「At The Beginning」は2019年発表の「ANGELS」にも通じる、暗いムードの強い作品でした。もともとは“はじまり”を壮大に描いた「Rainbow」がラストナンバーとなる予定でしたが、新型コロナウイルスが感染拡大していくにつれて「すでに始まっていないと遅い」と判断し、曲順が冒頭に変更された、という背景も語られています。

どの作品でも制作時の空気や時代感が入ってくるのですが、「At The Beginning」は世相に合わせてどんどん曲順やアレンジを変えていったので、これまで以上にリアルタイムだったかもしれません。僕たちは「いいな」と思うことを常に探り、それを作品にし続けてきたので、特別この時期だけ「こんなムードにしよう」と思ったわけではないんです。ですが自分たちの中からにじみ出てしまう部分と自覚的な部分、その両方を見つめている時間はすごく多かった気がして。「自分たちはどういうバンドなんだろう」と手を動かしていった結果、あの作風になったんです。

小林祐介(Vo, G)

小林祐介(Vo, G)

──The Novembersは2020年に有観客でのライブ活動を一旦ストップしましたが、翌2021年から徐々にもとに戻り、USEN STUDIO COAST、Zepp Haneda(TOKYO)と大きい会場でのワンマンが続きました。さらに2022年には「FUJI ROCK FESTIVAL」にも出演し、順調に再スタートを切ったように見えました。

振り返ってみると、大規模なライブが続いていましたね。

──一方で、2022年11月にLIQUIDROOMで行われたワンマンのとき、小林さんは「新しい楽曲を作っているけど、メンバーに渡せず、誰にも聴かせない曲ばかりが増えてしまった」「このバンドで何をしたいのか、重くのしかかってくるようになってしまった」とお話ししていました。どこか不穏な様子だったのですが、当時バンド内はどんな状況だったんでしょう?

あのときの発言ではファンを不安にさせてしまい、申し訳なかったです。2020年以降はメンバーそれぞれがThe Novembers以外の活動で自分の力を試していて、僕はTHE SPELLBOUND、高松(浩史 / B)はPetit Brabanconでの活動を始めていました。

──音楽以外にも、ケンゴ(マツモト / G)さんはさまざまなコラボレーション、吉木(諒祐 / Dr)さんはアパレルブランド・debaserでも活動していましたよね。かなり幅広い。

もちろんケンゴくんと吉木も音楽を制作したり、別バンドのサポートを始めたりしていました。みんなでThe Novembersとは異なる流儀や美学、哲学をさまざまな場所で体験していたんです。

──メンバー個人の活動について、どこまで着手していいかは事前に決めていたんでしょうか?

特に何も。それぞれのフィールドでいい体験をして、再び集まったときにいいコミュニケーションが取れるようにしたかったので、制限はしなかったです。一方でThe Novembersの活動がおろそかにならないかやきもきしたり、作品を作れていないことに悔しさを感じたりすることはありました。

──アルバム制作やライブでThe Novembers以外の活動が生かされたところ、変わった部分はありましたか?

もちろんあったと思うんですけど、「ここを変えよう」「あのときの活動を生かそう」と話し合うことはなかったです。口にはしないけど演奏や音で示す、という感じでした。

ケンゴマツモト(G)

ケンゴマツモト(G)

吉木諒祐(Dr)

吉木諒祐(Dr)

The NovembersがThe Novembersである意味

──小林さんのTHE SPELLBOUNDでの活動についてはナタリーで何度かお話を伺いましたが、その中で「THE SPELLBOUNDで得たものをThe Novembersでも生かしたい」と語られていました。THE SPELLBOUNDも複数回にわたるワンマンや大型フェスへの出演、作品制作を休みなく行ってきたので、小林さんにとって貴重な体験だったかと思います。

THE SPELLBOUNDはまだ活動を開始して3年ですが、その短期間とは思えないほど濃密な時間を過ごしました。そうなるとThe NovembersとTHE SPELLBOUND、両バンドの音楽を必然的に比較してしまうんですよね。THE SPELLBOUNDが始動する前は「ただ作りたい曲を作る」という心持ちで制作していたのですが、よくも悪くもそれは自己完結しているものだと気付いた。

──中野雅之(THE SPELLBOUND、BOOM BOOM SATELLITES)さんとの活動を経て、音楽との向き合い方が大きく変化したと。

中野さんは「音楽でどんなふうに世界を変えることができるか」をいつも真剣に考えていて。そんな姿を目の当たりにしたことで、僕がなぜBOOM BOOM SATELLITESに惹かれ、人生を突き動かされたのかがわかった気がします。それと同時に、人や時代をいい方向に導くことがどれだけシリアスでハードなのかも知って。

──そこでThe Novembersに求める音楽性や姿勢も変わっていった。

僕の中で価値基準のハードルが一気に上がったので、「ちょっといい曲ができたな」くらいのことでは納得できなくなったんです。もっとカッコいいもの、もっと誰かを幸せにできるものは何かということを考え続け、手を動かしているうちに時間が経ってしまった。なのでスランプに陥ったというよりも、よりよい作品を作るためにひたすら葛藤していた、というニュアンスに近いです。食品で例えると発酵中でした(笑)。

──発酵(笑)。小林さんが楽曲制作で葛藤していたことは、メンバーの皆さんも把握していたんでしょうか?

実はコロナ禍に入ってから、メンバーとはあまり会わなくなっていたんです。10代の頃からの友達なので、合流すればいつも通りなんですけど、僕が「この問題は自分だけで解決しなくては」というふうに思い込んでしまって。もちろん1人で考える時間は大事ですが、誰かと一緒に考えることも重要ですよね。そんな中「今こんな状況で、こういうことを叶えたいと思っている」と日常的にシェアして、みんなで育てていくことができていなかった。

──長年関わりのある友人だからこそ、相談しづらいことはありますよね。

逆に友達だから言わなきゃいけないこともありますし。ただ、仲よく調和することを優先しすぎて、触れないままにしてしまうこともままあって。バンドによってはほんの少しでも小石を投げられたら、調和が崩れてしまう可能性がある。でも「この4人でバンドをやっていくんだ」と決めた以上、The NovembersがThe Novembersである意味を一緒に考える必要があったんです。

──今年4月に発表された新曲「かなしみがかわいたら」について、「僕たちが僕たち自身を取り戻していく」「4人が出会ったことの意味や、The Novembersであることの意味を確かめ合う」とコメントされていたのは、そういった背景があったのですね。

はい。そういう意味では、これからバンドをどうするのか、じっくり考える期間でもありました。

高松浩史(B)

高松浩史(B)

新しい音楽と初めて触れ合う瞬間を作る

──ニューアルバム「The Novembers」は一般流通される前にワンマンツアーの各会場で先行販売され、メンバーの皆さんがCDを手渡しするチケットも用意されました。

アルバムをリリースして、ただそのツアーを実施するだけでは味気なくて。今は配信がメインになって、新曲を発表するスパンが短くなっていますが、もっとじっくり、大事に届けたかったんです。そこで一般流通前にツアーでアルバムの新曲を披露することで、新しい音楽と初めて触れ合う瞬間をライブにして。CDも「これが今の僕たちです」と直接届ける形にしました。

──バンド名をアルバムタイトルにしたのも「バンドそのものを感じてほしい」という理由でしたよね。会場で音源を手に取ってもらうことは、前情報を入れずにライブを観に行って、楽曲を気に入ったら直接物販で買うという行為に近く、ある意味では活動初期に立ち返ったとも言えそうです。

しかもアルバム付きチケットを購入していただく場合、1つも新曲を聴いていない状態でアルバムを買うかどうか、先に判断してもらうことになるから、さらにハードルが上がりますよね。そんな中アルバム付きチケットを買ってくれた方がたくさんいらっしゃって、ありがたかったですし、背筋も伸びました。そこには僕たちの活動をサポートする意思だけでなく、The Novembersの新作がよいものだと信じている、という思いも込められているので。

──アルバムをお客さんに手渡ししてみて、いかがでしたか?

「とにかく楽しみにしてくれたんだな」という思いが伝わってくる方がたくさんいましたし、「15年近く追いかけているけど、初めてメンバーとお話しました」「いつも人生に寄り添ってくれてありがとうございます」とお礼を言ってくださる方もいました。SNSでメッセージをいただくこともありますが、やっぱり目の前で気持ちを伝えてもらえるのは幸せですね。

──これまでもThe Novembersはアルバム「zeitgeist」に同封された手紙と花の種、シングル「今日も生きたね」で同内容のCDを2枚封入した“シェアCD”方式、ツアー「THE NOVEMBERS Tour2022 -歓喜天-」各公演の終演後に配布された、ライブ演奏曲の歌詞を引用したペーパーなど、誰かに何かを渡すことを大事にしてきました。今回のアルバム手渡しも、そのスタンスに通じるものを感じます。

手渡しをすることで言葉やフィーリングが生まれて、目には見えないエネルギーが行き交うので、すごく密なコミュニケーションと言えますよね。物だけでなく会話の1つひとつや所作もギフトだと思うと、身の回りの見え方、相手の表情や雰囲気の捉え方も変わるもので。誰かと一緒に生きているからこそ、「幸せな瞬間を増やしたい」という気持ちは普段から意識しています。