ナタリー PowerPush - The Mirraz

畠山承平が語るメジャー進出の理由

とにかく「気持ち悪りぃ」って歌いたい

──もうひとつのタイトル曲「気持ち悪りぃ」も100曲の中の1曲なんですか?

そうですね。その中でも「気持ち悪りぃ」はガレージっぽいものを作ろうと思ってできた曲ですね。100曲の中には自分の中で何種類かのアルバム用の曲を想定して作ったものもあったんです。「気持ち悪りぃ」はその中の1曲で、サウンド的にはグランジとヒップホップを足して、ちょっとガレージ寄りに着地させたみたいな。

──このシニカルでアンニュイな歌詞はどんなイメージで?

インタビュー写真

最初にとにかく「気持ち悪りぃ」って歌いたいと思って。J-POPに「気持ち悪りぃ」って言葉を連呼する歌詞ってないし面白いなと。そういう遊びができるのもThe Mirrazらしさだと思うし。そこから何に対して「気持ち悪りぃ」って言うか考えたんですけど。俺個人の不満とかストレスを書き連ねるのか、もうちょっとユーモアに寄せていくのか。で、今、The Mirrazのライブに来るお客さんって中高生とか若い子が多いんですけどね。たまたまインターネットのニュースを見ていて、親が不倫していることを知っている子どもは、そのほとんどが特有のトラウマを抱えるという記事があって。そのトラウマというのが例えば恋愛できないとか、結婚できないとか、そういう悩みを持ってしまうと。去年、俺も「自分にとっての音楽ってなんだろう?」って考える時間があった中で、自分の音楽に役割があったらいいなと思ったんです。もちろん、単純に楽しめたり、踊れたりする音楽もすごく大事。ラブソングもすごく大事。哲学的な音楽もすごく大事だと思う。でも、もっと具体的にあるひとりのリスナーの武器になるような、お守りになるような曲ができたらいいなって。

──対象の距離感が近いほど、その曲が広く伝わることもあるしね。

そうなんですよね。そもそも音楽って目に見えないものなんだけど、最近はCDの存在意義もどんどん薄れて、データが主流になってますます形がなくなってきて。そこで俺は曲に具体的な役割があったら、音楽の形を実感できるんじゃないかなと思ったんです。例えば両親が不倫していて、毎日フラストレーションを抱えながら生きている子が、The Mirrazのライブに来て「気持ち悪りぃ!」って叫んだら、それだけで気持ちいいだろうなと思うし。

「この人のために作ろう」って思った曲が共感を呼ぶ

──畠山さんがそういう思いを持っていることがちょっと感慨深いものがあるというかね。

あはははは。そうっすよね。

──でも、それは今まで以上にリスナーを近くに感じている証拠ですよね?

まあ、でも「俺の知り合いにそういう人がいたらどうするか?」とか、そういうレベルになっている気がしていて。

──曲作りの方向性が?

そう。最初から多くの人に向けて曲を作ろうと思うとぼやけちゃうんだけど、さっき言ってもらったように「この人のために作ろう」って思って作った曲のほうが、結果的に多くの人の共感を呼ぶような気もするから。

ライブの音にこだわるのが楽しい

──話は逸れるけど、畠山さんって相変わらずライブは嫌いなんですか?

あ、でも昔ほどじゃなくなりましたね。昔はホント嫌いだったけど(笑)、最近はあんまり考えなくなりました。

──それはなぜ?

ライブの音作りとかもより洗練されてきて。アルバムを作るのと一緒で、ライブの音にこだわるのが楽しくなってきたんですよ。前以上にライブでも真剣に音楽と向き合えてる気がする。音楽に集中できる良い環境があるから、ライブももっと良くしようという思いが出てきたのかもしれない。

──もう、めちゃくちゃいい状態じゃないですか。

はい、かなりいい感じっすね(笑)。

ディレクターも「これ面白いねえ!」

──そこで3曲目の「E-miんの歌」なんですけど。「EMI」が見え隠れするタイトルで、メジャーレーベルの体制批判を歌うっていう(笑)。畠山さんらしい悪い冗談だなと。

そうっすね(笑)。最初はメジャーに移籍するし、「移籍の歌」を作りたいなって思ったんです。LED ZEPPELINの「移民の歌」みたいで面白いなと思って(笑)。で、「移民の歌」と「EMI」をかけて「E-miんの歌」ってタイトルにして、ブラックジョークみたいな曲を書いたら笑えるだろうなと。別にEMIをディスってるわけじゃなくて、メジャーに移籍するアーティストが抱えている問題をネタにしただけなんです。メジャーレーベルの体制批判というか、レーベルとアーティストの関係性の問題提示みたいなもんですね。

──そのタチの悪いブラックジョーク曲を移籍一発目のシングルに収録できていることが、逆説的にEMIとの良好な関係を示してるっていう(笑)。

そうっすね。ディレクターも「これ面白いねえ!」って言ってましたから(笑)。

──サウンドも攻撃的でカッコいい。

ガレージっぽい感じに作り込んでるんですけど、もうちょっときれいな音にしたらシングルにしてもいいくらいの曲だと思います。The Mirrazの攻撃的な部分がいい感じに出ていると思います。

The Mirraz(みいらず)

畠山承平(Vo, G)、佐藤真彦(G)、中島ケイゾー(B)、関口塁(Dr)からなるロックバンド。2006年9月に畠山が中心となって結成。2008年12月に1stアルバム「OUI! OUI! OUI!」、2009年10月に2ndアルバム「NECESSARYEVIL」とリリースを重ね、洋邦ロックファンから注目を集める。2011年、自主レーベル「KINOI RECORDS」の立ち上げと同時に、中島と佐藤が正式加入し現在の4人編成に。同年6月に初のシングル「観覧車に乗る君が夜景に照らされてるうちは」、9月に2ndシングル「ラストナンバー」をリリースし、2012年1月にアルバム「言いたいことはなくなった」を発表した。同年7月にEMI Music Japanへの移籍を発表し、10月にメジャー第1弾シングル「僕らは / 気持ち悪りぃ」をリリース。