ナタリー PowerPush - The Mirraz

畠山承平が語るメジャー進出の理由

音楽に集中できる環境を手に入れた

──なるほど。一方でリスナー側の視点に立つと、今は特にロックシーンにおいてはインディーズもメジャーも関係ないという認識が広がってますよね。

そうですね。

──その中にあって、The Mirrazはどこまでもインディーズ然としたバンドだったし、そのうえで畠山さんは常々「100万枚売りたい」と言っていて。リスナーは、The Mirrazはインディーズでありながらその野望に向かっていくバンドで、そこに面白さやある種のヒロイズムを感じていた人も多かったと思う。そのあたりについてはどう思いますか?

インタビュー写真

メジャーに行くときに一番不安だったのはそこなんですよ。「やっぱりインディーズのThe Mirrazが好き」「このバンドはインディーズで活動していることに意味がある」って思っている人はいっぱいいたと思うし。僕自身にもそう思うところはありました。だけど、ホントに今CDが全然売れなくなってきていて、そこで思うのはそれこそさっき言われていたようにメジャーもインディーズも関係ない状況があるからインディーズでやってきたんだけど、裏を返せばメジャーでやってもいいよねって感じなんですよ。それと俺がずっと求めていたのが、音楽に集中できる環境で。やっぱり自分たちで事務所とレーベルを運営していると、音楽に集中できる時間が削られるのは間違いなくて。事務所も音楽に集中する時間が欲しいから立ち上げたんだけど、結局集中できるどころか、当たり前なんだけどビジネスのことも考えなきゃいけないわけで。それもプラスに働けば良かったんだけど、単純に仕事が忙しいだけっていうふうになっちゃったんで。それは良くないなと思って。

──バランスがうまく取れなかった?

そうですね。音楽を作ることとそれを売ることって、使う脳みそが全然違うんだなって。そのバランスが曲を作りながらよくわかんなくなる瞬間があったので。例えば1回100万枚売った経験のある人が作ることと売ることを同時に考えるのはすごく正しいと思うんだけど、今、自分がやるべきなのは良い曲を書くことに集中するのが一番で。それに加えて売ることも考えるのは無謀すぎたなと思って。ひとつのこともできていないのに、一気にふたつのことをやるのは背負いすぎだし、欲張りすぎだなって。だから、今は音楽に集中できる環境を手に入れたので、かなりいいモードなんですよね。

「言いたいことはなくなった」はあれで良かった

──では「KINOI RECORDS」の最後の作品になった「言いたいことはなくなった」を、今の畠山さんはどう捉えているんですか?

The Mirrazってそもそもリリースペースが早いじゃないですか。なぜそうしてきたかと言うと、リリースしないと情報が出ない。情報が出ないとすぐにバンドの存在を忘れられちゃうんじゃないかという不安があって。

──情報がどんどん流れていく時代だしね。

そう。そういう時代性を踏まえると、どうしてもリリースペースは早くなる。もちろん、その分バンドの旬を作品ごとに表現できるというメリットもある。一方で、リリースが多いと、ステップアップするチャンスを大きく作れなくもなるんですよね。小さい段階しか踏めなくなるというか。その狭間で考えながら「言いたいことはなくなった」も、リリースをもうちょっと寝かして、プロモーションを練り直したいという思いもあったんです。だけど、ツアースケジュールを組んでいたこともあって、リリースを延期するのは無理で。そんな中で売り上げ的には妥当なところに収まったなという感じでしたね。結果的に「TOP OF THE FUCK'N WORLD」から「We Are The Fuck'n World」、「言いたいことはなくなった」の流れで売り上げもランキングも上がっているので。

──「言いたいことはなくなった」はオリコンウィークリーチャートで19位。初めてトップ20入りを果たした。

そう。だから、徐々にだけどちゃんと目的に近付いている感じはあるから。最低限のレベルでは。

──音楽的な部分ではどうですか? 「言いたいことはなくなった」はラブソングと軽やかなポップネスというThe Mirrazの新たな一面を、コンセプチュアルな形で出していましたけど。

サウンドに関しては、アルバムを作るときに常に洋楽で流行っているものを取り入れるというのがThe Mirrazらしさだと考えていて。去年は明るい音楽をやりたいという思いと、海外のインディーロックシーンでTHE VACCINESとか流行っていたから、旬なサウンドを昇華したいということでああいうアプローチになったんです。だから、あれはあれという感じで。バンドが表現する1枚のアルバムって、リスナーにとっても大きいものだと思うから、The Mirrazが変わったって思った人もいたと思うんだけど。でも、いろんなことをやれるのがThe Mirrazの面白さだと思うので。サウンドの幅が広がって良かったという手応えもあったし。あれはあれで良かったと思ってます。

The Mirraz(みいらず)

畠山承平(Vo, G)、佐藤真彦(G)、中島ケイゾー(B)、関口塁(Dr)からなるロックバンド。2006年9月に畠山が中心となって結成。2008年12月に1stアルバム「OUI! OUI! OUI!」、2009年10月に2ndアルバム「NECESSARYEVIL」とリリースを重ね、洋邦ロックファンから注目を集める。2011年、自主レーベル「KINOI RECORDS」の立ち上げと同時に、中島と佐藤が正式加入し現在の4人編成に。同年6月に初のシングル「観覧車に乗る君が夜景に照らされてるうちは」、9月に2ndシングル「ラストナンバー」をリリースし、2012年1月にアルバム「言いたいことはなくなった」を発表した。同年7月にEMI Music Japanへの移籍を発表し、10月にメジャー第1弾シングル「僕らは / 気持ち悪りぃ」をリリース。