いつまでもカウンターカルチャーをやる必要はない

──畠山さんは先程「不安もあった」って言っていましたけど、それは方向性の変化によって生じるリスナーのリアクションが不安だったんですか？

畠山　それも少しあるけど、別の部分のほうが大きいかな。最近人気のある音楽って、ちょっと言葉数が多かったり、ちょっと変なタイトルを付けたり、変な歌詞を書くことで話題性を作るものが多いなと思っていて。それを見ていて、違和感を覚え始めたんですよね。The Mirrazは最初からそういうことをやっているから、周りにそういう音楽が増えたからといって変える必要はないんだけど、だんだんその感じがヤになってきて。

──その理由というのは？

畠山　最近って時代を象徴するようなヒットソングが全然ないじゃないですか。全部がカウンターカルチャーみたいな感じで、それがつまらないなと思って。The Mirrazはいつまでもカウンターカルチャーをやる必要はない、新しいスタンダードを作りたいと思い始めたんですよね。

──それは、バンドの独自性を出しながら売れるための対策でもある？

畠山　そうっすね。スタンダードを作ろうという意識で新たに作った曲は、自分の中でいい曲だなと思えたけど、これと一般的に人気のある音楽との違いをどう出すのかが難しくて。「俺たちのほうがカッコいいと思わせるには何が必要だろう？」っていう。自分たちとしては、ほかの音楽との違いも明確にわかるし、自分たちの曲のほうがカッコいいと思うんだけど、それを人に伝えるときにどういうふうに違いをわからせるかという部分が一番不安だったんですよね。だから、今までのリスナーがどう思うか不安、というのはバンドをやっていたら必ずついて回るものだし、全然音楽性を変えなくても売れた時点でヤだって言うリスナーはいっぱいいますからね。そこは音楽がどうこうっていうのとあんまり関係ないんじゃないかなと思っているから、それよりもどう伝えていけばいいのかっていう不安ですよね。

──その不安は自分の中で解決したんですか？

畠山　いや、全然してないです。このアルバムの結果が出てみないとわからないですね。ツアーに出ないとわからない部分もあると思うし。どちらかというと、その不安を解決する必要はないんじゃないかなっていうのが今出ている答えというか。

──このアルバムでひとつの世界観を貫けた満足感が大きいから？

畠山　そうそう。バンドとしてはひとつの正解を出せたと思ってるから。このアルバム自体もそうだし、バンドのスタイルもそうなんだけど、やっぱりThe Mirrazみたいなバンドはほかにいねえなって思えるんですよ。洋楽の消化の仕方も含めて、ここまで音楽に徹底しているバンドはそういないと思うから。そしてそれは間違ってないと思う。だからもう、これからの活動はそれを証明していくだけというかね。その上で売れたいなって。

──バンド活動とレーベル運営のバランスが良い感じに取れるようになったってことでもあるんですかね。

畠山　そうですね。自分たちでレーベルも運営してるから、これまではどこかビジネスマン的な発想とアーティストとしての発想の分離が全然できていなくて。もちろん結果が全てなんだけど、今回は作品としていいものを作ることを大事にしようと思って。

ステージを観ない状態で暴れてるからDJと変わらない

──話は前後しますが、2枚のシングルでリスナーの反応や結果はどう受け止めていたんですか？

畠山　最初はすごくハードルを高くしていたから、全然売れてねえなって思っていたけど、今は自主レーベルから出してるっていうことを考えたら悪い成績ではないなって思ってます。「観覧車～」をリリースするときは「これで絶対トップ10に入ってやる」とか思ってて、何か革新的なことが起きるんじゃないかっていう期待もあったけど、特に起きなくて。さっき真彦が言っていた、レーベルを運営する身として勉強になったっていうのはそういう部分なんです。今CDが売れない時代で、特に何の特典も付いていないシングルを出しても売れるわけがないよなって。でも、ライブで「観覧車～」と「ラストナンバー」をやったら、今までにない盛り上がりが生まれて。そこにすごく手応えを感じましたね。今までは、「can」（※「canのジャケットのモンスターみたいのが現れて世界壊しちゃえばいい」）とか「Check」（※「Check it out! Check it out! Check it out! Check it out!」）とかでお客さんがモッシュして暴れたりしてたんですけど、それは別にステージを観ない状態でも暴れてるというか、演奏が良かろうが悪かろうが盛り上がるから、言っちゃえばDJと変わらないと思うんです。でも、「観覧車～」と「ラストナンバー」ではみんながステージを見て一緒に盛り上がろうとしているんですよね。あと、例えば「観覧車～」だったら、テンポを速くすればお客さんもグワーッと盛り上がるし、テンポを遅くすればデカいスケールを出すこともできるでしょ。

──曲自体に奥行きがあるから？

畠山　そう。そういえば、ここにきて「観覧車～」と「ラストナンバー」のYouTubeでの再生回数も上がってきていて、そういうことも含めてやっぱりシングルを出したことは間違ってなかったなって思う。