Yuto Uchino(The fin.)+後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)|日本と海外を見つめて、世代を超え共鳴し合う2人の価値観

音楽には愛がある

──先ほど、後藤さんの音楽家としての野心の話がありましたけど、Yutoさんにとって音楽家として目指すものはありますか?

Yuto Uchino(The fin.)

Yuto 僕はバンドを始めた頃からずっと、好きな音楽を好きな環境で続けられることが夢で。自分自身の野心を言うならば、「崖っぷちにスタジオを建てたい」です。海が見える高いところに一軒家を建てて、そこをスタジオにして音楽を作りたい。幸せな状態でそこまでたどり着くには、いい音楽を作り続けないといけない。自分の夢が叶ったときに悲しくならない人生を送りたいな。

後藤 自分が作品作りに没頭できる場所があるのはいいよね。どこの国に建てるのかも楽しみだよ。

Yuto そうなんですよね。イギリスで以前住んでいた家が広かったんですよ。そこをスタジオにして、音楽を作っていた時期があったんです。演奏しながら、夕陽が沈んでいくのが見えるというシチュエーションがすごくよかったんですよね。日本だと、レコーディングスタジオって地下になりがちじゃないですか。でも、外の景色を見ながらレコーディングするのっていいなあと、イギリスに行ってさらに思うようになりました。

──そういう環境で音楽を作りはじめたからこそ、生み出される音楽も変わってきたりしましたか?

Yuto そうですね。これまでは、どちらかと言えばインスピレーションが頭の中にあって、それを引っ張り出すような形で曲を作っていたんですけど、今は、よりセッション的になったと言うか。夕日が沈むのを見た瞬間に、サウンドのニュアンスが変わったりすることもありました。そのときそのときの感覚で音楽が変わっていく感じが気持ちいいんです。

──その感覚は、新作「There」にも反映されていると言えますか?

Yuto そうですね。今回の録音自体は東京の自分のスタジオでやったんですけど、曲作りやミックスは向こうでやったので影響はあるかもしれないです。あと、イギリスに住んで自分の考え方が変わったので、それが一番今回のアルバムには影響していると思います。

──具体的に、どんな考え方の変化でしょう?

Yuto 世界にはいろんな人がいるんだなとイギリスに行って身を持って知ったんです。いろんな肌の人がいて、いろんな宗教の人がいて、いろんなライフスタイルの人がいて……。毎日延々と働いてもまともにご飯を食べられない人もいれば、ちょっとパソコンを触るだけで大きなお金を動かす人もいる。ロンドンって日本に比べても貧富の差が激しいんです。本当にギリギリで生きている人と豊かに生きている人が、同じ世界にいるんです。

──日本よりも、いろんな人種の人たちが暮らしていますしね。

Yuto Uchino(The fin.)

Yuto 僕はたまたま英語が話せるし、音楽ができるから差別を受けることはなかったんですけど、ハウスオーナーの人がインド系の方で。その人はイギリス生まれイギリス育ちなんですけど、一緒にお酒を飲んだりすると、差別の話題になることもあって。彼はパキスタンの人だと思われて「パキ」と言われて、街中でちょっと携帯で文字を打っていただけで「お前、テロ活動をしているんじゃないのか?」と言われたこともあったみたいで……そういうことが日常レベルで起こっているんです。

後藤 イギリスは特に移民の問題もあるし、そういうことを目の当たりにするよね。

Yuto そうなんです。だからこそ、人と人とのつながりで「ラブ&ピース」と言うことですけど、それが自分の中の基盤になりました。これから先、今以上に日本に外国の人が働きに来たら、日本人はどうするんだろう? 人に優しくできるかな? なんて思ったりもしたし。でも、僕はイギリスに行って、自分の音楽でいろんな人種の人たちをつなげることができるんだと自信が付いたんです。僕らがライブをしていたら、イスラム教徒の人がヒジャブを巻いて会場にいましたし。そういう光景に僕は本当に感動して。世界は広いけど、結局、全部人と人のつながりなんだなって思ったんですよね。ジョン・レノンじゃないけど、音楽には愛があるなって思います。

後藤 そうだよね。複雑なレイヤーがあって世界は成り立っていて。言語も違えば宗教も違う、いろんなレイヤーが絡み合っているんだけど、その境界を曖昧にしたり、溶かしたりできるのが音楽のいいところだから。

音楽は一番売れる音を当てるクイズじゃない

──最後に、後藤さんからYutoさんに向けてメッセージなどがあれば、お願いします。

後藤 この先も、変な奴でいることを恐れないでほしいです。The fin.って、パッと見ても、どこのバンドともツルんでいないし、変だと思うんですよ。……うん、The fin.は変だよ。

Yuto 今はなるべく普通にしていますけど……。

後藤 ごめん(笑)。変と言うか、ユニークだよね。だからこそ人とは違う活動ができているわけで。今は、ユニークであることを恐れている人たちが多いような気がするんです。僕だったら、みんなと一緒になるのが不安で仕方がないのに。飲み会に行って、みんな同じ格好していたら超不安じゃん(笑)。

Yuto そうですね(笑)。

後藤 場所が変われば、変わっている人を叩いてしまう風潮もあるから、一概には言えないけどさ。

Yuto 日本は特にそういう風潮が強いですよね。

後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

後藤 でも最近は若いバンドたちからはユニークな人たちがたくさん出てきていて、お互いが似ていないんですよね。どんどんと多様性が出てきている気がする。中でも、The fin.は本当にユニークなバンドだと思うから、このまま変なバンドであり続けてほしいですね(笑)。あと、Yutoくんは人の悪口を言わないところがいいよね。

Yuto 言いますよ(笑)。批判はします。

後藤 Yutoくんがするのは批判や批評だからね。悪口じゃないんだよ。

Yuto ああ、確かに悪口は言わないかもしれないです。それで勘違いされることもあるんですけどね。僕はその人自身を否定したわけではないんだけど、悪口だと思われる。

後藤 今はみんな、打たれ弱いからさ。本当は、「僕は違う」と言えればいいだけなんだけど。

Yuto 後藤さんは打たれ強すぎるんじゃないですか?(笑)

後藤 だって言われたことに対して否定できるんだもん(笑)。自分の中で明確になっているものがあれば、「そうじゃないよ」って、ちゃんと否定できる。自分で自分の評価が定まっていれば大丈夫なんだよ。例えば、「アジカンなんて、超簡単じゃん」とか言われることがあるんだけど、自分ではアジカンのどこが難しいかをわかっているから、傷付かないんだよね。

Yuto 自分自身に対してちゃんと腑に落ちているなら、人に何を言われても簡単には傷付かないですよね。

後藤 だから逆に、「自分の心に触ってくるようなことを言われたな」と思ったときは、核心を突かれたときなんだよね。自分自身が思っていることを言われたときには、傷付いたりする。でも、そういう自分もいなきゃ怖いしね。Yutoくんは、そういう意味ですごく自分のことをよくわかっているし、ビジョンを持っている人だと思う。たとえ福岡で100人しか入らなくても、「もう福岡で絶対やりたくない」とはならないわけじゃん。「なんとかしてやろう!」って思うでしょ?

Yuto うん、そうですね。

後藤 やっぱり、「自分がどうあるか?」が一番大事だと思うんだよ。人に何か言われるのを気にしながら音楽を作っていたら、みんな同じ曲になっちゃう。でも、そもそも音楽は一番売れる音を当てるクイズじゃない。僕らは、やりたいことをやり続けていくしかないんだよね。その結果は、時間が経たないとわからない。評価は、時間というフィルターを通さないとわからないんだから、そんなに深く考えなくていい。歴史の壮大な流れに比べれば、僕らのやっていることなんて豆粒みたいなものでしょ(笑)。つまらないことに気を取られないでいい。先のことなんて誰にもわらないんだから、やりたいことをやり続ければいいんだよ。

左からYuto Uchino(The fin.)、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)。
The fin.「There」
2018年3月14日発売 / HIP LAND MUSIC
The fin.「There」初回限定盤

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3300円 / RDCA-1055

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The fin.「There」通常盤

通常盤 [CD]
2500円 / RDCA-1056

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収録曲
  1. Chains
  2. Pale Blue
  3. Outskirts
  4. Shedding
  5. Afterglow
  6. Missing
  7. Height
  8. Heat (It Covers Everything)
  9. Vacant Sea
  10. Through the Deep
  11. Snow (again)
  12. Late at Night
  13. Alone in the Evening (1994)
The fin.(フィン)
The fin.
Yuto Uchino、Ryosuke Odagaki、Kaoru Nakazawaからなる兵庫・神戸出身のバンド。1980~90年代のシンセポップや、シューゲイザー、USインディーポップ、チルウェイブなどの要素をあわせ持つサウンドが特徴で、自主でSoundCloudやYouTubeに音源をアップして多くのリスナーを獲得した。2013年12月にライブ会場と一部店舗限定で「Glowing Red On The Shore EP」をリリース。2014年3月19日には同作にボーナストラック2曲を追加した全国流通盤を発表した。2016年3月に6曲入りCD「Through The Deep」をリリースし、同年9月に音楽活動の拠点をイギリス・ロンドンに移す。2017年5月にTakayasu Taguchiが脱退するも、日本、モンゴル、韓国の音楽フェスに出演するなど国内外で精力的に活動を続け、2018年3月からはアジアツアーを行った。中国、香港、タイ、台湾、フィリピンに加え日本の各地でライブを開催。同年3月に2ndフルアルバム「There」をリリースした。
ASIAN KUNG-FU GENERATION
(アジアンカンフージェネレーション)
ASIAN KUNG-FU GENERATION
1996年に同じ大学に在籍していた後藤正文(Vo, G)、喜多建介(G, Vo)、山田貴洋(B, Vo)、伊地知潔(Dr)の4人で結成。渋谷、下北沢を中心にライブ活動を行い、エモーショナルでポップな旋律と重厚なギターサウンドで知名度を獲得する。2003年にはインディーズで発表したミニアルバム「崩壊アンプリファー」をKi/oon Musicから再リリースし、メジャーデビューを果たす。2004年には2ndアルバム「ソルファ」でオリコン週間ランキング初登場1位を獲得し、初の東京・日本武道館ワンマンライブを行った。2010年には映画「ソラニン」の主題歌として書き下ろし曲「ソラニン」を提供し、大きな話題を呼んだ。2003年から自主企画によるイベント「NANO-MUGEN FES.」を開催。海外アーティストや若手の注目アーティストを招いたり、コンピレーションアルバムを企画したりと、幅広いジャンルの音楽をファンに紹介する試みも積極的に行っている。2012年1月には初のベストアルバム「BEST HIT AKG」をリリースし、2013年9月にはメジャーデビュー10周年を記念して、神奈川・横浜スタジアムで2DAYSライブを開催。2015年にヨーロッパツアー、南米ツアーを実施した。2018年3月にベストアルバム「BEST HIT AKG 2 (2012-2018)」「BEST HIT AKG Official Bootleg "HONE"」「BEST HIT AKG Official Bootleg "IMO"」を3作同時リリース。6月から全国ツアー「Tour 2018『BONES & YAMS』」を開催する。
ASIAN KUNG-FU GENERATION
「BEST HIT AKG 2 (2012-2018)」
2018年3月28日発売 / Ki/oon Music
ASIAN KUNG-FU GENERATION「BEST HIT AKG 2 (2012-2018)」初回限定盤

初回限定盤 [CD+DVD]
3996円 / KSCL-3050~1

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ASIAN KUNG-FU GENERATION「BEST HIT AKG 2 (2012-2018)」通常盤

通常盤 [CD]
3024円 / KSCL-3052

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ASIAN KUNG-FU GENERATION
「BEST HIT AKG Official Bootleg "HONE"」
2018年3月28日発売 / Ki/oon Music
ASIAN KUNG-FU GENERATION「BEST HIT AKG Official Bootleg "HONE"」

[CD]
2700円 / KSCL-3054

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ASIAN KUNG-FU GENERATION
「BEST HIT AKG Official Bootleg "IMO"」
2018年3月28日発売 / Ki/oon Music
ASIAN KUNG-FU GENERATION「BEST HIT AKG Official Bootleg "IMO"」

[CD]
2700円 / KSCL-3053

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Gotch「Good New Times」
2016年7月13日発売 / only in dreams
Gotch「Good New Times」

[CD]
2500円 / ODCP-014

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