Yuto Uchino(The fin.)+後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)|日本と海外を見つめて、世代を超え共鳴し合う2人の価値観

長い年月を経て実現したこと、思い直したこと

──Yutoさんは、日本で活動されていた頃、周りを見て「もっと自分のように、夢を見ればいいのに」と思ったりはしませんでしたか?

Yuto Uchino(The fin.)

Yuto いや、人は人だと思っていたので気にしなかったです(笑)。ただ、「理解されていないな」という感覚はずっとありました。でも、自分の中にはずっと、はっきりとしたビジョンがあったし、最近、「やっと周りも気付き出したな」っていう感覚はありますね。中国でライブをやったり、イギリスやフランスのSpotifyのプレイリストに自分たちの楽曲が入ったりするようになって、The fin.の活動がだんだんとインターナショナルになってきた。それにつれて、やっと数年前に僕らを見ていた人が「あ、こういうことだったんだ」って気付いてくれたと言うか。やっぱり、考えていることを実現化するには4、5年かかるんですよ。やっと今、それが形になってきたなって思います。

──後藤さんは、先ほど話していただいた時代状況を考えたうえで、この先のご自身の音楽活動の在り方、あるいは「この先、アジカンをどうしていくのか?」という点について、どのように考えますか?

後藤 僕らはバンドを組んだときから世界に出たかったし、現在の海外にツアーに出ることができる環境は幸せだなって思っています。ただ、音楽がいろいろある中で、ロックバンドは今、一番難しいと言われていたりするんです。バンドはドラムを録音するにも高いお金が必要だけど、R&Bとかはサンプリングだけでめちゃくちゃカッコいいトラックを組み上げられたりするでしょう? そう考えると、ロックバンドが世界的に苦労するのは必然的なことのようにも思えるし。そういうすべてを含めて、考え直さなきゃいけないタイミングだって感じています。

Yuto アジカンが出てきた頃とは、本当に状況が変わりましたもんね。

後藤 うん。ただ、僕自身としては「やりたいことがやれる環境を、どうやって整えながら進んでいくのか?」ということに今、興味があるんですよね。要は世間がどうこうと言うよりは、自分自身が、どういうミュージシャンになっていきたいか?ということですね。確かに、バンドと自分が一体だった時代もあったんですよ。アジカンがどう転がっていくかが、自分の人生そのものだった……言ってみれば、青年期と言うか。僕はもう四十代だから、今の僕にとってアジカンは、あくまでも人生の一部なんですよね。全部ではない。

──大人になっていくことに、人は抗うことはできないですよね。抗うべきではないとも思いますし。

後藤 うん。そういう時期は絶対に来るんですよ。まあデヴィッド・ボウイだって死ぬんだから、僕だって死ぬんです(笑)。いつかはキャリアに終わりが来る。僕らくらいの年齢になると、そういうことを考えながら、「自分はどういうミュージシャンなのか?」ということに向き合っていくようになるんです。今アジカン以外でソロをやったりアンビエント音楽を作ったりするのも、その表れだし。もっと落ち着いて音楽のことを考えたいし、音楽以外の文学や芸術が混じり合う中で、ポップミュージックを捉えるようにもなる。「どうやって、カッコいいジイさんになるか?」ということが、僕が今一番考えていることですね。

──なるほど。

後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

後藤 もちろん、その中には野心もあるんですけどね。海外の美術館でアンビエントを演奏してみたいとか、アジカンで南米のフェスに呼ばれてみたいとか。あと教授(坂本龍一)のように“あの人にしか作れない”と思われるような作品を残したい、とかね。アジカンにしても、今まで以上に「このメンバーでしかできないことってなんだろう?」っていうことを考えるようになっていて。Yutoくん、「僕にしかできないことって、なんだろう?」っていうのは、こんなおじさんになってもある悩みなんだよ(笑)。

Yuto はい(笑)。

アジカンが作った邦楽バンドシーンの土壌

──それこそThe fin.のようなバンドが日本に生まれる土壌を、アジカンは作ってきたわけで。ご自身が残されてきた成果や結果に対して、「やってきてよかった」とか「間違っていなかった」という思いを持つことはありませんか?

後藤 自分がやってきたことに対する評価はあまり考えないです。それより、若い子たちが、もっと音楽をやりやすくしてあげたいなって思います。「なんで、こんなことで悩まなきゃいけないんだろう?」ということが自分たちの時代には多かったし、今でも売れたバンドは居心地悪そうにしているけど、もっと素直に音楽活動ができるようにしてあげたい。「NANO-MUGEN」みたいなことをやっていたのも、ちゃんと音楽を聴いて評価する人が増えてほしいと思ったからで。音楽をちゃんと聴く人が少ないと、ミュージシャンにとっては褒められてもうれしくない環境ができあがってしまうから。もちろん、すべてが解消されはしないと思うんですけど、「なんでこんなことになっているんだろう?」って思いはずっとあるんですよね。

──後藤さんの、大人としての下の世代に対する視線は、本当に優しいですよね。

後藤 いやあ、やっぱり自分が苦労したし、若い子たちのための環境をちゃんと整えてあげれば、その分きっとみんなに返ってくるものがあるんです。若い子たちがやりやすい環境になったほうが、きっと自分たちもやりやすいと思う。今、「only in dreams」というレーベルをやっているのも、「アメリカみたいに、働きながら音楽をやる人たちがもっといてもいいよね」と思ったからだし、新しいアワード(「Apple Vinegar Award」)を作ったのも、「なんでお金の流れが見えるような賞しかないんだろう?」とか、「なんで誰も、ちゃんと作品を褒めてくれないんだろう?」っていう気持ちがあったからで。僕らがつまづいた問題を、若い子たちには渡しちゃいけないですよ。

──本当に、その通りだと思います。

後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

後藤 僕らおじさんは、“土壌作り”をもっと積極的にやった方がいいと思うんですけどね。そうしないと、砂山に棒を立てて崩すゲームみたいになってしまうんですよ。「誰が一番砂を取ったか?」なんてことを続けていくと、最終的には山がなくなるだけなんだから。そうじゃなくて、みんなで豊かになっていかないと。やっぱり、この国は音楽をやる環境としてはよくないと思っちゃうんですよね。The fin.が日本では100人しかお客さんが入らなくて、海外では1000人入るっていうのは、今の状況を鏡のように映していると思うんです。乱暴な言い方だけど、音楽の現場にパッションがないっていうのは、国や社会のパッションにもつながっていると思うから。だとしたら、僕ら大人がちゃんと考えていかないと、若い子たちに渡すものが何もない。

──そうですよね。

後藤 もちろん、さっきも言ったように、僕にも音楽家としての野心はありますよ。若い子たちに対して悔しいなっていう気持ちもあるし。でもそれとは別の部分で、彼らのための土壌作りはちゃんとやっていかないと、ただ、がめついだけのおじさんになってしまうから(笑)。それに、僕だって普通に音楽が好きなだけだから、The fin.の作品が最高だったら、リスナーとして超うれしいわけで。そういう音楽に出会えることは人生にとって豊かなことだし、それが報酬でいいかなって思える。

──先ほどYutoさんが「考えを形にするのは時間がかかる」とおっしゃっていましたけど、瞬間的な欲望に飛び付くのではなく、未来のために種を蒔いて育てていく、という考え方も後藤さん譲りなのかもしれないですね。

後藤 まあ「NANO-MUGEN」もそうでしたからね。当時、洋楽と邦楽が分断されてしまって、まったく洋楽を聴かない人たちが出てきた。それで「NANO-MUGEN」を始めて、「10年後くらいに成果が出ればいいなあ」と思っていたんですよ。そしたら、こうやってちゃんとカッコいいバンドが出てきたからね。

Yuto 僕は昨日、福岡でライブをやっていて、客層が変わってきたなって思ったんですよ。数年前は立っているだけのお客さんが多かったのが、今回は実際に踊ったり声を出したりしてくれる人が多くて。本当に音楽が好きなんやなあという感じのお客さんが増えてきたなって。言い方は悪いですけど、The fin.が最初に出てきた頃は、流行りものに乗っかりに来ている人も多かったんですよ。でも、人は少なくても、音楽が好きな人たちが観に来てくれるようになっているのはうれしい変化ですね。

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音楽には愛がある

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Spotify

Apple Music

収録曲
  1. Chains
  2. Pale Blue
  3. Outskirts
  4. Shedding
  5. Afterglow
  6. Missing
  7. Height
  8. Heat (It Covers Everything)
  9. Vacant Sea
  10. Through the Deep
  11. Snow (again)
  12. Late at Night
  13. Alone in the Evening (1994)
The fin.(フィン)
The fin.
Yuto Uchino、Ryosuke Odagaki、Kaoru Nakazawaからなる兵庫・神戸出身のバンド。1980~90年代のシンセポップや、シューゲイザー、USインディーポップ、チルウェイブなどの要素をあわせ持つサウンドが特徴で、自主でSoundCloudやYouTubeに音源をアップして多くのリスナーを獲得した。2013年12月にライブ会場と一部店舗限定で「Glowing Red On The Shore EP」をリリース。2014年3月19日には同作にボーナストラック2曲を追加した全国流通盤を発表した。2016年3月に6曲入りCD「Through The Deep」をリリースし、同年9月に音楽活動の拠点をイギリス・ロンドンに移す。2017年5月にTakayasu Taguchiが脱退するも、日本、モンゴル、韓国の音楽フェスに出演するなど国内外で精力的に活動を続け、2018年3月からはアジアツアーを行った。中国、香港、タイ、台湾、フィリピンに加え日本の各地でライブを開催。同年3月に2ndフルアルバム「There」をリリースした。
ASIAN KUNG-FU GENERATION
(アジアンカンフージェネレーション)
ASIAN KUNG-FU GENERATION
1996年に同じ大学に在籍していた後藤正文(Vo, G)、喜多建介(G, Vo)、山田貴洋(B, Vo)、伊地知潔(Dr)の4人で結成。渋谷、下北沢を中心にライブ活動を行い、エモーショナルでポップな旋律と重厚なギターサウンドで知名度を獲得する。2003年にはインディーズで発表したミニアルバム「崩壊アンプリファー」をKi/oon Musicから再リリースし、メジャーデビューを果たす。2004年には2ndアルバム「ソルファ」でオリコン週間ランキング初登場1位を獲得し、初の東京・日本武道館ワンマンライブを行った。2010年には映画「ソラニン」の主題歌として書き下ろし曲「ソラニン」を提供し、大きな話題を呼んだ。2003年から自主企画によるイベント「NANO-MUGEN FES.」を開催。海外アーティストや若手の注目アーティストを招いたり、コンピレーションアルバムを企画したりと、幅広いジャンルの音楽をファンに紹介する試みも積極的に行っている。2012年1月には初のベストアルバム「BEST HIT AKG」をリリースし、2013年9月にはメジャーデビュー10周年を記念して、神奈川・横浜スタジアムで2DAYSライブを開催。2015年にヨーロッパツアー、南米ツアーを実施した。2018年3月にベストアルバム「BEST HIT AKG 2 (2012-2018)」「BEST HIT AKG Official Bootleg "HONE"」「BEST HIT AKG Official Bootleg "IMO"」を3作同時リリース。6月から全国ツアー「Tour 2018『BONES & YAMS』」を開催する。
ASIAN KUNG-FU GENERATION
「BEST HIT AKG 2 (2012-2018)」
2018年3月28日発売 / Ki/oon Music
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