ザ・クロマニヨンズの舞台監督・ウシヤマノボルが語るライブ制作の裏側 「自分もそのバンドになる感覚」

ザ・クロマニヨンズによる6カ月連続シングルリリースプロジェクト「SIX KICKS ROCK&ROLL」に合わせて、音楽ナタリーでは6カ月連続特集「SIX TALKS ROCK&ROLL」を展開中。第3弾となる今回は、10月27日にリリースされた第3弾シングル「大空がある」のレビューに加えて、舞台監督・ウシヤマノボルへのインタビューを掲載する。

解散直前のザ・ハイロウズのライブも手がけ、クロマニヨンズではすべてのツアー制作に携わっているというウシヤマ。そもそも舞台監督とはどんな仕事なのかということから説明してもらいつつ、クロマニヨンズのライブ制作の裏側や、ほかのアーティストとの違いについて話を聞いた。

取材 / 森内淳撮影 / 前田立ライブ写真撮影 / 柴田恵理

ザ・クロマニヨンズ「大空がある」ジャケット

第3弾シングル「大空がある」レビュー
小野島大

6カ月連続でシングルをリリースする「SIX KICKS ROCK&ROLL」も、早くも第3弾の登場だ。今回もクロマニヨンズらしい、でっかい空のような爆音が炸裂である。

真島昌利の弾くゴリゴリのギターリフのイントロに続いて、四角いギターでお馴染みロックンロールオリジネイターの1人、ボ・ディドリー(1928-2008)直系の「ボ・ディドリー・ビート」を応用した野性的なリズムパターンが登場。通称「ジャングル・ビート」とも言われる力強いリズムで歌われた歌詞は、いかにもクロマニヨンズらしいシンプルかつ力強い内容だ。「大丈夫だ / すべてはうまくいく / 心配いらない」と口ずさみながらリズムに合わせ踊っていれば、いつのまにか大抵の悩みも心配事も吹き飛んでしまいそう。甲本ヒロトの語りがまた、往年の青春映画みたいな清々しい趣がある。こういう曲はクロマニヨンズにしかできない、とつくづく思う。

カップリングの「爆音サイレンサー」は、どこか孤独の影を感じさせる、彼らにしてはダークなムードを漂わす曲。「動かない雲」「透明の影」「無口なオートバイ」そして「爆音サイレンサー」という矛盾する言葉の組み合わせが想像力を刺激する。凝ったコーラスワークも聞きどころだ。

ウシヤマノボル インタビュー

舞台監督とはどんな仕事なのか

──ウシヤマさんがライブの現場に入るきっかけは何だったんですか?

もともとこういう世界で働こうと思って東京に来たんですけど、そこで友達がライブ制作のバイトを紹介してくれたんです。最初はローディーさん的なことをやりました。当時はCBS・ソニー(現ソニーミュージック、THE SQUARE[現T-SQUARE]など在籍)あたりの仕事でしたね。

──具体的にはどういう仕事ですか?

ウシヤマノボル

楽器周りに関わること全般です。楽器の積み、おろし、セッティング、バラシ、調整、修理、機材購入、メンバーのケアとか。自分はバラシくらいまでしかできていませんでしたが……。それを1年半くらいやっていたでしょうか。バイト先の事情もあって、続かなくなり出した頃に、前出の友達が大道具のバイトを見つけてきたんです。このバイトは文字通り、舞台美術セットなどに関わるセクションで、床、幕、作り物の飾り物、装置といったセット全般に関わる仕事です。これを2、3年はやったのかな。仕事がだんだんできるようになってくると若い人はツアーに呼ばれがちになるんです。ツアーに行くと、出入りのケアや、Q出し、キッカケ(装置の演出)の打ち合わせなど舞台監督さんの補佐なんかもすることがよくあるんですね。

──舞台監督になるまでにそのような経緯があったんですね。舞台監督という言葉に馴染みのない読者も多いと思いますが、具体的にはどういうことをする仕事なんでしょうか?

おおまかに言うと、公演に関するステージ周りの進行・仕切りです。ただ、関わるアーティストの仕事によって、ステージだけの場合もあれば、制作サイドと一緒に制作費の管理をすることもありますし、オファーもプロダクションからだったり、制作会社だったり、アーティスト個人だったり、ケースバイケースなんです。

──舞台監督として、これまでどんなアーティストのライブに関わってきたか教えてください。

最初にチーフを担当してツアーをしていたのが、KENZI & THE TRIPSで、ほかには筋肉少女帯、アンジー、BO GUMBOS、LAUGHIN' NOSE、岡村靖幸……セカンドの立場でツアーを回ったのもけっこうありました。中森明菜、PSY・Sとか。近頃では、くるり、レキシ、ハナレグミ、阿部真央、仲井戸”CHABO”麗市、グループ魂、小山田壮平、clammbonともご一緒させてもらっています。

──舞台監督をやっていてハードだなと思ったことはありますか?

あるといえばありますけれども、それも面白さの一環なので。得てして大きな会場、舞台で、参加人数も多くなればなるほど複雑ですし、意外に時間がタイトになったりするので、もちろんそれに準じた体制にするのですが、コアな部分のスタッフワークは、どうしてもハードになってしまいます。

──大所帯になればなるほど煩雑になりますよね。

なんでもそうでしょうが、初めての試みを仕掛けるときも、ハードな現場になりがちですね。1つの例として「THE SOLAR BUDOKAN」(太陽熱から生まれた電気を使って行う、佐藤タイジ主催のライブイベント)の1回目、日本武道館でやったときを挙げます。当時バッテリーもスーパー大きくて、重くて、扱うのが難しかったのです。そのバッテリーを、20台くらいでしたでしょうか、ステージ付近に配置する必要があったのですが、会場のルール、管轄の消防的措置の上でも場所がなくて、だいぶすったもんだしましたね。もちろん出演者の数も膨大でしたし、けっこうなカオスでした。安室奈美恵の最初のホールツアーも、監督数が少ない割に詰め込まれた内容だったので、ハードといえばハードでしたね。バンドじゃないほうが毎回基本的な内容が変わりがちなので、バンドの方がわかりやすいことが多いです。そして、フェスやイベントなどの仕事も多いのですが、そちらはそちらで違った意味のハードさもあったりします。

求められるのは「判断」

──ウシヤマさんはハイロウズの解散前のライブを手がけ、クロマニヨンズではすべてのツアーの舞台監督を務めているとのことですが、クロマニヨンズのライブはバンドの中でも特にシンプルなイメージです。具体的にどのようなことをしているんですか?

ツアーでは、美術セットを携えるので、まずセット作りがあります。「舞台に今回のアルバムを象徴するようなビジュアルとか飾りましょうか」みたいな話から、デザイン、サイズ、素材、組み立て方などを決めつつ、会場によって使い分けていきます。ライブハウスと、ホールの2パターンのライブ展開がありますので、2種類作ることが多いです。それから美術セットの登場やセットチェンジなど演出の部分を決めたり、舞台の画角サイズを決めたり。スピーカーはこの範囲で、照明もこの範囲で、この高さとか。ライブ当日のタイムテーブルを組むのも大きな仕事で、作業の開始から片付け終わるまでの1日の時間割を決めます。

──リハーサルでどの曲を演奏するかもウシヤマさんが決めるんですか?

リハーサルのチェックが必要な曲を選んで、ほかのスタッフとすり合わせて、バンドメンバーに伝えます。まずシンプルな曲でモニターを決めて、コーラスがある曲、ハープを使う曲、新曲の中でも不安な部分がある曲はやりましょうとか、この曲とこの曲のつなぎはチェックしましょうとか。音圧の高いものを後半にやって、それから頭に戻って2、3曲やって終わりという感じですしょうか。ツアーの初日には「この曲はセットの動きをバンドと合わせたいので今回だけやらせてもらいます。明日からは大丈夫です」ということもあります。

ウシヤマノボル

──リハーサル1つとっても、舞台監督の仕事はたくさんあるんですね。

リハーサルの時間もアーティストによってケースバイケースで、クロマニヨンズの場合は最低限のものだけやる。これで充分。あとは本番のテンションに委ねる。毎日2時間くらいリハーサルするアーティストもいますからね。状況を見ながら時間の流れを構築するのは舞台監督の仕事です。この仕事でもっともウェイトを占めるのがステージの進行の部分であり、大きなところで言うと「判断」ということでしょうか。

──判断とは?

何かが起こったときにこうするっていう答えを出すということですね。例えば機材トラブルが起こったときにはどうしようとか、野外の場合だと、これくらいの雨だったらできるけど、これ以上雨が降ったらどうするとか、どっちの演出の方がいいとか、昼ごはんはカレーと中華どちらがいいとかそういう判断です。いろんなことを気にすればするほど仕事は増えていきます(笑)。

──照明や音響に関してはノータッチなんですか?

ノータッチではないですね。クロマニヨンズに限らずですけれども、客席で音を聴いて「本番でお客さんが入ったらどうなのか?」とか「2階席のここらへんにはあまり届いてないけどけど?」とか、「もっとローな感じがあるといいな、スネアが立った方がいいな」とか話したりします。ツアーでは毎回会場の大きさ、構造も違うので「今日は、ギターの音がいつも以上に聞こえやすいね」みたいな話をすることもありますし。照明だと「この場面ではこうしたらどうだろう」「こうしたらどう見える?」とか「お客さんが眩しすぎて辛いんじゃないか」とか「セットをこう動かすから、こう見せたいね」とか。まあ突き詰めて行くとキリはないですし、ゴールもないですから、ずっと続けられることでもあるんでしょうね。

──ライブに対するあらゆるスキルが必要になってくるんですね。

最初の頃はそこまでいろいろなことがわかってなかったんですけど、長くやっていれば普通に少しずつわかって行きますよね。もちろん専門のセクションのことは、そこまでわからないんですけど、急にできるようになることがあって、自分のスキルが急に上がる瞬間が何回かありました。なかなか気持ちのいいものです。そうなるとまたがんばる気にもなりますし。続けてくると、撒かれたタネが芽を出し、茎が伸び、葉が出て、外を見て気が付いたら急に花が咲くようなことがある。でもそれって、ほかの仕事でも、仕事以外のことでも皆さんにあるんじゃないでしょうか。