「SIX TALKS ROCK&ROLL」第2弾 ザ・クロマニヨンズ結成の立役者であるエンジニア・川口聡 メンバーとの出会いや音作りのこだわりを語る

モノラル録音ならではのよさ

──ほかにクロマニヨンズのレコーディングならではの特徴はありますか?

メディアでいうと、クロマニヨンズは自分たちのテレコを持ってますね。クロマニヨンズのレコーディングをしているのは、アトミック・ブギー・スタジオっていう、プライベートスタジオというかリハーサルスタジオのようなところで、そこに最上級の(Studer)A800っていう理想的なアナログテープマシンが置いてあるのでそれを使っています。

──クロマニヨンズは途中からモノラル録音にシフトしました。モノラルで録音するというアイデアはどういう経緯で出てきたんですか?

クロマニヨンズのスタジオは一般のスタジオみたいにシステムがきっちりしているわけではないんです。毎回そこに録音システムを入れて録るので、なるべくシンプルなシステムで再現性の高いものにしておかないといろんなことが面倒になる。そうやってシステムを組んでいく中で「(録音した音を再生する)モニタはモノでもいいよ」っていうことになったんですね。モノで音を作っていったら、それで形になっちゃって、もうそのままでいいんじゃないかってことになったんです。2人の好きなレコードもモノラルが多いし、そういう音の世界を作りたいなというのもあったので。

──録音という観点だと、モノとステレオはどういう違いがあるんですか?

ステレオにすると空間ができますよね。空間ができると埋めたくなっちゃうんですよ。だからクロマニヨンズの音がシンプルになっている要因としては、モノ音源で作ってるところも大きいと思います。最初はギターも2回重ねて入れてたんですけど、モノにすると必要なくなるんです。モノの場合はなるべくシンプルにした方が音がガツッと前に来るんですよ。それから同じところにいっぱい音があるとごちゃごちゃしちゃうんで、ちょっと間引いていこうって話にもなります。そうするとドラム、ギター、ベース、ボーカルにコーラスや手拍子を入れたら音源としては成り立つんです。それが今彼らのレコーディングのパターンになってますね。

──空間の位置情報を音に埋め込んでいっていろんな音をあらゆる方向から鳴らす立体音響とは逆の発想なんですね。

そうですね。モノは1カ所にいろんな音があるので、ごちゃごちゃするとおかしなことになりますからね。モノのシンプルさがクロマニヨンズのスタンスにもすごくハマったと思います。

──それがクロマニヨンズの特徴でもありますからね。

川口聡

そうですね。リアルな4人の音がそこにあるという。ライブのアレンジもそのまんまだったりしますからね。普通だったらギターを何本も入れているから、「これ、ライブのときにどう再現しようか?」って話になるけど。

──モノラルにすることによって川口さん的に難しい面はあるんですか?

音の処理はやっぱり難しいですね。例えばギターとベースが同じところにいてぐちゃっとなったときに、どちらかを削ったりしています。

──それが間引くということなんですね。

そうですね。音のレンジをちょっと調整したりだとかっていうのもありますけど。ただ、録ってる段階からそういうことをやっていると、本人たちもアレンジとして、ぶつからないことをやってくるんですよ。

──今はアレンジの段階からモノラル的な発想になってるんですね。

たぶん必然的にそうなってると思うんですよ。モノラルでモニターしたものを毎回持って帰って聴いてるはずだから、「これいらないか」っていうことは、たぶん判断してると思うんですよね。

──それがクロマニヨンズならではのサウンドを作り出しているんですね。

自分たちのスタジオでそれができてるっていうのがデカいと思います。

──ほかのバンドはやりたくてもここまでのことはやれないでしょうからね。

僕がクロマニヨンズでモノラル録音をやってることを知っているバンドが「今度、モノでやりたいんです」と言っても、レコード会社が「なんでモノなの?」となると、まあ面倒くさいですよね。

──確かにそのパターンもありそうですね。モノラル録音に理解がないと、説得するのも大変でしょうし。

そうなんですよ。「なぜモノか?」という説明が要るという。

──今までステレオで録ってきたバンドが次はモノでやりたいと考えたとしたら、大変な点はどこですか?

意識の部分とアレンジの部分を多少なりともモノを基準にして考える必要はあると思います。ステレオ録音を単純にモノラルに変換すればいいっていうものではないと思うので。そこはちょっと難しい部分かもしれないですね。

──川口さんが考えるモノのいい点はどこですか?

聴く側のイマジネーションがすごく膨らむところですね。バッチリハマるとモノで録ってるのに不思議と広がって聴こえるような感じになるんですよ。

基準はカッコいいかどうかだけ

──甲本さんにお話を伺った際に、「川口さんが最高なのはいい音を録るよりもいいテイクを録ることに力を注いでくれるところ。だから“音屋”じゃなくて“音楽屋”なんだよね」とおっしゃっていました。

バンドものってある瞬間の“旬”を捉えることが大事で、よくあるのが「リハのテイク、よかったよね」っていうことなんです。本番になると、かしこまってうまくできなくなることもあるんですね。それはどんなバンドでもそうなんですけど、意識しないところでやったテイクがよかったりするので、それを録り逃がしたくないなっていうのはあります。だからバンド側が何も言わないうちから録音を始めてたりもします。「テイク0」っていうのをよく録るんですけど、「さっきのよかったよ、聴いてみる?」みたいな、そういうテイクがOKになってるものもいくつかありますよ。そういうものは音作りが間に合っていないんだけど、テイクがよければOKにしちゃうんです。

──それはグルーヴとかノリを優先するということなんですね。

勢いとかね。意識していない分、しっかり声が出ていたりとかあるんですよね。そこを録り逃がしたくない。「さっきの録ってなかったの?」っていうふうにならないほうがいいし、音を決めるのに時間がかかるようだったら、さっさと録っちゃったほうがいいというのもあります。音決めにすごく時間をかけることもありますがヒロトとマーシーは時間がかかりすぎると飽きちゃうんですよ、途中で。最初の時点でテンションが上がっちゃってるんで、そのテンションが下がらないうちに録らないと。いい音を作れたけど、演者はヘロヘロみたいなことにならないほうがいいと思うんですよね。

──そういう意味ではクロマニヨンズの場合はどこまでもライブなんですね。

メンバー全員の考え方がそうですね。テンション一発みたいな。決まったら1回で終わりにしよう、みたいな。その方がこっちも緊張感があっていいですね。

──そういうバンドはほかにもいるんですか?

最近は少ないですね。日本人の特性なのかもしれないですけど、設計図をきっちり作って、設計図通りにやるのが得意なんですよ。飛び出たものを均すっていうことをしたがる人の方が多いような気がします。だから、きれいなものを作るのは得意ですよね。特にPro Toolsなんて、今や修正するための道具としてものすごく活用されていますから。そこがいいところでもあり、エキセントリックなものができにくいところでもあると思うんですよ。

──修正しない、されない面白さは減りますよね。

ズレてるし、外れているけど、面白くないですか?っていうことですよね。ほかのバンドのそういう音楽を聴いても別に気にならないけど、いざ自分たちでやるとなると「直したい」と思っちゃうんですよ。変なものを残したくないという意識の方が強くなっちゃう。

──甲本さん、真島さんにはそういうところはないですよね。

2人の基準は「カッコいいかどうか」なんで。単純明快でいいですよね。

──そこがクロマニヨンズの面白さであり、魅力でもありますね。

だけど昔はみんなこうだったわけじゃないですか。アナログの時代はそう気安くは直せなかったから。

配信ライブで使ったマイクの本数:1本

──「SIX KICKS ROCK&ROLL」は6カ月連続でシングルをリリースするという企画ですけど、いつものレコーディングと変わったところはありますか?

基本は変わらないです。最終的にはアルバムになるので、そこを見越して作ってますから。

──アルバムは2022年1月にCDでリリースされます。

それが分割されてる、みたいな感じですね。発売の形態がシングルになるだけで、作り方は取りたてて大きくは変わってはいません。とはいえ、今までやってきたことをさらにブラッシュアップするのがクロマニヨンズのやり方なんで、シンプルだという点では同じなんですけど、前作を超えるものを作ってるっていうのはあるんですよ。ヒロトがよく言う「最新作が最高傑作」みたいな意識のもとでやっているので。

──今作で新たにトライしたことはなんですか?

今回はドラムのマイクは基本3本で、ベースとギターは1本ずつ、補助のマイクを入れても10本、つまり10回線くらいで録ってるんですよ。音的に超シンプルにしました。

──ただでさえシンプルなものをもっとシンプルにしたわけですね。川口さん的にはどのような意図があったんですか?

去年末にやった配信があるじゃないですか?

──「ザ・クロマニヨンズ MUD SHAKES 全曲配信ライブ」(参照:ザ・クロマニヨンズ初の配信ライブ終了、2月に有観客ライブ開催決定)ですね。

川口聡

あれ、マイク1本だけで録ったんですよ。クロマニヨンズはバランスがめちゃいいんで、1本で録れちゃうじゃんという発想から、じゃもうドシンプルに行こうって。

──冒険しましたね(笑)。

恐ろしいことに1チャンネルなんですよ。本当のモノなんですよ(笑)。

──マイクの位置はどうやって決めたんですか?

バランスよくすべての楽器が聴こえるところを探してマイクを置きました。ところが爆音を出すバンドなので歌は入らないんです。そこで転がしを置いて、歌をそこから出しました。転がしのボリュームを調整しながらバランスを取っていって、この場所しかないってところにマイクを置いて、あとは「どうぞ!」みたいな(笑)。

──すごいことをやってますね(笑)。

あれは究極ですよ。あれ以上のことはできないです。あとから修正も効かないんで(笑)。

──なんでそんなことをやろうと思ったんですか?

僕もいろんな配信ライブをやる中で、ちょっと飽きちゃって、ほかとは違うものがやりたかったんですよ。例えば、ブルーグラスの人たちは今でも1本のマイクで録っていて、ソロを弾く人はマイクに近付くみたいなことを昔から伝統芸みたいにしてやってるんですよね。それ専用のマイクを作っているメーカーがあって、そこの人にもいろいろ協力してもらいました。

──The Beatlesどころか、もはや蓄音器の世界ですね。

そうですね。

──メンバーはなんと言ってました?

僕が「こんなことやりたいんだけど」と提案したら、みんな「いいじゃん、面白いじゃん」って(笑)。バランスを取るのに時間がかかるかもしれないけどと前置きしつつ、付き合ってもらいました。

──実際、時間はかかったんですか?

全然(笑)。決め打ちでやったところがほぼ正解だったので。あとは歌とのバランス感を微調整して、みたいな。

──その経験が「SIX KICKS ROCK&ROLL」にも生かされてるわけですね。

いつもはもっとたくさんマイクを立てているんですけど、そこをがっさりなくして。さらに古くさい年代のレコーディングになりましたね(笑)。

ザ・クロマニヨンズ
ザ・クロマニヨンズ
1980年代からTHE BLUE HEARTSとTHE HIGH-LOWSで活動をともにしてきた甲本ヒロト(Vo)と真島昌利(G)に、小林勝(B)と桐田勝治(Dr)を加えた4人組ロックバンド。2006年7月の出現以来、毎年アルバムをリリースし、精力的に活動を続けている。2020年12月に14枚目のアルバム「MUD SHAKES」を発売し、初の配信ライブ「ザ・クロマニヨンズ MUD SHAKES 全曲配信ライブ」を開催。2021年2月に東京・東京ガーデンシアターで有観客ワンマンライブ「ザ・クロマニヨンズ MUD SHAKES 2021」を行い、その映像を収めたライブDVD「ザ・クロマニヨンズ ライブ!MUD SHAKES 2021」を6月に発売した。「SIX KICKS ROCK&ROLL」と題して、2021年8月から2022年1月まで6カ月連続でシングルをリリースし、第6弾シングル発売日にCDアルバム「SIX KICKS ROCK&ROLL」を同時発売する。