ザ・クロマニヨンズ「MUD SHAKES」発売記念特集 谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)×志磨遼平(ドレスコーズ)×セントチヒロ・チッチ(BiSH)インタビュー|ヒロトとマーシーはなぜ特別なのか?

1985年にTHE BLUE HEARTSを結成し、1995年からはTHE HIGH-LOWSとして、2006年からはザ・クロマニヨンズとして活動を共にする甲本ヒロトと真島昌利。ロックンローラーとして歩みを止めない2人は、生きる伝説として、さまざまな世代のアーティストに影響を与え続けている。

音楽ナタリーでは、ザ・クロマニヨンズのニューアルバム「MUD SHAKES」がリリースされたことを記念して、ヒロト&マーシーとほぼ同世代の東京スカパラダイスオーケストラの谷中敦、2人の熱烈なファンであるドレスコーズの志磨遼平、“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのセントチヒロ・チッチにインタビュー。世代も音楽シーンでの立ち位置も異なる3人から見たヒロトとマーシーの魅力について語ってもらった。

取材・文 / 大山卓也 撮影 / 森好弘

素晴らしい歌詞を書く人

──今日は世代も立ち位置も異なるお三方にザ・クロマニヨンズ、とりわけヒロトさんとマーシーさんの魅力についてお話いただきます。谷中さんは2006年にヒロトさんと共演していますよね。

谷中敦

谷中敦 ええ、スカパラの「星降る夜に」という曲を歌ってもらいました。

──一緒に演奏してみてどうでしたか?

谷中 もう夢みたいというか、自分たちにとってもヒーロー的な人だからメンバー全員大喜びで。ただ自分は歌詞を書かなきゃいけないんで緊張もありましたね。ヒロトさん自身が素晴らしい歌詞を書く人なんで。

──ヒロトさんに自分の書いた歌詞を歌ってもらうのはかなりのプレッシャーでしょうね。歌詞のモチーフはどこから?

谷中 これはうろ覚えなんですけど、昔ブルーハーツのときのライブ音源か何かがラジオで流れてたのかな。そこでヒロトさんが「ごめんなさい 神様よりも好きです」と言ってて。

──マーシーさんが作詞作曲したブルーハーツ「君のため」のセリフ部分ですね。

谷中 とにかくその一節がショッキングで「すごいこと言う人なんだな」という印象があったんです。日本人はいろんな宗教に触れていて、お葬式は仏教でやって、結婚式はキリスト教みたいな。だから日本で言う神様って独特な響きなんだけど、ヒロトさんが言う神様はいわゆる自分たちが思う神様だなって思えたんです。それで「神様に聞いた」って歌詞を書かせてもらった。心の中で自分を見守ってくれてるような神様ですよね。

志磨遼平 「星降る夜に」って、最近のヒロトさんご自身の曲に比べて歌のキーがけっこう高くないですか?

谷中 あ、そうかもしれないね。

志磨 あれを聴いて「ヒロトさんは高いキーで声を張るとブルーハーツの声になる」という気付きを得ました(笑)。

全然ちゃんとしてないな

──チッチさんがヒロト&マーシーの音楽に出会ったきっかけは?

セントチヒロ・チッチ 母が好きだったので、小さいときから自然と耳に入ってたんですよね。ブルーハーツは特にそう。昔から体に刷り込まれていたというか。

──その頃好きだった曲はありますか?

セントチヒロ・チッチ

チッチ 一番記憶に残ってるのは「ハンマー」。子供ながらに「なんだこの歌!」って思った印象があります。たぶんテレビで流れてたのを聴いた気がするんですけど、歌詞に違和感があって。「こんなこと歌っていいの?」みたいな。

──自分で意識して聴くようになったのはいつから?

チッチ 私、学生の頃から銀杏BOYZがすごく好きで。綺麗事じゃなく自分が人間として折れかけたときに救ってくれたのが銀杏BOYZで、それで峯田(和伸)さんのルーツを知りたいと思って調べていったらヒロトさんの名前が出てきたんです。2人が対談している記事(雑誌「音楽と人」2006年4月号)を読んだときに「この人が日本のロックのめっちゃカッコいい人なんだな」と改めて知りました。

──志磨さんはハイロウズ世代だそうですね。

志磨 ちょうど僕が中学生になった頃にブルーハーツが解散してハイロウズが始まって、好きになったのはハイロウズのデビューからです。で、そこからブルーハーツも並行して聴き始めました。

──彼らのどこに特別なものを感じましたか?

志磨 最初はやっぱり歌詞でしょうね。あとはライブパフォーマンスと、アティチュード=姿勢ってやつじゃないですかね。例えばハイロウズのデビューツアーのビデオに本番前のサウンドチェックの様子が一瞬映るんですけど、ヒロトはマイクの前に立って「あーあー、はいOKでーす」でおしまいなんですよ。それ観て「すげー!」って(笑)。

──適当にやってるように見えた?

志磨 うん、やっぱり子供ながらに「そんなんでいいの?」って(笑)。音楽ってものは授業で習うやつにしてもラジオから流れてくるやつにしても、もっとちゃんとしてると思ってた。なのにヒロトとマーシーは、もちろん語弊はあるでしょうが、全然ちゃんとしてないなと思って。

谷中 それはパンクってこと?

志磨 そうかもしれません、今思えば。

谷中 そうか、当時ブルーハーツでパンクを知った少年少女は多かったわけだね。

ハードコアだと思う

──日本のロック史においてブルーハーツ登場以前と以後みたいな区切りがある気がしますね。

志磨遼平

志磨 うん、歌詞1つとっても、みんなが一番言いたかったこと、誰かに言ってほしかったことをピッタリ言い当ててくれたんですよね。「少年の詩」の「先生たちは僕を不安にするけど それほど大切な言葉はなかった」とかそういうの全部。

チッチ なんか人間としてすごく自由な感じがします。

谷中 普通は歌詞で言わないようなことも言っていて、その姿勢が人として正しいんですよね。社会において正しいかはわかんないけど。

──ただブルーハーツ初期こそ強いメッセージを持つ歌詞が目立ちましたが、今のクロマニヨンズの歌詞はだいぶ雰囲気が違いますよね。志磨さんから見てどうですか?

志磨 うーん、たぶんある種のハードコアだと思うんですよ。言葉の中に入ってる情報をどんどん減らしていく。感傷的な言葉をあえて削ぎ落としていく。

──書こうと思えばもっと感傷的な歌詞も書けるはずなのに。

志磨 そう、本来あの2人はそういう情景を誰よりもうまく書ける人たちで、きれいに飾ろうと思えばいくらでも飾れるんでしょうけど、今はもうそんな必要がないんでしょうね。感動的な言葉ではないのに、歌われるとなぜか感動する。文字通り感情がなぜか動く。そういうところに進んでいってるんだと思います。

チッチ それは私もすごく感じます。よくわからないんだけど感動しちゃうみたいなのはよくあって。ヒロトさんたちは生きていく中でいろんなものを脱いできて、今は裸ってことなんですかね。裸だから伝わることがあるのかなと思いました。