前のバンドの曲をやるかやらないか問題
──志磨さんもこの10数年にわたって毛皮のマリーズ、4人ドレスコーズ、1人ドレスコーズと形を変えて音楽を続けています。その立場から見て感じることはありますか?
志磨 あー! それで言うと、バンドを解散させて次のバンドをやるぞというときに選択肢は2つあるんですよね。つまり前のバンドの曲をやるかやらないか問題。ヒロト&マーシーみたいにやらないほうに行くか、(忌野)清志郎さんみたいにやるほうに行くか。で、結果的に僕は清志郎さんのほうを選んだんですけど。
谷中 浅井健一さんもそうだよね。今はBLANKEY JET CITYの曲もやってるでしょ。
志磨 奥田民生さんなんかはソロをやりつつ、ユニコーンも再結成して今はどっちの曲もやってるという。そういうのもありますよね。
──そう考えると自分が書いた過去の曲を一切やらないというのは思い切ったスタンスですね。
志磨 例えば自分が高校生のとき買った服って今は着ないじゃないですか。それぐらいの単純な話かもしれないですけどね。モードが変わって、自分も変わって、似合わないから着ない、くらいに思ってらっしゃるのかも。全部想像ですけどね。
谷中 デヴィッド・ボウイもTin Machineでソロの曲はやらなかったもんね。それによって今やってることに集中できるっていう考え方なんじゃないかな。私生活のことを話さないのもそうかもしれない。削ぎ落としていくことによってエネルギーを得ているというか。
──確かにヒロトさんとマーシーさんからは生活感をあまり感じないですね。今の日本でも相当珍しい、圧倒的なロックンロールスターだと思います。
チッチ うん、本当にカッコいい。普段何してるかわからない、存在してるかどうかもわからないっていう(笑)。だからクロマニヨンズを生で観たときに「ああ、本当にいたんだ!」って思ったんです。特に若い世代の人たちはそういうふうに感じてる人たくさんいるんじゃないかな。
──チッチさんはクロマニヨンズのライブパフォーマンスにどういう印象を持っていますか?
チッチ 私が勝手に思ってるのは、ヒロトさんってバンドマンなんだけどダンサーにも見える。あの動きがダンスみたいに見える瞬間があります。
谷中 わかるなあ。1つひとつの動きが圧倒的にカッコいいんだよね。
志磨 手足長いし、背も高いし。
──ブルーハーツのデビューのときこそボロボロのジーパンにTシャツ姿でしたけど、実はドキッとするようなスタイリッシュさも持ち合わせていますよね。
志磨 おしゃれですよねえ。ヒロトさんの髪が長いときもかっこいい。
あの2人がいなければ日本のロックはダサいままだった
──そしてファッションやルックスだけでなく、彼らの存在はロックバンドの理想形なんじゃないかと思います。現在の音楽シーンに与えた影響は計り知れないのでは?
志磨 本当にそう思います。あの人たちにはインテリジェンスがあるから。
谷中 2人ともとっても賢い人だよね。そういうふうに言われるの嫌がるかもしれないけど。
志磨 そうなんです。でもやっぱりそこが一番大きいと思うんですよね。あの2人がいなかったら日本のロックはいまだに「セックス&ドラッグ&ロックンロール」を直訳したままだったかもしれない。もっとダサかったと思うんですよね。
──日本のロックからヤンキー文化を切り離したのは2人の功績ですよね。
志磨 そうですそうです。ヤンキー文化だったら僕はやってない。
──その文学的なインテリジェンスを、誰もが歌えるロックンロールの形で表現し続けている。
谷中 発明ですよね。オリジネーター。だから強いんだと思う。
──発明ということならスカパラも大発明だと思いますけど。
谷中 まあ国内では当時スカパラみたいなバンドはなかったかもしれないです。それで言うとBiSHもそうだし志磨くんもそう。やっぱり「こんなの見たことない」ってものに人は夢中になるわけで。
──でも注目されるとそれを真似する人も出てきますよね。
志磨 うーん、でもあの2人がやったことは本当に特許みたいなものなので、迂闊に真似をするのは危険というのはみんなわかってるはずです。だから僕も昔、10代20代の頃はすごく気を付けて曲を書いたりしてました。
──どういうことですか?
志磨 やっぱりブルーハーツ的なメソッドがあるじゃないですか。スリーコードに長い音符を乗せていくみたいな。それはやっちゃダメだなって。
──BiSHも独自の立ち位置を築いていますが、誰かと似ないようにという意識はありますか?
チッチ 似ないようにというより、当たり前にとらわれずいろんなことをやってみようって思ってます。それがBiSHらしさだし、それができるのはそれこそヒロトさんたちがそれまでの当たり前を壊してくれたからだと思っていて。ダメかなと思うことをダメって決め付けないでやっていきたい。BiSHはメンバー全員、好みも考え方もバラバラなんですけど、その中でパンクが好きな自分がいてよかったなと思う瞬間はありますね。
谷中 わかる気がする。スカパラもスカバンドだからヒロトさんを呼べたんですよ。似たようなロックをやってたら無理だったかもね。
志磨 そうですよ。僕もパンクをやりたかったけど、ヒロトがやってないことをやるしかないから、とりあえず髪をめっちゃ伸ばして。
谷中 あはは(笑)。
志磨 イギー・ポップとかNew York Dollsみたいな髪の長いパンクは誰もやってないじゃん!と思って毛皮のマリーズを作りました。
──もうそれは呪縛ですね。
志磨 そう、僕らはヒロトとマーシーの足跡が付いてないところを探すしかないんです。
ライブ情報
- ザ・クロマニヨンズ MUD SHAKES 全曲配信ライブ
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配信日時:2020年12月11日(金)21:00~(※12月14日23:59までアーカイブ配信)