誰かを思い、伝えたいことを伝える
──「Standing Tall」の収録曲の歌詞に関して、先ほど「思ったことがそのままメロディに乗っている」とおっしゃっていましたけど、この作品を作られていた時期のどんな心象風景が具体的な形になっていると思いますか?
やっぱり一貫しているのは、自分自身も含めて「誰か」を思って書いている曲ばかりだなと思います。自分が自分に向けて歌っている曲もあれば、例えば「Stars Colliding」は去年の「Mothers」に引き続き西武・そごうの「母の日コンテスト」から依頼をいただいたので、「母の日」というテーマから思い浮かべて、自分の身近な人たちに対する思いを書いていて。「花が咲く道」もアニメのテーマソングですけど、自分の幼なじみを思い浮かべながら作った曲なんです。やっぱり、人が人に向けて歌う歌詞が多いですね。自分の好きなペースで、心地よいやり方で録るほうがいいと思うんです。
──チャームさんの最初の作品タイトルは「A LETTER」(2015年11月発売のアルバム)でしたけど、「手紙」のように思いを乗せて音楽を届けようとされているところは一貫していますよね。歌詞の中でも「変化すること」をよく歌われますけど、変わらない芯もあるということですね。
そうですね。人って、あんまり変わらないものなのかもしれないですね。進化したいけど、同じ人でいたい、というか……そうあることは難しいことだけど、不可能ではないと思うんですよ。
──うん、わかります。
変わり続けていきたいし、いい方向に進化していきたい。でもやっぱり、人間、変わらない部分もあって。僕は、家で1人で音楽作りに向き合うときの気持ちも変わっていないし、「自分が聴きたいと思う音楽を作りたい」という気持ちも変わっていない。なにより「A LETTER」を出してから3年半くらい経ちますけど、20代後半から30代になっても「伝えたいことがある」ということは変わっていないなって思います。もちろん体はボロボロになるし、今もすごく肩が痛いんですけど(笑)。
──ははは(笑)。
でも、一貫して「伝えたいことを伝える」ということが、一番自分にとっては楽しいことなんだろうと思いますね。
自信を持って進めるように
──6曲目の「Standing Tall」が表題曲になっていますけど、この曲が今のチャームさんを象徴するものだったということでしょうか?
今回の6曲の中で、「Standing Tall」は最後に完成した曲だったんです。この曲ができるまではアルバムタイトルも決まっていなかったんですけど、「Standing Tall」って、訳すと要は「胸を張る」とか「自信を持つ」ということですよね。このアルバムを作っていた頃も今も、「自信を持つ」ことが一番、自分ができていないことのような気がしたんです。もちろん、いつも自信があふれている人になりたいわけではないんですけど、僕は音楽を作っていても、いつも「これで大丈夫なのかな?」と思ってしまう性格で。もちろん正解がないからこそ不安になってしまうというのは、それ自体が音楽の持つ深みでもあると思うんですけど。
──前作「Timeless Imperfections」のタイトルに込められた意味にも通じている話ですよね。もしかしたら、これは永遠のテーマなのかもしれない。
うん、そうかもしれないです。でも、そうやって自信を持てないことで、本当はできそうなこともできなくなってしまうのは嫌だなと思って。なので、「自信を持って進めるようにしよう」という意味を込めて、「Standing Tall」を曲タイトルだけでなく、アルバムタイトルにもしました。
──チャームさんの自分に向けた理想が込められているタイトルなんですね。
そうですね。できていないからこそ、タイトルにして自分を鼓舞できればいいなと思って。イラストレーターの寺田マユミさんに描いてもらったジャケットもそういうイメージに合わせて描いてもらいました。
「1人の世界」を作ること
──さっきも少し言いましたけど、1曲目の「Don't Let Me Fall」はこのアルバムの導入としてとても美しくて、そしてチャームさんの胸の内がさらけ出された曲だと思うんです。この曲はどのようにして生まれた曲なんですか?
この曲は、1人の人の「叫び」みたいな曲だと思いますね。自分の内側から出てきた悲鳴というか、SOSを叫んでいる感じというか……自分に向けて助けを求めているし、自分に向けて「Don't Let Me Fall」、つまり「転ばないようにしてくれ」と言っている。作品の1曲目って、どこか「不安」から出発することが多いんです。「Timeless Imperfections」も不安から出発して、希望に導かれていくという流れだったし。祈っているような感覚はあるのかもしれないです。
──そういう部分も、チャームさんにとって音楽がどれほどパーソナルなものかを物語っていると思います。
昔から僕にとって音楽は、部屋で1人で聴くものだったので。学校にも……本当は持ってっちゃいけなかったんですけど、CDプレイヤーを持ち込んで、大きめのセーターの中に隠して、イヤホンを袖の中に通して授業中もずっと聴いているような感じだったんです。それが、すごくよかったんですよね。その音楽を聴いている間は、自分だけの世界に入り込めるというか。なので、今でも自分が作る音楽は「1人の世界」を作ることができるようにがんばっているんだと思います。
──それだけ切実に、音楽を求めてきたんですね。
「1人の世界」を持つことって、普段暮らしている中でもすごく大切なことだと思うんです。僕にとっては音楽がある場所が、そういう空間だったんですよね。「音楽と匂いは形がないものだ」という話を最近聞いたんですけど、形がないのに、まるで違う世界のように入り込むことができるというのは、音楽って本当に面白いものだなと思いますね。
──それこそ今はSNSもあるし「つながる」ことが簡単な時代でもあるけど、だからこそどれだけ1人を保てるかも重要になってきますよね。例えば「花が咲く道」も、僕はどこか別離を描いている曲に思えるのですが、「つながる」ことばかりではなく「1人になること」を歌う曲も、すごく響くものだなと思いました。
「花が咲く道」はテレビアニメ「ブラッククローバー」のエンディングテーマとして作ったんですけど、あの物語を観て出てきたモチーフが幼なじみだったんです。それこそ今はFacebookやInstagramがあるから、探したい人がいたらいくらでも探してつながることができる時代ですよね。でも僕は自分の幼なじみの中で、顔は思い浮かぶし「今、何をやっているんだろうな?」と思っても、取り立てて「つながりたい」とか「会いたい」と思わない人たちがいるんですよね。そうやって離れていくだけの関係性って、一見寂しいものだと思われるかもしれないじゃないですか。
──うん、そうですね。
でもそういう関係性も、それはそれでいいのかなって思うんです。「花が咲く道」って、要は「自分が進みたい道」ということで。それぞれの道が違っていて、離れていく関係だったとしても、お互いがお互いの「花が咲く道」を進めていたら、それは素敵なことなんじゃないかなって思う。出発点が同じなら足跡はつながっているはずだし、もちろん会えたら会えたでうれしいけど、会えなくても、それは幸せなことなんですよね。「花が咲く道」はそういう思いで作ったんです。
──チャームさんにとって音楽が「手紙」であることは一貫して変わらないけど、その中にはきっと、あえて出さなかった手紙もあって。そういう手紙も音楽として形になっているということですね。
いいこと言いますねえ。それ、僕が言ったことにしてください(笑)。
──あはは(笑)。でも本当に、会わなくてもいい関係性って、すごく幸福な関係性でもありますよね。ちょっと寂しくはあるけど、でも、そういう相手の顔が思い浮かぶこと自体が、人生の1つの美しさのような気がします。
うん、そう思います。それに気付いたときは、自分が、そういうことを思えるようになったことに驚きましたけどね(笑)。でも、そう思えるということは、僕も自分の道を歩めているということだし、相手もそうであったらいいなと思うんですよね。
- THE CHARM PARK「Standing Tall」
- 2019年7月3日発売 / A.S.A.B
- 収録曲
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- Don't Let Me Fall
- Ordinary
- Still in Love
- Stars Colliding
- 花が咲く道
- Standing Tall
ライブ情報
- THE CHARM PARK Billboard Live OSAKA
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- 2019年7月3日(水)大阪府 Billboard Live OSAKA[1st]OPEN 17:30 / START 18:30[2nd]OPEN 20:30 / START 21:30
- THE CHARM PARK Billboard Live TOKYO
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- 2019年7月5日(金)東京都 Billboard Live TOKYO[1st]OPEN 17:30 / START 18:30[2nd]OPEN 20:30 / START 21:30
- THE CHARM PARK Acoustic Live in NAGOYA
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- 2019年7月8日(月)愛知県 BLcafe
- THE CHARM PARK Acoustic Live in FUKUOKA
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- 2019年7月29日(月)福岡県 ROOMS
- THE CHARM PARK Acoustic Live in SENDAI
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- 2019年8月5日(月)宮城県 ナカオカフェ
- THE CHARM PARK Acoustic Live in UTSUNOMIYA
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- 2019年8月6日(火)栃木県 悠日
- THE CHARM PARK(チャームパーク)
- シンガーソングライター、Charm(チャーム)によるソロユニット。小学校3年生から高校生までアメリカ・ロサンゼルスで過ごし、その後ボストンの音大に進学。卒業後に再びロサンゼルスで24歳まで生活する。その後、日本にて音楽活動を開始し、2015年11月にTHE CHARM PARKとしての初作品となるミニアルバム「A LETTER」を発表。叙情的で美しい楽曲とオーガニックかつダイナミックなサウンド、緻密なメロディで注目を集めた。また自身のソロ活動のほかに、ASIAN KUNG-FU GENERATION、V6、登坂広臣(三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE)、南波志帆らへの楽曲提供や、大橋トリオのツアーサポートでも活躍。2018年に配信シングルを3作リリースし、同年12月5日にメジャー1stアルバム「Timeless Imperfections」を発表した。2019年7月にミニアルバム「Standing Tall」をリリース。