音楽ナタリー PowerPush - the brilliant green

4年ぶり再始動、もう一度歌った川瀬智子の胸中

目標を持ちづらい時代

──スランプになったのはいつ頃からですか?

やっぱり2011年の震災以降思うことがありすぎてぼんやりしちゃって。その前まではすごくガツガツしてたのに、もう生きてるだけいいよってなっちゃって。生きていることを自覚しちゃって、今は生かされてるってことかーってさめて、少しずつ戻ってきたけど、まだムラがありますね。

──でもそんなご自分ともうまく付き合ってるような気もしますけどね。

なんとかリリースできてますしね。たぶん、人間であることとミュージシャンとして仕事に向き合う自分というものの切り替えができてないんですよ。それはデビューした頃からずっと1人の人間として続いてしまっていて。メリハリが付けられないっていうか、常に音楽のことを考えちゃって、切り離せないんですよね。だから仕事のスランプっていうより、人間としてずっとスランプ。

──でも、しんどい中でも何かモチベーションがあるから続いているんだと思うんですよね。それはリリースするからにはちゃんとしたものを作りたいとか、待ってくれているファンがいるとか。

そうそう、それしかないんですよね。これだけ目標を持ちづらい時代になっちゃった中で、聴いてくれた方が喜んでくれることが一番大きい。ファンがいてくれるっていう実感が持てると、大変でもやっててよかったなと思えますから。

──目標を持ちづらいというのは?

川瀬智子

根本的に音楽自体のビジネスがあいまいで売れづらくなったということもあるし、特に今は、売上枚数だけでは計れないでしょ。音楽そのものは無料で聴ける機会がたくさんあるから、聴いてる人はいるんだろうけど、CDを買ったりお金を払ってまでっていうのは、よっぽどのことになっちゃったイメージ。相当なリスペクトがないとCDなんか買ってくれない。

──なるほど。

昔はもっとわかりやすくて、例えばテレビに出演した次の日に5万枚バックオーダーが来ました!とか社内に張り出したりして、みんなでモチベーションを上げるんです。その跳ね返りが実感できるから、目標を持ちやすかったというか、だから周りが必死でテレビに出そうとしてくれる姿を見てきて、苦手だけどがんばって歌おうと思えた。でも今は狙い方も違ってきて当たり方もさまざま。だったら自分のスタイルを貫くやり方に徹底したほうがいいのかなって。まあそれも理想ではあるんですけど。

音楽を辞めてまで別のことをやろうとは思わない

──商業的なことで言えば、今はライブでの集客がとても重要だと言われていますよね。

そうなんですね、もともとライブはCDを広めるためのプロモーションという解釈が強かったので、そこが音楽ビジネスの主流になって成り立っているのならとてもいいと思います。だから次のオリジナルアルバムを出したあとはライブもやっていこうかなと思ってるんですけど、でもどちらかというと名前を広めるための取り組みに近いです。ほとんどライブ経験がないのですごく挙動不審になりそうで、ほんとにどう見えるのか不安ですけど。

──川瀬さんはファッションやデザインなど音楽以外のことも手がけていますよね。それでも気持ちの比重は音楽がずっと中心にあるんですか?

それはまったくブレてないですね。音楽を辞めてしまったらほかのことも辞めてしまうんじゃないかなと思います。アートワークでもファッションでも、すべて音楽の延長線上にあるので。例えば「これはブリグリじゃない」「これはブリグリです」っていう線引きが私の中にははっきりあるんですね。その世界観を大切にすることが今は一番大切だと思っています。それが皆さんにもより伝わるようになっていけるといいなって。

──ちなみに今後リリース予定のブリグリとしてのオリジナルアルバムは、コンセプトなどのイメージはもうできているんですか?

まだ具体的なものはこれからですけど、曲はもういくつかあるので、その延長線というのかな。今回のカバーアルバムはこれまでのブリグリとは雰囲気も変わっていて、夏らしいさわやかな音になったと思うんです。だから次は、基本的には切ない感じとか、ちょっと暗いトーンとか、the brilliant green本来のテイストがしっかり感じられる方向性にしたいとは思っています。

──では最後に、聴いた人は感想をくださいってことですかね。

そうですね、試聴とかが始まったときにあまり反応がないと不安になるんですけど、Twitterでリアルタイムにメッセージが届いたりするとちゃんと伝わってると実感できるので、リリースされたらもっといろんな人に聴いてもらって、意見を送ってもらえるのを楽しみにしています!

the brilliant green - A Little World

セルフカバーベストアルバム「THE SWINGIN' SIXTIES」 / 2014年7月23日発売 / 3240円 / Warner Music Japan / WPCL-11718
セルフカバーベストアルバム「THE SWINGIN' SIXTIES」
収録曲
  1. There will be love there~愛のある場所~
  2. 冷たい花
  3. You & I
  4. Rock'n Roll
  5. Hello Another Way-それぞれの場所-
  6. Stand by me
  7. Bye Bye Mr.Mug
  8. そのスピードで
  9. Blue Daisy
  10. 長いため息のように
  11. A Little World
the brilliant green(ザブリリアントグリーン)

奥田俊作、川瀬智子によるロックバンド。作曲・アレンジ・ベースを奥田、作詞・ボーカルを川瀬が担当。1997年にシングル「Bye Bye Mr.Mug」でデビューし、その独自の世界観と完成度の高いサウンドが注目を集める。1998年にリリースしたシングル「There will be love there~愛のある場所~」は大ヒットを記録。その後the brilliant greenのほかに、川瀬はソロプロジェクト「Tommy february6」「Tommy heavenly6」でも活動。the brilliant greenとしては、2010年1月にワーナーミュージック・ジャパンへ移籍し、同年内にシングル3枚とオリジナルアルバム「BLACKOUT」を発表。2014年2月に約3年半ぶりの活動再開を発表し、同年7月、セルフカバーベストアルバム「THE SWINGIN' SIXTIES」をリリースした。