「立ち位置をマネしました」って言われました
──両バンドとも結成から20年が経ちましたが、お二人はバンドを長く続けたいという気持ちを結成当時から持っていたんでしょうか?
荒井 さっきと同じ表現になってしまうんですが、「長くバンドを続けよう」という声かけはなかったですね(笑)。今になってやっと「続けていきたいものですね」みたいなノリになってきたというか。
ホリエ 僕らは最初2人で始まって、ちょうど10年前くらいに今の4人になったから、そのタイミングで気分が入れ替わってるんだよね。その後は無理なく、自由にいろんなことをやれる状況が継続している感覚です。さっきも言いましたけど、最初の10年はかなり試行錯誤してました。自分たちの向かうべき場所を探していたというか。
荒井 ウチはずっとマイペースでやってきたけど、テナーはしっかり考えながら活動している印象があるな。けっこう早いタイミングでメジャーのフィールドに行ったじゃない? そこでバンドらしい活動を続けるのは大変だったんじゃないかな、と。逆インタビューみたいになってるけど(笑)。
ホリエ 確かにメジャーデビューしたタイミングって、メジャーというものがダサい感じに見えていた時期ではあったんだよね。音楽性も活動のスタンスも、圧倒的にインディーズのバンドのほうが勝っていたと言うか。インディーズで自分たちがカッコいと思うことを貫いて、その結果、人気が出て売れるというのが当たり前になりつつあったんですよ。ただ僕らは「インディーズで続けても、これ以上は行けなそうだな」と思ったし、いい出会いに恵まれたこともあって、メジャーデビューができた。それに僕らはメジャーデビューをしたあともやりたいことはしっかり主張はさせてもらってましたから。the band apartもそうだけど、自分たちが好きなバンドに声をかけて対バンしてきたし、そういうことを続けてきたのがよかったんだと思います。
──ストレイテナーやACIDMANといったバンドは、メジャーデビューしてからもバンドらしい活動を続けた最初の世代なのかもしれませんね。
荒井 あとアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)もそうだよね。メジャーのフィールド、インディーズのフィールド両方から認知されたバンドの代表というか。僕らはインディーズで活動することに憧れてバンドを始めたんだけど、10年くらい経った頃に、下の世代のバンドの雰囲気が変わってきたことに気付いたんだよね。インディーズとかメジャーとか、そのこと自体が重要ではなくなってきて、そのバンドに合ったやり方を選べるようになって。そういう環境があるのはいいことだと思います。
──the band apartとストレイテナーは音楽的にも下の世代のバンドに影響を与えていますよね。
荒井 たまに言われるんだけど、よくわからないんですよね。「大学生の頃にコピーしてました」と言われるとうれしいけど、20年もやってたらそういうこともあると思うし。
ホリエ バンアパはフォロワーのバンドが出て来るのがすごく早かったんですよ。2007年くらいにはライブハウスで対バンするバンドの中に、明らかにバンアパの影響を受けている人達がいて。
荒井 それ、都市伝説じゃない? あまり観たことないんだよな、俺は。
ホリエ 影響を受けたバンドを観ても、本人にとってはそういうふうに感じなかったんじゃないかな。
荒井 いやいや(笑)。
ホリエ それは自分たちも同じなんですよ。たまに「ストレイテナーの影響を受けました」って言われるけど、そのバンドを観ると「そう?」って(笑)。
──今回のトリビュートアルバム「tribute to the band apart」に参加しているcinema staff、KEYTALKなども、the band apartからの影響を公言してますよね。cinema staffはライブのときのメンバーの立ち位置も同じっていう。
荒井 そう、「立ち位置をマネしました」って言われました。
ホリエ ギターの辻(友貴)くんが動きすぎだけどね(笑)。
荒井 ハハハハ(笑)。実はあの立ち位置って、インディーズの頃のBEAT CRUSADERSのマネなんですよ。だからcinema staffはマネのマネですね。
あまりにも感動してすぐLINEした
──「tribute to the band apart」についての話も聞かせてください。トリビュートアルバムを作ろうという提案はメンバーから出たものなんですか?
荒井 いえ、僕らは偏屈モノの集まりなので(笑)。自分たちからそんなことを言うわけもなくレコード会社から「トリビュート盤を出しませんか」と言われて「え、やってくれるんですか?」という感じで始まった企画でした。僕の率直な感想としては「the band apartほどトリビュートしづらいバンドはないだろうな」だったんです。自分たちで演奏していても「ここのパートがめんどくさいんだよな」と思うことがあるのに、皆さんが自分のカラーを出しながらカバーするのは大変だろうなと。特に初期の楽曲は音楽的なセオリーを無視しているところもありますからね。それを咀嚼して再構築するのはすごく手間がかかると思うんですよ。
──トリビュートに参加したバンド、アーティストはバンアパとつながりがある人たちばかりですか?
荒井 ほとんどそうですね。ゲスの極み乙女。のメンバーとは、今年の夏フェスで初めて挨拶したんですけど。
ホリエ ゲスの極み乙女。のメンバーがthe band apartを聴いてたのって、今回初めて知った?
荒井 ゲスやindigo la Endでコーラスをやってるえつこさんとは知り合いだったから、「メンバーもバンアパの曲を聴いてる」というのは知ってたんです。それも意外だったな。
ホリエ コードの使い方じゃないかな。日本のロックバンドが7th系のコードを取り入れたのは、バンアパが最初だったと思うから。
──ストレイテナーは「Can't remember」をカバーしていますが、この曲を選んだのはどうしてですか?
ホリエ 僕がやりたいって言ったんですよ。もちろん好きな曲だし、原曲のアレンジをそのまま再現するのは難しいので、ボーカリストとして、歌、メロディの部分をフィーチャーした形にしたいなと思って。自分たちのバンドのスタイルに落とし込めそうな気もしたし。
荒井 ホントにそんな感じだよね。最初にテナーの「Can't remember」を聴いたとき「テナーの曲みたいだな」と思って。歌い出しもそうだし、間奏、最後のアレンジもそう。原曲を知らないでこの曲を聴いたら、ストレイテナーの曲だと思うんじゃないかな。
ホリエ 「新曲だ」って?
荒井 そうそう。この前、朝、車に乗りながら聴いてるときに、あまりにも感動してしまって。車を停めて、ホリエくんにLINEしたんですよ。「気持ち悪いLINEですいません。よかったです」って。
ホリエ 最初に「気持ち悪いLINEですいません」が目に入ったから、何かトラブルでもあったのかと思ったんだよ(笑)。でもそういうふうに言ってもらえるのはうれしいですね。僕もずっとリピートして聴いちゃうくらい手応えがあった曲だったし。アレンジに関しては、ドラムをあえてシンプルにして、ギターのコードは原曲の通りなんですよ。ただ、僕のギターだけは違うフレーズを弾いていて。そのあたりが“らしさ”につながっているのかも。カバーしていて新鮮だったし、自分たちの特異な部分も出せたというか。
荒井 ベースと歌で始まるのもいいよね。
ホリエ そのアレンジには裏話があるんです。プリプロのときはイントロのフレーズをエレピで弾いていて、レコーディングでもそうしてたんですよ。リズム録りが終わって、普段だったらひなっち(日向秀和 / B)はすぐ帰るんだけど、その日はたまたま帰りの電車のチケットが取れなくて2時間くらいスタジオにいたんです。「暇だな。仕事ない?」って言ってたから、イントロのエレピのフレーズをベースで弾いてもらったら、それがすごくよくて。そのまま採用しました。
荒井 そうなんだ。イントロのこと、聞いてよかった(笑)。
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今の音楽は「誰がやっているか」が大事
- V.A.「tribute to the band apart」
- 2018年9月19日発売 / ポニーキャニオン
-
[CD]
3240円 / PCCA-04705
- 収録曲
-
- fool proof / cinema staff
- Snowscape / KEYTALK
- higher / FRONTIER BACKYARD
- beautiful vanity / LOW IQ 01
- Can't remember / ストレイテナー
- I love you Wasted Junks & Greens / ゲスの極み乙女。
- Moonlight Stepper / ASPARAGUS
- 明日を知らない / 坂本真綾
- 泳ぐ針 / tricot
- ピルグリム / 八十八ヶ所巡礼
- 禁断の宮殿 / 吉田一郎不可触世界
- 月と暁 / HUSKING BEE
- the band apart「20 years」
- 2018年9月19日発売 / asian gothic label
-
[CD2枚組]
3240円 / ASG-042
- 収録曲
-
DISC 1
- Eric.W
- Fool Proof
- Snowscape
- higher
- real man's back
- SOMETIMES
- KATANA
- I love you Wasted Junks & Greens
- Malibu
- photograph
- Taipei
DISC 2
- 茶番
- Flower Tone
- ノード
- 夜の向こうへ
- 笑うDJ
- ピルグリム
- 禁断の宮殿
- ZION TOWN
- Castaway
- 38月62日
- 君が大人になっても
- the band apart(バンドアパート)
- 1998年に荒井岳史(Vo, G)、川崎亘一(G)、木暮栄一(Dr)の3人で結成。原昌和(B)の加入を機にソウルやボサノヴァなどの洗練されたコード感を交えたロックサウンドへ変化を遂げ、2001年10月のデビューEP「FOOL PROOF」が好セールスを記録した。2003年に自主レーベル「asian gothic」を設立。翌2004年に移籍第1弾シングル「RECOGINIZE ep」をリリースし、以降もコンスタントに作品を発表。ほかに類を見ない独自性の高いサウンドは、多くのバンドに大きな影響を与えている。2016年10月にアコースティック編成の“the band apart (naked)”名義でアルバム「1」を発売し、2017年2月には同名義でシングル「Paper Planes e.p.」をリリース。7月には「謎のオープンワールド」から約2年半ぶりとなるフルアルバム「Memories to Go」を発売した。2018年9月にはバンド結成20周年を記念し、トリビュートアルバム「tribute to the band apart」とベストアルバム「20 years」を同時リリースする。
- ストレイテナー
- 1998年にホリエアツシ(Vo, G, Piano)とナカヤマシンペイ(Dr)の2人で結成。2003年のメジャーデビューのタイミングで日向秀和(B)が加入。さらに2008年には元ART-SCHOOLの大山純(G)が加わり、4人編成に。2009年2月には4人編成となってから初めてのフルアルバム「Nexus」を発表し、同年5月にアルバムを携えてのツアーファイナルとして初の日本武道館公演を開催した。ホリエはソロプロジェクト・entとして、日向はNothing's Carved In Stone、EOR、killing Boyのバンドメンバーとしても活動するなど、各メンバーがさまざまなバンドやプロジェクトで活躍している。2016年5月にアルバム「COLD DISC」を発表。同年6月より計26カ所の会場を回る全国ツアー「Step Into My World TOUR」を開催し、ツアーのライブ映像を収めたライブBlu-ray / DVDを2017年3月にリリースした。バンド結成20周年のアニバーサリーイヤーとなる2018年には4月にニューシングル「The Future Is Now / タイムリープ」を、5月にニューアルバム「Future Soundtrack」を発表した。同年10月には、ファン投票によって選ばれた楽曲などが収録されるベストアルバム「BEST of U -side DAY-」「BEST of U -side NIGHT-」を同時リリースする。
2018年9月19日更新