2020年のグループ結成以来、配信のみで楽曲を発表してきたTENSONGが、初のCD作品となる6曲入りミニアルバム「普通なんていらないよ」をリリースした。
TikTokへのカバー楽曲投稿で脚光を浴び、SNSを中心にその名を広めてきたTENSONG。コロナ禍に始動した彼らはライブを経験しないままキャリアを重ねてきたが、昨年は対バン形式による47都道府県ツアーを完遂し、さらには神奈川・KT Zepp Yokohamaでのワンマンライブを成功に収めた。ネット越しにファンとの交流を深めてきたTENSONGにとって、ライブ三昧だった2023年は収穫の多い1年だっただろう。
そんな実りの季節を経てリリースされた初のCD「普通なんていらないよ」は、書き下ろしの新曲のみで構成されている。さまざまな経験を経て彼らが放つ「普通なんていらないよ」という言葉の真意とは? 前回のインタビュー(参照:TENSONGインタビュー|コロナ禍生まれTikTok育ち、等身大で“アーティストミマン”な3人組の挑戦)からおよそ半年ぶりに、たか坊(Vo)、拓まん(G)、アルフィ(DJ)の3人に話を聞いた。
取材・文 / 西廣智一撮影 / 臼杵成晃
経験を重ねて得たポジティブな感情
──前回のインタビュー後、TENSONGは47都道府県対バンツアー「~JUST FOR FUN 2023~」とKT Zepp Yokohamaでの初ワンマンライブ「アーティストミマン」を完遂しました。すべてを終えた、現在の心境を聞かせてください。
アルフィ(DJ) 昨年、半年を通してツアーをしたんですけど、そもそも僕たち3人ともライブ自体あまりやったことがなくて。「そんなやつらが本当に47都道府県ツアーをやってもいいのか?」っていうところからスタートして、実際できることからどんどんやっていこうという気持ちで臨んだ結果、自分がやるべきことや課題もどんどん浮き彫りになってきて、次へつなげるためのヒントが見つかる成長期間となりました。
たか坊(Vo) 自分の中では結局47都道府県を回っても、何が変わったのかがイマイチわかっていなくて。ただ、すべてが終わったときは、いろんな地方に行っていろんな方に感謝の気持ちを伝えることができてよかったなとホッとしたところもありました。そういう意味では、成功だったんじゃないかなと思います。
拓まん(G) 僕は最高に楽しかったです。沖縄以外は全部自分たちで車を運転して回ったんですが、「音楽で生活できているな」という実感をより持てたかもしれません。もちろん課題も見つかりましたけど、ツアーを始める前から各々いろんなライブを観に行って、そのうえで自分たちの思い描くライブを作ろうと考えていった中では、できたほうなんじゃないかな。で、ツアーやワンマンが終わったあともいろいろライブを観に行っているんですけど、「自分たちも、もっとできるんじゃないか」と……ライブに勝ち負けはないと思いますが、「ほかのアーティストさんよりも、ここに関しては自分たちはもっといいライブができるはず」という自信がついたことは、かなり大きかったと思います。
──TENSONGは結成当初、配信中心の活動で目に見えない人たちに向けて音楽を届け続けていたわけで、しかもコロナ禍という不安定な状況下でもあったから、確かに実感という点ではなかなか得られなかったかもしれません。自分たちを観に来たお客さんを実際に目にすることができた昨年のツアーで得られた手応えは、それ以前とまったく異なるものだったわけですね。
たか坊 本当にその通りで。僕ら3人で47都道府県を回って、じゃあ音楽スキルが上がったのかと言われたらたぶん上がってない。でも、一歩一歩進めているというポジティブな感情も少なからず僕らの中に芽生えている。それは、確実にリアルに対面したお客さんから得られたものだと思うんです。こういう経験をもっと重ねていくことで、さらに前進できるんじゃないかと感じています。
──理想と現実の違いを実感する機会も少なくなかったと思いますし、それも47都道府県ツアーを通過したからこそ気付いたことでもあるわけで。そこを乗り越えてきた今皆さんが立っている場所は、確実に1年前とは違うと思いますよ。
拓まん はい。自分たちではちょっと自信が持てたぐらいの感覚ですけど、今みたいに僕ら以外の人からそう言っていただけるとうれしいですね。
──ワンマンライブでも、あれだけ大きな会場にTENSONGを見たいお客さんがたくさん集まりました。
拓まん あのアットホーム感はたまらなかったですね。対バンと違って、自分たちを目当てに来た人だけなわけですから。最初にアルフィが登場したときの歓声を聞いた段階で「これはヤバい!」って思いましたし。
アルフィ 正直、本番が始まる前後は記憶が飛ぶくらい緊張していて。何度もリハーサルしたんですけど、そのときはリラックスしていたのに、本番であの歓声を耳にしたら……思い切り緊張してしまいました。
たか坊 “アーティスト未満”と謳ったライブではあるものの、もちろん「いいライブをしなくちゃ。ここでアーティストになろうぜ!」という気持ちは3人とも持っていて。でも、あとで自分たちのライブ映像を見返したら、ド素人がやっているように見えたんですよ(笑)。なのに、「でも、TENSONGはこれでいいんじゃないか、このスタイルで続けたほうがいいんじゃないか」と腑に落ちるものもあって。この形で続けていくのが正解なんだろうなと気付かせてもらえたライブでもありました。
結婚したらうまくいく関係性
──ハードなライブ経験を重ねたことで、3人の関係性や空気感みたいなものが変わったと感じることは?
拓まん たか坊は以前よりも思っていることを伝えてくれるようになりました。僕らはもともと友達から始まっていて、今は言ったらビジネスパートナーでもあるわけじゃないですか。以前は友達という関係性を優先して、言いたくても言えなかったことがあったと思うんです。でも、ツアーを続けていく中で「いいライブを届けたい」という思いがどんどん強くなっていって。例えば、僕がたか坊に対して「ここはもっと感情を込めて歌えよ」とか、逆にたか坊が僕に「もっとギターもアドリブをガンガン入れて弾けるようになれよ」とか、各々考えていることがちょくちょく言えるようになってきたんです。そこからワンマンが終わってひと息ついて、次のツアーに向けて動いている今は「もっとこうしよう」とか「ここはこうしなよ」と積極的に伝えてくれることも増えて。
たか坊 確かに、いい意味で気を使わなくなったかもしれない。前回のインタビューぐらいまでは、2人には言いたいこともまだ全部は言えてなかったと思います。それが言えるようになったのは大きいですよね。あと、年明け以降に3人で話す内容がすごくシビアになったし、どんどん濃くなっていて。3人で一緒にいる時間もどんどん長くなっていますし、音楽に対してより真剣に向き合えるようになってきているのかもしれません。
アルフィ せっかく3人一緒にいるんだから、もっと音楽についての会話を増やしたいですし。そう考えると、今年に入ってから3人でいる意味をより感じられています。
拓まん 意見の言い合いもよくするけど、誰もケンカとは思ってないですし。
たか坊 ちゃんと先に「わかった」という言葉がくるのが大事ですよね。3人の中では「いや、でも……」より先に「そうだね、わかった」と肯定の言葉が出るからケンカにならず、どんどん前進できたんじゃないかな。
アルフィ あと、プライベートに関して誰も干渉しないのも大きいのかなと。
拓まん 「好きにせえ」って感じだったもんな。正月、実家に帰るときも「ハメ外してこいよ!」って言うくらい(笑)。
たか坊 「わかりました!」で終わり(笑)。
──距離感の取り方が上手ですよね。
拓まん 結婚したらうまくいく関係性だと思います(笑)。
たか坊 まあ、これがずっと続けばいいんですけどね……(笑)。
拓まん・アルフィ (笑)。
「普通であることが一番難しいんだよ」と全身全霊で伝える作品
──ここからはTENSONG初のCD作品「普通なんていらないよ」について話を聞きたいと思います。ここまで配信でいろいろな楽曲を発表してきたものの、いざツアーを経験してみると「もっとこういう曲が欲しいな」「ここにこういうタイプの曲があったらいいのに」と思うこともあったんじゃないでしょうか。
拓まん ありました。TENSONGはアッパーな曲が極端に少なくて。対バンツアーは1公演で5、6曲、どんなに多くても8曲か9曲ぐらいなんですけど、それを47公演続けていく中でセットリストに変化を付けようとすると、どうしても足りない色に気付かされるわけです。
──今回のCDを最初に聴いたときに感じたのがまさにそこで、これまでのTENSONGに足りなかった要素を補強したのがこの楽曲群なんだろうなと思ったんです。
拓まん 見抜かれてましたね(笑)。
──SNSなどを通じてネット上で評価を高めてきたTENSONGにとって、こうしてCDをリリースすることは新たな挑戦でもありますよね。
たか坊 今まではフィジカルで作品を残してこなかったのに突然CDを作ったり、そのCDの内容も統一感がなかったりと、自分たちの中でも普通じゃない、奇抜なことをやっていこうと考えたんですけど、「普通なんていらないよ」と言いつつも実は「普通でいいんだよ」って伝えることが本作の軸なのかなと思っていて。「普通であることが一番難しいんだよ」と全身全霊で伝える作品になっていると思います。
──そもそも、TENSONGが結成された2020年から「普通」とか「当たり前」という概念は崩壊してしまったわけですから。それに、「普通」の基準値って常に一定なものではなく、時代とともに変わっていくわけですしね。だから、この時代に「普通なんていらないよ」という言葉を投げかけるTENSONGに対して、僕は「腹を決めたな」と感じたんです。
たか坊 ありがとうございます。伝わってうれしいです。
──皆さん、CDというフォーマットに対しての思い入れはどの程度あるんでしょう?
拓まん 今の自分からすると、すごく特別なものという感覚。昔はもっと「普通」という感覚でしたけど、今はケータイさえあればサブスクを通していろいろ聴けるわけで。ツアーでも対バン相手に挨拶すると、CDをいただいたりするじゃないですか。そういうときに、手触りのある「形あるもの」に対してより特別さを感じるんですよ。
──今や家にCDプレイヤーがないのも当たり前になりつつあります。ファンの方々の中にはTENSONGが本作をリリースすることで、CD自体を初めて購入するという方も少なくないと思うんです。
アルフィ そういう方も多いかもしれないですよね。
たか坊 “思い出”を買う感覚ですよね。
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