国内外、ジャンルを問わずに幅広い活動を続けるプロデューサー / DJのTeddyLoidが、2枚の新作アルバム「SILENT PLANET: RELOADED」「SILENT PLANET: INFINITY」を完成させた。この2作品は、彼が2015年にリリースし、中田ヤスタカ(CAPSULE)や柴咲コウ、KOHH、☆Taku Takahashi(m-flo)、近田春夫 & tofubeats、小室哲哉、佐々木彩夏(ももいろクローバーZ)といった豪華メンバーとのコラボレーション作品となった3rdアルバム「SILENT PLANET」や、その後DAOKOや米良美一ら毎回個性的なコラボアーティストを迎えて継続された「SILENT PLANET 2 EP」シリーズを経て、シリーズの完結編として制作されたものだ。まるで映画「アベンジャーズ」のように、これまでシリーズに関わってきた面々が再び集結し、そこに新たなメンバーや要素を加えることで、感情が禁止された惑星=“SILENT PLANET”から音楽を解放するレジスタンスたちの闘いのクライマックスが描かれている。
ダブステップを中心としたヘビーで激しいベースミュージックで構成された「SILENT PLANET: RELOADED」のラストナンバー「You Made Me」で再びコラボを果たしたのが、若手女性ラッパーとして活躍著しいちゃんみなだ。今回の特集では、TeddyLoidとちゃんみなとの対談を通して、相思相愛と言えるコラボレーションの制作秘話や、アルバムの背景を聞いた。
取材・文 / 杉山仁 撮影 / 映美
心の底にある黒い部分を引き出すTeddyLoid楽曲
──お二人が最初にコラボレーションしたのは、Teddyさんの2016年作「SILENT PLANET 2 EP vol.3 HAL by TeddyLoid」に収録された楽曲「ダイキライ feat. ちゃんみな」ですね(参照:TeddyLoid、新曲はJKラッパーちゃんみな迎えた「ダイキライ」)。
TeddyLoid そうですね。まず、2年前に専門学校HALの2016年度のテレビCM曲として、DAOKOちゃんと「ダイスキ」という曲を作ったんです。実際にCMに使われたオリジナルバージョンは、DAOKOちゃんサイドから先にリリースされたので、そのTeddyLoidバージョンはどうしようか? ただアレンジ違いでも面白くないし……という話になって。「思い切ってボーカリストを差し替えてみようか?」という大胆なアイデアが出たときに、まっさきに候補として挙げた女性アーティストがちゃんみなちゃんだったんです。僕はちゃんみなちゃんが出ていた「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」を観ていたし、その後の動向にちょうど注目していたこともあって。
ちゃんみな 恥ずかしい(笑)。
TeddyLoid 当時番組に出ていた人の中でもダントツでカッコいいと思ったし、佇まいもいいし、フロウにも音楽性を感じたんです。そのときから、僕は「この子はきっとフリースタイルだけじゃなくて、作品も作れるアーティストだ」と思っていたので、オファーするのに絶好のタイミングでした。個人的には、同じく個性派の女性ラッパーであるDAOKOちゃんとのバトルのような雰囲気の曲にしたかったので、「DAOKOちゃんの『ダイスキ』に対して、『ダイキライ』でアンサー! それにはちゃんみなちゃんがピッタリ!」と最初から強いイメージがありました。
ちゃんみな 最初にお話をいただいたときはびっくりしました。「TeddyLoid!? マジ!?」って(笑)。あのときはクラブミュージック系のトラックに乗せてラップをするのも初めての経験だったので、とても手こずったのを覚えていますね。Teddyくんの曲って、今回もですけど、自分の心の底にある黒い部分を引き出されるような感覚があるんですよ。そのときは自分がまだ若かったので、それを引き出されるのに時間がかかったんだと思います。「ダイキライ」ができたときは、自分の中からでっかい何かが出てきたような感覚になりました。
──奥底にある感情を引き出されるような経験だったと。
TeddyLoid ちゃんみなちゃんは、当時はまだ17、8歳ぐらいだったよね。
ちゃんみな そうですね。17歳だったかも。まだ高校生でした。
──ちゃんみなさんの「ダイキライ!!!」というシャウトの迫力には驚かされました。
ちゃんみな あそこってサビじゃないですか? そこを「どうしようかな」とすごく迷って。「もう、叫んでしまおう!」と思ったところをTeddyくんが使ってくれました。トラックを渡されて、私がいろいろと考えたものをTeddyくんがつなぎ合わせて曲にしてくれた感じです。
TeddyLoid あの頃ちょうど海外でベースミュージックとラップのクロスオーバーが流行っていて、特にSkrillex & Rick Rossの「Purple Lamborghini」が衝撃的で。それに対抗できるアグレッシブな曲を日本からアンサーしたいって思ってたんですよ。トラックだけでなく、強烈なフロウが欲しかった。だからあのタイミングでの、ちゃんみなちゃんとの出会いはとても大きかったです。実際「ダイキライ」は日本だけでなく、海外からのリアクションがすごかったし。
僕が思う一番強い人たちを集めた作品
──Teddyさんとしては、2015年の年末に豪華ゲストを招いたアルバム「SILENT PLANET」を出して、そのあと「SILENT PLANET 2 EP」シリーズでアルバム本編には参加していなかった新たな仲間が加わっていくなど、その世界観をより広げていた時期でした。
TeddyLoid はい。その前にアルバム本編とEPであまりに唯一無二の存在のKOHHくんと共演してしまったということもあって、「次にラッパーと組むとしたら一体誰と?」って軽く悩んでいたんです。そう考えたとき、女性のラッパーで一番と言えばちゃんみなちゃんだ、と思って声をかけさせてもらいました。以前からラップチューンに取り組みたいって思っていましたが、まずKOHHくん、DAOKOちゃん、ちゃんみなちゃんという、これ以上はない顔ぶれで形にできたことはとても達成感がありました。
──一方のちゃんみなさんは、まだ作品を出し始めたばかりの頃だったと思います。
ちゃんみな あの頃は、まだいろんなことを全部自分でやっていたんですよ。事務所に所属しはじめたぐらいの時期で、当時出していた「未成年」も「プリンセス」も、自分でトラックを作って、そこでラップした素人のような作品で。だから声をかけてくれたときは「いいんですか?」という感覚でした。「ダイキライ」は自分にとって初めて規模の大きい曲をちゃんと制作できる機会になったし、私のファンの子たちの間でもすごく人気なんですよ。この間のワンマンライブでも「ダイキライ」で網に吊られながらエアリアルをやったんですけど、そのときも「やっぱりこの曲は映えるな」と思いました。
──「ダイキライ」の制作は、お互いにとっていい機会になったんですね。
TeddyLoid 僕にとってもすごくいい経験になりました。そうやってどんどん「SILENT PLANET」に関わってくれる仲間が増えていく中で、今回それぞれリリースする「SILENT PLANET: RELOADED」「SILENT PLANET: INFINITY」は、その最終作という位置付けの作品になっています。かつての仲間が再集結して、そこに新たなメンバーも加わって、僕がここ数年続けてきた「SILENT PLANET」シリーズの集大成を作ろうと思ったんです。
──実際、今回の2作品は、まるでマーベル映画「アベンジャーズ」のように、「SILENT PLANET」シリーズをクロスオーバーする形でさまざまな人たちが集う作品になっています。
TeddyLoid そうですね。興味のあるさまざまなジャンルやシーンから、僕が思う“一番強い人たち”を集めた作品になったと思います。そして、その筆頭がちゃんみなちゃんだったんです。
ちゃんみな いやあ、うれしいです。
ちゃんみなの進化で新たなサウンドに
──今回の「You Made Me」はお二人にとって2度目のタッグになるわけですが、お互いの魅力をより理解する機会にもなったんじゃないでしょうか?
TeddyLoid 今回ビックリしたのは、彼女のソングライティング力やセルフプロデュース力が格段に上がっていたことでした。「ダイキライ」の頃は、まだ声出しから始めてちょっとずつ曲を作っていくような雰囲気でしたけど、「You Made Me」ではスタジオに現れた時点で、すでにフロウのアイデアを持ってきてくれていて。録ってみたら「これいいじゃん!」という感じですぐにイメージが固まりました。「止まらないの成長」って今回のリリックにも出てきますが、彼女自身、この2、3年の間にキャリアとスキルを積み重ねて、今や名実共に人気アーティストじゃないですか。それもあって、僕自身も彼女に負けないように「もっと新しいことにトライしないといけない」と思ってました。彼女と曲を作るのはこれで3曲目なんですが、この数年のお互いの進化を反映した、新たなサウンドに仕上げられたと思っています。
ちゃんみな Teddyくんの場合は、私とのレコーディングのあとに、曲を完成に持っていくために遊びやボーカルエディットを加える段階がありますよね。だから今回もTeddyくんのエディットを信用して、その場でできることをやっていきました。それで完成版を聴くと……やっぱりすごいものにしてくれているんですよね。前もそうでしたけど、完成した曲は想像以上のものになっていて、まるで私がすごい人であるかのように見せてくれる(笑)。Teddyくんはそこが本当にすごいと思います。
TeddyLoid まあ、それって音楽プロデューサーの役目だと思うんですよ。僕は彼女が声を出した時点で「こんなふうになるな」ということはすでに頭の中にあるわけで。
ちゃんみな 本当にありがたいですし、素晴らしいことですよね。
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無理やり吐き出した剥き出しのリリック
- TeddyLoid
「SILENT PLANET: RELOADED」 - 2018年11月14日発売 / EVIL LINE RECORDS
-
[CD] 3024円
NKCD-6849
- 収録曲
-
- Reloaded(Intro)
- Guardians of the Universe feat. Virtual Riot
- Bring It Back feat. TRIΔNGLE
- Two Dawgz and The Ape feat. Paloalto & SALU
- Lion Rebels(RELOADED)feat. JUN 4 SHOT from FIRE BALL & N∀OKI, NOBUYA & KAZUOMI from ROTTENGRAFFTY
- Break The Doors(RELOADED)feat. アイナ・ジ・エンド(BiSH)
- Vibraskool(RELOADED)feat. 近田春夫(Professor Drugstore a.k.a. President BPM)& tofubeats
- Shout It Out(RELOADED)feat. Kダブシャイン
- Venom
- ダイスキ(RELOADED)feat. DAOKO
- Just Gone
- TL will return(Interlude)
- You Made Me feat. ちゃんみな
- TeddyLoid
「SILENT PLANET: INFINITY」 - 2018年11月28日発売 / EVIL LINE RECORDS
-
[CD] 3024円
NKCD-6850
- 収録曲
-
- Game Changers(LAST BOSS Mix)with 中田ヤスタカ(CAPSULE)
- ME!ME!ME!(INFINITY)feat. DAOKO
- To The End(INFINITY)feat. アイナ・ジ・エンド(BiSH)
- Forever Love(VIP Mix)
- Foolish feat. 元・天才
- N.U.L.L. feat. kradness
- Grenade(INFINITY)feat. 佐々木彩夏 from ももいろクローバーZ & サイプレス上野
- Invisible Lovers(INFINITY)feat. IA, 鈴木福 & MASAKing
- Sleeping Forest(INFINITY)feat. ボンジュール鈴木 & TORIENA
- Searching For You(INFINITY)feat. 柴咲コウ & DECO*27
- Above The Cloud(INFINITY)with 小室哲哉 feat. マーク・パンサー
- もののけ姫 2018 feat. 米良美一(TeddyLoid EDM Remake)
- 魂のルフラン(TeddyLoid 2014 Remix)
- Winners feat. Reol & Giga
- TeddyLoid(テディロイド)
- 1989年8月23日生まれの男性アーティスト / 音楽プロデューサー / DJ。18歳でMIYAVIのメインDJ / サウンドプロデューサーとして13カ国を巡るワールドツアーに同行し、2010年には☆Taku Takahashi(block.fm / m-flo)と共にTVアニメ「Panty & Stocking with Garterbelt」のサウンドトラックを担当。翌2011年には柴咲コウ、DECO*27とともにgalaxias!を結成しアルバムを発表。2013年のももいろクローバーZ「Neo STARGATE」のサウンドプロデュース、そしてライブでの共演をきっかけに、キングレコードEVIL LINE RECORDSより2014年9月に1stアルバム「BLACK MOON RISING」を発表し、ソロアーティストとしてメジャーデビューを果たす。2015年9月にはももいろクローバーZ初の公式リミックスアルバム「Re:MOMOIRO CLOVER Z」を手がけ、12月には中田ヤスタカ(CAPSULE)、HISASHI(GLAY)、小室哲哉、志磨遼平(ドレスコーズ)、佐々木彩夏(ももいろクローバーZ)等の豪華ゲスト12組を迎えた2ndアルバム「SILENT PLANET」をリリース。2016年にはKOHH、ボンジュール鈴木、ちゃんみな、アイナ・ジ・エンド(BiSH)、Kダブシャインらを迎え、その続編となる「SILENT PLANET 2 EP」の配信リリースをスタートさせた。プロデューサー、リミキサーとしては、the GazettE、KOHH、HIKAKIN & SEIKIN、Crossfaith、米良美一ら多岐にわたるアーティストを手がけているほか、短編映像シリーズ配信企画「アニメ(ーター)見本市」の吉崎響監督作品「ME!ME!ME!」、専門学校HALの2016年度テレビCM「嫌い、でも、好き」篇の音楽をDAOKOと共に担当。そのほか、PlayStation4ソフト「Destiny 2」のプロモーションムービー「『Destiny 2』Live Action Dance Trailer "Freestyle Playground"」、SONY「EXTRA BASS」シリーズ、宮本亜門演出の「WRECKING CREW ORCHESTRA」による公演「SUPERLOSERZ SAVE THE EARTH 負け犬は世界を救う」など多岐にわたる分野で音楽を担当している。2018年11月、「SILENT PLANET」シリーズの完結編となる2枚のアルバム「SILENT PLANET: RELOADED」「SILENT PLANET: INFINITY」をリリース。
- ちゃんみな
- 1998年生まれのラッパー / シンガー。父親が日本人、母親が韓国人の韓国生まれのトリリンガルで、日本語、韓国語、英語を巧みに操る。幼少よりピアノやバレエ、ダンス、歌を始め、高校生になると作詞作曲やトラック制作からダンスの振り付けまですべてセルフプロデュースで行うアーティストとしての活動をスタートさせた。2016年に「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」に出場。同年発表したオリジナル楽曲「未成年 feat. めっし」「Princess」で大きな注目を集め、2017年3月、高校2年生にしてアルバム「未成年」でメジャーデビューを果たす。同年10月にはTeddyLoidの作品「SILENT PLANET 2 EP vol.3」に「ダイキライ feat. ちゃんみな」で参加。2018年11月にリリースされるTeddyLoidのニューアルバム「SILENT PLANET: RELOADED」ではリードトラック「You Made Me feat. ちゃんみな」で2度目のコラボが実現した。