ナタリー PowerPush - 多和田えみ
ソウルミュージックの魂を受け継ぐ1stフルアルバム「SINGS」完成
意識せず作った曲がジャズに
──新曲、新録を中心にいくつかピックアップしてお聞きします。前半戦、3曲目でバンドで録り直した「Naturally」が登場しますね。これはライブを重ねるうちに完成したアレンジを再現したもの?
そうですね。「Naturally」はデビュー前、The Soul Infinityと初めてライブをしたときからほぼ毎回演っている曲で。ひとつのバンドサウンドとして固まってきたし、アレンジもライブのたびに「あっ、このほうが良くない?」と段階を経ていろいろ変化しているから、今のバンドとしてのグルーヴ感を出したいなと思って。
──6曲目の「愛音色」は多和田さん自身の作詞・作曲で、今回がCD初収録となりますが、この曲はいつ頃作られたものですか?
これは私が沖縄で活動を始めた頃……2006年の4月から6月のあたりに作ったんじゃないかな。当時面倒を見てもらっていた玉置淑晴さんが曲のアレンジを考えてくれて、ライブではちょこちょこ演ったりしてたんですけど、音源はデモしか作ってなくて。構成を見直したり、歌詞もちょっと変えたりして、新たにアレンジして今回ようやく形になりました。
──こういうポップなジャズ路線というのは、今までの作品には意外となかった感じですよね。この曲はもともと、ジャズっぽいサウンドをイメージして作ってたんですか?
私はあまり意識していなかったんですけど、編曲してくれたYANAGIMANさんが、アレンジしてるうちに「あれあれあれ? なんかメロディとコードのあたり方が変わってるな」と思ったらしく、いろいろコードを変えていったら、どうやらジャズのコードだったらしく。どこかこう……音符がぶつかってたらしいんですね。それを組み立て直しているうちにこういうアレンジになったんです(笑)。
──この曲を聴いてみて、多和田さんは直球のジャズを歌っても意外と面白いんじゃないかなと思いました。すっごく速い4ビートだったり。
あー、イイですねー。あとは「Take the "A" Train」みたいなスウィングものも楽しそう。
──そういう新しいことに挑戦した曲だと思ったら、実は昔から持っていた要素だったってことですね。
自分ではよくわからないですけど(笑)。いろいろチャレンジはしてみたいですねー。
たくさんの人の気持ちを包んでくれる歌
──中盤戦ではシングル曲「時の空」からバラードが続きますが、ここにも初収録ナンバー「月のうた」が登場します。これは作曲が川口大輔さんで、アレンジが冨田恵一さん。これはもうまさに両氏の真骨頂というか。ため息が出るぐらい美しい曲ですよね。
そうですね、うん。今の季節にぴったりの哀愁感漂う感じ。
──冨田さんが手がけた曲は、シンガーにとってかなり難易度が高そうなイメージがあるのですが、実際はどうですか?
この曲はコーラスが難しかったですね。歌っていると「今、自分はどこにいるんだろう?」っていう難しい位置に音符があって、あの複雑なコード感が生まれてるんですよね。それが私は大好きなんですけど、でも実際歌ってみたら「ヤバい! 私は今どこに??」って(笑)。
──ここからシングルとして同時リリースされる新曲「涙ノ音」につながりますが、あえてこの曲をシングルに選んだのは何か決め手があったんですか?
「涙ノ音」は2007年の終わりぐらいに、葛谷葉子さんから歌詞と曲のデモをいただいて。しばらくちょこちょこ練習しつつ、大事にここまであたためてきた楽曲なんですよ。切ない歌なんですけど、悲しいだけじゃないとてもポジティブな部分が魅力的で「今みたいな時代に元気やパワーを与えてくれるとても暖かな曲だな」と思ったんです。ちょっと風が冷たくなってきた秋や冬にとても合いそうな歌ですし、たくさんの人の気持ちを包んでくれる歌なんじゃないかなと思って、今回のリードトラックとしてシングルでも出すことに決めました。
──季節の匂い、季節感は重要視しますか?
そうですねー。「涙ノ音」は一度、今年の春頃に出そうかっていう話もあったんですけど……「いや、ちょっと待って!」って。寒くなってきた頃に聴いたほうがよりリアルに感じてもらえるんじゃないかな、と思ったので。
せっかく盛り上がったのに「みじか!」
──終盤のバンドサウンド2連発、「Dance To The Music / Joy To The World」から「INTO YOU」の流れは、まさにライブのクライマックスみたいなムードですよね。
「Joy To The World」(オリジナル:THREE DOG NIGHT)は2008年の9月ぐらいにCMソング(スズキ軽自動車「SPLASH」)で歌わせていただいて。そのあとライブでこの曲をバンドでやってみたんですけど、最初「Joy To The World」だけやったら、せっかく盛り上がったのにほんの2分くらいであっという間に終わってしまったんですよ。
──はははは。
「みじか!」と思って(笑)。せっかくアガったのに。それで「なにかと合体させてみる?」という話になって、もっとソウルっぽい感じでやりたいなと考えているときに……ちょうど「東京JAZZ 2008」に行ったんですよ。そこでSLY & THE FAMILY STONEを観て「そうだ、『Dance To The Music』をくっつけてみよう!」と。それで試してみたら、なんだかいい感じに。
──これは良いマッシュアップですね。どっちもアガるためにあるような曲ですから(笑)。これはまさにライブで鍛え上げた演奏がそのまま活きてますね。
うん。もう「LIVE!!」って感じですもんね。
──続く「INTO YOU」は元が打ち込みのハウスなので、初めてライブで生演奏を聴いたときは新鮮でした。アルバムではライブの演奏をそのまま再現したような感じですか?
「INTO YOU」のバンドアレンジも試行錯誤の中で固まってきたもので、途中にジャジーな4ビートを挟んだり、ブレイクを入れたり、いろんなアレンジに変化して、だんだんバンド感みたいなものが固まってきたんですね。今年の3月にやったワンマンでは、間奏で私がティンパレスを叩いて演奏に参加したりもして。
──ライブで聴いたことのない人は、アルバムを聴いたら驚くかもしれないですね。
打ち込みのハウスともまた違った魅力が出せたかなと思います。
CD収録曲
- Overture -theme of techesko-
- Baby Come Close To Me
- Naturally (The Soul Infinity Album Version)
- MUSING
- Only Need A Little Light
- 愛音色
- eternity
- 時の空 (Album Version)
- 月のうた
- 涙ノ音
- ネガイノソラ
- FLOWERS
- Dance To The Music / Joy To The World
- INTO YOU (The Soul Infinity Album Version)
- CAN’T REACH (Album Version)
- ONE LOVE
初回盤DVD収録内容
- ビデオクリップ全作品
- インタビュー映像
- ライブ映像
多和田えみ(たわたえみ)
1984年生まれ、沖縄出身の女性シンガー。高校卒業後、カナダへの語学留学中に出会ったストリート・ジャズ・バンドで歌ったことをきっかけに、本格的に音楽を志す。帰国後に作詞作曲を開始し、2006年2月から沖縄県内のホテルやライブハウスを中心に積極的なライブ活動を展開。翌2007年にMSN/EMI ARTIST主催のオーディション決勝大会で、NYLON賞を受賞する。同年5月に沖縄限定シングル「ネガイノソラ」がリリースされ、好セールスを記録。その後もアントニオ・カルロス・ジョビンのトリビュートアルバム「ジョビニアーナ~愛と微笑みと花~」や、沖縄出身アーティストによるコンピ盤「琉球LOVERS ROCK」などに参加し、注目を集める。そして2008年4月、ミニアルバム「∞infinity∞」で待望のメジャーデビュー。ブルースやソウル、ジャズ、ファンクなどブラックミュージックから強く影響を受けたサウンドと、ときに激しく、ときに優しく聴き手に訴えかけるソウルフルな歌声が高く評価されている。