音楽ナタリー Power Push - 山下達郎
全国66公演ロングツアー終了 次の一歩につながる現在地
お客さんをどこまで満足させてどこまで裏切るか
──確かに達郎さんのライブを観ていると起承転結の流れを強く感じます。ツアーごとにセットリストは変わっても、全体の構成には同じ空気感がありますね。
芸事においてはそういうものが実は非常に重要でね。ツアー再開後、今回で6シーズンやってきたけど、6シーズン全部来れる人なんてそんなにいないんですよ。仕事が忙しいとかスケジュールが合わないとか、それが普通に働いてる人たちの現実じゃないですか。そんなお客さんが3年ぶりにライブに来てみたら、客層も構成も全然違うってことになると、何かこう取り残された感じがする。僕がやってるのはポピュラーミュージックで、付いてこれない客はほっといて先へ進むんだっていう考え方ではないから。だから基本的な起承転結は常に同じにしたいんです。例えば優れたジャズのアドリブは観客の期待を50%叶えて50%裏切る。それが最高のインプロビゼーションだっていう話があってね。僕の場合も自分のお客をどこまで満足させてどこまで裏切るかっていうことを常に考えてます。
──毎回違うものを見せつつ、期待には応えるということですね。
しかも僕の場合は20年ぶり、30年ぶりに来るっていう人も少なくないですからね。そのときに演奏とボーカルのグレードが20年前と同じ、あるいは限りなく近いと感じてもらうことが僕の理想なんです。2008年にライブを再開してからの目標は「1980年代と同じパッションのライブをやる」ということで。だから構成もあんまり変えない。ツアーを再開したばかりの頃は演奏できない曲もあったけど、今はだいぶ増えてきましたからね。80年代のライブの空気感をかなり再現できるようになった。いや、ある部分ではそれ以上かな。集中力とか歌の表現はあのときより確実にアップしてるっていう気持ちもあって、古いけど新しい、新しいけど古いっていう不思議な世界になっていると思います。
──いよいよ道楽で細々やっていく感じではなくなりましたね。
30人ぐらいの客を相手にギター1本でやったりするのも、まあフレンドリーで悪くないんだけどね。でも昔と同じ形のホールツアーをやるなら演奏も昔と同じパッションじゃないとイヤ。そうじゃないとやる意味がない。そういうライブを見せることによって例えば50代になったお客さんが「まだ自分の文化が生きてる」ってことを確認できる。自己肯定ができるんです。それは同世代音楽を志向する自分にとって、すごく大切なことだと思ってます。
ロックンロールのグルーヴ感
──自分は達郎さんの80年代のライブは知らないんですが、今のライブを観ているとフィジカルな躍動感にあふれていて、これぞロックンロールバンドのステージだと感じます。
上モノのコードとかメロディとか詞の世界っていうのはいわゆるミドルオブザロードなんだけど、我々はやっぱりロックンロール世代なので。それをロックンロールのグルーヴ感をもって展開しないとダメなんですね。そこを意識してやらないと、ただでさえ古い音楽なので、いわゆるナツメロ、エイギョー音楽、あるいはラウンジミュージックになってしまう。こないだ難波くんが面白いこと言ってたんだけど、今の若い人がやってるプログレはロックンロールじゃないからダメなんだって。プログレの表層部のコード展開とか構成の複雑さとかはともかく、ドラムとベースがロックじゃないとダメだって。
──プログレッシブ“ロック”ですもんね。
それについては僕もまったく同じことが言えますけど、いわゆる渋谷系と呼ばれた世代以降のその手の音楽はドラムとベースのロックンロール度がどんどん減ってるんですよね。あと何よりボーカルにグルーヴがない。まだ80年代のアイドル歌謡のほうが、中森明菜にしろ松田聖子にしろそういう意味ではロック的な要素がありましたよ。
──達郎さんにとって、ロックかどうかがやはり重要なんですね。
うん、僕がなんで音楽やってるかっていうと、ロックンロールが好きだから。ただそれだけなんです。アメリカンミュージック、とりわけアフリカンアメリカンとホワイトが融合したロカビリーとかリズム&ブルースとか。アメリカの伝統音楽から派生したものが好きなんですね。「ロックとは何か」っていう定義は人それぞれ違うけど、僕はリズムのグルーヴ感っていうのかな。根性というかガッツとか、そういうものがロックだと思ってるから。
人生を変えた2つの音楽
──ところで達郎さんはUKロックというよりはアメリカンロックのイメージが強い気がするんですが。
ああ、僕は60年代のブリティッシュロックはけっこう詳しいですよ。僕が人生で感動した3大レコードはThe Zombiesの「Tell Her No」とProcol Harumの「青い影」とThe Flowerpot Menの「Let's Go To San Francisco」。これ全部ブリティッシュだからね。
──じゃあアメリカのロックを意識的に聴き始めたのは?
もともと雑食でなんでも聴いてたトップ40リスナーなので、どちらも好きだったけど、中学から高校に上がるあたりはUKロックの比率が高かった。グラハム・ナッシュがThe Holliesを辞めてアメリカに行ってCSN作った頃に、自分もリスナーとしてブリティッシュからアメリカに回帰してきたんです。あとはとにかくリズム&ブルースですね。ジェームス・ブラウンのライブ映像を1969年、高校2年のときに偶然観る機会があって、それが僕の人生を変えた。そこから泥沼のようにR&Bにハマってしまって。
──そのジェームス・ブラウンの映像というのは?
「The T.A.M.I. Show」っていうテレビショーの映画版。今はDVDになってますけど、あの時代にはとても貴重な体験で。The Beach Boys目当てで観に行ったんだけど、一緒に出てたジェームス・ブラウンがあまりにもすごくて「なんだこれ!」って。全盛期のマントショーなんて、もう開いた口が塞がらなかった。あれを観て完全にやられた。
──影響を受けましたか?
僕のライブの基本要素は、ほとんどジェームス・ブラウンから学んだと言っても過言ではないです。曲のつなぎ方、緩急の間合い。できる限り曲の頭でカウントを取らないとかね。そういうことを徹底的に練習するわけ。今だったらなんだそんなことと思われるかもしれないけど、そういうやり方は80年代にはとても珍しかった。
──JBがお手本だったんですね。
あとは、やはり高校生の時にFENを聴いてたら、「ジム・ピューター・ショー」という有名なDJのオールディーズ番組で「R&B ボーカルグループスペシャル」と題してドゥーワップの特集をやってたんです。それがまた人生を変えた。この2つだな。そこから70年代に入ってバンドやってたらThe Isley Brothersが出てきて、Earth, Wind & Fireでしょ。そういうのの洪水で人生変わっちゃった。
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山下達郎「PERFORMANCE 2015-2016」
- 2015年
- 10月9日(金)千葉県 市川市文化会館
- 10月13日(火)栃木県 宇都宮市文化会館
- 10月16日(金)群馬県 ベイシア文化ホール
- 10月19日(月)福島県 會津風雅堂
- 10月21日(水)山形県 南陽市文化会館
- 10月26日(月)神奈川県 よこすか芸術劇場
- 10月30日(金)大阪府 フェスティバルホール
- 10月31日(土)大阪府 フェスティバルホール
- 11月4日(水)福岡県 福岡サンパレスホテル&ホール
- 11月5日(木)福岡県 福岡サンパレスホテル&ホール
- 11月9日(月)岡山県 倉敷市民会館
- 11月11日(水)島根県 島根県民会館
- 11月15日(日)神奈川県 神奈川県民ホール
- 11月16日(月)神奈川県 神奈川県民ホール
- 11月22日(日)東京都 中野サンプラザホール
- 11月23日(月・祝)東京都 中野サンプラザホール
- 11月27日(金)北海道 帯広市民文化ホール
- 11月29日(日)北海道 北見市民会館
- 12月2日(水)北海道 ニトリ文化ホール
- 12月3日(木)北海道 ニトリ文化ホール
- 12月6日(日)北海道 釧路市民文化会館
- 12月10日(木)大阪府 フェスティバルホール
- 12月11日(金)大阪府 フェスティバルホール
- 12月16日(水)広島県 広島上野学園ホール
- 12月17日(木)広島県 広島上野学園ホール
- 12月21日(月)東京都 中野サンプラザホール
- 12月22日(火)東京都 中野サンプラザホール
- 12月25日(金)岩手県 岩手県民会館 大ホール
- 12月26日(土)青森県 青森市文化会館 リンクステーションホール青森
- 2016年
- 1月6日(水)広島県 ふくやま芸術文化ホール・リーデンローズ
- 1月8日(金)山口県 周南市文化会館
- 1月11日(月・祝)岐阜県 長良川国際会議場
- 1月15日(金)埼玉県 大宮ソニックシティホール
- 1月16日(土)埼玉県 大宮ソニックシティホール
- 1月19日(火)香川県 香川県民ホール アルファあなぶきホール
- 1月22日(金)兵庫県 神戸国際会館
- 1月23日(土)兵庫県 神戸国際会館
- 1月27日(水)大阪府 フェスティバルホール
- 1月28日(木)大阪府 フェスティバルホール
- 2月1日(月)青森県 八戸市公会堂
- 2月5日(金)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
- 2月6日(土)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
- 2月11日(木・祝)長野県 キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)
- 2月16日(火)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
- 2月17日(水)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
- 2月21日(日)静岡県 静岡市民文化会館
- 2月22日(月)静岡県 アクトシティ浜松
- 2月26日(金)東京都 中野サンプラザホール
- 2月27日(土)東京都 中野サンプラザホール
- 3月2日(水)京都府 ロームシアター京都
- 3月4日(金)石川県 金沢歌劇座
- 3月8日(火)新潟県 新潟県民会館
- 3月9日(水)新潟県 新潟県民会館
- 3月14日(月)佐賀県 佐賀市文化会館
- 3月16日(水)大分県 iichikoグランシアタ
- 3月18日(金)三重県 三重県文化会館 大ホール
- 3月23日(水)東京都 NHKホール
- 3月24日(木)東京都 NHKホール
- 3月27日(日)高知県 高知県立県民文化ホール オレンジホール
- 3月29日(火)愛媛県 松山市民会館
- 4月2日(土)宮崎県 宮崎市民文化ホール
- 4月3日(日)鹿児島県 鹿児島市民文化ホール 第1ホール
- 4月9日(土)沖縄県 沖縄市民会館
- 4月10日(日)沖縄県 沖縄市民会館
- 4月17日(日)神奈川県 関内ホール
- 4月20日(水)岩手県 岩手県民会館 大ホール
山下達郎(ヤマシタタツロウ)
1953年東京出身の男性シンガーソングライター。シュガー・ベイブの中心人物として、1975年にシングル「DOWN TOWN」とアルバム「SONGS」にてデビュー。翌1976年のバンド解散を経て、アルバム「CIRCUS TOWN」でソロデビューを果たす。1980年に発表したアルバム「RIDE ON TIME」が大ヒットを記録し、以後日本を代表するアーティストとして数々の名作を発表。1982年には竹内まりやと結婚し、彼女のアルバムをプロデュースするほか、KinKi Kids「硝子の少年」、嵐「復活LOVE」など他アーティストへの楽曲提供も数多く手がける。また代表曲「クリスマス・イブ」は1987年から30年連続オリコンランキング100位以内を記録し、ギネスブックにも登録。2011年7月に通算13枚目のオリジナルフルアルバム「Ray Of Hope」を発表し、2012年9月には初のオールタイムベストアルバム「OPUS ~ALL TIME BEST 1975-2012~」をリリースした。2015年3月には「第65回 芸術選奨文部科学大臣賞」の大衆芸能部門・大臣賞に選出。同年10月から2016年4月にかけて35都市66公演の全国ホールツアーを実施した。